第五十七話 温かい目
アルフィンとビビはただ黙って見ていることしか出来なかった。
それに気付いた直樹が2人をテッケイルとテレサの前に連れて来て紹介を始めた。
「えーっとまずは…。こっちが俺の友達のアルとビビだ。んでこっちが世話になったマスターとテレサさんだ」
「説明下手か!!」
「いだっ!おい!頭叩かなくてもいいじゃねぇか!!」
「お前の説明が下手だからだよ!!何でお前は呼び名で説明してる訳?ちゃんとした名前で説明しろよ!!」
直樹の説明に納得がいかない良平が思い切り頭を叩いた。それに対し直樹は抗議するが良平は正論で返した。
智哉が端の方で「俺のツッコミ…」と呟いて気落ちしながら叩くモーションをとっているがそれには誰も気が付かなかった。
「2人共落ち着け。他の人が困ってるぞ」
宮本の注意で直樹と良平はテッケイル達が苦笑いしていることが分かった。そして2人で謝り、お互いに自己紹介してもらうことにした。
「先程紹介に上がったアルフィン=ネムスレッド=テラーブルだ。テラーブル帝国の第一皇子となっている。以後よろしく頼む」
「直樹君達の友達のビビと申します。よろしくお願いします」
「おう!俺は冒険者ギルドラスウェル支部のギルドマスターをしているテッケイルって言うんだ。加えてこの宿の経営をしたりしている。それでこっちが妻の──」
「はい。妻のテレサです。ここからは遠くて見えないかもしれませんが受付にいるのは私達の娘でアンリと言います。よろしくお願いね?」
直樹達は愕然としていた。直樹達の予想はアルフィンの自己紹介の時にテッケイル夫妻がもっと驚くと思ったし、テッケイルの自己紹介の時にアルフィン達が驚くと思っていた。だが実際にはそんなことなかった。ただ普通に自己紹介しただけだった。
「いやいやいや!何で普通なんだよ!?」
「ん?何だ?少しは驚いたふりをしてやれば良かったか?」
アルフィンがニヤニヤしながら直樹に聞いてきた。その態度は今までの鬱憤を晴らそうとしているようだった。それも当然でアルフィンを連れてここ10日よく黙って従ってくれたと思う。皇子だしもっと我が儘言ってもいいんじゃないか?と言ったこともあった。しかしアルフィンは笑いながらこう言った。
「俺が我が儘ばっかりだと将来が心配になって民がついてきてくれなくなるだろう?俺は誰もが尊敬し憧れるような皇帝になりたいんだ」
直樹達もそんなアルフィンだからこそ応援しようとも思ったが、今はそんなことを忘れた。ニヤニヤしているアルフィンをどうしてくれようかと考えている。
ニヤニヤしているのはアルフィンだけではなくテッケイルもそうだった。ナオキ達が学園で良い友達を見つけたなと同時に何でこんな大物と…、と思わなくもないがまぁナオキ達だから深く考えても仕方ないなとも思っていた。
「はぁー。もういいよー。俺の知り合いは変人ばっかだ」
「「「「「お前が言うな!!」」」」」
「へ?」
直樹が少し拗ねたように言うと周りからツッコミを受けた。本人だけ?マークを浮かべているが直樹の知り合いから見たら一番のは言い過ぎかもしれないが変人であることには変わりなかった。
それからはテッケイル夫妻も混ざり雑談をした。学園はどうだとか友達は出来たかなど聞かれたがそのどれもが曖昧にしか答えられなかった。
直樹達はもう学園に戻るつもりはない。アルフィンとビビを連れていってそれでさよならだ。それをテッケイル夫妻には言わないようにしようとしたのだが…
「お前達は次に何処へ行くんだ?」
「は?いやいや、俺達は学園生だぞ?何を言ってんだ?」
「お前達のことぐらい多少は分かるぞ。さっきから何かよそよそしい感じがするしな」
「そんなことは無いよな、良平?」
「ないない。無いよね、宮本?」
「全くだ。だよな、佐東?」
「だな」
「………………俺は!?」
「あ、いたのか智哉。気付かなかった」
「ずっと隣にいたよね!?そんなに存在感無かった!?」
「………」
「そこで黙らないで!?」
ここに来て智哉のツッコミが冴え渡る。佐東のボケもキレを増す。ただそんな2人を見るテッケイルは冷たい視線を送っていた。
「すまんすまん」
「すみません。ふざけすぎました」
2人して謝り話は元に戻った。
「でだ。次は何処に行くんだ?」
アルフィンとビビが聞き耳を立てているのが分かる。アルフィンは友達として、ビビは加害者と同じ召喚者として気になっていた。
「あー。次なー。どうすっかなー」
直樹達も次の向かう場所は特に決まっていない。だから夜に話したりしていた。だが良い案は出てこなくてどうしようかと悩んでいた。
「それならこれから獣人の国、ビーストバレーに行ってくれないか?」
「ん?何でだ?」
「最近魔物が多くなっていて大変らしいんだ。俺の友人がそう伝えてきたが俺は行けねぇからお前らに頼ろうかと思ってよ」
「それなら良いよな?」
「いいよ~」
「ああ」
「問題ない」
「大丈夫だよ」
「んじゃ決定!」
「お前ら軽いな!?」
とんとん拍子に決まり逆にテッケイルは心配になったようだ。だが直樹達はもう決まったと言わんばかりにどんどん話を進めていく。
「学園着いてからすぐでいいよね?」
「そうだな。どうせまた走るだろうから飯だけ買って行こう」
「串焼きは買ってこう」
「いいね。後は何か必要な物は?」
「特にねぇよ。適当に行こうぜー」
そうしてワイワイ話していった。テッケイルはそんな直樹達5人を見て失敗したかもしれないと思った。最終的にはまぁいいかと思い温かい目で見守っていた。
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