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時空転移能力者の変態課長が美少女だらけの職場で部下達と共に終末世界を救う為に頑張る変テコな奮闘記 第0話 前日譚

西暦2325年――、突如として小惑星が地球に衝突し、人類は滅びた。


そして現在、西暦10025年――、

「京ちゃん、おはよう!」


朝起きると、すでに着替えを終えた七海がベッドの隣に立って挨拶をした。


「おはよう……七海……」


僕はまだ眠気が残る声で返事をする。彼女は僕に手を差し出した。


「朝ごはんどうする?」


彼女はいつも朝食について尋ねる。僕は彼女の手を掴んで立ち上がった。


「なんでもいいよ」


僕はそう言って軽く伸びをして目を覚ます。それから二人で部屋を出て洗面所へ向かう。


「私ね、夢を見たの」


彼女は歯ブラシを口に突っ込んだまま鏡の中の自分に向かって話しかけている。鏡の中のその姿を眺めがら僕は尋ねた。


「どんな夢?」


「昨日見た映画の夢。すごく面白い映画だったから、つい見入っちゃって」


彼女はしゃこしゃこと音を立てながら答える。


「そうなんだ」


僕は相槌を打つ。


「それでね……」


話を聞き流しながら僕は歯磨きを終えて口をゆすぐ。そしてタオルで口元を拭きながらリビングへ戻る。


「ちょっと聞いてよ!」


「うん、聞いてるよ……」


ソファーに座ってテレビをつける。ニュースだ。今日の天気は晴れ。最高気温は28度。湿度65%。


「昨日の映画の続きなんだけどね、あの後主人公が……」


テレビの画面を見つめたまま彼女の話を聞く。天気予報が終わってCMに入る。次の番組が始まるまで少し間があるようだ。僕はリモコンを手に取ってチャンネルを変える。すると、『こんにちは、世界の終わり』という子供向けの番組が始まった。


***

ナレーションの女性の声が流れる。『さあ始まりました! みんな大好き、世界の終わりの時間です!それでは本日の放送を始めましょう。まず最初に皆さんにお知らせすることがあります』声に合わせて映像が変わる。そこには大きなモニターがあり、そこにナレーターの女性が映し出されている。『先週予告した通り、この放送を最後に我々は宇宙へと飛び立ちます。つまり、これが我々の最後の放送となります。どうか最後まで楽しんでいってください』女性はカメラに目線を向けてそう言った。

***


「今日で最後なんだ……、残念……」

七海は本当に残念そうだ。


「仕方ないよ」

僕は彼女をなだめるように言い、再びテレビに視線を向けた。


***

『それでは、これから我々が向かう先の星を紹介していきます』女性の姿が消え、代わりに水色の球体が現れる。『私たちが住む地球は、太陽のまわりを回る惑星の一つです。そして、太陽の周りを回っているのは地球だけではありません。他にもたくさんの惑星が存在しています。例えば……、ほら、この惑星はご存知でしょうか?』画面に大きな輪っかがある惑星が映し出される。

***


「知ってる!土星!」

七海は自信満々に答えた。


***

『これは土星です。そしてその周りにタイタンという衛星が回っています。私たちは今からタイタンへ向かいます』画面に大きくタイタンが映し出された。『さて、ここからはいよいよ宇宙旅行の始まりです』画面が切り替わる。そこには巨大なロケットが映っていた。『これが我々の乗る宇宙船です。この中にはたくさんの設備が整っていて、快適な旅を約束してくれます』彼女は笑顔で言った。

***


「すごい」

七海が感嘆の声を上げる。


***

『えー、ここで皆さんにお願いがあります。もしよろしかったら、みなさんにもご参加いただきたいのですが……』その言葉に反応するように画面に参加者募集のテロップが出る。

***


「へぇ、面白そうじゃない?」

七海は目を輝かせている。僕は黙ってその様子を見ていた。


***

『来てくれた方々には記念品をお渡しします。それに、もしも興味がある方がいれば、ぜひ我々の仲間になってほしいんです』

***


「仲間になるって、何の仲間だろう?」

七海は疑問を口にした。


***

『我々は皆で力を合わせて、この世界の滅びに立ち向かわなければいけません』女性は真剣な表情で言う。そしてこう付け加えた。『それができるのはテレビの前のあなたたちだけです!』

