第22話 時空転移の活用
深夜2時、僕はエミルの住むマンションの近くにいる。彼女は規則正しい生活をしているためもう寝ているはずである。周囲に人の気配はないようだ。
さて、ここからが勝負である。僕の考えた計画は至ってシンプルだ。まずは【時空転移】でエミルの家に入り込む。そして彼女のスマートフォンからデータを吸い出す。これだけだ。持ち帰ったデータをあとで調べれば、彼女の弱みの一つや二つは見つかるだろう。彼女の弱みを握ったらそれを盾にして彼女の嫌がらせ行為をやめさせるという算段だ。だが、もちろんリスクはある。失敗すれば全てが終わってしまう。だが、今はこれしかない。僕は深呼吸をして覚悟を決めた。
……時空転移……
僕は念じる。すると次の瞬間、目の前に桃色のドアが現れた。僕は意を決して中に入った。そこには、見覚えのある廊下が広がっていた。
(……ここは、間違いなく彼女の家だ。間違いない。彼女の匂いがする……)
廊下の照明は消えている。しかし、奥の部屋の電気がついていることがわかった。電気をつけたまま寝ているんだろうか。それともまだ起きているんだろうか。僕は慎重に進んで行く。やがて部屋の入り口の前にたどり着いた。
(……どうしよう。いや、ここまで来たんだ。引き下がるわけにはいかない!)
僕は恐る恐る奥の部屋に近づき、静かに中をのぞいた。すると、部屋の隅に置かれたベッドの上には眠っているエミルの姿があった。
心をなでおろすと同時に、一発アウトになりかねない危険を冒した自分自身に恐れおののく。
(……ひとまず安心だ。……さてと、どうするか?……やはり、彼女のスマホを探すべきだろう。……どこにあるのだろうか?……ベッドの近くには見当たらないな。……もしかするとこの部屋に置いてないのか?……うーむ。とりあえず脱衣場を探してみるか)
僕は忍び足で廊下を少し戻る。一歩、また一歩と慎重に進んでいく。そして、そっと脱衣場の扉を開いた。脱衣場の電気は消えているためスイッチを押してつける。洗面台や棚の上にスマホはない。床の上にも置いていない。
(……おかしいなぁ……。まさか洗濯かごの中にあるなんてことは……。まあ、見てみるか……)
僕は、洗濯かごの中に手を伸ばして中を探る。すると、その中に黒色のショーツを発見した。レースがあしらわれた大人っぽいデザインのセクシーなもので思わずドキッとする。おそらく脱いでからそう長い時間は経っていないのだろう。ほんのりと湿気が残っている気がした。僕は生唾を飲み込みこみながら彼女の下着を優しく撫でた。彼女の下着は滑らかな肌触りで手に吸い付くように馴染んで心地良い。このまま、いつまでも触れていたいと思わせる不思議な魅力があった。
(ゴクリ……。ああ……。いけない……こんなことをしてる場合じゃないのに……。落ち着け……。今はエミルのスマホを探すのが先だ。冷静になれ……)
しかし、僕は我慢できなくなり、彼女のショーツに顔を埋めて深呼吸をする。
(スーハー……。ハァ……。なんだこれは……。……ああ。ヤバイ。ダメなのに……)
……なんとも言えない甘く切なく官能的な香りが僕の脳髄を刺激する。まるで麻薬のようなその芳しい刺激に僕の理性は完全に崩壊した。……僕は本能の命ずるままに行動する。彼女のショーツに頬ずりする。……彼女の温もりを感じる。……彼女の残り香を楽しむ。……彼女の柔肌に触れているような錯覚を覚える。僕は夢中で彼女の下着を愛で続けるのであった………………
………………
しばらく陶酔感に浸ったあと僕はようやく正気に戻る。
(……僕は何をしているんだ……、スマホを探さないと……)
僕は彼女のショーツを元の場所に戻す。再び探索を開始する。注意深く脱衣場の中を歩き回る。しかし、スマートフォンらしきものは見つからない。
(……ないなぁ。……もしかして枕元に置いてあるとか?……いや、でも彼女が起きるかもしれないし……)
だが、ここで諦めるわけにはいかない。意を決して僕はエミルが眠っている部屋へと入る。彼女が眠っているベッドに慎重に歩いていき、彼女に近づいていく。すると、彼女の規則正しい寝息が聞こえてきた。僕は安堵する。どうやら、ぐっすり眠っているようだ。
(ふぅ。良かった。これなら安心してスマホを探せる。……さて、どこにあるかな?)
彼女の周りを見渡す。しかし、どこにもそれらしいものは見つからなかった。ふと、彼女の寝顔が目に入る。彼女は安らかに眠っていた。とても穏やかそうな表情だ。見ているこっちまで心が落ち着くほど優しい雰囲気に包まれている。
(起きているときはあんなに僕に冷たく当たるのにな……、僕に対する嫌がらせを楽しんでいるけど、やっぱりこうして眠っている姿を見ると普通に可愛い女の子だよな……。黙って何もしていなければ可愛いのに……)
彼女の寝顔を間近で観察する。……改めて見ると本当に綺麗な子だ。まつ毛は長く、肌はきめ細やかだ。柔らかそうな唇がわずかに開いて寝息を立てている。鼻筋もスッとしていて美しい形をしていた。少し幼さを残した可愛らしさの中にも凛とした美しさがあるのだ。
(いやいや、何を考えているんだ僕は!?)
