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聖夜の贈答品(ギフト)と、僕の財布を狙う4つの影について

12月23日。世の中の浮かれ具合が最高潮に達し、街中のケーキ屋と宝飾店が戦場と化す日だ。

僕、西野和彦は、駅前のショッピングモールで途方に暮れていた。

理由は明確だ。隣で僕の腕にがっちりとホールドを仕掛けている羽賀杏菜。彼女に贈る「初めてのクリスマスプレゼント」という難題に直面しているからだ。


「ねえねえ、和彦くん! あっちのアクセサリー屋さん見て! キラキラしてて、私に似合いそうだと思わない?」


「……杏菜。君の言う『似合いそう』は、僕の冬休み中の食費が完全に霧散することを前提としているよね。あと、君の笑顔が眩しすぎて、僕の網膜が焼き切れそうだ」


僕は、付き合い始めてからというもの「彼女」という名のライセンスをフル活用してくる幼馴染に、精一杯の毒づきを返した。

だが、僕たちの後ろには、そんな甘い空気を一瞬で氷点下まで冷却する「追跡者」たちがいた。


「西野。プレゼント選びにおいて最も重要なのは、相手の需要と供給のバランスよ。……杏菜の好みを優先するあまり、あなたの家計が破綻するのは、将来的な共同生活のシミュレーションにおいて大きなマイナスね」


一ノ瀬佳樹が、ブランドショップのカタログを広げながら冷徹に告げた。

彼女はいつの間にか「将来の共同生活」というパワーワードを会話に混ぜ込むようになっている。

佳樹の琥珀色の瞳は、僕が手に取る指輪のサイズを、まるで科学捜査のように注視していた。


「あはは、佳樹は固いなー。和彦、プレゼントなんて形に残らなくてもいいんだぜ? 例えば……私と一緒に、クリスマス限定の特大ステーキを食べに行くとかさ!」


和久井檸檬が、反対側から僕の腰に腕を回してきた。

冬の厚着越しでも伝わる、彼女のバイタリティ溢れる体温。

彼女にとっての聖夜は、ロマンチックな演出よりも「食欲と、和彦」という、よりプリミティブな欲望に忠実なものらしい。


「……和久井。ステーキはプレゼントとは呼ばない。それはただの食事会だ。あと、その距離感、周囲のカップルからの視線が痛いんだよ」


「……和彦、さん。……これ。……お揃いの、ストラップ……買いました。……私の、スマホと、繋がって、います。……どこにいても、わかります」


闇の中から、柏木小鞠がGPS機能付き(としか思えない)禍々しい光を放つストラップを差し出してきた。

彼女の愛は、もはや物理的な距離を無視して、僕の魂を直接繋ぎ止めようとする領域に達している。


結局、杏菜へのプレゼントを選ぶはずの買い物は、4人の幼馴染たちが互いの牽制を繰り返す、高度な心理戦の舞台へと変貌した。

僕は、ジュエリーショップのショーケースの前で、自分の存在意義を見失いかけていた。


「……ねえ、和彦くん。本当はね、何でもいいんだよ」


エスカレーターを降りる途中、杏菜が僕の耳元で小さく囁いた。

他の3人が、期間限定スイーツの行列に気を取られた一瞬の隙。


「和彦くんが私のことを考えて選んでくれたなら、それが一番の宝物だもん。……明日の夜、楽しみにしてるね」


杏菜の瞳には、かつての「幼馴染」としての無邪気さを塗りつぶすほどの、湿った期待と独占欲が宿っていた。

17歳の男子にとって、それはあまりに重く、けれど甘美な呪いだ。


やれやれ。

クリスマスという名の宗教的かつ商業的な狂騒曲。

僕は、自分を囲む4人の少女たちの熱気から逃げるように、マフラーを深く巻き直した。

プレゼントを選んでいるのか、それとも自分の人生の「売買契約書」にサインをしているのか、もはや判別がつかない。


「……どうせ、恋でもなんでもしてしまうんだろうな、僕は」


本日、イルミネーションに彩られた街路樹の下で零れた、最大級の敗北宣言。

僕は、17歳の冬、聖夜という名の戦場に丸腰で突撃する覚悟を決めた。

4人の少女たちの視線が、僕の背中を焼き、心臓を叩く。

その騒がしくて、愛おしい地獄を、僕はもう拒むことができなくなっていた。

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