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~⑦~

--------精霊人形エレメンタルドールと暮らしてから数ヶ月。



気づけばアリスの意思とは逆に月日があっという間に流れていた、季節は冬を越し大地の力が草木を芽吹かせている。


アリスの庭も花が咲き始めた頃、久々の休日をシャルルとリディに手伝ってもらいながら庭の手入れをしていた…。

春の日差しは穏やかで、そこにゆっくりと流れるいつもの空気が心地よい


「んーーお花のいい香りねっ!!」



リディ

『アリスさん、今日はこのお花を植えましょう?』

シャルル

『この庭にはもう少しピンクの花を足さないかい?、リディは先月も同じ色の種を植えたからね…。』


私の庭と言うより…もはやリディとシャルルの庭ね。彼女達の手入れの甲斐あって、いつもは枯らしてしまう花々が見事に咲いている-----。

「どちらも植えたらいいと思うけど…。きっと綺麗よ?」

ジョウロで水をやりながら呟くと、顔を青くして叫ぶリディ



リディ

『…!!ダメよ、アリスさん!お水をあげ過ぎですわ。』「…ご、ごめんなさい。」


それからアリスは二人に何度か怒られて、後は二人に任せるとリビングへ撤退した。





-------えっ?!


私は意外な光景を目にしてしまった。


「アランが……、本を読んでる………!」

思わず声をあげてしまった私に、アランは本に目を落としたまま言う。



『………俺が本読んでちゃ悪いのか』



「そ、そういう訳じゃないんだけど…」別に本を読むのが悪いんじゃない、

アランが本を読んでいるのが珍しいのだ。

「ねえ、何を読んでいるの?」




『あ?よくわかんねぇけど、その辺に転がってたやつ。探偵が屁理屈こねてる話』


「あ…………!それ、この間お客様に勧められた本なの。すごく面白くて人気なんですって、私、まだ途中までしか読んでなくて」



『ああ、そうなのか。今、ちょうど謎が解き明かされたとこだ。

ま、そこそこよく出来た話だと思うぜ?まさか犯人が-----』



「だ、だめ!犯人は言っちゃだめ!楽しみにしてるんだからっ」


『しょうがねな…じゃ犯人の名は言わないでおくか』


「ありがとう…」




『それよりこれは知ってるか?この探偵が最初に言ってた言葉はな----』


「だ、だから言っちゃダメだったら!アランの意地悪っ。知ってしまったら、本を読む楽しみが減っちゃうじゃない」


むくれた私に、本を閉じてアランは面倒くさそうにソファから起き上がる。


『結局言ってねえんだから、いいだろ』「それは、そうだけど……」う-----ん。やっぱり意地悪だっ…。




「アランは本が好きなの?」


『別に、これはただの暇つぶしだ』



「でも、終わり近くまで読んだって事は面白かったんでしょう?」


『良くできてるが……所詮は作り話だろ。まったくよくやるなと思うよ、こんな手の込んだ作り話しを書く奴も…それを呼んではしゃぐ連中も。』



閉じた本に目を向け、アランは皮肉げに口元を歪めながら言う。



『作られた妄想や夢に逃げ込んだところで、現実は変わらない。……そういうもんだろ。』


「アラン…。でも……、夢がないのは寂しい事だわ」私はどうしても、アランの言葉に頷けない。



「確かに、物語を読んだって、どんなに感動したって現実は変わらないけど……。それでも!その世界に潜り込んでドキドキしたりハラハラ感動したりするとね、現実が辛くても少し救われる気がするの。。」


『………そいつはただの錯覚だ』



「っもし、自分がだったらどうだろうとか、こんな人になれたらいいなって思うことは無駄じゃないと思うわ!

