第3話 冒険者ギルド
「ちょっ!京ちゃん!?そこでなにしてんの?」
七海が驚いた様子でこちらを見つめている。しまった、見られた。なんて説明すれば良いだろう。
「違うんだ。これには深い事情があって」
「どんな事情があるっていうのよ!」
「それは……」
とっさに思い付いた言い訳を口にした。
「……僕は唾液交換することによって相手のステータスが分かるんだ!」
「へぇーそうなんだ。すごいね。何で彼女は裸なの?」
「身体検査も必要なんだ!」
「ふぅ〜ん」
七海は疑っているようだ。無理もない。
「七海、信じてくれ!決してやましいことはしていない」
「うん、分かってるよ。京ちゃんはそんな人じゃないって」
「本当か!良かった」
一応信じてくれたようだ。助かった。
「それで彼女のステータスはどうだったの?」
「最高だ。彼女には仲間になってもらう」
ガスマスクの女はしばらく考え込んだ後、 口を開いた。
「……何の話ですか?」
「これから詳しく説明する」
……
……
……
「そういうことですか……、わかりました、協力します。ただし条件があります」
「なんだ?なんでも言ってくれ」
「私のことはシルバーと呼んでください」
「分かった。よろしくな。シルバー」
「はい、よろしくお願いいたします」
こうして僕はシルバーと協力関係を結ぶことができた。目的が達成できたため、帰路につくことにする。シルバーとは一旦別れ、七海と二人で店を出た。外はすっかり暗くなっていた。街灯を頼りに歩きながら宿を目指す。道中、七海は僕の腕にしがみついてきた。柔らかい胸が押し付けられる。僕は照れくさくて黙ったまま歩いていた。しばらくして七海が話しかけてくる。
「京ちゃん、今日は楽しかったね」
「ああ、そうだな」
「また一緒にデートしようね」
「もちろんさ」
僕たちは手を繋いで歩いた。こんな幸せな時間がいつまでも続けばいいのに。そう思った。
◇◇◇
翌朝、僕らは宿をあとにして、早速この星の冒険者ギルドを訪れた。建物内は清潔感があり天井は高く開放的な空間が広がっている。受付カウンターには数名のスタッフが待機しており忙しなく動き回っていた。壁際には掲示板が設置してあり、様々な依頼書が貼り付けられている。冒険者たちも複数グループに分かれて話し合いをしていた。活気のある場所だなと感じた。とりあえず僕は掲示板の前に向かった。何か受けられるクエストがないだろうか。掲示板を確認していると、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには可愛らしい容姿の受付嬢がいた。若く見えるが見た目に反して落ち着いた雰囲気を纏っており、どこか大人びた印象を受ける。彼女は腰ベルトがついたワンピースタイプの制服を着ており、首元からは宝石のついたネックレスがぶら下がっている。身長は低めで胸は平らだが顔立ちは非常に整っている。彼女はこちらを見て微笑んでいる。
(綺麗な瞳をしているな。吸い込まれてしまいそうだ)
「こんにちは。あなた方も依頼を受けに来たんですか?」
「えっと、はい。そうなります……、あの……、ここの冒険者ギルドは初めてなんです……」
僕は緊張しながら返事をした。すると、彼女は優しい口調で語りかけてきた。
「私はギルドの受付を担当しているサクヤです。わからないことがあったら何でも聞いてくださいね」
「ありがとうございます」
「いえいえ、それでは手続きを行いましょうか」
サクヤさんは手際よく書類の準備を始めた。
「まずはこちらの問診票にお名前などご記入ください」
僕は名前や年齢などを記入して彼女に手渡した。
「京太様ですね。年齢は7800歳でよろしいでしょうか?」
「はい」
「スキル鑑定も行いますので少し待っていてください」
サクヤさんはそう言うと奥の部屋へと入っていった。しばらくして戻ってくると水晶玉を持って現れた。
「これはスキル鑑定器と呼ばれるアイテムです。この上に両手を置いてもらってもいいですか?」
