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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
86/111

85. クリスマスパーティー

ライブの反響は予想を大きく上回るもので、翌日の朝と夕方の情報番組では、1日を通してbuddyについての報道がされていた。

その内容は、ライブ会場に入っていた取材カメラが撮影した、ライブの映像を繰り返し流しており、6人の名前や関係性などを細かく伝える内容だった。


街中の大型ビジョンなどでは、新曲のMVを流したり、駅構内や大型のCDショップにはたくさんのポスターが貼られたりと、いままで姿を一切見せなかったのが嘘みたいに、6人のビジュアルを前面に出している。


最新曲のCD売り上げ枚数や、音楽配信サービスのダウンロード数も好調で、写真集に至っては、20万部目前まで部数を伸ばしていた。


そのおかけで、6人の大学生活もガラッと変わった。

しょうがないといえば、しょうがないのだが、とにかく男女問わず注目を浴びてしまっていた。

隼斗、誠、深尋は3人が同じ大学なため、一緒にいるだけで騒ぎになっていた。

それでも誠は、美里と人前で距離をあけることなく、堂々としていた。


時間が合った4人は、学食でランチを食べていた。隼斗が頬杖をつきながら誠に言う。

「誠はいいよなー。堂々とできて」

「別に悪いことしてないし、お前も隠さず堂々としたらいいんだよ」

何をそんなに悩むんだ?と言わんばかりの誠に、深尋も呆れる。

「誠が良くても、美里ちゃんは美里ちゃんで大変だと思うよ。ねえ?」

深尋に同意を求められた美里は、ははっと苦笑いをする。

「そうなのか?美里」

「うーん.....まあ、結構、質問攻めにされたりはするけど.....」

そして美里は思った。今こうしていることも、十分注目を集めているのだ。こちらを見る視線は、美里には痛すぎる。


するとそこに、たまにいる空気の読めない人というか、見方を変えれば勇気のある人が4人の元へやってくる。

「あのっ、サイン貰えませんか⁉」

女の子3人で誠と隼斗のそばに立ち、色紙を差し出してきた。

誠はじっと見るだけでなにも言わない。隼斗は仕方なく、自分から話すことにした。

「えーっと、ごめんね....一応、学校だし、事務所からしないように言われてるんだ」

これは、ライブ直後にあまりにもたくさんの人に詰め寄られ、どうするか6人で話し合った結果、こう言おうと決めた言い訳だった。

1週間ほど言い続けていたら、サインをねだる人も減ってきていたのだが、やっぱりまだチャレンジしてくる人もいるのが現状だ。


隼斗に断られた3人は、しょぼんとして離れていったが、中にはしつこく言ってくる人もいる。

「隼斗、今日は明日香のとこ行くの?」

女の子たちを追っ払った後、深尋が隼斗に聞いてきた。

「いや、今日は僚が行くって。でも、あいつが行っても大変なんだけどな」

明日香は、そのしつこく言ってくる人たちに悩まされていた。

隼斗たちのように3人で行動を共にしていれば、目立ちはするがそこまで危険な目に合うことはない。僚、竣亮、明日香は大学がバラバラで、友人たちと行動している時はいいが、1人になるとそこを狙ってくる人もいる。


僚や竣亮は男だから何とかなるものの、明日香は女ということで甘く見られているのもあり、大変な思いをしていた。

それを僚が放っておくわけがなく、自分が行ける時は明日香の大学まで迎えに行っていた。


その日の夕方。僚は黒のキャップに伊達メガネをかけて、明日香の大学の正門前で明日香を待っていた。

(そろそろ来てもいいんだけどな.....)

