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終止符は打たれず、幼馴染という名の包囲網は再構築される

「告白」というイベントを完遂すれば、物語にはスタッフロールが流れ、平穏なエンディングが訪れるものだと、僕はどこかで信じていた。

だが、現実は甘くない。

17歳の秋、海辺の丘で羽賀杏菜と想いを通じ合わせたはずの僕を待っていたのは、大団円とは程遠い「地獄の継続」だった。


「和彦くん! おはよ! はい、今日のお弁当。私の分と一緒に作ってきちゃった」


翌朝、登校するなり僕の席を占拠したのは、一段とギアの上がった杏菜だった。

付き合い始めたという免罪符を手に入れた彼女の距離感は、もはや「バグ」という言葉すら生ぬるい。

クラス中の男子からの殺意に満ちた視線が、物理的な圧力となって僕の背中に突き刺さる。


「……羽賀。いや、杏菜。気持ちは嬉しいけど、毎日これは胃がもたないよ」


「えー、いいじゃん! 彼女なんだから当然でしょ?」


幸せを絵に描いたような彼女の笑顔。

だが、その背後に立つ「かつての戦友たち」の瞳には、一切の光が宿っていなかった。


「……西野。あなたが杏菜を選んだという事実は、一応、受理してあげるわ」


一ノ瀬佳樹が、冷徹な手つきで眼鏡を押し上げながら僕を見下ろす。

彼女の手には、なぜか「略奪愛の心理学」という不穏なタイトルの洋書が握られていた。


「でも、これはあくまで中間集計に過ぎないわ。人生という長いスパンで見れば、今の順位なんて誤差のようなものよ。私は私のやり方で、あなたの隣を奪還させてもらうから」


「……一ノ瀬、それ、敗北宣言じゃなくて宣戦布告だよね?」


僕のツッコミを無視して、佳樹は優雅に去っていく。

入れ替わるように、練習帰りの和久井檸檬が、汗の匂いを振りまきながら僕の肩に腕を回してきた。


「和彦ー! 聞いたよー、杏菜と付き合うんだって? おめでと!」


「……和久井、声が大きいよ。あと、距離が近い」


「いいじゃん、別に。……でもさ、和彦。私は諦めないよ? 試合だって、逆転満塁ホームランがあるんだから。あんたの隣、最後に笑って座ってるのは私だもん」


檸檬は僕の耳元でそう囁くと、悪戯っぽくウィンクをして走り去っていった。

さらには、柏木小鞠が僕の背後に回り込み、服の裾をぎゅっと掴んでくる。


「……和彦、さん。私、杏菜さんのこと、応援してます。……でも、私の気持ちは、消えません。ずっと、ずっと、後ろから見てますから」


彼女の静かな、けれど底知れない執着を感じさせる言葉に、僕は背筋が凍る思いがした。

やれやれ。

誰だ、告白がゴールだなんて言ったのは。

僕を巡る4人の幼馴染たちの攻防は、杏菜が「正妻」の座に就いたことで、むしろ泥沼の第二段階へと突入してしまったらしい。


放課後。

杏菜と一緒に帰る僕の左右を、当然のように佳樹と檸檬が固め、背後には小鞠が控えている。

5人で歩くこの景色は、一年前と何も変わっていないように見えて、その内側は完全に変質してしまっていた。


「ねえ、和彦くん。幸せ?」


杏菜が僕の腕を抱きしめ、上目遣いで聞いてくる。

左右からは佳樹と檸檬の鋭い視線が飛び、背後からは小鞠の熱い視線が刺さる。

心臓がいくつあっても足りないような、逃げ場のない幸福(あるいは拷問)。


「……どうせ、恋でもなんでもしてしまうんだよな、僕は」


僕は、もはや運命として受け入れるしかないその言葉を、空に浮かぶ一番星に向けて放った。

17歳の秋は終わり、冬が来ようとしている。

僕の平穏なモブ人生は、これからも彼女たちの熱気に焼かれ、跡形もなく消え去っていくのだろう。


「……まあ、悪くないか」


誰にも聞こえない声でそう呟き、僕は自分を離さない4人の少女たちとともに、赤く染まった帰り道を歩き続けた。

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