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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
79/111

78. 不安な日々

沖縄から帰ってきた2日後。

元木から言われていた通り、新曲のレコーディングが始まった。

12月に発売される新曲は、冬の切ないラブソングで、1人1人にしっかりソロパートがあるミディアムナンバーとなっていた。

そのため、ソロの部分のレコーディングに多く時間を費やし、今まで以上に力の入った曲に仕上がっていた。

それと同時に新曲の振り付けの練習など、8月の夏休み中はほとんど仕事に追われていた。


9月1日。GEMSTONEから、buddyについて新しい情報が公開された。

それは先日沖縄で撮られた、6人が波打ち際で海を向いて並んでいるバックショットだ。しかも今度は、シルエットではない。あの白を基調とした衣装を身にまとった6人の後ろ姿だった。

そして、6人を公表するその手段も発表された。

それは、12月1日にファンクラブ会員限定で、その日限りのお披露目を兼ねたライブをするというものだった。

ファンクラブの会員以外にも、メディア関係者、マスコミ関係者も入れるライブになるという。

その日からファンクラブサイトでは、観覧抽選の応募が始まり、ファンクラブ会員は歓喜した。誰もがいち早く、その姿と生の歌を聞きたいと思ったからだ。

その写真と、ライブの情報が公開されると、また世間の話題の中心になっていった。


「隼斗くん、この写真すっごくかっこいいね」

9月に入り、夏休みもあとわずかという頃、病院でのインターンが終わり、久しぶりに隼斗と時間を合わせることが出来た芽衣が、隼斗の部屋に遊びに来ていた。

「そう、良く撮れてるよなその写真」

芽衣が手に持っているスマホを覗きながら、隼斗が芽衣の隣に座る。

「いいなぁ....私も行きたかったな....沖縄」

芽衣がポツリと呟く。

「次は必ず、一緒に行こうな」

「うん。沖縄じゃなくてもいいから、ゆっくり旅行したい。2人で....」

そう言うと、2人は見つめ合ってキスをする。そして唇が離れると、おでこをくっつけたまま隼斗が囁く。

「.......今日、泊ってく?」

「いいの?」

「明日は午後からだし、いいよ」

「うれしいっ」

芽衣は隼斗の首に腕を回して喜ぶ。隼斗も芽衣の体を抱き締めて、久しぶりに2人だけの夜を過ごした。


翌日。隼斗は芽衣を駅まで送った後、その足でGEMSTONEへと向かった。

隼斗と別れた芽衣が駅のホームで電車を待っていると、スマホに着信が入る。画面を見ると、それは美里からだった。

「もしもし、美里ちゃん?」

『あ、あの.....芽衣ちゃん。いま大丈夫?』

「いま駅にいるから、電車来るまでは大丈夫だよ。どうしたの?」

『あのね.....ちょっと相談があるんだけど、いまから会えないかな.....?』

美里にそう言われた芽衣は、少し考えて、

「いいよ。待ち合わせしようか」

そう言って、2人で待ち合わせをすることになった。


美里と芽衣は、同じ高校の同級生だったが、同じクラスになったことはなく、芽衣は隼斗と付き合ったことで美里と仲良くなった。

2人が待ち合わせしたのは、その高校にほど近い場所にあるカフェだった。

芽衣が店に入ると、奥の窓際の席に美里が座っていた。


「美里ちゃん、お待たせ」

芽衣が声を掛けると、それに気づいた美里がパッと顔を上げる。しかし、その顔はなぜか暗い。

「芽衣ちゃん、急に呼び出してごめんね......」

今にも泣きそうな美里に、声を掛ける。

「どうしたの.....?大丈夫?」

何があったかすぐにでも聞きたいが、店員がオーダーを取りに来たので、適当なものを注文し、改めて美里に向き合う。

「崎元くんと何かあった?」

芽衣は、美里がわざわざ自分を呼び出すのは、おおかた誠がらみだろうと思い聞いてみた。すると、美里が小さな声でぼそぼそっと何か言っている。

「........ないの.......」

「え?.........何が?」

あまりにも声が小さく、もう一度聞き返す。

「........生理が.....こないの.....」

美里の口からそう言われた瞬間、芽衣は目を見開いて美里を見る。

「え......というか、どれくらい......?」

「..........2週間」

それを聞いて芽衣は、正直、判断するには早すぎると思った。


個人差はあるものの、生理周期が不規則な人であれば、それくらいの遅れはよくあることだし、規則的な人でも、何らかの要因で遅れることはままあるからだ。

それでも芽衣は、確かめずにはいられなかった。

「美里ちゃん、その......避妊はしてるんだよね......」

芽衣は、小声で美里に聞いてみる。

「うん......」

それを聞いて、少し安心する。

「そしたら、もう少し様子を見て.......」

「だけどっ、わたし今まで、遅れることなんてなかったの。それが、2週間も遅れてて、不安で......それに、避妊しても100%じゃないって読んで......」

同じ女として、美里の不安は痛い程わかる。

だけどこれは、美里一人で抱える問題ではない。誠と美里、2人で向き合うべき問題なのだ。


「美里ちゃん、崎元くんには言ったの?」

美里に尋ねると、ふるふると首を横に振る。

(それもそうか.....そうじゃなければ、わたしに相談なんかしないよね)

芽衣が1人で納得していると、美里が震える声で話し出す。

「誠くんたち、いまものすごく忙しくて、あまり会えていないのと、もし本当にできていたらわたし......誠くんたちの....邪魔になるかもって......そう考えると、怖くて言えなくて......どうしたらいいの......?」

