第11話 Gun Control
僕たちは七海の家でしばしくつろいでいる。
「京ちゃん、私が目を離してるときにレナちゃんを襲ったりしたらダメだからね!」
七海が僕に向かって言った。
「襲わないって……」
「ふふ、冗談だってば」彼女は笑いながら言った。
レナはというと、恥ずかしいのか俯いて顔を真っ赤にしている。
僕はさっきの光景を思い出してドキッとしていた。彼女の可愛らしい笑顔、薄紫色の綺麗な瞳、そして艶やかに潤んだ唇……。そのどれもが魅力的で、僕の心を惑わせていた。
僕は頭を振ると冷静になろうとした。
すると七海が微笑みながら口を開いた。
「京ちゃん、夕ご飯の前にレナちゃんと二人でお風呂入っちゃったらどう?」
「おい、なんでそういうことになるんだよ」と、僕が言うと、
「父と娘みたいに仲良くお風呂に入ったらいいんじゃない?ほら、裸の付き合いっていうのかな……」
と彼女はニヤリと笑っていた。
「冗談が過ぎるぞ……」流石にバカにし過ぎだと思った。
「はいはい、二人が入らないなら私が先に入ろうっと」
彼女は立ち上がって脱衣所へと歩いて行った。
僕は呆れてため息をついた。
「ふぅ……」
二人が仲良く暮らしているのか心配になってきた。
レナを連れて地球に戻ってきたとき、彼女の住む場所は決まっていなかった。七海の住んでいる家が広く、使っていない部屋もあるから丁度いいと思ったけど、判断ミスだったのかもしれない。
……
「キョウタ、私と一緒に入る……?」
不意に声をかけられて僕はビクッと驚いた。見るとレナが僕を見ていた。薄紫色の瞳が僕を見つめている。
僕は彼女に優しく語りかけた。
「えーと、あれは七海の冗談だから、大丈夫だよ。僕は一人で入れるから……」
「そっか……そうだよね」と彼女は呟いた。
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
僕はチラリと彼女の方を伺った。薄紫色の瞳が悲しげに揺れているのが見えた。何か声をかけなければと思うが言葉が出てこない。僕は必死に頭を働かせて、この場にふさわしい話題を考えた。しかし、何も思いつかない。僕は諦めて黙っていることにした。
すると、レナがポツリと呟いた。
「ねぇ、キョウタ、さっきの続き……」
「え?」
「さっきの続き……しよ?」
レナは上目遣いで僕を見た。
「い、今ここでか!?」
「うん……、だめ?」
「でも、ここは七海の家だし、七海が戻ってくるかも……」
「大丈夫……ナナミは長風呂だから……」
レナは真剣な表情をしていた。
「そういえば……そうだったな……」と、僕が言うと、レナは僕の腕を引いた。
「そこのソファーに座って」そう言って彼女は僕をソファーに誘導した。
僕は大人しく彼女に従ってソファーに腰をかけた。
少し見上げると彼女の顔があった。
「じゃあ……続き、しよっか……」
そう言うと彼女は僕の太ももの上に跨って、僕の首に手を回して身体を寄せてきた。
「お、おい……」
「大丈夫……誰も見てないよ……?」
と言って彼女は目を閉じた。
彼女の吐息がかかるほど顔が近い。
僕の太ももの上で彼女が動くたびに柔らかい感触が伝わってくる。
彼女の胸が僕に押し付けられ、その柔らかさと温かさで理性が崩壊しそうになっていた。
お互いの鼓動がドクンドクンと脈打っているのを感じる。
彼女は顔を真っ赤にして震えていた。
僕は唾を飲み込んだ。
……
しかし、このままではマズイと思った。七海が見ていないとはいえ、ここで彼女と一線を越えてしまうと、本当に取返しがつかなくなってしまう気がするのだ。
それに、レナはまだ若い。これから色々な人と出会って恋をして、愛を知っていくべきだ。それが彼女にとって一番良い選択なのだ。きっと、いつか運命の人に出会うはずだから……。
