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~エピローグ~

私が初めて恋をして好きになった人は、少し意地悪で、口が悪くて、私をからかってばかりの人だった。


世間知らずの私は、しょっちゅう彼に呆れられてばかりたけど……。

その裏側に潜む優しさや、さりげない気遣いに何度も助けられてきた。


私はそんな彼がとても大好きで-----


どうしても離れたくなくて、必死に思いを伝えた。





彼の名前は、アランと言う。





それが、私の最初で最後の恋人の名前。


だけど彼は、普通の人とは少し違う過去を持っている。


…………そう、彼が以前はお人形だったなんて、きっと誰も信じない。それは私と彼だけの秘密だった。






          --------------------------------------------




奇跡の起きたあの日から数週間が過ぎた、ある日の事--------------




昼食の席で、私は真剣な眼差しを目の前の彼に向けていた。



「ど、どうかしら……?」


アラン

『………………』


アランは料理を一口食べると神妙な顔でそれを味わい…やがて飲み込んだ後、ひどく微妙な顔で首を横に振った。


アラン

『………ダメだ、やっぱよくわかんねぇ』


「……うっ…今日は自信あったんだけど…」


『ああ…、多分そうなんだろうな。別にお前の腕が悪いわけじゃない、単に俺がよく分かってねえだけだ』


「うん……」


『素直にうなずくなよ、そこで』


「ごめんなさい…」慌てて謝ると、アランは苦笑いした。


…アランが悪いわけじゃないのは良く分かってる。人間になったばかりの彼は、それまでとは違う身体と感覚のギャップに随分苦しんでいた。夜になると訪れる眠気、時間がくれば感じる空腹、打ち付ければ痛む身体。


他にも沢山の問題はあったけど、彼は泣き言一つ言わないで笑っていた。。

むしろオロオロしていたのは私の方で…その度に「お前が動揺してどうする」と呆れてもいたっけ…


「でも、どうして味覚だけ変なのかな?結構お料理だって頑張ってるのに…」


『…そもそも何が美味しくて、何がまずいのか、その基準がわからねぇしな』


「…仕方ないとは思うけど、…きっと徐々に分かっていくと-----]