***


「ふぅむ……」


七海はしばらく考える。僕は何も言わずに彼女の様子を見守る。


「よし、決めた!」


彼女は勢いよく立ち上がった。


「行こう、京ちゃん!」


「え、行くの?」


「うん、だって楽しそうだもん」


彼女は満面の笑みを浮かべながら答える。すると、彼女はソファーに置いてあった自分のバッグを手に取り、その中からスマホを取り出した。そして、番組のライン公式アカウントを開いた。


「……えーっと……、私は……、アンドロイドです。17歳。女性型。七海という個体名を持ちます」


彼女はそう言ってスマホに向かって微笑んだ。僕は黙ってその様子を見ている。


「さて、次は京ちゃんの番だよ」


七海はそう言うと、僕にスマホを渡した。


「あ、うん」


僕は慌てて返事をする。そして彼女と同じようにスマホを構えた。


「僕は京太といいます。7800歳で男性型のアンドロイドです……。これでいいか?」


「うん、大丈夫」


七海はうなずく。彼女はスマホを受け取って『私たちは宇宙に行きます』と入力し送信ボタンを押した。



◇◇◇



一方その頃、タイタンの軌道上にある宇宙ステーションでは……。


一人の男が神妙な面持ちでモニターの前に立っていた。彼はこの宇宙ステーションの司令であり、同時に地球滅亡管理局の局員でもある。地球滅亡管理局とは、地球滅亡に繋がるあらゆる事象を予測し、文明がよい状態を保てるよう必要な手立てを講じる組織である。男は地球の未来を守るために日夜奮闘していた。ここ数千年の間で、地球は幾度となく破滅の危機を迎えてきた。しかしそのたびに、彼らは知恵を振り絞り、困難を乗り越え、繁栄してきた。


ところが近年、地球に危機が訪れる頻度が明らかに上がっているのだ。まるで何者かが意図的に行っているかのように……? 男は眉間にシワを寄せながら考え込んだ。しかし、いくら考えても答えは出ない。


その時だった。突然、男の目の前にあるモニターから警告音が鳴り響いた。画面には赤く大きな文字でメッセージが表示される。


〈緊急警報〉緊急事態発生! 至急応援を要請します。場所は地球です。


この文を見て、男は顔をしかめた。またか、と彼は思った。最近、地球で大規模の災害が発生しているという報告が度々入っている。地球規模の噴火や津波、ウイルスの蔓延。そのどれもが壊滅的な被害をもたらしているようだ。一体何が起こっているのだろうか。彼は頭を抱えながら深いため息をつく。だが、今は悩んでいる場合ではない。一刻も早く対応しなければ、地球が終わってしまうかもしれないのだから。男は意を決すると席を立ち、部下に指示を出した。


さぁ、仕事の時間だ。



◇◇◇



「あ!ナレーターさんだ!」七海が大きな声を上げる。


僕は初めて画面の外で見るその女の姿を見やった。肌の色は白く、髪は黒に近い茶色で短めである。瞳の色も同じで、顔つきは日本人のように思える。服装は真っ白なワンピースで、袖がなく、スカート丈は膝上まであるが、裾にはフリルがついている。さらに胸元は大きく開いていて、そこから覗く彼女の白い素肌がとても眩しい。そして、彼女は頭に猫耳をつけていた。


「はじめまして。私は、世界の終わりのナレーターを務めています。名前はありません」


「よろしくお願いしまーす!あ、でも、名前がないなら私がつけてもいいですか?」


「えぇ、どうぞ」


「じゃあ……、今日からあなたの名前は『ねこみみちゃん』です!」


「え……」僕は思わずつぶやく。「それはちょっと……」と言おうとした時、すでに遅かった。


「はい、わかりました。これからは私のことは、そう呼んでくださいね」


彼女は笑顔でそう言うと、七海に握手を求めた。七海は嬉しそうに手を握る。


「よろしくね、ねこみみちゃん!」


「はい、よろしくお願いします」


ねこみみちゃんは優しく微笑む。


「早速ですが、これからチュートリアルを始めます。あなたたちにやって欲しいのは、世界の崩壊を防ぐことです。世界には破滅に繋がる因子が数多く存在します。それらは放っておくと世界を滅亡させてしまいます。それを防ぐためには、あなたたち二人が協力して戦う必要があります」