「れ、レナ、ちょっと待ってくれないか?」
「なぁに?」
彼女は目を開き、潤んだ薄紫色の瞳で僕を見つめた。
彼女の頬はピンク色に染まり、呼吸が荒くなっている。
彼女の瞳には僕だけが映っていた。彼女の瞳に吸い込まれそうになる……。
僕は頭を振り、気を引き締め直した。
(落ち着け……)
彼女は年端のいかない少女だ。こんなことをしたら犯罪だ。それに、七海に申し訳ない。とにかく彼女を落ち着かせないと……。
僕は覚悟を決めて口を開いた。そして、彼女に語りかけた。
「レナは僕のことをどう思っているんだ?僕はレナのことを大切に思ってる。だから……」
僕は彼女の瞳をまっすぐに見つめて言葉を続けた。
「だから……レナとはそういう関係になれない」
「……」
「……」
「……分かった」
彼女は僕の上から降りた。
僕は安堵のため息をついた。
「ごめん……」と僕は言った。
「ううん、私こそ、ごめんなさい……、キョウタを困らせちゃったから……」
「いいや、君は何も悪くない」
「うん……」
僕は立ち上がって彼女の手を取った。そして、彼女の瞳を見つめて微笑みながら優しく声をかけた。
「さて、一緒に夕ご飯を作ろうか」
「うん!」
僕はレナと一緒にキッチンへ向かった。
レナは僕の隣に立って嬉しそうに笑っていた。彼女はいつもの調子に戻ったようだ。僕はホッとして笑顔を返した。
それから僕たちは夕食の準備に取り掛かった。レナは慣れた様子で包丁を握っている。料理ができるという七海の話は本当らしい。
その時、リビングの扉が開いた。
「お風呂あがったよ~!次は京ちゃんとレナちゃんね~!」
と、七海の声が聞こえてきた。
振り返るとそこにはタンクトップとホットパンツを着た七海がいた。白い肌が薄っすらと赤く染まっている。
僕はドキッとした。
「二人とも仲良くしてた?あ、なになに、夕ご飯作ってるの?」
と言って、七海は冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注いだ。
「あ、ああ」
「うん、もうすぐできるよ」
僕とレナは同時に答えた。
「へぇー、そうなんだ!楽しみにしてるね!」
そう言って七海はニッコリと笑ってソファーに座ってテレビをつけていた。
僕とレナは顔を合わせて苦笑いをした。
◇◇◇
夕ご飯の後片付けも僕とレナで終わらせた。七海はソファーで横になってテレビを見ていたが、そのまま眠ってしまったようだ。僕は毛布をかけてあげた。
僕とレナは二人でお風呂に入りにいった。脱衣所に入り、追い炊きスイッチを押して服を脱いだ。僕たちはシャワーで身体を洗ってからゆっくりとお湯に浸かった。温かいお湯が身体にじんわりと染み込んでいく。
「ふぅ……」
僕はため息をついて天井を見上げた。
今週はずっと辛い日々だったけど、今はこうして生きて、夕ご飯を食べて、風呂に浸かることができる。それだけでとても幸福だ。僕は心の底から安心していた…………
最近、度々危険な目に遭っている。辛い思いをすることも多い。でもこの幸せな一瞬を実感すると、やはり生きていて良かったと思うのだ。
レナは僕に背中を向けて足を延ばして風呂に浸かっている。橙色の髪が濡れて、シャンプーの良い香りが漂ってくる。僕は無意識のうちに彼女の後ろ姿に見惚れてしまっていた。綺麗な曲線を描く細い肩、美しい腰つき、小さなお尻とスラリと伸びた足……。
僕は慌てて視線を上げた。……ダメだ。意識するな……。彼女は子供なんだぞ……。
すると、レナが話しかけてきた。
「ねぇ、キョウタ……」
「ん?」
「今日……楽しかったよ。また遊びに来てね?」
彼女は振り向いて上目遣いで僕を見つめた。
「ああ、もちろんだよ。僕も楽しかった。ありがとう」