「こうですか?」
言われた通りにする。すると、青白い光が放たれた。
「うわっ!」
眩しくて思わず声が出てしまう。光はすぐに消えた。サクヤさんは驚いた様子で口を開く。
「こ、これは……。まさか、こんなことが……」
「どうしたんですか?何か問題でも……」
「あ、ごめんなさい。ちょっと驚いてしまっただけです。気にしないで下さい」
「はぁ……、わかりました」
「それでは説明しますね。スキルは大まかに分けて二種類あります。ひとつは『アクティブスキル』と呼ばれるものです。もうひとつが『パッシブスキル』と呼ばれています。アクティブスキルは本人が意識して発動することで効果が発揮されます。パッシブスキルは何もしなくても常に効果を発揮するスキルです」
「なるほど」
「例えば、アクティブスキルには一時的に能力値を上げる【身体強化】や【ヘイスト】のようなものがあります。一方パッシブスキルは【HP自動回復】や【剣術】【弓術】などのように本人の意思に関係なく常時発動しているスキルですね」
「はい」
「そして、京太様のスキルはこちらです」
サクヤさんはそう言って僕に紙を手渡してきた。そこには僕のスキルが記載されていた。
◆アクティブスキル:【解析】【身体強化】
◆パッシブスキル:【言語理解】
◆ユニークスキル:【時空転移】
「ユニークスキル!?」
僕は思わず叫んでしまう。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、何でもありません」
「ふむ、京太様はユニークスキルをお持ちなんですね」
「ゆ、ユニークスキルって何ですか?」
「ユニークスキルとは個人が所持するオリジナルの特殊能力のことです。先天的に授かるものと、後天的に発現するものがあります。稀に複数のユニークスキルを持つ方もいらっしゃるようですね」
「そんなものが自分にもあるなんて……、信じられないな」
「とても珍しいです。まぁ、あまり深く考えずに生活していた方がいいと思いますよ。変に騒ぎ立てると良くないですからね。それよりクエストの説明を始めましょうか」
「は、はい」
「クエストは基本的にギルドから発行されます。報酬も貰えますので、頑張って達成してみてくださいね」
「わかりました」
「では、早速クエストを発行しますので京太様のステータスを拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「それでは今から私のスキル【解析】を発動させてもらいますね。このスキルは相手の情報を読み取ることができます。犯罪防止のために相手の同意なしに解析スキルで個人情報を読むことはできないのでご注意ください」
「はい」
「それではいきます」サクヤさんはそう言うと手をかざした。
「……」
しばらく沈黙が続いた後、サクヤさんは手を下げた。
「はい、終わりました。これでステータスボードで確認することができます」
「ありがとうございます」
渡されたステータスボードを見てみる。
◆名前:京太
◆年齢:7800歳
◆性別:男
◆種族:アンドロイド
◆職業:地球滅亡管理局局員
◆レベル:999
◆HP:9999/9999
◆攻撃力:999
◆防御力:999
◆敏捷力:999
◆知力:100
◆アクティブスキル:【解析】Aランク、【身体強化】SSSランク
◆パッシブスキル:【言語理解】Aランク
◆ユニークスキル:【時空転移】Fランク
「凄いな。これが自分の能力なのか」
思わず独り言を漏らしてしまう。
「京太様、おめでとうございます。ほとんどの数値がカンストしています。これは素晴らしいです!」
サクヤさんは興奮気味に話す。
「そうなんですか?」
「はい、普通の方は100前後が多いんですよ。京太様はとても優秀ですね」
「あ、ありがとうございます」褒められて悪い気はしない。
