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第17話 レロレロ

翌日、僕はシャワーを浴びて、朝食を済ませてからチェックアウトした。昨日の夜は興奮してあまり眠れなかったせいか、少し頭が重い。

誰も知らないサクヤさんのありのままの姿……。そのすべてが僕のモノになったのだ。もう誰にも渡さない……。永遠に僕のものだ……。

僕の頭の中に昨日の光景が蘇ってくる……。

サクヤさんがシャワーを浴びている……。サクヤさんが鏡の前で髪をいじっている……。サクヤさんが服を着替えようとしている……。サクヤさんがパジャマのボタンを外そうとする……。サクヤさんが寝息を立てている……。サクヤさんが寝返りを打つ……。サクヤさんが歯磨きをしている……。サクヤさんがトイレに座る……。サクヤさんが裸になって自分の体を見つめている……。サクヤさんが自分の胸を触っている……。サクヤさんが……。

ああ……。

僕は思わずニヤけてしまった。僕の心の中のサクヤさんフォルダは満たされていた。

ああ、神様! ありがとうございます!! 僕は無神論者だけど、感謝せずにはいられなかった。

僕は足取り軽く宇宙港に向かっていた。


(しかし、すごいアイテムだな……)


新たに録画もできればさらにいいんだけど、それはこのアイテムだけではできないのだろう。サクヤさんが住んでいた村に何か仕掛けがあったんだと思う。

そんなことを考えてながら、宇宙港を目指して歩いていると、


「ちょっと君、いいかな?」


突然、スーツ姿の女性に話しかけられた。白っぽいブロンドのショートヘアで白いスーツを着ていた。背が高くモデルのような体型だった。美人で目鼻立ちが整っており、凛々しい表情をしている。


「えっと、僕ですか?」


「そう。君のことだよ」


「なんでしょうか?」


「君はある特殊なアイテムを持っているね?」


なぜ彼女はそれを知っているのだろう? 僕は困惑した。彼女の青い瞳がじっと僕を見据える。嘘は通用しない。直感的にそう思った。

……もしかすると、この人はサクヤさんと同じ世界から来た人かもしれない。だとしたら、ここで変に誤魔化すのは良くない。ここは正直に話すべきだ。僕は意を決して口を開いた。


「はい、持っています」


「それを私に譲ってくれないか?」

碧眼の女はそう言って手を差し出した。


「……どういう意味ですか?」


「言葉通りの意味さ。君が持つそのアイテムは私の目的のためにどうしても必要なんだ。もちろんただでとは言わない。それなりの報酬を用意するつもりだ。どうだい?」


「どうしてあなたにあげなければならないんですか?」


僕がそう言うと彼女は小さく笑みを浮かべた。


「ふむ。理由が必要かい? そうだな……。まず、私はある組織に所属している。まあ、平たく言えば警察みたいなものさ。今回、私がここに来たのはとある調査のためなんだ。そして私はその調査の過程で『異世界への転移を可能にする装置』の存在を知った。そういった装置は私たちの世界にもいくつか存在するのだけれど、ここにきて君の持つアイテムがそれに当てはまる可能性が出てきた。だから欲しいのさ。もしその装置が本当に異世界への転移を可能にする装置ならば……」


彼女が青い瞳で僕を見つめる。


「私たちはその装置を破壊しなければならない……」


彼女はそう言って不敵に微笑んだ。


「つまり……、僕の持っているこのアイテムを奪いたい……、ということですね……?」


「そういうことだ。君が大人しく渡してくれるなら、何も問題は起こらない。どうかな?」


「……」


「……何か問題でもあるのかい?」

彼女の表情が曇る。


このアイテムは異世界で作られたものであり、異世界から転移してきたものだ。彼女が言う『異世界への転移を可能にする装置』かどうかは分からないが、確かに異世界との関わりが強いアイテムだ。

憶測でしかないが、彼女が所属している組織はこのような異世界に関わるアイテムが悪用されるのを恐れているのではないだろうか。そうだとするとこのアイテムを破壊しようとするのも分からないではない。でも……。


「お断りします!」

僕はキッパリと答えた。


「へぇ……。そのアイテムを渡すと何か困ったことになるのかな?」


「いえ、別に……。でも、これは僕が結晶生命体を倒して手に入れた大切なモノです。よく知らない人に渡したりしません。絶対に守り抜きます。それだけです」


「なるほど……。では仕方がない……。力ずくということになりそうだね」


「えっ!?」


すると、突然、周囲の空気が重くなるのを感じた。彼女の発する圧倒的なオーラが周囲の空間を歪めているようだった。そして、彼女は何もない空間から異常に長い太刀を抜いた。おそらく異次元空間に収納していたのだ。刀身が青白く光っている。


「心配することはないよ。私はこう見えてもプロなんだ。痛みを感じる前に終わらせてあげる。痛くはしない……。約束しよう」


(……マズイ!)


僕は咄嗟の判断で瞬時にその場から離れた。


「おっと! 逃げるのかい? 悪くない判断だ。でも、無駄だよ」


僕の背後の地面が爆ぜた。いつの間にか彼女も移動しており、太刀の剣先が地面に突き刺さっていた。


「君は……、速いね……!」


「……どうも」


正直、冷や汗をかく。敵がこんなに速く動けるとは思わなかった。


「今度は逃さないよ!」


彼女の姿が消える。同時に頭上から殺気を感じて横に飛び退いた。

次の瞬間、僕がいた場所に鋭い刃が振り下ろされた。


(危なかった……。動きがまったく見えなかったぞ!)


