~⑤~
小さな町は人の活気で賑う-------。
町の中央にある噴水広場では演奏者が陽気な音楽を奏で、ワインを手に持ち人々は皆それぞれに祭りの空気を楽しむ。
葡萄畑が盛んなこの町は他の地方からもワインを求め人がやってくるので一番の賑わいをみせる時期だ-----。
広場に集まった群衆の中で戸惑う私を尻目にアランが何か言いたそうな顔をする。
「な、なに…?」
アラン
『お前、…今日こそは誰からも離れないで近くにいろよ?!市場よりもすげぇ人だかんな…』
「わ、わかってるわ!」
買い物の事があってからかアランが迷子を心配する。
……今日こそは大丈夫よ。皆の近くから離れないもの……
私や、皆は広場で演奏者達の曲に耳を傾ける
クロード
『素晴らしい奏でだ!人間とは不思議な能力を持っているな…。あれは私にも出来るのか?』
隣で聞き入るクロードが珍しく他人に興味を示す。
「どうかしら…、クロードは音楽が好きなの?」
クロード
『……美しい音色は種族をこえても愛されるよ。』
そう言った時にはクロードが人をかき分け中央に向かってしまった……
「まっ…まってクロード!!ダメよ!!」
シャルルとリディは顔を合わせて笑みを浮かべる。
皆より背の低いジゼルはシャルルに抱っこされて広場の中央を覗く-----
『面白いものが見れるよ?さ…。』
「く…っクロード!!?」
私が見た時には演奏者のバイオリンを取り上げて、かまえる所だった…。
「何してるのよ…もう。アラン!止めなくていいのっ!?」
初めて見たクロードの行動力の速さに、目を丸くしてハラハラする。
アラン
『大丈夫だろ…ぷっ、あいつは全く…まぁ…見てろ。』
余裕の笑みを浮かべるアランを見て心配な顔で中央を覗く。
------------そこから聞こえたのは美しいバイオリンの音色
一瞬、雑音が消え静まりかえる広場。
黒髪の小さな整った顔が音色に合わせて静かに動く……。
目を閉じて、ゆっくりと響く音色にクロードは身を任せるように奏で………。
聞いた時はない曲だけど、心地のよい曲に演奏会場の人々は凛然たるクロードの演奏に聞惚れて目を奪われる。
空まで鳴り響くバイオリンの音がアリスの感受性を豊かにし、
演奏者達も刺激をうけるように、クロードとのハーモニーを楽しむ。その光景はまるでオルゴール箱の中を覗いてる様な感じだ。
「すごいわ…、とっても素敵な曲ね…」
清らかで慈しむ様なクロードの演奏。。ずっと聞いていたいわ…。。
きっとその場にいた人達は皆がそう思っただろう、その時間はあっという間で、終曲になり広場には拍手が鳴り響く--。
クロードが満足そうに微笑んで戻ってきた。
リディ
『素敵だったわよ?クロード。』
シャルル
『あぁ!いい演奏だ…。不覚にも君に見とれてしまったよ。』
「おかえりクロード!…バイオリン上手なのね?」アリスが話すと首を傾げながら答える。
クロード
『ぁあ…!あれがバイオリンか……。初めて触ったよ。』
「…!!?っ初めて…?!」
クロード
『一度みれば、あれぐらい弾けるだろ。』
アリスは絶句した、観客を一瞬で虜にする演奏が初めてのもの…。普段意識しないようにしているが種族の違いとはこーいう所でも出るのかと凄い能力に驚いた。
クロードの演奏が終わるとさっきまでの広場が元の光景に戻る-------。
「あれ?アランがいないわ…。」
シャルル
『彼の事だ…。どこか見に行ったのだろ、僕達もそろそろ他を見てまわるかい?』
心配そうな私を見て、すぐに合流するよと笑いかけるシャルル。
すると、リディも心配ないと話しジゼルの手を掴みながら人ごみの露店外街を指差す----。
リディ
『ねぇ!…私あそこが見たいわ。早く行きましょ!』
彼女の指差すとこは、綺麗な布やドレスを飾ってある店だ
「ええ!そうね、私も気になるわ。」