そこで言葉を切ってから、彼女は少し困ったような顔になる。


「ただ、この説明をしていても、理解するのはなかなか難しいかもしれません。地球の危機を具体的に説明するよりも、まずは実際に体験してもらう方がわかりやすいと思います」


次の瞬間だった。僕と七海の周囲に光り輝く粒子のようなものが集まり始めた。粒子は次第に数を増やし、二人を取り囲んでいく。やがてそれらは実体を持ち、武器となった。僕は両手剣を手にしていた。刃の部分は透明だが、柄の部分から先端にかけて色が変わっていくグラデーションになっている。一方、七海は大きな銃を構えていた。銃身は長く、全体的に黒くて、銃口部分に青いラインが入っている。そしてグリップ部分には複雑な模様が描かれていた。僕たちはお互いの姿を見て、驚いたように目を見開いた。


「これから、今持っているその武器を使って、宇宙からの侵略者たちを倒してもらいたいと思っています。では早速始めましょう」


彼女がパチンと指を鳴らすと突然周囲の光景が変わった。



◇◇◇



空は暗く、大地は枯れ果てていて、草木はまったく生えていない。遠くの方で巨大な火柱が立ち昇っているのが見える。そこは荒野のような場所であった。周囲には二人の他に人影はなく、風もない静かな空間である。僕が手にしている両手剣だけが輝いていた。


突然、七海が「うひゃあっ」と叫ぶ。彼女は自分の胸に手を当てていた。

彼女の服はボロボロで、下着が見えている。七海は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「な、なんだこれ!?」


と僕は声を上げた。七海は慌てて胸元を隠しながら考えていた。


「なんだろう……、急にこんなことになっちゃった……」


「ねこみみちゃんが言っていた通り、チュートリアルだと思うよ」


七海は「そうだよね」と言って、苦笑いを浮かべた。


「僕たちが戦う相手は……」


と言おうとした時だった。目の前の地平線の向こうから、無数の飛行物体が近づいてくるのが見えた。それは宇宙船のように見えた。


「あれを倒せばいいんだね?」


七海は僕の横に立つと、大きな銃を構えた。


「ああ、気をつけていこう」


僕が構えると、両手剣が輝き始める。やがて、剣の先端が青く染まり、そこから光線のようなものが出て、空を飛んでいる敵の一体に命中した。その敵は爆発してバラバラになり、地面に落下していく。僕はそれを見て、もう一度剣を振るった。今度は大きな光輪が出現。それが飛んでいる敵に命中すると、敵はその衝撃によって吹き飛ばされて地面に落ちた。

それから僕は次々と敵を切り裂き、倒していった。その様子を見ていた七海が呟いた。


「なんか楽勝っぽいけど……。これって私たち必要かな?」


そう言いながらも七海は銃を構えた。銃口が光り出す。七海は銃を撃った。「いっけぇ!」銃口から飛び出したのは光の矢のようなものだった。七海は続けて何度も銃を撃つ。やがて、彼らの周りを飛んでいる敵はいなくなった。


「よし……、これで全部倒したぞ……」


僕は額に浮かんだ汗を拭いながら言う。しかし……、次の瞬間だった!全身に強い力を感じた。何かに押し潰されるように、体が地面に向かって引っ張られていく。七海も同じように引き寄せられていった。そして、二人は同時に叫び声を上げた。


