第15話 アンドロイドとホムンクルス
僕はサクヤさんと一緒に温泉旅館に来ていた。現在僕たちは貸切露天風呂に入っている。ここは山の中にある秘湯で、周囲には木々が生い茂っていて、鳥のさえずりと川のせせらぎが聞こえる。露天風呂からの景色は美しく、紅葉した葉っぱが落ちてきて水面に浮かび上がる光景は幻想的だった。
僕は隣にいる彼女に視線を向けた。彼女は一糸まとわぬ姿で、両手を後ろについて体を反らせていた。スラリとした体形だが、女性らしい膨らみや曲線もあり、芸術的な美しさがあった。胸は小さいが形の整った美乳だ。肌はとても滑らかで彼女の身体についている水滴が光を反射して輝いていた。ウエストは細くお尻は丸みを帯びていてとても柔らかそうだった。彼女は目を閉じてゆっくりと深呼吸していた。彼女が動くたびに髪の毛が揺れて、そこから良い香りが漂ってくる。
「気持ちいいですね~♪」
サクヤさんはニコニコしながら言った。
「はい、最高です!」
僕は心からの言葉を口にする。
「ふふっ、良かったです」
サクヤさんは僕を見てニッコリと笑った。彼女の笑顔は眩しくて綺麗で可愛かった。こんな美しい人と温泉に入れるなんて夢みたいだ。この幸せをいつまでも味わっていたいと思う。
しばらくすると、彼女は立ち上がって僕に近づいてきた。彼女の身体を見ると、全身が薄っすらと赤くなっていた。
「あの、京太様。お背中を流しましょうか」
「はい! お願いします」
僕は椅子に座ってタオルを手渡す。サクヤさんはボディソープを手につけて泡立てると、僕の体を洗ってくれた。彼女は慣れた手つきで僕の体を洗い流していく。彼女の小さな手が触れる度に、ゾクッとする感覚に襲われる。僕は自分の鼓動が速くなっていくのを感じた。彼女に触られている所が熱くなってきた。心臓が高鳴って顔に血が上る。ずっとこのまま続いて欲しいとも思うが、このままでは変な気分になってしまう。
「ありがとうございます。次は僕がサクヤさんの背中を流します!」
「え!? わ、私はいいですよ……。京太様にそんなことをさせるわけにはいきません!」
「いいえ、やらせて下さい! 僕はサクヤさんの役に立ちたいんです!」
僕は強引にサクヤさんを押し切ると、彼女を椅子に座らせ、タオルにボディーソープをつけて彼女の体を洗っていく。彼女は最初は抵抗していたが、やがて諦めて、されるがままになっていた。彼女の肌に触れる度に、僕の心臓の鼓動が早くなっていった。僕は興奮を抑えながら作業を続ける。
「あぁ……、もう……、京太様……」
サクヤさんの声を聞いて、さらに体が熱くなる。
彼女の滑らかな腕に手を這わせる。彼女はビクンと震えたが、特に嫌がるような様子はなかった。
「気持ち良いですか?」
「……はい……」
「じゃあ、ここも綺麗にしないといけませんね」
僕はサクヤさんのお腹に指を這わせた。彼女は顔を真っ赤にして僕を見つめている。恥ずかしそうな表情が可愛い。僕は彼女を抱きしめると、彼女の首筋にキスをした。
「あっ……、ダメ……」
サクヤさんが小さく声を上げた。その声で僕は我に帰る。彼女は瞳を潤ませていた。
「ごめんなさい。やり過ぎました」
僕は慌てて謝った。
「いえ、大丈夫です……。その、続きは部屋に戻ってからにしましょうか……」
サクヤさんは俯いて消え入りそうな声で答えた。
「はい」
彼女の体に付いた泡をシャワーで流す。最後に僕は、彼女の顔についている水滴を指で拭う。彼女は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうな表情をしていた。その姿はとても可愛くて魅力的だった。
……
僕はサクヤさんと一緒に露天風呂から出て、浴衣に着替えて旅館の部屋に戻った。畳の敷かれた12帖の和室である。僕は彼女と並んで座り、お茶を飲んでいた。窓から外を見ると紅葉した山々が見える。時折風が吹いてきて、庭の木々の葉がサラサラと音を立てて舞っていた。静寂に包まれた空気がとても心地よい。まるでこの世界に二人しかいないような錯覚に陥りそうになる。今だけは誰にも邪魔されたくないと思った。
「とても落ち着きますね」
