第六十四話「マユミおねーちゃん、さようなら……」
どうしてオクマーマが、自分の命の源である念波鉱石を自ら破壊することになったのか――その理由を知ったマユミは涙を流しながら、ボロボロのオクマーマを腕に抱くのであった。
「オクマちゃんは……。私たちの命を救うために、不死身の命を捨ててでも鉱石を破壊したのね……ウウウッ……」
「オクマーマは……。テロを止めて、マユミおねーちゃんや罪もない人々を救えたんでちゅから……死んでも本望っちゅ。それに、こうして最後にマユミおねーちゃんに一目会うことも出来たっちゅ……。オクマーマは……もう、悔いはないっちゅ……」
オクマーマの力なき声に、マユミは涙目のままオクマーマに問いかける。
「な、なに言ってるのっ、オクマちゃんっ! ねえっ、ま、またっ、一緒に海に行く約束してたでしょっ! ねっ、オクマちゃんは、不死身よっ! また一緒に海に行く前に、死ぬわけないわっ! ねっ……そ、そうでしょっ! ねえっ‼」
泣きながら、腕に抱いているオクマーマの体に顔を埋めるマユミ。
「オクマーマも……。マユミおねーちゃんと一緒に、また海に行きたかったっちゅ……。でも……、も、もう……無理のようっちゅ……。ごめんなちゃい……」
すると――モフモフとしたオクマーマの肌触りが、だんだんと部分的にツルツルとした肌触りに変化し始めてゆく――。泣きながらオクマーマの体に顔を埋めていたマユミは、それを自分の肌で感じてしまう!
「ああっ⁉」
マユミの涙で潤んだ瞳が、ショックで大きく見開きながら――思わず顔を上げてしまうのであった。
「オ、オクマちゃんっ! そんなっ……うっ、嘘でしょっ⁉ オクマちゃんっ!」
そして、だんだんとオクマーマの見た目の姿も薄くなり始め――魂が宿る前の、ノッペラボウな素体人形の姿もチラチラと見え始めてしまうのであった。
「もうそろそろ……体内に残った念波エネルギーも切れそうっちゅ……。この体に宿っているキミナちゃんの魂と、人形本体とのリンクが途切れ始めたみたいっちゅ……」
「オクマちゃんっ! 一度リンクが途切れて魂が抜けちゃっても、またすぐに宿り直すことは出来ないのっ⁉」
「ダメっちゅ……。念波ロボとして素体人形に一度宿った魂は、解放された後はかなりの日時を置かないと……再び念波ロボとしては宿せない状態になるらしいっちゅ」
「そっ、そんなっ!」
「それに、もしキミナちゃんの魂がいつかまた宿ることがあったとしても……その時、またオクマーマの姿になるとは限りまちぇん。他の強い記憶の姿……ママの姿や、パパの遺影や、遺品の姿とかになる可能性もありまちゅ」
「ウウウッ……」
「仮に……またオクマーマの姿になったとしても、今のこのオクマーマの自我とはまったく別の新しい自我になりまちゅ。マユミおねーちゃんとの楽しい思い出が残っている、このオクマーマの自我は……今ここで完全に死んで、永遠に消え去りまちゅ……」
徐々に薄くなっていく、オクマーマの姿――。
「マユミおねーちゃん……。オクマーマは……。この世に生まれてから、良いことをしようとしても、酷い目ばかりで悲しかったっちゅ……。でも、マユミおねーちゃんに会えて……嬉しくて、心が安らぎまちた……」
「オクマちゃんっ! 私だって、オクマちゃんと出会えて……今までどれほど心が癒されたかわからないわっ!」
オクマーマに貰った押し花を、懐から取り出すマユミ。
「この押し花だって、いつもお守りとして肌身離さず持っているわ! オクマちゃんは、家族のいない私にとってたった一人のかわいい妹よっ! オクマちゃんっ!」
「オクマーマは……マユミおねーちゃんと会えただけでも、この世に生まれてきて良かったと思いまちゅ……。ありがとうっちゅ……」
悲しむマユミをよそに、無常にもオクマーマの姿が急激に薄くなってゆく!
「今、この近辺に……なんとなく……パパの魂が、キミナちゃんの魂を迎えに来ているような感じがしまちゅ……。オクマーマは……キミナちゃんの魂に残った、夢のような曖昧な記憶の中の一片となって……パパと一緒に、天国に行きまちゅ……」
「あああっ⁉ オ、オクマちゃんっ! 死なないでぇっ!」
「マユミおねーちゃん、さようなら……」
「オクマちゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!!!」
オクマーマは、絶叫するマユミの懐に抱かれながら――静かに元のノッペラボウ人形の姿へと、スーッと一気に変化していくのであった――。




