第五十二話 対談
直樹達は26人の暗殺者達とアルフィン、ビビを連れて王都に向かった。
直樹達は何故こんな大所帯になったと誰もが思ったが誰もそれを口にはしなかった。
~674年、風の月、第13日~
「戻ってきたぞー!!」
「うるさい!」
「うごっ」
昼頃、直樹達は王都に無事到着し中に入ることが出来た。そして第一声が直樹の大声だった。門番から煩わしい者を見る目で見られ、同じく王都内に入ろうとする商人や旅人、冒険者等からは奇妙な者を見る目で見られ、良平がすぐさま殴って黙らせた。
「いっつもポコポコと軽々しく叩くんじゃねぇよ!!」
直樹の言葉を周りで聞いていた者はギョッとしていた。直樹から見たらポコポコと表現できるかもしれないが、他者から見ると良平の殴りはポコポコではすまないのだ。一撃がゴッ!と凄い音を出して頭を殴る。直樹はステータスが良平よりも筋力と耐久が高いため死なずにすんでいるが、そこら辺の一般人が受けると頭が潰れる。それも陥没ではなく破裂に近い感じでだ。聞いていた者達の反応は何も間違ってはいなかった。逆に直樹達を知り始めた暗殺者達の反応は「はぁ、またか」と言った具合だった。
「軽々しく叩かせるような真似するなよ!!」
良平が至極真っ当な正論を言った為に直樹は目を背けるしかできなかった。
そしてぞろぞろと王都内を歩けば目立つ訳で、直樹達一行は街の屋根の上を走って王城を目指していた。ただ結果的に目立つのは変わらなかったが…。
「ねぇーママ!!空を見て!人が走ってるよ!!」
「しっ!見ちゃいけません!!」
こんな会話が聞こえて一行の半分以上の者、特に暗殺者達は顔を俯けて走っていた。普段なら夜や影道、裏通りなど身を隠しながら移動するので昼間からのしかも人の目がつき易い場所を移動することに慣れてないらしかった。それを見るのが直樹達(達と言っても直樹、宮本、佐東の3人)は面白い為、時々後ろを振り返って見てみる。だがそうすると自分達の足元が疎かになってしまい何度か落ちて笑われてしまうという場面があった。
王都の街の屋根を駆けて十数分、直樹達は王城の門前に着いた。直樹達5人とおぶられたアルフィンとビビは涼しい顔をしていたが、暗殺者達26人は皆「ぜぇぜぇ」と呼吸を乱していた。
「鍛え方が足りないんじゃねぇの?」
「そんなに速く走った気はしないんですけどね」
「むしろゆっくり過ぎたな」
「馬の全力より少し速いくらいか?」
「普通に速かったと思うけど、どれくらいの速さなのかな?」
上から順に、直樹、良平、宮本、佐東、智哉の順で直樹と良平は普通だろといった感じで基準が可笑しい。宮本と佐東はいつもより遅かったため少し物足りなさ気にしている。智哉は、うん、真面目である。そんな真面目な質問に珍しく直樹が反応した。
「この世界の馬の全力は知らんが、日本での競馬では時速60km前後だったらしいぞ」
「何でそんなこと知ってんだよ!?」
聞いた本人が1番驚いてしまった。いや、驚きを越してツッコミを入れてしまった。智哉としてはそんなまともな回答が来ると思っておらず、ましてや直樹からまともな回答が帰ってきて気が動転してしまった。
「普通に競馬が好きだっただけだ!!」
「まさか、もう賭博に手を染めていたのか!?」
「何でそうなるんだよ!」
ここに来て直樹と智哉の応酬だったが、他の3人も加わった。
「「「「だって直樹だし」」」」
「お前ら酷いな!!」
そう言って直樹が泣いたフリをしてどこかに走り去ろうとした時だった。
「あのぉ、ご用件はなんでしょうか?」
今まで直樹達の茶番を黙って見ていた門番の人が声を掛けた。
「あ、はい。王様に用事があって来ました」
そこからは普通に説明をし、門番からは「しばらくお待ちを」と言われ、33人で待った。その時には暗殺者達も息を整え何故かキリッとした目つきで待っていた。何故そんなことをしたのか聞いてみると
「俺達にも面子って物があるのさ。門番にまで笑われるようになってしまえばもう裏方の仕事なんて恥ずかしくてできないからな」
代表してゴルゴッサが答えてくれたが、直樹達からしてみると今更かよ!と思う部分が強くあまり納得はできなかった。
~直樹達が門前で話している頃王城内にて~
門番にいた騎士が王城内を早足で歩いていく。時折貴族を見かけるが今は全て無視していた。普段は礼を欠かさないが今は緊急事態でもあるので後ろで怒っているのがわかるが気にせずに王と宰相がいる職務室に向かった。
コンコン、とドアをノックする。
「入れ」