サクヤさんはそう言って目を閉じた。長いまつ毛が下まぶたに影を作っている。彼女の白い肌は、お風呂上がりで火照っているのか、ほんのりとピンク色に染まっていた。とても色っぽい姿だ。彼女の姿を眺めているだけで幸せな気分になる。ずっと見ていても飽きないくらい美しい。
彼女の横顔に見惚れていると、彼女は僕の視線に気付いて微笑んだ。
「どうかしましたか?」
「サクヤさんの顔がとても綺麗なので、つい見てしまいました」
僕は正直な気持ちを口にする。
「ふふっ、ありがとうございます」
彼女は嬉しそうに笑った。
「京太様も格好いいですよ」
「え? 本当ですか」
「はい。京太様は凛々しくて素敵だと思います」
「あ、ありがとうございます」
僕は照れくさくなり、思わず頬を掻く。
「私達はこの世界で二人きりですね」
「はい……」
僕達以外に誰もいない空間で、彼女と二人で寄り添って過ごす時間は、何物にも代え難いほど貴重なものだった。僕は彼女の肩を抱き寄せる。すると、サクヤさんは僕の方に体を預けてきた。
しばらくすると、彼女は僕の耳元で囁いた。
「少しだけ……眠ってもいいですか?」
「どうぞ、いくらでも寝てください。僕が起こしてあげますよ」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、もう少しの間だけ、京太様に体をあずけさせて頂きますね」
サクヤさんは僕の胸の中に顔を埋めて眠り始めた。二人の呼吸音が静かに響く。彼女の柔らかな髪からはシャンプーの良い香りが漂ってきた。彼女が側にいるという事実が僕を幸福な気持ちに満たしてくれる。いつまでもこのまま一緒に過ごしたいと思うほどだった。
しばらくして、僕は彼女に話しかける。
「あの、サクヤさん……聞いても良いでしょうか……」
彼女は返事の代わりに、ゆっくりと目を開いた。そして僕の胸に顔を埋めるようにしながら僕の方を見上げる。彼女は無言で僕を見つめていた。そんな仕草が妙に艶めかしく感じる。
「その……サクヤさんの出身はどちらですか?」
僕は当たり障りのない話題から始めることにした。
「私は……、信じてもらえるかわかりませんが……、別の世界から来たんです」
「……別?」
予想外の答えに僕は戸惑う。
「はい、別の世界です」
サクヤさんは真っ直ぐに僕を見つめて答えた。
「それはつまり、異世界ということですか?」
「簡単に言えば、そうなりますね」
彼女は表情を変えることなく、あっさりと答えた。僕は驚いて声を上げる。
「え!?ということは……サクヤさんは異世界人ってことですか!?」
彼女は小さくコクリと首を縦に振った。
「な、なるほど……。そうなんですね……」
僕は納得したものの、頭の中で情報を整理できずにいた。異世界転移については、本やアニメで知っていたが、こうして自分の身に降りかかってくるとは思ってもいなかった。まして、目の前の美少女から告白されるなんて夢にも思わなかっただろう。
しかし、彼女の話を鵜呑みにして良いのだろうか? もしかすると、これはドッキリかもしれない。旅館の部屋には隠しカメラがあって、あとでスタッフが出てきて大爆笑するのではないか、などと考えてみるが、サクヤさんが嘘をついているような様子はなかった。
僕が悩んでいると、彼女は優しく語りかけてきた。
「京太様、私のことを疑っていますね」
彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべた。見透かされていることに僕は驚く。
僕は素直に答えるしかなかった。
「すみません。ちょっとだけ……」
「構いませんよ。いきなりこんなこと言われても信じられないのは当然だと思います」
サクヤさんは落ち着いた口調で話す。
「では、どうやって私が異世界から来た証明をしましょうか?」
そう言われると困ってしまう。確かに、異世界から転移して来たことを客観的に証明することなどできるのだろうか。極論すれば、本人の戯言や妄想かもしれないし……
でも、サクヤさんの言葉を信じたい自分もいた。彼女は僕の心を癒してくれた大切な女性だ。だから僕は彼女の言葉を受け入れるべきだと考えた。それにしても、どうしたものかな。僕は少しだけ考える。そして一つ思い付いた。
「えっと、サクヤさん、僕の【解析】スキルでサクヤさんのステータスを見てもいいですか?」
「いいですよ」