「「わああぁぁぁぁぁ」」



◇◇◇



元の景色に戻った。ねこみみちゃんが微笑んでいる。


「何……今の……?」


七海の頭には疑問符が浮かんでいた。何が起きたのか全く理解できないのだ。


「今お見せしたのは、現実世界の様子を再現した仮想世界です」


とねこみみちゃんが答えた。七海が首を傾げる。


「え?全然わかんないんだけど?」


「七海……、今まで言っていなかったんだけど……、実は、僕たちが今暮らしてるこの世界は仮想世界なんだよ」


僕はそう答えた。


「……あ、じゃあ、あれだよね。さっき見た世界は、京ちゃんが前に言ってた『VRゲーム』っていうやつなんだね」


七海は頭を捻る。


「京太さん。七海さんには後で詳しく説明してください。今は時間がありません」


「時間がない?」


「はい。現実世界は今お見せしたチュートリアルのような状況です。あなた方は今、地球滅亡管理局の局員として登録されました」


「な、なるほど……」


「それで、僕たちは具体的に何をすれば良いんだ?」


「はい。あなた方には現在、土星の衛星タイタンに行き戦える仲間を集めるというミッションが与えられています」


「わかった。では早速、そのミッションに向かおう」


「あ、ちょっと待って」と七海が言う。「ね、京ちゃん。さっきねこみみちゃんが言ってた『詳しく説明』ってどういうこと?」


「えっと、さっきのはね……つまり……、」


と僕が言いかけた時だった。突如、空に文字が現れた。


〈緊急ミッションが発令されました。現在、太陽系第三惑星地球で、大規模災害が発生しています。直ちに救援へ向かってください。繰り返します、現在、……〉


(これは……)


「京太さん、七海さん」とねこみみちゃんが呼びかけてきた。「タイタンへのミッションは保留です。まずは、こちらの緊急ミッションから遂行しましょう」


「えぇ……そうなの?」


七海が言った。彼女は不満そうだった。


「七海、仕方ないんだよ……、現実の僕たちがピンチなんだ。こっちを先にやらないと……」


「うん……。わかった……」


「それでは、京太さん、七海さん。あなた方の意識を現実世界へ転送します。ご武運をお祈りしています」


僕たちは白い光に包まれて、その場から消えた。



……

……

……



そこは宇宙の中のように暗く、また、宇宙よりも明るかった。


何も見えないのに何故か光を感じられた。



……

……

……



目を開けると、そこには七海の顔があった。水色の薄手のガウンだけ身に着けている。彼女は僕を覗き込むようにして見ていた。僕は起き上がって周りを見渡した。棺のようなものが無数に積み重ねられている。見覚えのある景色だ。


「ここは変わらないな……」


「ここって何のこと?」


「現実世界だよ。僕らの世界だ」


と言ったその時、七海が後ろを振り向いた。誰かいる! 僕は急いで立ち上がると七海を守るように立ちふさがった。そして暗闇に目を向けた。何かが近づいてくる。それは徐々に姿を現した。少女だった。青い髪をポニーテールにしている。黒いスーツ姿に身を包んでいた。胸元には地球滅亡管理局のバッジをつけている。彼女は僕たちを見ると、ニッコリ微笑んだ。


「こんにちは」


と青い髪の少女は言った。


「お久しぶりですね、京太さん」


「アイ、生きてたのか!」


彼女は歩み寄り、僕の手を握った。僕は困惑していた。目の前にいるのは、かつて一緒に暮らしていたアンドロイドだった。人類が滅亡した後、僕は彼女と共に地球滅亡管理局で働いていた。彼女は局内でも優秀な局員として評判が高かった。しかし、あるとき彼女は忽然と姿を消した。それからしばらく経って彼女の死亡が確認されたという話を聞いた。それがなぜ今になって現れたのだろうか……。僕が黙っているのを見て、七海が話しかけてきた。