少し疲れたような声がした。声からして王様だろうと騎士は予想するが、王に先程の件を伝えるとより疲れてしまうのでは?と考えるがすぐにドアを開けた。王を待たせるのはあってはならないとも考えたからだが…。
「失礼致します」
「ん?君は門番の騎士ではないか?こんな時間にどうした?まだ交代の時間では無いはずだが…」
王は訝しむような目で見てくるが、騎士は自分は何もしていないのだから堂々としようと思い大きな声で告げた。
「ハッ!王に指示を仰ぎたく思い参上させていただきました!」
「何かね?聞こうではないか」
王は少し興味が出たような顔をするが、その隣にいる宰相は嫌そうな顔をした。
「現在城門の前にナオキと名乗る者がおよそ30名の者を引き連れて王にお会いしたいと申しておりました。如何なさいましょうか?」
直樹の名前が出た瞬間に王は目を見開き、宰相は天を仰ぐように上を向いた。宰相はわかっているのだろう。面倒事を持ってきたのだと。それを知ってか知らずか王は即決した。
「ふむ。応接間で待たせよ。但し30名は多いため10人まで絞れと伝えよ」
「ハッ!かしこまりました!」
騎士は深く頭を下げてから職務室から出て行った。それを見届け王は宰相に聞く。
「一体何をしに戻ってきたのだろうな?」
「私にはわかりませんよ。わかるのはきっと面倒事だろうという事だけです」
「まぁそうであろうな。面白くなってきたぞ!!」
「何も面白くなどありませんよ!!」
職務室からは笑い声と怒鳴り声が響いていた。
~直樹達が門前で話している頃王城内にてend~
直樹達は門番の騎士に従い10名に絞り応接間で待っていた。メンバーは、直樹達5人、アルフィン、ビビ、ゴルゴッサ、後暗殺者の2名だ。ただ部屋の中の気配は10名ではすまずに、33名もあった。残りの暗殺者達はスキルを用いたりして応接間の至るところに潜んでいる。
例えば、テーブルの下であったり、天井裏であったり、棚の上であったりと様々だ。様々だが残り23名の全てが隠れられそうな場所はないと思うのだが、直樹達の視界には誰も映っておらず、気配だけを感じ取ることが出来る。その気配も微弱な物で、冒険者でAランクも無ければ感じ取ることは出来ないであろう。
そして直樹達が応接間に連れられてから20分くらい経ってからだった。王のカイゼルと宰相のモルガンがやってきた。王の表情はとても楽しそうだが、対称的に宰相の表情はとても嫌そうだった。
「おお!ナオキよ、久しぶりだな!」
カイゼルは嬉しそうな声で言うが、直樹はそれに対して怒った。
「違うだろ!!そこまで言ったならしっかり「おお!ナオキよ。死んでしまうとは情けない」だろ!!」
「?ナオキは生きておるではないか?何を言っておる?」
直樹はツッコミ(?)を冷静に返され打ちひしがれそうになったが頭にいい方法を閃いた。
「そうだ!!俺が死ねばいいのか!」
「「「「いや馬鹿だろお前」」」」
「違うわ!!」
今度は味方の4人から否定され打ちひしがれそうになったが、それをアルフィンが止めた。
「いい加減、話を進めないか?」
少し以上に不機嫌そうなアルフィンの声を聞き直樹はすぐに切り替え、カイゼルとモルガンに向き直った。
「単刀直入に言うと、王女を連れてこい」
この発言には楽しそうにしていたカイゼルも眉をしかめ、モルガンは怒りそうな表情になっていた。
「何故そのように申す?」
カイゼルの持つ雰囲気が「もしいい加減のことだったらどうなるか分かってんだろうな?」とでも言うかのように変わった。モルガンも何か言いたいことはあるのだろうがカイゼルの雰囲気が変わったため何も言わなかった。いや、言わなかったのではなく言う必要がなくなったが正しい。
「まず、先にこっちの話を全部聞いてくれよ?途中で口を挟むなよ?」
直樹が傲慢とも言える口調で言った。それにカイゼルとモルガンは特に何も言うことなく頷いた。カイゼルは普通に当然のように頷いたが、モルガンはカイゼルが頷いたので渋々と言った感じだった。
それから直樹は良平に変わってもらい、キリヤ学園の襲撃、それでアルフィンと一条、その他の生徒を直樹達の容姿で襲ったと話し、それは隷属させられた召喚者と言い、その召喚者を証人として連れてこようと王都に向かったら暗殺者達に襲撃されたと話した。その裏に繋がっているのは全て王女であると聞いたと話した。最後のダメ押しとなるかわからないが直樹が1度殺されかけた話もした。
それらを聞き終えたカイゼルとモルガンはすぐに王女を連れてくるよう外で待機していた騎士に告げた。