夢や理想を持つ事で人は成長だって…」


熱っぽく語る私に、アランは複雑そうな顔で黙り込んでしまった。


もしかしたら、呆れられてるのかもしれない。そう思うと自分の主張した事がやけに子供っぽくて恥ずかしくなる…



うつむく私を見かねたのか、アランが気を取り直して口を開いた。




『……なるほど、じゃあお前は、この屁理屈探偵みたいに頭脳明晰になりたい!とか』


「そ、そりゃ…なれたらいいけど………。」


『まぁ無理だよな、それとも町にこんな便利な探偵事務所があれば…なんて思ってたら堕落してるだけで他力本願だよな』

二の句を告げられない私を面白がるようにニヤニヤと見ている。



「もう---」



頭の中にはいろんな言葉が浮かんだけど、口から出たのは一言だけだった。


「もう、アランの意地悪!」



私はその後も、アランの顔色をうかがいつつ物語の利点について説明し続けた。

単にアランと話をしていたかった…というのもあるんだけれど。

何よりも、物語を否定するアランの理屈が少し寂しい気がしたから。だけど……

アランの表情は、終始曇ったままだった。

                        ・

                        ・

                        ・

『まぁ、お前の言い分はわかったが…。…やっぱり俺は、この手の作り話は好きになれそうにない』


「アラン…」



『お前は、作り話の中で夢を見るのが楽しい事ばかり考えているが---

時にはその夢が残酷なときだってある。……俺はそう思う。』「え……?」

さっきまでのただ突っぱねるだけじゃない言葉。感情を殺したアランの声はそれだけ真剣さを漂わせていて…。



『こんなふうになれたらいい、こんな事が起きたらいい----。そんなの、考えれば考えるほど虚しくなるだけじゃねえのか?……どうやったって実現しない夢もある。それが現実ってもんだろ。』



作られた物語が嫌いな本当の理由は、こっちだったんだ、と気づく。

どうやったって実現しない夢………。私は思わず、彼に問いかけてみた。


「…アランにも、そんな覚えがあるの?」アランの瞳に一瞬だけ影が差した。……そんな気がした。

『一般論だよ、ただの。……もうこの話は終わりだ。本にも飽きたからな』


「うん……。」それきりアランは黙ってしまった。----これ以上この話題に触れるのは怖い。



「それじゃ、私…。庭の様子みに戻るわね」

アリスはぎこちない笑みでそう言いリビングを出た。実現しない、ただの夢------



そんなものはただ虚しいだけだとアランは言った。だけど何故だろう…

アランの口からそんな言葉は聞きたくなかった-----アランだけにはそんな風に言って欲しくなかった。


「……信じたい時だってあるもの」自分に言い聞かせるような言葉はやけに寂しく響いた。







そんな事があってから数週間が過ぎた日、

アリスは常連のお客様の所へお届け物をしなくてはいけなくなった。


ジゼル

「…ごめんねアリス。一緒に行きたいけどその荷物は重くて私ではちょっと。。あっ!」

ジゼルが台所を指差す---いた!


クロード!?


「…クロード?皆と一緒に出かけたのかと思ったわ」


クロード

『いゃ。一人くらい男が残らなくは物騒だろう…。何か使いか?』


「う、うん。お客様に届けなくてはいけないの…。ただ一人じゃ重くて。。いい?」

こういう事はアランが居れば頼みやすいが、最近何だか妙に空気が重かったしクロードが居て丁度よかった…



--------------



荷物を届けてから、ついでに用事も済ませるためクロードに付き合ってもらった。


「…なんだかごめんね?お家に居たかったでしょ。重いのまで持たせてしまって…」


クロード

『これくらい構わないよ。何だか雲行きが怪しくなってきたな…』


「この天気だと、家につく前に降り出してしまうかもしれないわ」


『ああ。急ぐか』そう言って駆け出そうとした、その時だった。


ぽつり、ぽつり空から落ちた雫が頬に当たった、『………降り出したか』


「クロード、急がなくちゃ!」


『だが、もう----』


「わっ……いきなり強くなっちゃった……!」完全な不意打ちだった。雨粒が落ちたと思ったらあっという間に強い雨が降ってきた。荷物が濡れちゃう、と慌てる私の腕をクロードがぐいっと引く。