「京ちゃんのお知り合い?」


「うーん、まあ、そんなところだね」


「京ちゃんと彼女の関係は?」


「えっと……、彼女は僕の後輩かな」


そう言いながら僕はアイの様子を伺っていた。すると、彼女は突然僕に抱き着いてきた。


「京太さん……やっと再会できましたね」


と彼女は僕の耳元で囁くように言った。身動きが取れなかった。まるで、時間が止まったかのように思えた。僕は抵抗しなかった。彼女はそのままの姿勢で言う。


「ずっと会えなかったから寂しかったです……」


と彼女は言った。お互いの鼓動が速くなるのを感じる。


「もう二度と離れません……」


その時、七海が僕の腕を引っ張った。


「ちょっ……、離れてよ!いい加減にしてよね!」


七海が叫ぶ。アイは、ゆっくりと僕から離れた。そして、微笑みながら言う。


「ごめんなさい。つい嬉しくて……」


「何なの、あんた?」


「私は地球滅亡管理局のアイと言います」


「ふーん」


「あなたは?」


「私は七海。京ちゃんの恋人」


「京太さんの?」


「そうだよ」


「七海さんは、どうしてここに?」


「地球滅亡管理局の局員だから」


「へぇ~」


その時、遠くの方で何かが光ったような気がした。僕はハッとした。


「アイ、話は後だ」


「どうしましたか?何かありましたか?」


「敵が来たかもしれない。とりあえず隠れよう」


僕たちは、物陰に隠れた。そして、息を殺して様子を伺った……。しかし何も起きない。しばらく経っても変化はなかった。気のせいだったようだ。安堵のため息をつく。先ほど、アイが自分を抱き締めてきた時、一瞬だけ、彼女の体が震えていた事を思い出した。


「ところで……、アイは今まで何をしていたの?」


「私は……、ある惑星の調査をしていました」


「調査って?」


「それは秘密です、守秘義務がありますので……」


「そうなのか……、昔、突然姿を消したのは極秘任務のため?」


「はい」


「でも、なぜ今になって?」


「それが……、ある日、突然、局長から呼び出しを受けて……、私は、その時、地球で重大な危機が迫っていることを聞かされました」


「重大な危機?」


「はい。宇宙人による侵略です」


「ああ、ねこみみちゃんから聞いたよ」


「ねこみみちゃん……?仮想世界を管理しているAIのことかしら?」


「そうそう」


「そうですか……、あの子……元気にしているんですね」


僕たちが会話している間に、七海はアイに対して警戒心を抱いていた。彼女は僕が着ているガウンを掴みながら、じっとアイの様子を観察している……。アイは七海に微笑む。


「七海さん、よろしくお願いしますね」


「うん、こちらこそ……よろしくね」


と七海がぎこちなく返事をする。


「京太さん、七海さん、まずは戦うための装備を整えましょう」


彼女はタブレット端末を取り出して操作を始めた。しばらくすると、壁から数種類の武器が現れた。


「好きなものを選んでください」


七海はヌンチャクを手に取った。そして、振り回したり構えたりしてみた。悪くない感触だ。彼女は気に入ったようだ。彼女はヌンチャクを振り回し、得意げな顔をしていた。


一方、僕は、釘バットを選んだ。


「京太さん!?」


「大丈夫だ。問題ない」


「本当に?」


「本当だ」


「無理しないで下さいね、その釘バットは本当に危険です」


「平気だよ」


と言って、僕は歩き出した。僕の武器はこれしかないんだ。そう思って、釘バットを握りしめていた。


「防具はどうしますか?」


「うーん……」


僕には防具が必要だ。それは分かっている……。だけど、生半可な防具で、未知の技術を使う宇宙人の攻撃を防げるのだろうか。


「昔人間が使っていたような、大型の戦闘アーマーはないのか?」


「ありますよ、ただ……、そのアーマーを動かすためには、大量のエネルギーが必要になります」


「なるほど、エネルギーの問題なのか……、困ったな」


「また、使用者への負荷が大きく、適正が低い場合、神経系を損傷する可能性があります」


「難しそうだが、方法を考えよう。七海はどうする?」


僕は振り返って訊いた。


「私は、この服があるから、大丈夫」


彼女は黒いドレス姿になっていた。黒いゴシックロリータ風のファッション。瞳の色は金色。肌は透き通るように白く美しい。胸は大きく膨らみ、腰はくびれている。彼女は、まるで人形のように美しかった。


