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新年という名の更新手続き。あるいは、お年玉で買えない幼馴染の独占権について

1月1日。

暦が改まったからといって、僕の人生に掛かっている「幼馴染包囲網」という名のデバフが解除されるわけではない。むしろ、新年という節目は彼女たちにとって、僕の隣という「特等席」の年間契約を更新するための、絶好の口実でしかなかった。


「和彦くん! あけましておめでとう! ほら、早く準備して。初詣、一番乗りで行くよ!」


元日の午前7時。

実家の玄関先で、冷気とともに叫んでいるのは羽賀杏菜だ。

昨夜、除夜の鐘をスマホ越しに一緒に聞いたはずなのに、彼女のバイタリティは冬の寒さを完全に無視している。

彼女になったはずの幼馴染は、新年の高揚感に当てられて、その距離感をさらにバグらせていた。


「……杏菜。世の中には『寝正月』という素晴らしい文化があるのを知っているか? あと、君の振袖、気合が入りすぎてて僕の網膜が正月早々パンクしそうだ」


「いいじゃん! 和彦くんに一番に見てほしかったんだもん。……ほら、行こう?」


杏菜が、着物の袖を気にすることなく僕の腕を抱きしめる。

付き合っているのだから当然。その理論武装は、正月早々から僕の自制心を更地にする勢いだ。

だが、近所の神社に到着した僕たちを待っていたのは、神様よりも恐ろしい「予定調和」だった。


「あら、西野。……その、杏菜の華美な装いに鼻の下を伸ばしている暇があるなら、今年の学業成就の祈願を優先すべきだわ」


一ノ瀬佳樹。

黒髪を完璧にまとめ上げ、凛とした和服姿で立つ彼女は、まるで神社の守護神のような威圧感を放っていた。

彼女は手にした手帳に「1月1日:西野との接触」と書き込みながら、僕たちの間に無言で割って入る。

佳樹の琥珀色の瞳は、僕と杏菜の繋いだ手を、まるで不法占拠を確認する検察官のように見据えていた。


「和彦ー! おめ! 振袖なんて肩凝るから、私は走ってきたぞ!」


参道の階段を、防寒用のジャージ姿で駆け上がってきたのは和久井檸檬だ。

彼女の首には、昨日僕があげたマフラーが巻かれている。

「お年玉、あんたの分も期待してるからな!」と僕の背中を豪快に叩く彼女の体温は、氷点下の境内で唯一の熱源のように熱かった。


「……和彦、さん。……おめでとう、ございます。……これ、甘酒……作って、きました。……中身は、ヒミツ、です」


闇の中から柏木小鞠が、湯気を立てる水筒を差し出してきた。

彼女の振袖姿は、どこか古風な怪談の美少女のようで、僕の心臓に別の意味で刺激を与える。

彼女の「ヒミツ」という言葉に含まれる執念の重さに、僕は新年初の寒気を覚えた。


結局、僕の初詣は、4人の幼馴染たちが賽銭箱の前で「誰が一番和彦の隣で長く頭を下げていられるか」を競う、血なまぐさい祈祷合戦へと変貌した。


「……ねえ、和彦くん。おみくじ、一緒に引こう?」


参拝を終えた後、杏菜が佳樹たちの牽制をすり抜けて、僕の手を引いた。

彼女の指先は冷たいはずなのに、握られた僕の手のひらは、昨日よりもずっと熱い。


「……ああ。まあ、凶が出ないことを祈るよ。今の僕の状況を考えれば、それ以上悪くなりようがないけど」


「あはは、ひどいな。……でもね、私、お願いしてきたんだ。来年も、再来年も、こうして5人で……ううん、私と和彦くんで、笑っていられますようにって」


杏菜の瞳が、冬の澄んだ陽光を反射して、吸い込まれそうなほど綺麗に揺れる。

17歳の正月。

「彼女」になった彼女と、「幼馴染」であり続ける彼女たち。

その境界線は、新年の幕開けとともに、より深く、より逃げ場のない泥濘でいねいとなって僕を沈めていく。


「……どうせ、恋でもなんでもしてしまうんだろうな、僕は」


本日、今年最初にして最大級の敗北宣言。

僕は、4人の少女たちの熱気に包まれながら、おみくじの「吉」という平凡な結果を、そっとポケットにねじ込んだ。

僕たちの17歳は、まだ終わらない。

この騒がしくて、重くて、けれどこれ以上なく愛おしい包囲網の中で、僕は新しく始まった物語に、ただ深く、深く、降伏の溜息をついた。

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