第31話 真剣師
僕とシルバーとレナは100階層に来ていた。爆破テロによりエレベーターや公共交通機関の多くは停止しているのだが、シルバーが【重力操作】スキルを使うことで難なく下層に移動することが出来た。
アンダーワールドは下層に行くほど治安が悪いと聞いていたが、100階層は噂に違わず荒んだ街だった。そこかしこにゴミが落ちており、ボロを纏った人々が徘徊している。
「100階層ってこんなところなんだな……」
僕は周囲を警戒しながらシルバーに話しかける。
「ええ、そうよ。ここは貧民層と呼ばれているエリアね」
僕らは薄暗い路地裏を歩いている。壁はひび割れ、所々崩れ落ちている。建物は朽ち果てたものが多く、廃墟のようになっていた。遠くの方から怒声と金属音、悲鳴のようなものが聞こえてくる。そのせいか、とても不気味だ。空気は淀んでおり、重苦しい雰囲気がある。時折すれ違う人々の中には武装している者もおり、みな物騒な目つきをしている。まるで犯罪者のような顔つきの者ばかりである。
しばらく歩くと大きな広場に出た。そこには20人ほど集まっており、何かを取り囲んでいるようだった。遠巻きに人垣の隙間を見てみると、何やら碁盤のような物が見えた。よく見ると、男と女が碁盤を挟んで対峙しているようであった。男は痩せ型で背が高く、黒髪をオールバックにしている。顎には髭が生えていた。首に十字架を模した銀色のネックレスを下げている。そして腰ベルトに拳銃をぶら下げていた。どう見ても堅気ではない。対して女のほうはというと、服装はチェック柄のシャツにデニムのホットパンツ、腰にガンベルトを巻き、銃帯には大小のハンドガンを装備している。頭にはキャスケット帽を被っており、そこから伸びている明るい緑色の髪が印象的だ。体形は細身で、身長は160センチ前後であろう。
僕はこの二人が囲碁の対局をしているのかと思って近づいてみた。どうやらそのようである。そして盤面を見て形勢判断をしてみる。
(んー……、これは……、もう中盤だが……、形勢がハッキリしないな……。女性のほうが5目ほど地は多いという感じだろうか。しかし、やや薄く、終盤に崩れそうな気もする……)
ギャラリーは皆、食い入るように盤面を見つめている。いつの間にか僕の横にも見物人が立っていた。無精ひげを生やした男性で、手にはタバコを持ち、酒臭い息を振りまいていた。僕は小声でその男性に話しかけてみる。
「あの……」
「ん?ああ、俺に話しかけてるのか?」
「はい、そうです。ちょっと聞きたいんですけど、今、何をやってるんですか……?こんなに大勢集まって……」
「見ての通りさ。碁だよ」
「碁、ですか……」
「なんだ兄ちゃん、知らんのか」
「あ、いえ、知ってますよ。でも、なんでこんな場所でやっているのかなって……」
「賭け碁だよ、取り巻き連中は金を賭けてるんだ。ちなみに俺は大穴狙いで女に賭けてある。兄ちゃんは?」
「賭け碁ですか……、形勢は難しいところですが、男が最終盤で追い上げて来る気がします。男のほうが勝つかと……」
「はっは!そうかい、そいつは楽しみだな!……おっと、兄ちゃん、そろそろ動くぜ……」
「はい……」
僕は固唾を飲んで碁の成り行きを見守る。女の黒石は効率よく地を稼いでおり、一見悪くないように思える。しかし、中央方面に男の白石がはたらきを持っており、これが最終盤まで効いてくる可能性がある。勝負の行方は最後まで分からないだろう。
「……」
「……」
二人とも真剣な表情で碁盤に視線を落としており、周囲の雑音は一切耳に入っていないようだ。
……そして終盤戦に突入した。女はやや苦しくなってきたか。碁石を握りしめ、悔しそうに歯噛みしている。しかし、男は冷静沈着であり、焦ることなく着実な手を打っている。
「くそ!」
女は苛立ったように吐き捨てると、盤面に碁石を叩きつけるように打った。そして乱暴にタバコを取り出すと、火をつけて吸い始めた。