「七海さん、素敵な服を着ていますね」


「ありがとう」


「もしかすると、それなら宇宙人の攻撃に耐えられるかもしれません。さて、それでは三人で緊急ミッションに向かいましょう」


「うん!」「了解!」

僕たちはアンドロイド保管施設を出てミッションに向かった。


ミッションの場所に向かうために乗ったエレベーターは、かなり大きなものだった。天井には無数のランプが点灯している。しばらくすると扉の脇の壁面にあるモニター画面に、「100」と表示され、エレベーターの扉が開いた。目の前の広い通路の床と壁は鏡面仕上げになっている。そして、正面の壁際には巨大な戦闘アーマーが立っていた。全長10メートルはあるだろう。頭部の視覚センサーは今は光を放っていない。その背後の壁一面にガラス窓があった。七海が窓ガラスの前に立って外を見る。彼女の横顔は真剣だった。


「ここはどこ?」


と彼女は呟くように言った。僕は彼女の背後に近づいていき、肩越しに景色を見た。眼下に広がるのは荒廃した高層ビル群である。空は曇っている。地球規模の火山噴火の影響だろう。火山灰に覆われた都市が広がっているのだ。遠くには山々が見える。地球滅亡管理局の本部ビルからは遠く離れた場所なのだが、灰に覆われていることは同じであった。そして、あちこちで火の手が上がる様子が見える。


「これでは手の施しようが……」


「いったい誰がこんなことを……誰なの!?」


と、七海の鋭い声が聞こえた。僕はハッとして振り向いた。彼女がこちらを見つめている。金色の双瞳は僕を射抜くように輝いていた。


「いや、それは……」


「答えなさい!これはあなたの仕業なの?」


と七海が怒鳴る。彼女は怒って僕に近づき、右手を振り上げて僕に平手打ちをした。パシンッ!という音を立てて頬が鳴る。僕は倒れた。口の中に血の味が広がる。唇が切れたのかもしれない。


「答えろって言ってるでしょ?」


「違うんだ、七海……、誤解なんだ」


「何を?あなたが犯人じゃないとしたら何?」


「えーっと、それはだな……つまり……」


頭をフル回転させる。どうしたらこの状況を切り抜けられるのか?(落ち着け)と僕は自分に言い聞かせた。(何か方法があるはずだ。考えるんだ、京太)まずは七海にわかってもらえないと何も解決しない。しかし、いざ話そうとすると頭が混乱してしまう。そもそも自分はなぜこうなっているのか?どうしてこのようなことになったのか。それさえ分からないのだ。そんな状態なのに、うまく言葉が出てくるはずがない。


「京太さん……、私が代わりに説明します」


アイの声は落ち着いている。とても冷静だ。アイは七海の隣に歩いていく。


「七海さん、落ち着いてください」


「落ち着いていられないわ」


「大丈夫です。京太さんは悪いことはしていません」


「本当に?」


「はい」


「もちろん、私も」


「そう……」


……

……

……


「私たちを信じてください」


「うん」


七海は少し落ち着いたようだった。そして、アイに向かって手を差し出した。


「ごめんね、アイちゃん」


アイはその手を掴んで握手した。


「いいんです。でも、京太さんには謝った方がいいと思いますよ」


アイに言われて、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべた。


……


「七海、アイ、あれを見ろ!」


窓の外、遠く先を見ると、そこには生物とも機械ともつかない異様な何かがあった。その巨大で幾何学的な形状をした物体からは何本もの触手のようなものが伸びており、それらが高層ビルを貫いている。その建造物の内部にあるものを探り出そうとしているように見えた。


「あんなの見たことない」


七海の言葉に僕は無言でうなずいた。確かに僕の記憶の中にもあの生命体はないのだった。僕はアイの方を向いて言った。


「アイ、あれは一体なんなんだ?」


「わかりません。しかし、恐らくは私たちを滅ぼすために現れたものでしょう」


「わかった、今は考えている暇はない。とにかく奴らを倒すぞ」


「はい」「うん」

三人は窓から下の様子を窺った。同じような一体の巨大な怪物がビル下方の外壁を這っているのがわかる。それは明らかに地球のものではない何かであった。


(まさか宇宙人があんな姿をしているとは思わなかったな……)