『何をしているんだい、こっちだ』



「えっ…………!?」突然視界を黒い影が覆った。そして--------。

クロードは私が濡れないよう、自分のコートの下に私を押し込めて軒先へと移動した。


『しばらくの間は、我慢していなさい』


「う、うん……」


そう返事をするのがやっとだった。ぴったりと密着した姿勢に、鼓動が跳ねてとにかく落ち着かない。

無意識に顔に熱が上がっていくのが分かる--------。


「クロード……、ここなら雨も当たらないし、離してくれても………」


『それは許可できないな、人間はすぐに風邪をひく。ルネ・デュフルク氏の父も最初は風邪をひいただけだったが、肺炎とやらを起こしたらしい-----君が同じ事にならないとも限らない、だから大人しくしていなさい。』


そう言われてしまうと、動けない。


…身体は丈夫な方だけれど、曾おじいさんは病気になってからはあっという間だった…とお祖父ちゃんも言っていた。

黙り込む私にクロードは淡々とした声で語る。


『おそらく、この雨は一過性のもの。天気雨と呼ばれるものだろうね。直にこの雨は止む。夜半に降り出すかもしれないが…その前に帰れば大丈夫だろう。』

低く静かなその声は耳に心地よく響いた、激しい雨とクロードの声。それに重なるようにして響く鼓動は、クロードに聞こえずに済むだろうか………。

そんな事を考えながらアリスはじっと雨が止むのを待つのだった。。



やがてクロードの言葉通り雨はあがって私達はようやく家路についた。


「よかった……」


『ああ、身体は大丈夫か。寒気や発熱…風邪の兆候はないか?』「大丈夫よ」



大げさなほど心配してくれるクロードに私はちょっと笑ってしまう。…なんだかお医者さんみたいな事言ってる。


「ありがとう、クロード。お陰で濡れずに済んだわ、でもコートが……」


『いや、君が無事ならそれでいい。』 「………うん」


一歩先に歩くクロードのコートは、まだ雨に濡れたまま。-----帰ったらすぐに乾かしてあげよう……

家まですぐそこという時に


玄関さきに誰か居る…?キョロキョロと動く人影



---------------。



クロード

『アランではないか。こんな所で何立ってるんだ?』


アラン

『………別に。』


「アラン帰ってたのね?」濡れてない私の姿を下から上まで眺め、クロードに目をやると濡れてるコートに気がつく。


アラン


『………はぁ。お前だけ濡れてんな…』とため息をつき、少し睨んでから何も言わず家の中に入ってしまった。。


「アラン…!?」

少し怒ってる様にみえたアランを見てアリスの肩が落ちると


クロード

『……気にするな。…期限が近づき日に日に君への関心事が増すばかり、、差し迫る時間に歯がゆさを感じてるんだろう。私もそうだから分かるんだ。決定的に時間が足りない…』



------多分私は、今すごく嬉しい言葉をもらったんだと思う。クロードの中に自分の存在が関わっているのなら…。

だけどそれは、同時にひどく切ない言葉だ。




そして---アランの中にクロードの言う通り、私が関わっててそう思ってくれているのだろうか…とすごく不安と心配、そうあって欲しいと表情を曇らせた。


『……どうした。具合が悪いのか?』「え?ううん、そうじゃないわ……そろそろ中に入りましょうか…」



私達の間には、常に期限という残酷な境界線が横たわっていて……。


「………本当に、あっっという間」自分の言葉に追い詰められながら、それを振り切るように家に入った。



少しするとアランの機嫌はいつもに戻っていた。そして-----


残酷にも月日は流れて暑い日差しの夏がやってくる。待ってはくれない時間は、季節を秋にしてしまう…。。


日差しの中で青々としていた木々の葉は、黄色や赤に染めて秋風のロンドを舞っていた。







































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