「それではクエストについて説明致します。まずはクエストカードを確認してください」
言われた通りにクエストカードを受け取って確認する。
◆依頼内容:モンスター討伐
◆難易度:★★★★★
◆推奨人数:10名以上
◆報酬:300万円
◆成功条件:太陽系外縁部に出現した結晶生命体を無力化すること
「このクエストは危険です。恐らく誰もやりたがらないでしょう」
サクヤさんは淡々と話す。
「え? どういうことですか?」
「結晶生命体は非常に危険な存在です。倒すのは非常に困難ですし、討伐に向かって行方不明になった冒険者もいます」
「なるほど」
「ですが、その反面、討伐できれば高価な素材が手に入り、貴重なアイテムを入手することができるようです」
「そんなに価値があるなら、みんな頑張るんじゃないですか?」
「いいえ、あまりいませんね。このクエストを達成できる方はほぼいないと思います」
「そうなんですね」
サクヤさんの話しぶりから察するに難しいクエストらしい。だが、僕には七海がついている、シルバーにも手伝ってもらえるだろう。きっと大丈夫だ。
「また、このクエストは地球滅亡管理局が発行しているものです」
「地球滅亡管理局が?」(人手不足で冒険者ギルドに依頼を出しているのだろう)
「危険なクエストですので十分ご注意ください。ご武運をお祈りしております」
「わかりました。ありがとうございます」
サクヤさんに見送られて部屋を出ようとしたそのとき、
「おい、そこのお前。ちょっと待てよ」
振り返ると背の高い男が立っていた。金髪で肩まで髪の毛を伸ばしている。肌は色白で顔立ちは端正で綺麗だった。男は腰に手を当ててこちらを睨んでいた。
「そうだけど、何か用?」
「ふん、俺は今、イラついているんだ。だから憂さ晴らしに付き合ってくれよ」
そういうと男の姿が消えた。次の瞬間、強烈な蹴りが腹部に直撃した。
「ぐっ……」
衝撃で息ができない。そのまま吹っ飛ばされて壁に激突する。
「くそ、なんだ今のは?」
「おい、早く立てよ。雑魚が」
「誰だよ、あんた」
「お前は俺を知らないのかい?」
「ああ、知らない」
「チッ、まあいい。冥土の土産に教えてやる。俺は『超次元機動のネクロム』。異次元空間に入ることで光の速さを超えて移動できるんだ。簡単に言うと『ワープ』だな」
「はあ? 意味わかんねえ」
「理解する必要は無い。死ぬだけだぜ」
男の姿が消える。
気付くと、猛烈な痛みが全身を襲った。
「ガハッ……」
口から血が吐き出される。(思ったよりマズい状況だな)
背後に気配を感じる。後ろを振り向かずに横に移動しながら回避行動をとると、ドンッという音がして先程いた場所に男が現れた。
「ほう、なかなか勘がいいな。だがいつまで続くかな」
ネクロムが超光速で動き回る。残像すら見えない。かろうじて避けてはいるが限界が近い。
そのときだった。銀髪の女が現れた。ローブに身を包み、ガスマスクを着けている。
刹那、突如としてネクロムが吹っ飛び、意識を失って倒れた。
「シルバー……」
彼女が差し伸ばした手を取り起き上がった。
「無事?」
「まあ、なんとかね」
「よかった」
「あの人は大丈夫だろうか?」
ネクロムと名乗った男が倒れていた。
「心配ない。気絶しているだけ」
「そうなのか」
「私のユニークスキルは【重力操作】、重量は異次元にも作用するからネクロムにダメージを与えられたの」
「な、なるほど、すごいな」
シルバーの能力に驚く。
「なんであなたがこんなところにいるのかしら?」
「結晶生命体の討伐クエストを受けたんだよ」
「そう……じゃあ私も手伝うわ」
「マジか!」
(これで結晶生命体の討伐は楽勝だろう)
「もちろんよ。それに、あなたのことをもっと知りたいし……」
「おお、よろしく頼むよ」
「あと、結晶生命体の討伐には危険が伴うから装備を整えましょう」
「そうだな」
「アイテムショップに行くから付いてきて」
「わかった」
僕達はアイテムショップに向かった。
つづく