第十七話「大和一家の願い」
遊び終わったキミナが、カタイナーを箱にしまっていると――アイコは『父が生前よく言っていた言葉』を語りかけていた。
「キミちゃん。パパがよく言っていたわ。『なにがあっても悪には屈さず、最後まで善行を貫き通して欲しい』……って。だからパパは、こういう正義のロボットが好きだったのね」
アイコはキミナがロボット遊びをする度に、この言葉をよく語り掛けていたのである。
――そう。
念波ロボ・オクマーマの中に響いた謎のメッセージは、このアイコの発言だったのである。キミナの自我に強く記憶されていたこの発言が、オクマーマの自我の方へ度々フラッシュバックしていたのだ――。
アイコが父の遺訓をキミナに投げかける度に、キミナはいつも素直に答えていた。
「キミちゃんも~、良いことをしまちゅ。悪いことはダメっちゅ!」
「その意気よ~、キミちゃん。これはパパの願いでもあり、私の願いでもあるのよ」
「ママもっちゅか」
「もちろん、良いか悪いか明確に決められないような難しいことも、世の中たくさんあるわ。でもキミちゃんは、そういうことも柔軟に考えられる人になってほしいの。なんて、キミちゃんにはまだ難しいかな?」
「難しいっちゅ。でも、よく考えて良いことを目指しまちゅ」
「そうそう、それでいいのよキミちゃん! キミちゃんもこれから大きくなって、そういう良い人になってくれたら……天国のパパも喜ぶわ」
「天国って、なんでちゅか~?」
「多分、パパが先にそこに行っている場所よ」
「パパがいる場所っちゅかっ⁉」
「私も、キミちゃんも、何十年後かわからないけど、悪いことしなければ必ずそこに行けることになるから……。いずれ、パパには必ず会えるわ。でも、天国からお迎えが来るまではお預けよ。パパに恥ないよう、それまではここで頑張らないと!」
「そうなんでちゅか! キミちゃんも、ずっと先にはパパと会えるんでちゅね⁉ よく考えて、悪いことはしないで良いことをしまちゅ!」
父とは、いずれ必ず会えると聞かされ――天国というものがよくわかっていなくても、遺影の前で無邪気に喜ぶキミナであった。
その遺影の脇には、新婚旅行の時に買ったヒグマの木彫りが飾ってある。これもオクマーマと超合金カタイナーの他に、数少ない思い出の遺品として大和一家に残ったものであった。
(キミちゃん……。あなた……)
喜ぶキミナとヒグマの木彫りを横目に、一筋の涙を光らせるアイコ――。
当時アイコとキミナは、ギリギリの貧困生活を続けていた。超オンボロとはいえ、父の古家だけは住処として残されていたのが唯一の救いである。
天気がいい日でも、もちろん外でお金を使うような娯楽は出来ない。せいぜい、近場の公園に出かける程度である。
それでも二人は、母子一緒に楽しめるだけでも幸せであった。
「キミちゃん。あの花、綺麗ね!」
「本当っちゅ~」
ぬいぐるみオクマーマを胸に抱きかかえたまま、キミナが花の前に駆け寄ってみると――その横で、ネコが丸まって昼寝しているのを発見。
「あっ! ネコちゃんが、オネンネしてまちゅ。ポカポカで、気持ち良さそうっちゅ」
しかしそのネコは、キミナが近づいた物音で起きてしまう。
そして、そのまま逃げていってしまった。
「ママ~。せっかくネコちゃんがオネンネしてたのに、キミちゃんのせいで起こしちゃいまちた……。かわいそうなことしちゃったっちゅ、ネコちゃんごめんなちゃい」
胸に抱えているオクマーマと一緒に、ペコリと頭を下げてしまうキミナ。
「ウフフッ、落ち込まなくてもいいのよキミちゃん! キミちゃんは、わざと起こそうとしたわけじゃないんだから。それにネコちゃんはね、また別のところでオネンネするから大丈夫よ~」
「そうっちゅか! よかったっちゅ」
「でも、その優しい気持ちはずっと持っていてね。キミちゃん!」
「わかりまちた~」
キミナは、とても優しい心の持ち主であった。普段も基本的におとなしいが、それでいてロボット遊びをする時のように『いざスイッチが入ると燃えるタイプ』なのである――。