男は小さくため息をつくと、腕組みをして目を閉じた。女が煙草を吹かす度に、辺りに紫煙が立ち込める。……僕はそんな光景を黙って見つめていた。
……
……
……
しばらくして、女が吸っているタバコからポトリと灰が落ちた……。やはり最終盤で逆転し、男のほうに軍配が上がったようだ。
「くそっ!!」
女は怒りをぶつけるようにしてアゲハマを握り、勢いよく盤面の上に置いた。それから小さく呟いた。
「負けました……」
すると、男は不敵に笑い出した。
「ふふっ……、ふははははは!……、お嬢さん……、残念だったなぁ……」
「……ええ、そうね……」
女は感情を押し殺したような声音で答えた。その声からは悔しさが滲み出ている。
「ま、仕方ないよなぁ……。お前の負けだ……。約束は覚えてんな?」
「ええ、分かっているわよ……。負けたら、あんたの言うことを何でも聞く。そういう約束だったもんね……」
「ああ、そうだ。分かってんならいいんだよ。へへ……」
「……」
「……いいか、よく聞け……。まずは服を脱げ……」
「分かったわよ……」
女は立ち上がり、腰に巻いてあるガンベルトを外した。続いてデニムホットパンツのボタンを外す。それからホットパンツを下へずらすと、彼女の白いショーツと腰回りの肌が露出する。
ギャラリーたちがどよめく。僕はその様子を静かに見守っている。
続いて、被っているキャスケット帽を取った。すると彼女の明るい緑色の髪がサラサラと揺れる。彼女の髪は薄暗い景色の中でも明るく輝いていた。
(あの子の髪……。すごく綺麗だ……)
そして女はシャツの裾を掴んで上にたくし上げた。ブラジャーが見えそうになるくらいまで捲り上げた。彼女の引き締まった白いお腹が姿を現す。ギャラリーたちの興奮が一気に高まる。中には歓声を上げる者まで居た。僕はその様子をただ呆然と眺めている。
そこで彼女は少しだけ躊躇したように動きを止めたが、静かに俯くと、意を決したようにゆっくりとシャツを上へと引き上げていった。白いブラジャーを着けた彼女の上半身が露になる。
「おおー!」
ギャラリーたちが口々に感嘆の声を上げた。ギャラリーの中には女性もいるが、皆、彼女の美しい肢体に目を奪われているようだ。下着姿になった女の身体は細身ながら均整が取れており、白く透き通るような白磁色の素肌は瑞々しく、まるで芸術品のようであった。女性から見ても魅力的であるのだろう。
しかし、女の顔つきには険があり、悔しそうに唇を噛み締めて拳を握りしめていた。その表情は何かを堪えるようなものだった。すると、男は笑いながら、彼女の頬を軽く撫でる。
「どうだ、見られながら脱ぐ気分は?悪くねぇだろう?」
「くっ……」
女は悔しそうな顔のまま、男を睨みつけた。男はそんな彼女を嘲笑うかのように鼻を鳴らす。
「ふんっ、悔しいか? だが、これが現実ってもんだぜ……」
「この、変態が……」
「ふふっ……、そうだよ……」
男は不敵な笑みを浮かべると、女は悔しそうに顔を歪める。
「いい表情だ……。さあ、続きをするぞ……、次は……、ブラジャーを外すんだ」
「……」
「聞こえなかったのか!?」
「くそっ……、分かってるわよ……」
女は忌々しげに吐き捨てるように言った。背中に手を回してホックを外し、肩紐を外してブラジャーを取ると、それを足元に投げ捨てた。すると、彼女の豊満な乳房がぷるんと揺れて姿を現した。その光景に周囲がざわつく。
「おぉ……」
「すげぇ……」
「いい乳だ……」
ギャラリーは皆、目を丸くしている。中には食い入るように見つめている者も居る。彼女の乳房はそれほどまでに美しかったのだ。彼女は自分の胸に視線が集まるのを感じ、頬を赤らめて顔を背けた。その様子を見て男が満足気に微笑む。
「へへっ……、なかなかそそるじゃねえか……」
「くっ……」
「ほら……、次は……、下も脱ぐんだ……」
「……分かったわよ……」
女は観念したように言うと、腰に手を当ててショーツに手を掛けた。
「……」