しかし、このまま逃げ続けるわけにはいかない。いつか捕まるだろう。そうなったら殺されるかもしれない。どうにかして彼女を無力化しなければ……。


「ほぅ……。今のを躱すか……。興味深いな……。だけど……、そろそろ本気を出す頃合いかな?」


そう言って再び、青い瞳で僕を見据えた。


……来る! 僕は身体強化のスキルを発動した。


彼女は一気に間合いを詰めてくると僕の首筋に目掛けて強烈な一撃を放ってきた。僕は身を捻ってなんとか避けようとしたが、間に合わない。


(……くっ!)


避けられない! そう思った刹那――、


ガキィィン! 僕の目の前に何者かが現れ、彼女の攻撃を防いだ。


「……なに!?」


碧眼の女は後ろに飛んで距離を取った。


「……えっ?」


僕は状況が理解できずに混乱した。


「大丈夫?」


声の主が振り返る。そこには黒いローブに身を包んだ女の姿があった。彼女はガスマスクの奥から僕を見つめている。


「シルバー?」


彼女はコクリと首を縦に振った。彼女の手には銀色に輝く日本刀が握られている。先程の攻撃を防いでくれたのはこの武器によるものなのだろうか。


「……なんだい? 君は……」

碧眼の女が警戒心を露わにして言う。


「…………」


しかし、彼女がいくら睨みつけても、シルバーは無言のまま、ただジッと女を観察していた。


「チッ……。なんだコイツは……。気味が悪いねぇ……。まあいい。君の相手は後回しだ。今はそこの男を仕留めなければならないからね」


そう言って碧眼の女は僕に向かって飛び掛かってきた。


「死ねえぇぇ!」


女の長い刀が僕の首を狙って迫る。しかし次の瞬間、刀は地面に吸い込まれるように落下し、彼女の体勢が大きく崩れた。シルバーの【重力操作】だ。


「なっ!?」


その隙を見逃さず、僕は碧眼の女に抱き着いた。そしてそのまま押し倒して抑え込み、彼女の顔を舐め回した。鼻の頭や口の周り、ほっぺた。彼女のきれいな顔に僕はしゃぶりついた。


「んぐっ……。この野郎! 放せ! はなれろぉ! ぶっ殺すぞ!」


暴れまわる彼女を抑えながら僕は彼女の顔を舐め続ける。


「レロォ……。ペロペロ……。ジュルルル……」


「ひぃ……。き、気持ち悪い……。この変態がぁ……。もう許さん……。絶対、殺してやる……。……あっ!」


僕は彼女のスーツの中に手を突っ込んで下着の中まで入念に調べた。胸やお尻を揉んでみる。ムニムニとした感触がとても心地よい。


「やめろ! どこを触っている! くっ……。お前! 絶対にぶっ殺してやるからな! 絶対に許さないぞ! クズが! 離せ! この変態が! 私の体を弄びやがって!ゴミが! 私に汚い手で触れるな! 離れろ! うぅ……。くそが! 気持ち悪いんだよ! 死ね! 死にさらせ! 」


碧眼の女は僕の行動を見て怒り狂っていた。


「許さん……、まだ終わっていない……。終わりではないのだ……。貴様だけは……、絶対に……。何があろうと……」


僕は彼女の口を塞ごうと唇を近づけたが、彼女は突然叫び声を上げた。


「はぁあああっ!!」


すると、周囲の景色が発光し始めた。僕の体も光に包まれていく。僕は彼女を解放してしまった。


「……な、なんだ!?」

「……!?」


僕とシルバーは顔を見合わせる。

どうなっているんだ? これは一体……。

視界が白く染まると、僕はいつの間にか見知らぬ場所に立っていた。


「ここは……」


周囲を見回すと、そこはまるでリビングダイニングキッチンのような作りの広い部屋だった。部屋の中央には食卓テーブルが置かれている。壁際には食器棚や調理台があり、コンロなどの設備も揃っているようだ。


「ふふふ。ようこそ私の領域へ」


碧眼の女はそう言って微笑んだ。


「私のユニークスキルは【夢幻結界】。私が設定したフィールドに対象を強制的に閉じ込める能力さ」


「……僕をこの場所に閉じ込めたという訳か……」


「その通り。ここは私が作った世界だ。現実世界への影響は一切ない」


「なるほど……」


「このフィールド内では物理的な攻撃は意味を持たない。つまりここでは君やその気味の悪い女がどんなに強い力を持っていても無意味ということだ」

碧眼の女がシルバーに視線を向ける。


「……」

シルバーはガスマスクの奥から鋭い目つきで女を見つめていた。


「このフィールド内では精神の戦いで決着をつける。心が折れたら負け。それだけのことだよ」


「……なるほど、そういうことか……、しかし、自分のスキルの説明をするなんて随分と余裕じゃないか。何か勝算があるのか?」


「当然あるとも。私はこの世界の創造主だからね。それに君には私を打ち破ることはできない。なぜなら、君は私に心を折られるのだから」


「……そうかな?」


「その生意気な態度もここまでだ。では始めよう」


「ああ、始めようじゃないか」


こうして精神の戦いが始まった。



つづく

挿絵(By みてみん)

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