時計を見ると、約束の時間より15分ほど遅れていた。少しでも遅れそうなときは連絡があるのに、今日に限ってそれがない。

僚は心配になってさらに正門へ近づくと、遠くの方に人が群がっているのが見えた。僚はそれをじっと目を凝らして見て見ると、男5、6人に囲まれた明日香がいた。


それを見た瞬間、僚は頭で考えるよりも先に体が動き、明日香の元へ走って行く。しつこいとは聞いていたが、あんな風に取り囲まれているのを初めて目撃したからだ。

「明日香!」

僚のその声に、明日香だけではなくその周りの男たちも一斉に僚の方を見る。

突然の乱入者に、その場にいた男たちはみな驚く。そのうちの1人が「なんだよ」と言いかけるが、僚がキッと睨むと黙り込んでしまった。

「......僚」

「すいません、俺たち急いでいるので。明日香、行こう」

僚は周りの男たちにそう言うと、明日香の肩を抱いて正門へ向かって歩いていく。周囲からはだいぶ注目を集めたが、仕方がない。

僚に気づいて騒ぎ出す女性たちもいたが、それに構っている余裕はなかった。


正門を出て大通りに出ると、2人はすぐにタクシーを拾いGEMSTONEへと向かう。

「.......大丈夫か?」

タクシーに乗って一息ついたところで、僚が明日香を心配する。

「うん、ありがとう.....」

明日香もだいぶ参ってしまったようで、声に元気がない。

「いつもああなのか?」

男たちに取り囲まれているのを初めて見たので、確認してみる。

「ううん、いつもは断るとすぐ引いてくれるんだけど、今日は全然引いてくれなくて.....今日に限って、花も秋菜もいなかったし.....」

花と秋菜は、明日香の高校からの同級生で、同じ大学に通っている。

僚とは高校の時に数回会っただけだ。


「そうか.....それを狙ったのかもな。でも、もう冬休みだし、3年もあと少しだから。単位も大丈夫なんだろ?」

「うん、それは大丈夫。そのために頑張ったから」

「迎えに行くことしかできないけど、ちゃんと守るから......」

僚は明日香の左手をぎゅっと握る。

その言葉を聞いて明日香は、僚の肩に自分の頭をのせる。

「はぁ....僚のそばが一番落ち着く.....」

やっぱり自分はここが一番好きだと改めて感じた。

明日香にそう言われた僚も、とても嬉しかった。


冬休みに入り、街はクリスマスムード一色となっていた12月21日。

buddyの6人と、市木、木南、美里、芽衣、葉月の総勢11人で、少し早めのクリスマスパーティーをすることになった。

葉月は年明けに大学院の受験があるが、竣亮が、

「葉月さんは強制的にご飯をあげないといけないので、連れてくる」

と言って、ほぼ強引に引っ張りだしてきた。

竣亮は、葉月にオムライスを作って以降、時間を見つけては、葉月の部屋に行ってご飯を作っていた。こうして見事、竣亮に自分の胃袋を掴まれた葉月は、今日のパーティーを拒否できなかった。


そのパーティーのお店はもちろん、いつもの全席個室の創作バルのお店だ。

ただ、今日は11人と大人数なので、いつもより大きめの個室を用意してくれた。そして、全員集まったところで、市木があることに気づく。

「ねえ、もしかして、ひとりぼっちなの俺だけ?」

みんな、市木が楽しそうにしていたからあえて言わなかったが、とうとう気づいたか.....という表情で市木を見る。

「まあまあ、気にすんなって!」

隼斗が市木の肩をバシバシ叩くが、市木の顔は寂しそうだ。

「そうだよー市木くん。今日はそんなの関係なしで、楽しもうよー」

深尋も一緒になって、市木を慰める。


「番犬くんも、深尋ちゃんも、恋人が出来たのは俺のおかげなんだからね⁉それを忘れて、自分たちだけ楽しもうとしたらダメだよ⁉」

「ハイハイ、わかってるって」

「市木くんの好きなもの、取ってあげるねー」

隼斗と深尋が、一生懸命市木をおもてなししている。その理由はただ一つ。

市木が酔っぱらったら、めんどくさいからだ。

特に隼斗は、僚と明日香が付き合って以降、何かと呼び出されては、やけ酒に付き合わされたりしていた。明日香は、隼斗と市木がこんなに仲良くなるとは思っていなかったので、それはそれで嬉しかった。