言いながら美里は、ポロポロと涙を流す。


buddyはいま、12月1日に向けての準備や対応に追われていた。新曲のレコーディングが終わったと思ったら、今度はMVの撮影があったり、ライブの準備と並行して、年末には様々な音楽番組からのオファーがあり、そのための振り付けの見直しを行ったりと、その日が近づくにつれ、多忙になっていた。


それをそばでずっと見ている美里だから、誠に言えずにいた。

しかし芽衣は、看護師を目指す者として、なにより、同じ女として、はっきりと美里に告げる。


「美里ちゃんが、崎元くんたちのことを考えて、そういう風に思う気持ちは十分わかる。わたしも、もし自分がそうなったら、美里ちゃんと同じ気持ちになるかもしれない。でもね、これは美里ちゃんだけの問題じゃなく、美里ちゃんと崎元くん2人の問題だよ。だからまずは、1度妊娠検査薬で検査して、どちらの結果になったとしても、崎元くんにちゃんと言うの。こんなことがあって悩んでたんだって、不安に思ってたことも全部話すの。崎元くんのことだから、きっと受け止めてくれる。だから、勇気を出して。ね?」


芽衣にそこまで言われて、美里もやっと気が付いた。

そうだ。1人だけの問題じゃないんだと。それに、誠は常に自分のことを大切にしてくれている。会えない日が続いても、必ず連絡はしてくれるし、ちょっとでも会おうと時間を作っては、インターンに行っている会社にまで来てくれたりもする。

そんな献身的な愛情を見せる誠のことを、自分が信じないでどうするんだと思い知らされた。


「うん.....ありがとう、芽衣ちゃん。少しスッキリした」

先ほどより表情が明るくなった美里を見て、芽衣もホッとする。

「まずは、ドラッグストアで妊娠検査薬を買って検査しよう?」

「わかった......」

「そして、その結果に関わらず、ちゃんと崎元くんに言うこと。また、同じようなことがあった時にどうするのか、ちゃんと2人で話し合うんだよ?」

「うん......」


それから2人で、ドラッグストアで妊娠検査薬を購入すると、その足でショッピングモールのトイレに行った。

さすがに自宅でするのは気が引けたのと、芽衣が付き添ってくれるということに甘えることにした。

トイレの個室に入ってしばらくして、美里が出てくる。

「芽衣ちゃん......」

美里が、トイレの化粧台の前で待っていた芽衣に声を掛ける。

「ど、どうだった.......?」

芽衣も緊張の面持ちで、美里に聞いてみる。

「あのね.............」


その日の夜遅く。美里は、誠の部屋で誠の帰りを待っていた。

夜10時を過ぎて、玄関の方から人の声が聞こえてきた。

「じゃあな、お疲れー」

「おやすみー」

そう挨拶をしてバタンと閉まるドア。誠はリビングの明かりがついていることと、玄関にあった靴で美里が来ていると分かり、廊下の扉を急いで開ける。

「あっ、誠くんおかえり.....」

「美里.....」

誠は久しぶりに美里の顔を見て、ホッと安心すると同時に、こんなに遅い時間に美里がいることに疑問を抱いた。

「何かあったのか?」

単刀直入に聞くと、美里は黙って誠の顔を見る。

「誠くん......あのね......」

そう言いながら、美里は誠をソファーに座らせ、自分のバッグから妊娠検査薬を出して誠に見せる。


「........え、これって.......」

初めて現物を見て、誠は言葉が出てこなっかった。

「あの......わたし、生理が2週間遅れてて.......それで......」

「........できてたのか?」

美里の言葉が待ちきれずに、誠は美里に聞いてみる。

すると、美里はふるふると首を横に振る。

よく見ると、その検査薬は未開封のままだった。

「ううん、できてなかった......検査しようと思ってトイレに入ったら、生理に......」

その言葉を聞いた瞬間、誠は安心よりも、少し残念がっている自分がいたことに驚いた。でも、美里の顔を見ていたら、そんなこと言えなかった。

そして誠は、美里をそっと抱き締める。


「......ごめんな美里。不安だっただろ......?」

自分の様子を見てそう言ってくれた誠に、美里はそれまでの不安をぶつけるように涙した。

「うん....不安で....不安で....わたしが誠くんたちの....邪魔になる....って思って....ずっと....1人で....」

「ごめん、美里。不安にさせて、本当にごめんな....」

静かに泣く美里を抱き締めながら、その背中をゆっくりとさする。


少しして落ち着いた後、美里は芽衣に相談したことや、2人で話し合うよう言われたことを誠に伝えた。

「そうだな......長瀬の言う通りだ。これは俺たち2人の問題だ。だから、美里。今度からは、すぐに俺に言うこと。1人で悩まないで、ちゃんと俺に言って。こういうこと以外でも、何でもいいから」

誠は両手で美里の顔を包み、自分の方へと向けさせる。


「俺は、この先もずっと美里と一緒にいたいんだ。だから、全てのことを受け止める覚悟と、責任を取る覚悟をしている。美里が1人で悩む必要はないし、悩んでほしくない。確かにいまは、公表前で忙しくしているけど、それを言い訳に美里を蔑ろにするつもりはない。だから、今度からは俺を頼って.....」

美里は、5年以上も誠と交際してきて、自分の方こそ誠を信用しきれていなかったんだと反省した。


誠はこんなにも自分のことを思って、大切にしてくれているのに、言おうと思えばいつでも言えたはずなのに、それをせずに自分1人で悩んで、不安になって......そんな自分のことも、全て受け入れてくれた誠には、感謝しかない。

「誠くん、ごめんなさい......ありがとう......」


この件を境に、2人の絆はより一層深まっていった。


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