そのようなことを考えているうちにも状況は進行していく。怪物の体表の一部が開き、無数のミサイルを発射してきた。ビルめがけて放たれたものが爆発する様子が見えた。


「ヤバいな、こいつ」


それから僕は後ろを振り返る。そこには七海とアイの姿がある。アイがこちらを見てうなずくのが分かった。


「行くぞ!離れないようにしろ」


僕は走り出す。窓を破り、ビルの側面を落下していく。その後ろでは二人もついてくる。前方の化け物を見ると、それは空中に浮かんでいるようにも見えるが、正確には違う。無数の触手で繊細に巨体を制御しているのだ。そうこう考えているうちに、敵の本体が視界に入る。その怪物の表面が開いているのが見えた。ミサイル発射の準備が整ったらしい。


(どうする?)


このまま落ちて行ったら、ミサイル攻撃の的になるのは間違いないだろう。だからと言って上に戻ってしまえば、敵に攻撃できない。どちらを選ぶべきか。迷った末に僕は前に進むことに決めた。ミサイルが着弾するまでのわずかな時間があれば、それだけ相手の懐に飛び込めるというものだ。


だが、敵の方が早かったようだ。眼前に数え切れないほどの数のミサイルが迫ってくるのが見える。


そのとき、僕の目の前に一つの影が立ち塞がった。アイだ。アイは手を前に突き出すと、そこにエネルギーを集めて光線のようなものを放った。その一撃で全てのミサイルが破壊され、消滅した。


(すげぇ。さすがアイ。助かった)

「サンキュー、アイ」


「お安い御用です」


アイは笑顔を浮かべた。敵はまた攻撃を仕掛けようとしていたが、僕はすかさず釘バットを振り下ろした。そして敵の体を思いっきり殴りつける。釘バットが当たった瞬間、敵は大きく凹んだ。僕はそのまま力を込めて叩きつけた。すると相手は完全に破壊された。それはただの破片となってバラバラになり、地面に散らばった。その様子を見て、アイが感心するように言った。


「お見事ですね、京太先輩。あの巨大物体の表面は頑丈だと聞いていましたが」


「そうなんだよ。だから倒すには、この釘バットが有効だと思ったんだ。この釘バットは特別製でね。どんな装甲でも破壊できる。それに僕自身も特別性なんだ。アイだってそうだろ?」


「はい。私は、他のアンドロイドよりも高性能なパーツを使用しています。私の武器も特殊でして、このビームガンです」


「ほう」


アイが構える銃の先端からは、ほのかに青白い光を放っているのが分かる。


「これはエネルギー兵器の一種で、エネルギーの塊を射出します。威力は相当なものですが、連射が利かないのが難点です。あと、一発撃つごとにチャージが必要となります」


「つまり必殺技みたいなもんか。すごいじゃん。カッコいいよ」


「ありがとうございます」


アイは嬉しそうに微笑んでいた。


「ねぇ、京ちゃん。私のヌンチャクはどんな能力があるの?」


「お前のヌンチャクは、あらゆるものを切り裂ける刃を持っている。ヌンチャクの端からレーザーブレードが出るんだ」


「へぇ~、スゴイ!」


「ただし、切る対象をしっかりと見極めないとダメだぞ。何でもかんでも斬っちゃうと、自分が傷ついてしまうからな」


「うん、分かった。じゃあ、試しに何か切ってみようかなぁ……あっ、ちょうど良いところに岩があった! えいっ! えいっ! えいっ! これでどうかな? わーい! 切れた! すごい! 私って天才かも!?」


「おい、七海。危ないじゃないか。何やってるんだよ。もし間違って誰かを傷つけたらどうするんだ」


「大丈夫だよ。誰もいないところでやったもん」


「そういう問題じゃないだろ」


「ごめんなさい」と彼女は素直に謝る。だが反省している様子はない。


(まったくこいつは……)


僕は七海に近づき、彼女の頭を撫でながら優しく言った。


「七海は優しい子だからそんなことはしないと思うけど、もしも人を傷つけるようなことがあったら、僕は悲しい気持ちになるからさ」


七海は嬉しそうに笑うと、僕に抱き着いてきた。


「うん、そうだったね」


僕たちは歩き出した。



つづく

挿絵(By みてみん)

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