「でもさ、深尋ちゃんたちこの時期に、よくお休みなんて貰えたね」

「ほんとだよね。いまって、歌番組とか多いのに」

木南と芽衣がそう言うと、6人はぐっと黙ってしまう。

「いや、今日はたまたまで、明日からは地獄の日々なんだ.....」

僚がため息をつきながら言うと、明日香も困ったような顔で言う。

「そうなの。あまり詳しいことは言えないんだけどね」

6人はいまとなっては、情報制約の多い中で仕事をしている身だ。それがたとえ恋人であっても、軽々しく口にすることが出来ない。


「あっ、でも1つ教えられるのは、来年の春にライブツアーがあるから、またみんなを招待するよ」

このライブツアーは再始動する前から計画されていたもので、それを控えていたために、12月1日のお披露目ライブは、なにがなんでも成功させて世間にインパクトを与えなければならなかった。

実は6人は、このことも大きなプレッシャーになっていた。

「ツアーってことは、全国まわるってことだよね?」

「そう。しかもドームもある」

「ひええっ....」

市木たちは、どんどん違う世界に行ってしまう6人を見て、少し寂しさも感じたが、でもこうしてまた、ライブに招待すると言われれば、それは喜んで行くことにする。


「あっ、あのっ、わたしからbuddyのみなさんに、お礼がしたいんです!」

突然葉月が声をあげ、竣亮もびっくりして、目をパチパチしている。

「お礼.....?」

「なんかした覚えはないんだけど.....」

すると葉月は、持っていた手提げバックからbuddyの写真集を取り出して、バーンとみんなに見せる。

「これを、竣亮くんから頂いたのですが、ご丁寧にみなさんのサインがありました。これはわたしの一生の宝物であり、死んだときには棺に入れて.....」

「ちょ、ちょ、ちょっとストーップッ!葉月さんっ!落ち着いてっ」

マシンガントークではないが、過激なことを言う葉月を、竣亮が全力で止める。そんな竣亮を、葉月は「なぜ止めるの?」という顔で見る。


「それは、葉月さんだけじゃなく、ここにいる市木くんや木南くんたちもそうだし、家族にあげる分にも全部サインしたんだ。だから何も特別では.....」

「竣亮くん、わたしは、わたしだけが、サイン入りの写真集を貰ったとは思ってないわっ。わたしが言いたいのは、お忙しい中でもこうしてサインをして頂いた皆さまに、感謝していますと言いたかったのよ」

葉月はふんっと、鼻で息を吐く。

「だって、葉月さん、棺とか言うから.....」

「それはそうでしょう?死んだときに好きなものに囲まれて、あの世に逝きたいと思うのは、何もおかしいことではないわ」

葉月は至って冷静に、自分の思ったことを話しているのだが、いかんせん飛躍しすぎていて、たまにこういうぶっ飛び発言が飛び出す。特に、buddyに関するものが多いのだが.....


でも、それを聞いた僚は、葉月に冷静に対処する。

「葉月さんがそんなにbuddyのことを応援してくれるのは、とっても嬉しいです。ありがとうございます。天国に持っていきたいってことは、おばあちゃんになっても、俺たちを応援するってことですよね?その葉月さんの気持ちに答えられるように、これからももっと頑張りますね」