慌てて頭を振る。……だが、彼女の寝姿を見ているうちに、もっと彼女を見ていたいという気持ちになってくる。僕は彼女の寝姿を眺め続けた。
エミルは何も掛けず、Tシャツとショートパンツだけの恰好で眠っている。僕は彼女の首筋から鎖骨にかけて視線を移動させていく。さらに、その胸のあたりに目をやる。ブラジャーは着けておらず、薄い布一枚に覆われた豊満な膨らみが呼吸に合わせて上下している。その動きは艶めかしく淫靡だった。僕は思わず見入ってしまい、ゴクリと生唾を飲み込む。自分の中の獣性が頭をもたげてくる。そして、理性という名の防波堤にひびが入る。
(ダメだ……。抑えろ……。落ち着け……。今はスマホを探さなければならないんだぞ……)
すると、彼女は「ん……」と言って手を顔の方へ持っていく。彼女は鼻の頭を軽く掻いたあと、人差し指を鼻の穴に入れた。彼女の小鼻が押し広げられて膨らむ。そして、鼻がピクつき、彼女は人差し指を鼻の穴から引き抜く。鼻腔内から分泌された粘液が彼女の指に付着してした。僕はそれを思わず凝視してしまう。
その指をエミルは自分の口の中に入れた。チュパチュバっと音を立ててしゃぶる姿が扇情的であった。しかし、僕はその姿に興奮を覚えると同時に、理解が追い付かなかった……
(なっ……。なんてことだ……。まさか、そんな……嘘だろう……)
僕の思考はフリーズした。目の前の光景を受け入れられない。だが、これが現実であることは疑いようがなかった。……僕は今まさに決定的瞬間を目撃してしまったのだ。……僕は混乱する頭で必死に考える。
(落ち着け……。落ち着け……。そうだ……。スマホを探さないと……)
エミルは寝苦しそうにしている。彼女のTシャツは乱れており、彼女の白いお腹とおへそがチラリと見える。さらに彼女の手が無意識のうちに動いている。彼女はお腹をボリボリと掻いていた。僕は彼女を見つめながら、その様子を食い入るように確認していく。白くほっそりとしたお腹を掻く姿はまるで子供のような無邪気な印象を受けるのだが、同時に、なぜか妙に艶っぽい仕草でもあった。可愛い少女のあられもない姿を見るたびに僕の鼓動は大きく高鳴っていく。
(ダメだ! 僕は何を考えているんだ!?)
しばらく観察を続けていると、お腹を掻いている彼女の手が、今度はショートパンツの中にスルッと潜り込んでいく。彼女は軽く股を開きデリケートゾーンを掻いているようだ。僕は、その手の動きについ釘付けになる。その姿が滑稽であるのと同時に、あまりにも卑猥なのだ。僕は心臓が張り裂けそうになるほどドキドキしている自分に気づいた。
僕の呼吸は浅くなり苦しいくらいだ。だが、この場から離れることができない。僕はエミルの行為をただひたすら凝視する。彼女の行為がより過激になりそうな気がしてならない。
すると突然、「う~ん」という彼女の声が聞こえた。僕はハッとして我に返る。彼女は寝返りを打ったようでこちらを向いて横向きになった。そしてまた「すぅ……すぅ……」と寝息を立て始めた。
(ふぅ……、ビックリしたぁ。起きたのかと思ったよ。危なかったなぁ……、でも、もうなんだか、彼女の弱みを握るとかどうでも良くなってきたかも……。それよりも、彼女のこんなあられもない姿を見られただけで十分かな……。……よし、帰ろう)
そして僕が立ち上がろうとしたときだった。
「……あっ……、あん……、ふふふふふふふ……」
彼女は寝ぼけているらしく何か夢を見て笑っている。その様子はとても幸せそうな感じだ。その笑顔は無垢で清純そのものといった表情だ。……だがしかし、それは、なんとも悩ましい表情でもあるのであった。
「えへへ……、好きぃ……、……愛してるよぉ……、……きょうたぁ……」
「はい?」
聞き間違いか?……いま、僕の名を呼んだような気がしたが……? 僕は耳を疑った。だが僕の名が呼ばれていたようにしか思えない。僕は動揺を隠しきれずに彼女の顔をまじまじと見つめてしまう。
(まさか!? そんなはずはない!! あり得ないだろう!?)
エミルの顔を見ると、彼女は、にっこりと微笑んでいるように見える……。その唇から言葉が流れ出た……。
「……だいすきだよ……きょうた。ずっと一緒に居ようね……」
…………!!!! あまりの衝撃的な事実の発覚に、全身の力が一気に抜け落ちる。ガクッと地面に膝を突きそうになる。なんとか倒れまいと身体を支える。
(嘘だろ……。マジかよ……。これは一体どういうことなんだ?)
彼女はまだ夢の中だ。そして、彼女は「むにゃむにゃ……」と言いながら眠っていた。
僕は、しばらく立ち尽くしたまま動けずにいた。
つづく




