第12話 人類最凶の敵
今日は日曜日。僕とレナはVRゲームで遊んでいる。今プレイしているのはRPG『モンスターハンティング・オンライン』通称モンハンと呼ばれるタイトルで、仮想世界技術を用いた次世代型VRMMOである。
舞台は剣と魔法のファンタジー世界で、プレイヤーは冒険者となってクエストを受け、モンスターを倒して素材を集め、それを加工して武器や防具を作って強化しながらレベルを上げていくというシンプルなストーリーである。僕たちは『魔塔』というクエストに挑んていた。100階層に辿り着きボスを倒せばクエストクリアとなる。しかし、これまで多くのクランが挑んでも攻略できずに撤退してきている難関クエストだった。そのため報酬も高く、レアアイテムを手に入れられる可能性もあった。
現在僕たちは60階層のボス戦で苦戦していた。敵の数が多いうえに強敵揃いで苦戦を強いられていたのだ。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
僕は疲れて地面に座り込んだ。レナの方を見ると、同じように座っていた。彼女の体力ゲージは既に赤色になっており危険な状態だ。このままではゲームオーバーになってしまうかもしれない。
僕は焦った。こんなところでレナを失いたくない。何とかしなければ!……すると、そのとき頭の中にシステムメッセージが流れた。
〈レベルが上がりました〉
レベルが上がった!これなら勝てるかも! 僕はすぐに立ち上がった。
「レナ、あと少しだ!頑張ろう!」
「うん、私、最後まで諦めないよ!」
レナは気力を取り戻してくれた。よかった!僕は安堵した。
僕は防御力に全振りした防御型のアサシンだ。素早い動きで味方の身代わりになる戦術を得意としている。一方、レナはアルケミストで、爆弾を使って広範囲に攻撃することができる。さらに回復薬を使って自身や味方を回復することができる。その反面、打たれ弱いのが弱点だった。
しかし、僕たちはお互いの弱点を補い合えるパートナー同士だった。僕たちが連携すればどんな敵にだって負けはしない!僕たち二人が組めば無敵と言っても過言ではない。どんな敵にだって負けはしない! 僕は回復薬を飲みながら敵の前に立ちふさがり、とにかく時間を稼ぐことでレナの回復を待つ作戦で戦い続けた。やがてレナも回復薬を飲み終え立ち上がった。
敵の動きが止まった!チャンス!
「レナ!爆弾を投げてくれ!」
「わかった!」
敵に爆弾が命中した!
僕は爆発に巻き込まれ、ダメージを受ける。
「ぐはっ!」
ダメージは大きいが、この程度の痛みなど問題ではない。
今はただひたすらに敵の攻撃を引き付けることだけを考えるんだ。
「いっけぇえー!!」
レナの投げた爆弾が爆発した。
「ぐはぁああー」
爆風によって吹き飛ばされ、地面を転げ回る。
「痛ってぇ~」
だが、これでいい。僕が敵の注意を惹き付ければ、それだけレナが安全になる。
僕は再び回復薬を飲み、アサシンのスキルを活かして素早く敵の懐に潜り込み、敵の注意を惹きつける。
「ほらっ、こっちだぜ」
僕は敵を挑発し、敵の攻撃を一身に受け続ける。
敵の攻撃を受けて、HPバーがガリガリ削られていく。
「レナ、あと一発だ!」
「任せて!」
レナが最後の爆弾を投擲する。
爆弾が炸裂して敵を倒すと同時に大きな衝撃が走った。
「ぐわぁああっー」
僕の体は宙に舞い上がり、地面に叩きつけられた。
「うぅ……、くっ……、うっ……」
僕は起き上がることができず、そのまま横になって倒れたまま動けなかった。
体中がズキズキと激しく痛む……。まるで全身の骨や筋肉を砕かれたみたいだ……。息をするだけで苦しい……。視界がぼやけてよく見えない……。
僕は自分のステータスを確認した。残りHPはもう1しかない。
「ごめん……、キョウタ……」
そう言って彼女は僕に回復薬を飲ませてくれた。彼女の方を見ると、既に体力ゲージは真っ赤になっていた。彼女も瀕死の状態なのだ。
「レナ……、お前が先に回復薬を飲むんだ……」
「私は大丈夫だよ……、それより、キョウタの方が危ないよ……」
「僕のことなら心配ないから、気にせずに回復しろ!」
「でも、私のせいなのに……」
「違う!ボスの攻撃パターンを見抜けなかった僕の責任だ。だから、そんなに自分を責めるな!」
「……」
「これはリーダーとして当然の判断なんだ。仲間を守るのは当たり前のことじゃないか?」
「キョウタはいつも私を守ってくれるよね。ありがとう。」
「礼なんていらないよ。僕はお前のために命を懸けて戦うと決めたんだ。」
「うん……、そうだね……、私たちの絆は誰にも壊せないもん……」
「さぁ、早く回復してくれ!」
「わかった……」
彼女は回復薬を飲み、体力を回復した。
「次はキョウタの番だよ!」
僕は回復薬を受け取り、飲み干した。
「よし!これで大丈夫だ」
一息ついて立ち上がると、僕はレナに向かって言った。
「さぁ、60階層のボスは倒したけど、これからどうするか?二人で相談しようか」
「うん……、そろそろ作戦を見直した方が良さそうだね……」
「ああ、それじゃあ、まずはお互いのスキルを確認しよう」
◆名前:京太
◆職業:アサシン
◆レベル:23
◆HP:5670/5670
◆MP:1250/1250
◆攻撃力:15
◆防御力:387
◆敏捷力:32
◆知力:15
◆スキル:
【シャドーダッシュ】敵モンスター付近の指定した位置にワープする。