自分でもこの状況に焦れてはいるんだろう、少し苛立つアランをなだめる私は、次の瞬間ギョッと目を見開いた。


「アラン!?な、なにしてるの?」


『あ?塩を増量してる』


「増量って…、ダメよ、かけ過ぎじゃない!」



『……お!やっと味がした』


「…………」


見ていて気持が悪くなるほどの塩を降り積もらせたメニューは、大層アランのお気に召したらしい。


『案外いけるんじゃねえか、これ。ここまでインパクトあれば、なんとなく味がついてるって事は分かる』


さっきと段違いに嬉しそうな顔で、食べ進める彼の姿に…

『おまえもいるか?』



「……いらない!」


すっかりヘソを曲げてしまったのだった。



---------------------------------------


「ふう…。せっかく頑張って作ったのに……あれじゃ台無しじゃないの……」

私だって、好きな人にはとびきり美味しいご飯を食べてほしいと思ってる。その為に日夜努力を重ねているんだから。。

なのに、肝心のアランがあれでは-------


「この分じゃ、あの身体に慣れる頃には、アランの味覚は大崩壊してしまいそう………」

泣きたい気持で、私はまたもため息をつくのだった……。




----------------------------------------




賛美歌を聴いたあの日…、人間になったアランだけを残し、他の皆は元の精霊へと還っていった。

冷蔵庫の中にはジゼルが私の大好物ばかりを作って置いといてくれていて…


彼らは私達の事を笑顔で祝福してくれた後、来年にはきっと…また遊びに来るよ、ジゼルを探してね…と言い残していた。

私はその言葉に大喜びし、アランはげんなりした顔をしていた。……素直じゃないんだから。


来年また皆と会える事を信じて、その時にはもっと成長した姿を見てもらえるのかと思うと、今から楽しみで仕方なかった。


私とアランは、それからも幸せな日々を過ごし--------。

ようやくアランが人間の姿に慣れたころ、季節は春を迎えていた。





----------------------------------------



「ふう……」

キッチンで夕食の片付けを終えた私は、水仕事ですっかり冷えてしまった手を擦りながら、ため息をつく。

「……寒かった……」

季節が変わっても、この家の中には私とアランの二人きり。

今では私もジゼルほどに家事を上達させていた。

…やっぱり、大切な誰かの為だと思うことが上達の秘訣だったのかな。冷たい手だって、ちっとも嫌じゃない。

私はもう一度両手を擦り合わせると、アランの待つリビングへと向かった。




『片付けは終わったのか?』

「うん!」

『なら、こっちにきて暖まれ。暖炉の火もちょうどいい具合だ』

「ありがとう、アラン」


ふふっと笑って、私はいそいそと暖炉の前のソファへと近づく。

彼は私を自分の隣に座らせると、当然のように私を抱きしめた…



『すっかり冷えてんな、……ほら、もっとこっちに来い』


「え?だ、大丈夫よ」


『………何を今更照れてんだよお前は、風邪でもひいたら面倒だろうが』

「う……」


『変なとこに意地張るよな、おまえ。どうでもいい時には自分からくっついて来るくせに』

「……そんな事、した?」


『自覚なしかよ……。まあ、いい。今夜はまだ冷えそうだ、早めに寝るんだな』

「そうね……アランは?」


『は?俺は別に---ああ、一人で寝るのが寂しけりゃ一緒に寝てやってもいいぞ?』

「そ、そんな事言ってないわ!」


『……あ、そ』

「…………………」


私をからかうのが好きなのは、いつになっても変わらない。

たまにむくれてしまう事もあるけれど、

そんなアランとのやり取りを少しだけ楽しんでいる自分もいて----

結局、最後には笑顔になってしまうのだから、どうしようもなかった。


ぱちぱちと音を立てて燃える暖炉の火を眺めながら、私はため息混じりに呟く。

「暖かい……」


『そりゃ、火の前だしな』

「そうだけど……アランも、暖かいわ」

『……そりゃ、体温があるからな』

「ふふっ………」

『何笑ってんだよ』

「ううん、……何だか、うれしくて。……暖かくて…アランが隣にいて…こんな風に、笑っていられて…幸せだなあって…」

『…なんなんだよ、いきなり』

隣のアランガぼやく声さえ愛おしい。彼と共に過ごす日々は、いつだって私を幸福で満たしてくれていた。


こんな何気ない会話も、寄せ合う身体のぬくもりも----------------

全てが嬉しくて、安心して……。


「……………」

もっと近くで感じていたくて、私はその肩へと更に深く身を寄せる。


ああ……、本当に、幸せ……。



『……おい。先に言っとくぞ。ここで寝るなよ?』

「うん………」


『ベットへは自力でたどり着け。お前を二階まで運ぶのだって楽じゃねえんだからな』

「わかってる………」



『……どうだか、何度そう言って俺に運ばせた?大体お前はな言ってる事とやってる事が食い違ってるんだよ!

この前だって-----』

「…………………………………」


『……?おい…?言ったそばから、これだ。学習するって事を知らねえのかよお前は……

まったく…平和な顔して寝やがって呑気なもんだよな…………あー、面倒くせえ…』






『………少しだけ、付き合ってやるよ。少しだけ、な…………………』





夢の中でアランの唇が触れる。私は何度でも、この人生を繰り返すだろう。

              


                …この愛しい人にまた会えるなら…












































































































          






















グタついてしまいましたが…最後まで読んで下さった方、お疲れ様です。ありがとうございました。。

作者が綺麗な人形を実際に発見した時見て、人間だったらいいな…と思い、あるゲームからも刺激されて書かせて頂きました。


今後の小説に参考にさせて頂きたいと思いますのでご意見やご感想がありましたら、宜しくお願いします。

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