buddyのリーダーである僚にそう言われただけで、葉月はもう満足だった。

竣亮は僚に、「ありがとう」と顔の前で手を合わせる。


それから葉月は、受験を控えているということもあり、一足先に帰ってしまった。竣亮が送ると言ったのだが、

「せっかくの息抜きなんだから、出来るときにしておきなさい」

と固辞され、タクシーで帰ってしまった。

こういうところはまだ、竣亮も勝てなかったようだ。


「そういえば、葉山。お前の弟、キョーレツだな」

唐突に市木に言われて、僚は、え?となる。

「あのライブが始まる前に、みんなの母上たちと話してたんだよ」

市木はライブ会場に入る前のやり取りを話し始めた。


「修くんはやっぱり、修くんだったね」

深尋はケラケラと笑っているが、僚も明日香も、そして隼斗も全然笑えない。

「おかげでさ、葉山の弟には睨まれるし、明日香ちゃんのお母さんは、なぜか葉山のお母さんと一緒になって喜んでるし、君たちって、親同士もあんなに仲がいいの?」

ふてくされながらも市木は、その時のことを思い出しながら聞いてみる。

「そうだね。なんか時々お母さんたちだけで集まって、おしゃべりしてるみたいだよ。ママ会とかなんとかって言って」

明日香が答えると、男子4人が「えぇ⁉」と驚く。


「ママ会なんて初めて聞いた」

「いつの間にそんなことに......?」

「明日香、それって僕のお母さんも......?」

「竣亮のとこもそうだけど、俺んちの母さんもか.....?」

僚と隼斗は初耳だと驚き、竣亮と誠は自分の母親が参加してるとは思っていなかったみたいだ。

「私も最近聞いたんだけど、どうも高校1年のデビュー前くらいから、定期的に集まってたらしいよ」

「わたしもー。ママから聞いてびっくりしたー」

6人とも、まさかこんなに長い付き合いで、自分たちが知らないことがまだあったことに驚く。

でも、その実態=ママ会に関わろうとは誰も思わなかった。


「ところでさ、みんなのマネージャーさん、めっちゃかっこいいねっ。最初見た時、モデルさんか俳優さんかと思っちゃった」

「わたしも思った!あのマネージャーさんに、スカウトされたんだよね?」

芽衣と美里が嬉々として話しているのを、隼斗と誠は面白くなさそうな顔で見ている。


「元木さん?うん、そう。一番初めはあの人にスカウトされたのがきっかけだよ」

隼斗と誠の様子を見て、僚は当たり障りのない返事をする。

「あのマネージャーさん、絶対モテるでしょ?男の僕から見てもかっこいいもん。ねえ?深尋ちゃん」

木南は、深尋の初恋相手と知りながら、わざと聞く。深尋は木南が知ってるとは思わず、目が泳いで挙動不審になる。


深尋以外の5人は、深尋の拗らせた初恋を知っているので、何とも言えない顔をして見守るしかなかった。

「あ.....うん。元木さんはモテると思うよ.....キレイな女の人と歩いているのを、見たこともあるし....」

なんにも悪いことをしていないのに、悪いことをしたような気持になりながらごにょごにょと話す。


「なんだよ木南。深尋ちゃんの初恋相手に嫉妬してるの?」

市木が酔った勢いで木南に図星を言うと、それを聞いた木南は、

「そうだよ。深尋ちゃんが長い間恋していた人が、あんなにかっこいい人だと、嫉妬するに決まってるでしょ」

と、いつもニコニコしているのに、珍しく真顔で答える。

木南の重い愛情を知っている男たちは、深尋に同情していた。

そして、深尋は深尋で、なんで木南が知っているのかわからなかった。


「光太郎くん.....怒ってる?」

心配になって聞いてみると、今度はニコッと笑って、

「怒ってないよ。ただ、ヤキモチ焼いただけ。でも.....」

そう言って木南は深尋の耳元で、他の人に聞こえないように囁く。

「あとで、覚悟しといてね」

その言葉を聞いて、深尋の顔がボンっと赤くなると、その場にいた全員が思った。

((手加減してやれよ、木南))と。


そうして、この日のクリスマスパーティーを楽しく過ごして終わった。


翌日からは、年末の歌番組に初めて出演したり、CMのオファーが数件あり、その打ち合わせがあったりと、忙しくしている間に、いつの間にか年を越していた。

年明けからはライブツアーの準備に追われる日々となる。

お披露目のライブとは、会場の大きさも、観客動員数も全く違うので、初めてのことに戸惑っていたが、大きなドームやアリーナでお客さんたちに楽しんでもらおうと思うと、やりがいを感じていた。


そして4月から6月まで、全国15か所で行われたライブツアーは大成功を収め、buddyの人気を確固たるものにしていった。


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