7
剣が引き抜かれ、うつ伏せで倒れ込むロビン。
私を守るために彼が死んだ。その事実に私は固まる。
「ちっ、散々手こずらせやがって! 半分以上も兵を失っちまったじゃねーかよ!」
ロビンを殺した男はそう言ったあと、ゆっくりとこちらに向かってきた。
見覚えのある顔。
それは相手の方も同じだったようだ。
「アリーシア嬢で間違いないな。かなり強いから、囮を引いたかと思って一瞬肝が冷えたぜ」
下卑た笑みでそう言う男は、確かエリーナ嬢が送り迎えの際に護衛として付けていた男。
彼女は、この男の事をスネイクと呼んでいた。
確かに我が家の領地とベネトール領は隣同士だけど、まだこの辺りはミザエル領のはず。それなのに何故、隣の領地の兵がうちの領地に入り込んでいたのだろう。
いくら宰相で権力者だからといっても、貴族を拘束するのに私兵を使うなんて明らかにおかしい。
「さぁ、おとなしく降伏するんだな。お前を、国王陛下暗殺の疑いで連行する」
男は、私に向かってそう言い放つ。
「そっ、そのような事実など全くございませんわ! 何かの間違いです! わたくしが何故、そのような事をしなければならないと言うのですか?」
悔しさと恐怖が入り混じる。
私は、震える声ですぐにそう返した。
「動機なんて後で何とでもなるさ。そのためにうちのお嬢様が、お前や、お前の家の悪評を周囲に流しまくっていたわけだからな」
嘲るような笑みを浮かべながら、信じられない事を言う男。
その言葉を聞いて全てを悟った。これは、最初から仕組まれていた事なのだと。
私や、我が家を陥れる事が目的なら、このまま王都に連行されれば確実に有罪は免れない。真面な裁判すら受けられない可能性だってある。
反逆罪が確定すれば、残忍な方法で公開処刑されるのが通例。
無実の罪を着せられ、多くの民から罵声を浴びせられるなか処刑台に立つ。
そんなの絶対に嫌。
私は、全てを悲観し自身の首筋に刃を当てる。
「やるならやったって全然構わないんだぜ。別の筋書きになるだけだからな。罪を認めてその場で自害した。俺たちがそう証言すればいいだけの話。それでラヴィーヌ公爵家も完全にお仕舞いだ」
悔しい。
最初から全部、我が家を陥れるための策謀だった。
私は、学園時代から政争に巻き込まれていたのだ。
ようやく全てを理解し、もう何もかもどうでもよくなる。
「おっと、その目は本気みたいだな。一旦領地に連れ帰ってから、たっぷりと可愛がってやるつもりだったのによ~。残念だぜ」
その言葉を聞いて、私は完全に自死を決意する。
ゆっくりと首筋に当てる刃に力を込めた。
あとは勢いよく引き下げるだけ。
どのみち死ぬことになるのなら、綺麗な体のままで自ら死を選ぼう。
そう決意の言葉を心で呟いたその時だった。
「おい……マジかよ……こんなところで退場とかねーだろ……」
男はそう言うなり、口からゆっくりと血を流し始める。
胸からは、一本の矢が突き出していた。
ヒュンという音と共に、周りにいた兵士の一人に矢が突き刺さる。
続けざまに、残りの二人も次々と矢に射抜かれた。
その直後、辺りは一気に騒然となる。
馬を駆った軽装の兵士数人が、木々の間から急に躍り出てきた。
「一人も生きて帰すな! アンガス! お前はロビンの手当てを!」
聞き覚えのある懐かしい声。
その声は、何故か私に安心感を与えてくれた。
馬上の一人は、次々と周りの敵兵を斬り伏せていく。
逃げようとした敵の一人は、馬に跨がろうとしたところを背中から射抜かれた。
他の数人も、混乱する様子の敵兵を事もなさげに討ち取っていく。
本当に僅かな時間の出来事だった。
私が呆然とその様子を眺めている間に、敵の兵士たちは一人残らず倒されてしまった。
「アリー! 間に合って良かった」
馬を降りた一人の男性が、そう言いながら私の元に駆け寄ってくる。
薄暗くてよく見えないけど、さっき声を上げた主のよう。
愛称で私を呼ぶのは彼だけ。
何度も甘い言葉を囁いてくれたその声を、忘れることなどできようはずもない。
高鳴る鼓動。
すっかり気も抜けてしまい、手から力が抜けていく。
持っていた剣が、カランという音を立て地面に落ちた。
茫然と立ち尽くす私を、彼は躊躇うこともなく胸に抱き寄せる。
「嗚呼、アリーシア!」
「フリック……」
「アリーシア。君を一人にさせて本当に済まなかった……」
彼はそう言うなり、戸惑う私をそのまま強く抱き締めた。
本日の投稿はここまでとなります。
続きが気になると思って頂けましたら、ブックマークだけでもしてくださると創作を続けていくうえでの励みになります。