僕は心の中で念じる。【解析】発動……
◆名前:サクヤ
◆年齢:28歳
◆性別:女
◆種族:人造人間
◆職業:冒険者ギルド受付
◆称号:異世界からの転移者
◆レベル:273
◆HP:1870/1870
◆攻撃力:172
◆防御力:193
◆敏捷力:238
◆知力:387
◆アクティブスキル:【解析】Sランク【鑑定】Sランク
◆パッシブスキル:【言語理解】Sランク【薬草知識】Bランク
◆ユニークスキル:【性欲操作】Cランク
一瞬だけ淡い光がサクヤさんを包みこむ。僕はすぐに彼女の情報を読み取った。
「へー、そうなんですね。やっぱりサクヤさんは異世界から来ていたんだ」
僕は彼女のステータス画面を見ながら感嘆の声を上げる。まさか、本当にサクヤさんの言った通りだとは。僕は改めて彼女を見た。
「信じてもらえましたか?」
「はい、信じるしかありませんよね。この世界でこんな称号を持っている人はいないですから……」
「よかった……」
サクヤさんはほっとしたように呟くと、そのまま僕の身体の上に倒れ込んできた。
僕が身体を起こそうとすると、彼女は僕の服を掴んで抵抗した。そして、寝ぼけたような目で僕を見つめてくる。
「あの、サクヤさん?」
「もう少しこのままでいてもらっても……良いですか?」
上気させた顔で言う。サクヤさんの色気に、思わずドキドキしてしまう。そんな僕に対して、彼女はさらに甘えるような声で囁いた。
「もう少しだけ……」
僕はサクヤさんの綺麗な黒髪に手を触れた。艶やかな髪を手で撫でると、とても柔らかく気持ち良かった。
彼女はゆっくりと口を開く。
「私は……、ずっと不安だったのです」
彼女の目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「泣いているんですか?」
僕は驚いた。サクヤさんが泣くなんて……。今まで一度も見たことがなかった。彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「すいません、私ったらはしたないことをしてしまって。その……京太様の温もりが嬉しくて」
僕は優しくサクヤさんの背中をさすってあげる。
「いえ、大丈夫ですよ。それより辛いことがあったんですよね。良ければ聞かせてください」
彼女は自分の過去について話し始めた。僕は真剣な表情で彼女の話を聞いていた。
***
私はある錬金術師が造った人造人間だ。私はとある小さな村で生まれた。その村では人間と魔物が共存し平和に暮らしていた。しかし、ある時を境に村は変わった。突如として宇宙人が現れ、村を滅ぼし始めたのだ。宇宙人の狙いは『異世界の門』と呼ばれるこの村にある特殊な魔法装置の破壊であった。『異世界の門』は異世界へのゲートを開き、そこから異世界の生命体を呼び出すことが可能な装置だ。宇宙人はその装置で勇者が呼び出されることを危惧したらしい。私は迫りくる宇宙人から逃げ惑っていた。もう逃げられないと思ったとき、近くにある異世界の門が開いた。私を造った錬金術師が門を開いてくれたようだ。そして彼は、私が逃げるための時間を稼いでくれた。そして異世界へと繋がる門の先に見えた光景は……、廃墟と化した高層ビルが立ち並ぶ荒廃の世界だった。
***
「それでサクヤさんはこの世界の地球に転移したんですね」
「はい、それから、色々あって、私の解析スキルや鑑定スキルが活かせる仕事を探したところ、タイタンの冒険者ギルドの受付として働くことになったんです」
サクヤさんは遠い目をして言った。
「でも、大変じゃなかったですか? 知らない世界の冒険者ギルドの受付とか」
僕は異世界人であるサクヤさんを見て思った疑問をぶつけてみた。サクヤさんはとても美しい顔をしているけれど、この世界には存在しない種族の女性である。冒険者は危険な仕事をする荒くれ者の集団なのだ。
「最初は緊張しましたけど……、みんな親切にしてくださいましたから。今では受付の仕事が大好きになりましたよ。それに……京太様にも会えましたから」
「えっと……ありがとうございます。サクヤさんは可愛いから、下手に手を出したら他の冒険者に狙われるかもしれないですもんね」
僕たちはお互いの顔を見合わせて笑みを浮かべた。
つづく