「それが事実なら一大事になるところだった。礼を言う。」
「やはり面倒事でしたが、今回ばかりは貴方達のおかげでそこまでの被害は出ませんでした。ありがとうございいます」
2人は頭を下げた。そんな2人を見て直樹は良平達4人とアイコンタクトを取った。すると頷かれたのでそろそろかと思い言った。
「まぁそれは結果としていいんだけどさ。いつまで知らないフリしてんの?お二人さん」
その言葉を聞いてカイゼルとモルガンは一瞬だけだが目を見開いた。それを見逃す直樹達ではない。
「いやぁ~。こちらのゴルゴッサさんに聞いたらラスウェル王国の諜報兼暗殺部隊と言っていたんだけど、どう落とし前つけてくれる?」
「そんな者達など知らんぞ?一体どこのどいつだ?」
カイゼルはまるでわからないと言うような態度を崩さなかった。だがそれは直樹達にとっては無意味だった。
「知ってるか?人って嘘つくときや動揺してる時って脈拍数が上がるんだぜ?」
「それがどうした?こちらの質問の答えになってないぞ?」
そこで直樹がわざとらしく息をはぁーと吐いて、睨むようにして声のトーンを下げて言った。
「面倒くさいことは抜きにしろ。もうこっちは我慢の限界なんだよ。どうする?もう死ぬか?」
「わかった。すまない。この国の部隊で間違い無い」
渋い顔でカイゼルは認めた。それを聞き直樹は二ヤっと笑みを浮かべそうになるのをこらえ最後の仕上げとばかりに話を進めた。
「じゃあ国としては俺らに何をしてくれる?」
「国としてはか…。褒賞と謝礼を与えるしか出来ないぞ?」
「因みに爵位とかはいらないからな?」
「わかっておる。魔道具や金貨だろう」
直樹はここまでは上手くいっているなと考えた。
「じゃあ、それで。んで、この暗殺者どもはどうするつもりだ?」
「一生檻の中か処刑だろうな」
「それじゃあ俺がもらう。俺達が仕留めたんだ。生殺与奪の権利は俺達にあるだろ?」
「そうもいかん。政治的な意味合いでだ」
「暗殺など考えているのに政治的な意味合いか。じゃあ褒賞と謝礼の代わりにこいつらの罪は無くしてくれよ」
直樹は頼んだ。珍しく頭を下げて。ここでカイゼルが頷いてくれないと、直樹達はやるせなくなってしまうと考えているのだ。暗殺者達と少しの間過ごして情が湧いてしまった。だから何とかしてやりたいなと思ったのだ。
「モルガンよ。どうするべきだろうな?」
「私は、今回の件は明るみになっていないのも事実。それなら無理に処罰を下さなくても結構かと。むしろここで私達の力が衰えてしまうのはいただけないと考えます」
モルガンの意見を聞き深くカイゼルは考えた。カイゼルは正直暗殺など好きではなかったので、この暗殺者達と面識が無い。どんな人物かも分かっていない。いないが、直樹達が生かそうとしているからそれには何かあるのだろうと考え暗殺者達の処遇を決めた。
「決めたぞ。やはり暗殺者は処刑すべきだ」
「そんな!?」「くっ!」「バカな!?」「……」「寝てる!?」
若干2名の反応が可笑しかったがそんな事を気にしている場合ではなかった。そして直樹はカイゼルに掴みかかろうとしたので良平と宮本が押さえ込んだ。
「まぁ落ち着け。話は最後まで聞くもんだぞ?」
先程の意趣返しという訳か、少し楽しそうな声でカイゼルは言った。
「私はあくまで暗殺者は処刑すべきと言っただけだ」
「つまり?」
続きを促すように良平が聞いた。
「つまりだ。ここにいる者達は全員諜報員だろ?なら処刑すべき者はいないな。仕方がないな」
聞いた瞬間に直樹達も笑顔になり、ゴルゴッサ達も笑みを浮かべていた。そして代表してゴルゴッサが言った。
「我々は諜報員としてしかと王に仕えます」
「よろしく頼むぞ」
カイゼルは鷹揚に頷き、モルガンを見た。モルガンも呆れた顔はしているが、怒ってはいないので問題ないだろう。
しかし直樹は気になることがあった。
「ここにいる者達はってもしかして気付いていたのか?」
「これだけの気配があるんだ。気付かない訳がないだろう?」
口角を上げて答えるカイゼルに直樹は自分達の負けを悟った。どうやら自分達をも掌の上らしかった。悪い気はしなかったが悔しい思いで一杯であった。
そしてちょうどタイミングが良いのか悪いのかわからないが、騎士が戻ってきた。
「離しなさい!命令よ!何処に連れて行くの!?嫌よ!」
どうやら本命が来たようだった。
話が上手く書けなかった気がしてならない…
不安だ…
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