第13話 血は争えない
僕と七海、アイ、マキノは会議室で会議をしていた。
議題はもちろん宇宙人対策である。
「宇宙人と戦うために軍隊を作ろうと思うんだけど、みんな軍を作ることについては賛成かな?」
僕はホワイトボードの前に立っている。
「さんせーい」
「賛成です」
「私も賛成します」
みんな賛成してくれた。
「ありがとう。それでは、早速だけどまず軍の名前を決めようと思う」
七海が手を挙げた。
「はいは~い!宇宙警察がいいと思います」
「却下」
僕は間髪入れずに言った。
「えー!なんで?」
七海は不満げな顔をしている。
「警察ではなくて軍隊を作りたいんだ。それに宇宙人は犯罪者じゃない。だから警察はちょっと違う気がする」
「うぅ……、確かに……。……あっ!宇宙海賊とか?」
僕は溜息をつく。
「お前なあ……。もう少し真面目に考えろよ」
「むぅ……」
七海は頬を膨らませている。
すると、マキノが手を挙げ、発言する。
「あの、『スペースフォース』なんてどうでしょうか?」
「おおっ、かっこいいじゃないか!」
「確かにかっこいいかも」
「いいですね」
みんな同意していた。
「じゃあ、決まりだね」
「おう」
こうして軍隊の名前は『スペースフォース』に決まった。
続いてどうやって軍隊を作るか考えていく。
「まず、戦力の増強をしたいと思っている。できれば仲間が欲しいところなんだが……」
僕は皆の顔を見渡した。
みんなは腕を組んで考えている。
「誰か知り合いにいないの?強い人……」
七海の問いに対して、みんな黙っている。誰も答えることができないのだ。
しばらく沈黙が続いた後、マキノが挙手をして言った。
「私のお姉さまに相談してみます。力になってくれるかもしれません。私の姉は研究者なのですが、過去に軍事に関わったことがあるのです」
マキノのお姉さんか。どんな人だろう。すごく気になるな。
「わかった。じゃあお願いできるかな、僕も一度会ってみたいし」
「わかりました。連絡を取ってみます」
マキノはスマホを取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。
しばらくして、電話が繋がったようだ。
「もしもしお姉様ですか?はい、マキノです。実は相談がありまして……。はい、そうです。近い内に研究室に伺いたいと思っています。……、はい、はい……、今週の木曜日ですね……、わかりました。よろしくお願いします」
「話はついたのか?」
「ええ、木曜日に研究所に来てほしいとのことです」
「了解。それで研究所はどこにあるの?」
「長野県の諏訪湖付近です」
「遠いな……」
「でも大丈夫ですよ。私が運転しますから」
「そうか、助かるよ」
「任せてください」
「それじゃ、今日はこれで解散するか」
僕たちは会議室を後にした。
◇◇◇
そして木曜日。
僕とマキノは車に乗って、長野県の諏訪湖付近にあるというマキノの姉の研究所に向かっていた。
僕は助手席に座っている。窓から見える景色は自然豊かなものばかりだった。
「この山、きれいだな」
僕は窓の外に見える山に目を向けていた。
「そうですね。とても美しいです」
「こういう風景を見ると心が落ち着くな」
「私も同じ気持ちです」
そんな会話をしていると車は駐車場に到着した。
「着きましたよ」
「ありがとう」
車を降りてマキノの後ろをついて行く。
建物の中に入ると、研究員と思われる白衣を着た女性が出迎えてくれた。
「よく来てくれました。歓迎します」
「はじめまして、僕の名前は京太と言います」
「はじめまして、私はマキノの姉で、紗栄花といいます」
僕は紗栄花さんの顔を見た。彼女はマキノと違って黒髪のセミロングだ。聡明そうな目鼻立ちをしている。
目が合うと彼女はニコッと微笑んだ。
「それではこちらへどうぞ」
僕たちは研究所の応接室のようなところに案内された。
僕とマキノがソファーに腰かけると、紗栄花さんが向かい側に座った。
「京太さんでしたよね。宇宙軍を作るとマキノから聞きました。その話、詳しく聞かせてもらえないでしょうか?」
「はい、わかりました」
僕はスペースフォースを設立する経緯を説明した。
「なるほど……。それは興味深いですね。京太さんの願い、私で良ければ協力させていただきます」
「本当ですか!?ありがとうございます!ぜひお願いします!」
「お姉さま……!」
紗栄花さんは優しい笑みを浮かべている。
「それで、僕たちは、軍隊の戦力を増やしたいと思っているんですが……」
「具体的にはどういうことでしょうか?」
「例えば、宇宙船を造ったりとか……、兵士の数を増やしたりとか……」
「ふむ……。でも宇宙船を造るには莫大なコストがかかるし。それに兵士も……」
「何かいい方法はないでしょうか?」
「うーん……」
紗栄花さんは腕を組んで考えている。
「あの、京太さん。ひとつ提案があるのですが……」
「はい、なんでしょう?」
「私が開発したアンドロイド量産装置を使うのはどうですか?」
「アンドロイド量産装置……?」
「そうです。私の作ったアンドロイド量産装置『ユグドラシル』を使えば、効率的にアンドロイドを増やせると思います。」
すごい!まさに救世主だ!!