そして、女は一瞬だけ躊躇したが、覚悟を決めたように一気に下げた。彼女の秘部が露になる。その瞬間、ギャラリーからどよめきが起こる。
「おおー!」
「マジで脱いだ……」
「すげえ……」
彼女その声を聞いてビクッと身体を震わせた。羞恥に耐え忍ぶかのように、顔を赤らめながら体を震わせていた。彼女の下半身には汗が滲んでおり、太股の内側を雫となって垂れ落ちていく。
そんな彼女の姿に周囲のギャラリーは釘付けになっている。彼女の美しい肢体と恥じらう表情を見て興奮しているようだ。彼らは口々に囁き合っている。
「綺麗だ……」
「ああ、良い身体だ……」
「いいねぇ、実にけしからん……」
それからしばらく、彼女は言われるがままにストリップショーを披露するしかなかった……。
……
……
……
しばらくして男が呟いた。
「よし、今日のところはこれくらいにしておいてやる。それからお前が脱いだ服は貰っていくからな」
男はそう言って彼女が脱いだ服を全て手に取り、その場から立ち去ろうとしている。彼女は裸のまま、地面に座り込んでしまった。彼女は俯いて震えている。僕は彼女の元へと駆け寄った。
「大丈夫かい?」
僕は彼女に手を差し伸べた。すると彼女は少し驚いたような顔で僕を見上げる。
「えっ……、あっ……」
「これを着て、風邪をひくといけない」
僕は着ていた服を脱いで裸になり、彼女に服を渡した。彼女は僕の姿を見て、目を大きくして驚いている。
「なっ、何やってるのよ!そんな格好をしたら……」
「君が寒そうだと思ってね。心配しなくても、僕は裸でも大丈夫だ」
「そういうことじゃなくて……」
彼女の声からは戸惑いの感情を感じる。そして、僕は彼女をこんな目に遭わせたあの男が許せないと思った。
「大丈夫だよ……、僕が賭け碁であいつに勝てば、もう君は酷い目に遭うことはないよ」
「あなた、馬鹿じゃないの!? あいつに勝てるわけないでしょう!」
「そうかな? やってみないと分からないよ」
「やらない方が良いわ! きっと後悔するわ!」
「どうして?」
「だって……、私が負けたんだもの……、誰も勝てないわ……」
彼女は暗い表情でそう答えた。彼女は自分が敗北したことを悔やんでいるようだった。
「そうとは限らないさ……」
「無理よ……」
「それなら、賭けをしよう」
「えっ……、賭け?」
「ああ、もし僕があいつに負けたら、僕は君の言うことを何でも聞く」
「……」
「その代わり、もしも僕があいつに勝ったら、君は僕の言うことを何でも聞く。それでどうだい?」
そう言って、僕は彼女に向かって手を差し出した。すると、彼女は戸惑っているのか、黙り込んでしまったが、しばらくして僕の手を取った。
「わかったわ……、絶対勝ってよね」
彼女はそう言うと、僕の服を着て、立ち上がった。
「うん、必ず勝つよ」
「服ありがと……、あっ、それと……」
「なんだい?」
「名前を教えてくれない?」
「ああ、京太っていうんだ。よろしく」
「京太ね。私はミレイユよ」
「へぇー、綺麗な名前だね」
「……」
彼女は少し顔を赤らめて俯いている。照れているのだろうか。
「じゃあ、行ってくるよ」
「うん……、頑張ってね」
僕はミレイユに見送られながら男の方に駆け寄って行った。
「おい、待ってくれ」
「ん?なんだ?……何で裸なんだ……?」
男が怪しげにこちらを振り向く。僕の裸姿を見て驚いているようだ。まぁ、確かに、いきなり裸の男が近づいてきたら驚くだろう。
「僕と勝負してくれないか?」
「へぇ……、俺に勝てるとでも思っているのか?」
「勿論だ」
「お前……、なかなか度胸のある奴じゃねえか。名前はなんて言うんだ?」
「僕は京太だ」
「ふぅ~ん、そうか。俺はダケサンだ。で、何を賭けるんだ?」
「僕が勝ったらミレイユを解放してもらう」
「負けたら?」
「そうだな……。じゃあ、僕が負けたら、どんな命令でも従うってことで」
「ははは、おもしれえ、良いぜ」
「よし、決まりだ」
こうして、僕はダケサンと賭け碁をすることになった。
つづく