【精神集中】10秒間、自身の攻撃力と敏捷力を3倍にする。
◆名前:レナ
◆職業:アルケミスト
◆レベル:79
◆HP:2690/2690
◆MP:9999/9999
◆攻撃力:32
◆防御力:41
◆敏捷力:58
◆知力:999
◆スキル:
【爆弾作成】爆弾を作成する。
【回復薬調合】回復薬を調合する。
【MP回復薬調合】MP回復薬を調合する。
【なんでもなおし調合】なんでもなおしを調合する。
【複製】アイテムを複製する(効果は通常の50%)
「私の【複製】は今まであまり使ってなかったけど、これで何か新しい作戦をつくれないかな?」
「ああ、そうだな……、僕はこんなアイテムを持っているんだがどうだろう」
僕はそう言ってポケットから取り出したものを彼女に見せた。
「これって、『スライムの核』じゃない!?よく見つけたね!」
「ああ、59階層の宝箱に入っていたんだ」
「凄い!これで私たちもスライムを召喚できるね!」
「ちょっと待て、このスライムの核は消費せず、レナのスキルで複製したものだけ使うんだ」
「うん、わかった」
僕はレナに『スライムの核』を渡した。
そしてレナは複製スキルでスライムの核を複製した。
「おぉ、やったぞ!ちゃんとできたじゃないか!」
「えへへっ♪よかった~」
「試しに複製したスライムの核でスライムを召喚してみよう」
「うん」
レナは右手を差し出して、呪文を唱えた。
「出でよ、我に従いしもの、我が呼びかけに応え、ここに姿を現せ!『召喚』!」
すると、何もない空間からポンッと可愛らしい音を立てて、スライムが出現した。それは人の頭くらいの大きさしかない、小さなスライムだった。戦闘能力は全く無さそうだが、ぷるんっとしていて可愛い。
「うわぁー、ちっちゃくてカワイイよ、キョウタ!」
「おおっ、ほんとうだ。かわいい!」
僕がレナの言葉に賛同すると、スライムも喜んで体をプルンプルン揺らした。まるで喜びを表現しているみたいに……。
「ふむ、どうやら複製したスライムの核でもちゃんと召喚できるみたいだな……」
「そうだね、スゴイ!この子たちが戦ってくれたら、きっと勝てるよね?」
「まあ、弱いと思うけど、数が多くなれば話は別かもしれない」
「じゃあさ、とりあえず50体召喚してみるよ」
「そうだな」
僕は再び、レナに『スライムの核』を手渡した。
◇◇◇
僕たちはスライムたちを駆使して100階層のボス部屋までやってきた。これまで多くのクランが挑んできたが、ここに辿り着くことさえできなかった。だが、僕たちなら倒せるはずだ。僕は隣にいるレナを見て言った。
「準備はいいか?いくぞ!」
「うん!」
僕は目の前にあるボス部屋の巨大な扉を一気に押し開けた。
ゴォーン…………
重い音を響かせながら開いた巨大な扉の向こうには、広い円形の広間が広がっていた。床面には大きな魔法陣が描かれており青白く光っている。天井はまるでプラネタリウムのように星々が煌めいている。僕らはその幻想的な光景に見惚れていたが、部屋の奥にいるボスに気が付いた。それは全長30メートルを超える漆黒のドラゴンだった。全身を覆う艶やかな黒い鱗。翼を広げれば50メートル以上あるだろう。その鋭い眼光がこちらを見据えていた。
「グアァァア!!」
黒竜は大きな口を開けて、火炎ブレスを吐いた。それは灼熱の炎となり、襲い掛かってきた。僕はすかさずレナの前に立ち、叫んだ。
『盾となれ!スライム障壁!!』
僕たちの周囲の数千匹のスライムが半球状に集まり炎を防いだ。
「すごい!これがスライムたちの力なんだね!」
「ああ、これであいつをやっつけるんだ!」
「スライムさん!お願いします!『スライム爆弾!!』」
レナが叫ぶと、スライムたちはレナが作った爆弾を飲み込み、一斉に黒竜に向かって特攻していった。
「グガァァァ!??」
スライム爆弾をくらった黒竜は叫び声を上げながら倒れた。HPが減り、怯んでいる。
「よしっ、効いてる!スライムさん!とどめです!」
レナはスライムたちに命令を下した。
『スライム窒息事件!!』
スライムたちは倒れて動きが鈍くなった黒竜に覆いかぶさり、黒龍の穴という穴に入り込んでいった。
「グガガガッ!?」
息ができずにもがく黒竜だったが、次第に動きは鈍くなり、やがてピクピクと痙攣し、そして完全に沈黙した。スライムたちが離れると、そこには、ただの肉塊と化した黒竜の姿があった。
「やったー!!私たちの勝ちだー!」
レナは飛び跳ねて喜んでいた。
「よし、史上初の『魔塔』完全制覇だ!」
「やったね!」
「はははっ!あっはっはっは!」
僕は笑いが止まらなかった。
だって、今まで誰も成し遂げたことがない快挙なのだから。
「キョウタ、うれしそうだね」
「そりゃあ嬉しいよ。こんなに嬉しいことはないよ」
「そっか、私もすっごく嬉しい!」
「ありがとう、レナ」
「えへへ~♪」
レナは満面の笑みを浮かべ、僕に抱き着いてきた。僕はレナの頭を撫でていた。
そのとき、突然、ジリリリリッ!!と警報音が鳴り響き、アナウンスが流れた。
「なっ、何事だ!?」
『只今の時刻は、午前7時です……、只今の時刻は、午前7時です……』
「やばい、もう会社に行く支度しないと……。レナ、後は任せた。僕はログアウトするよ。またな……」
「うん!わかった!行ってらっしゃい!」
「ああ、行ってくる……」
僕はそう言って、現実世界へと帰還した。
つづく