「ぜひ見てみたいです!!」
「はい。すぐに案内しますね」
紗栄花さんは席を立ち、僕たちを別の部屋に案内した。
そこには巨大な樹にいくつもの透明なカプセルがぶら下がっているような装置があった。
「これは、アンドロイドを生産できる装置なんですよ」
「へぇ〜、そうなんですか」
「ちょっと見てみましょうか」
そう言うと、紗栄花さんは、近くにある透明なカプセルの前へ移動した。中には培養液に浸かった裸の少女が入っていた。
「ほら、この子が私の開発した『ユグドラシル』から誕生したアンドロイドです」
「わぁ、かわいいですね〜」
マキノは興味津々といった様子で、少女を見つめている。
確かに、とてもかわいらしい容姿をしている。まるでアニメに出てくる美少女キャラクターのような感じだ。
「そうですね。私もこの子が生まれた時は感動しましたよ。もう可愛くて仕方がないですよ」
「そうなんですか」
「はい、とても癒されますよ」
そう言って紗栄花さんは笑顔を見せた。
しかし、その時、急に表情が変わった。真剣な眼差しで僕を見ている。
「…………、京太さん」
「はい、なんでしょう?」
「アンドロイドの素となるものはご存知でしょうか?」
「えっと……、女性型アンドロイドの生殖用マイクロマシンと男性型アンドロイドの生殖用マイクロマシンですよね?」
「そうです。その通りです。よく勉強していますね」
「あはは……」
僕は苦笑いした。
僕が知っているのは、あくまで教科書に書いてある内容だけだ。
「ところで、女性型アンドロイドに比べて男性型アンドロイドの数が圧倒的に少ない理由は知っていますか?」
「えっ?そういえば考えたこともありませんでした」
「実は私も理由は分からないのですが、どうやら確率的な問題のようなんです」
「確率の問題?」
「はい。男性型アンドロイドの出生率が極端に低いという統計結果が出ているんです」
「へぇ〜、そうだったんですか」
僕はまったく知らなかった。
そんな話をしていると、紗栄花さんは僕の肩に手を置いて、グッと顔を近づけてきた。
そして小声で言った。
「そこで、京太さんにお願いしたいことがあるのですが……」
僕はドキッとした。紗栄花さんの顔がすごく近いのだ。しかも吐息を感じるほど……。
「は、はい……。何でしょうか?」
僕はドキドキしながら返事をした。
すると紗栄花さんは、さらに僕に近づいてきた。彼女の柔らかそうな唇と、綺麗で大きな瞳に見惚れてしまう。
「単刀直入に言いますと、京太さんの生殖用マイクロマシンを提供してほしいんです」
「……」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
紗栄花さんは僕に詰め寄って続けた。
「女性型のマイクロマシンについては私が女性型なこともあって簡単に手に入るのですが、男性型については入手が難しいのです」
そして、紗栄花さんの口元から小さな声が聞こえた。
「今ここで、出していただけませんか……?」
その瞬間、頭が真っ白になった。
紗栄花さんは上目遣いで僕を見ていた。
「はい?」
僕は思わず聞き返した。
「私で良ければお手伝いしますよ?」
紗栄花さんはニコニコしている。
僕は必死に頭を回転させて、今の状況を整理した。
まずは落ち着いて現状を確認だ。ここは紗栄花さんの研究施設。目の前には紗栄花さんが開発したアンドロイド量産装置『ユグドラシル』がある。そして、紗栄花さんは『ユグドラシル』を使ってアンドロイドを増やすために、僕に生殖用マイクロマシンの提供を求めてきている……。
「どうですか?」紗栄花さんが聞いてくる。
僕は唾を飲み込んだ。喉がカラカラに乾いているのが分かる。
正直に言えば、かなり魅力的なお誘いだ。紗栄花さんのような美人に迫られるのは男として嬉しい限りだ。でも、倫理的にどうかと思う。
「紗栄花さん……、どうやって僕のマイクロマシンを採取するんですか?」
「京太さんのご希望に合わせて、いくつかの方法をご用意しています。」
「へぇ〜、そうなんですか」
「例えば、こうやって……」
そう言うと、紗栄花さんは僕の手を取って、優しく握ったり指で挟んだりして上下に擦るように動かした。
僕はドキリとしてしまった。柔らかい手だ。そして温かい。スベスベしていて気持ちいい。
「紗栄花さん?」
「ふふっ」
紗栄花さんは妖艶な笑みを浮かべている。
どうしよう。なんだかすごく興奮してきた。心臓の鼓動が早くなるのが自分でもわかる。
「あっ、あのっ!」
紗栄花さんはイタズラっぽく微笑んで、パッと手を離した。
「あはは……」
僕は照れ笑いをするしかなかった。
「他には直腸内を指で刺激して興奮を促す方法などもあります。」
「……えっと、それはちょっと……」
僕は顔を赤くしながら答えた。
そんなことをされたら、恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。
「そうですよね。私も京太さんに無理強いするつもりはありません。」
紗栄花さんは残念そうに言った。
「ただ、京太さんが協力してくれるなら、私は全力でサポートさせていただきます」
「はい、検討します……」
「あ、ちなみに、私は直腸内触診が得意ですので是非ご検討ください」
「あはは……」
僕は苦笑いした。
◇◇◇
僕とマキノは車に乗って帰路についていた。
「マキノのお姉さん、すごく積極的だったな……」
「はい、すみません。まさか、あんなことになるとは思いませんでした。」
(まぁ、マキノも人のこと言えないけどな)
「そういえば、マキノ」
「何でしょうか?」
「帰ったら今夜はマキノの部屋に遊びに行っていいかな?」
「はい、もちろん大丈夫ですよ」
「やったー! じゃあ決まりだ」
「はい」
僕らは夕日が沈む中ドライブを楽しんだ。
つづく