レナはニコッと笑うと、「約束だよ」と言った。僕は彼女と指切りをして約束を交わした。
……
しばらく無言になり、僕は彼女と出会ったときのことを思い出していた。
(そういえば、彼女が万引きするに至った経緯は詳しく聞いていないな。お金がなくてお腹が空いていたとは聞いたけど……)
そのことが気になって、彼女に聞いてみようと思った。
「そういえば、レナはタイタンにいた頃はどんな風に暮らしてたんだ?」
「えっとね、アンダーワールドの低階層にある街にいて、そこで武器を売って生活してたの」
「そうか、レナのスキルで武器を作って売れば生活には困らなさそうだけど……」
彼女は俯きながら首を横に振った。
「それが……武器の取り締まりが厳しくなって、売れなくなっちゃったんだ……、それでお金が無くなって……」
それは悲しい話である。
タイタンのアンダーワールドは低階層ほど治安が悪く、そこに潜む武装集団がタイタン全体の脅威となっているそうだ。
そのため政府による武器の取り締まりが厳しくなり、レナは職を失ってしまったのだ。
僕は少し躊躇ったがレナに訊いた。
「……その、何か怖い目に遭わなかったか?嫌なことされたりとか……」
すると、彼女は顔を曇らせて悲しそうに言った。
「……うん、何度もあった。お店の中で突然、刃物で刺されそうになったこともあるし、乱暴されて危ない目に遭ったことも数え切れないくらいあるの……」
僕は言葉が出なかった。胸が締め付けられるように苦しくなった。そんな酷いことがあって良いはずがない!彼女と出会う前の出来事とはいえ、そんな状況を知りもしなかった自分が情けなくて仕方がなかった。
しかし、僕の様子を見たレナは、すぐに笑顔に戻って明るい口調になった。
「でもね、大丈夫だったんだよ!私は強いもん!」
「……そうだな、レナは強かったな!」僕は微笑んで答えた。
彼女は幼い見た目をしているが、その強さは本物だ。僕はレナの強さを信じている。
「それに、今まで一人で戦ってたけど、今はキョウタが側にいてくれるから、とっても心強いよ!」
「そうか、僕も同じ気持ちだよ」
「うん!これからよろしくね!」
「ああ、こちらこそ」
『あはは!やっぱり、二人は仲良しさんだね!』
「「!」」
突然、浴室の扉が勢いよく開いた。そこには素っ裸の七海が立っていた。
七海はそのまま浴室に入り、無理やり湯船の中に入ろうとしてきた。
「な、七海!?何をしてるんだ?」
「何って……お風呂に入ろうと思って」
「そ、そうじゃなくて、なんで二人もいるところに入ってこようとするんだ?」
「だって、みんなで一緒にお風呂に入った方が楽しいじゃない」
「だからって急に入って来なくても……」
「あはは!ごめんね、京ちゃん」
「こらっ、狭いだろうが」僕は七海を押し返そうとしたが、彼女は僕に抱きついてきた。
柔らかい肌が密着してくる。そして、彼女の大きな胸が押し当てられる……。その感触を味わっていると、さらにレナまでくっついて来た。レナの柔らかな胸も僕に押し付けられてくる。二人の胸の温もりと弾力が伝わってきて、頭がクラクラする。
(うぉおおー、ヤバいっ、これはマズイぞ……、落ち着け……、素数を数えるんだ……)
僕は理性を保つため必死に平静を装ったが、それでも意識してしまうものは意識してしまう……。
血流が一気に駆け巡り、体が熱くなる…………
(ダメだ……、コントロールできない…………)
…………
……………………
………………………………
彼女たちは僕の姿を見やって、小悪魔のような笑みを浮かべて言った。
「あはは、京ちゃんかわいい」
「キョウタ……、元気……」
「……」
恥ずかしくて死にそうだ……、穴があったら入りたい……
つづく