まさにリディとシャルルが好みそうな露店、足早に皆と向かう。
途中、アリスは気づくと人の視線を感じる。
すれ違う人の目線を追うとみなクロードやシャルル、リディそしてジゼルに目を奪われていた------。
アリスには見慣れた光景だが、人々は美しく着飾った白く透き通った肌の彼たちに異様な関心を持って近づく。
--------そうよね…これだけ目立つもの仕方がない、でも何だか皆そろって外で見ると凄い迫力だわ。
クスクスっと笑いながらアリスは後をついて歩く。
露店人
「おじょうちゃん、綺麗な髪だね~。髪飾りはいかがだい?」
ジゼルはリディの裾を掴んで笑顔で首をふる。
皆を見てうっとりため息を呑む露店人、アリスは少し誇らしくなり嬉しくなった。
露店人
「はぁぁ…しかしあんた達、外国の方かね?えらいベッピンさん揃いだ!!」
リディ
「ええ…。そうですの。んふふ…」
リディにかわされた露店人は顔が赤くなっていた-----。
立ち並ぶ露店街は、先日の市場よりも凄い人達であふれている。目当ての店を見てまわってると、クロードとシャルルが向かいの店を見てくると言い残し立ち去ってしまった。
リディ
『これで女性だけになったわね?さっ…ジゼルもアリスさんも楽しみましょ?』
三人だけでのお買い物を楽しんでいると、女の子と初めてのお買い物経験にアリスは胸が高鳴った。
アンティークな骨董品や絵画の並ぶ店、女性の集まる店では絹の美しい生地でドレスのデザインを語る、リディとジゼルは今のドレスがとても気に入ってると言ってくれたが、二人のドレスをもっともっと作ってあげたくなる。
そんな話しをしながら人混みにまみれながら進み足を止めると銀細工の店で目を奪われた「二人ともねぇ見て!……素敵な細工ね…」
騒音の中で二人を呼ぶ。
-------ドスンッ!!-------------
「あっ…!ごめんなさい。。人が多くて…。」
町人
「…………?!」
ぶつかった先には男達が並ぶ、アリスが謝ると細いアリスの腕を掴み、
町人
「…こりゃ、すげぇ美人な子だなぁ!お祭りは人が多いから女の子だけじゃ危ないだろ…へへへ。」
「い…痛い。あ、あの…」
リディ
『…その手をお離しなさい!』
町人
「ったまげた!!3人揃っていい女だなー。祭りでは初めて見る…どこの屋敷のお嬢さん達だい?一緒にワインでも注いでくれよぉ、なぁ?ハハハハッ!」
リディが鋭い目で睨む
リディ
『下衆の男が触れていい女性ではなくてよ?頭の中が下劣過ぎて顔にも滲み出てるわね…クスス』
リディの一言でアリスの手は離されたが、男達がリディに向かって酷い形相をする
町人
「---ぁあ゛?!なんだどぉ!おねぇさんはお口が悪いみたいだなぁ。」
交わす言葉は人々と祭りの騒音で二人にしか分からない程だ…
リディ
『げ・れ・つ、と言いましたの…私を不愉快にさせてはいけなくてよ?……私、あなたのような方に加虐を加えても何の得も無いのですもの…。。』
その間も人の波は流れ、手を離された私は違う男に掴まれて力強くその場から引き離された-----
「…いやっ。離して!やだ……リディ助けてっ」
気がつくと一瞬で人波をぬけて抱えられたまま、路地に連れてかれた。数人の男に囲まれて声をあげるも、通りには煩くて全く届かない。。
怖い…助けて…、誰かっ…
リディ達の姿もない路地に連れてこられてしまったアリスは涙を浮かべ、恐怖と狭い路地の冷たさで絶望的に震える。
町人
「ぁあ…確かにいい女だな…」
「!!…」
首をなぞった、かたい男の手がアリスの口元にかかる----。
さっきまでの楽しい状況がなぜこうなったかなんてパニックでわからない。
漂う酒の匂いと路地裏の暗さで全身に力が入る中
気味の悪い笑いを浮かべる男達に、顔を伏せ泣きながら恐怖で声を出せないアリスは必死に叫んだ…、
「…すけてっ…っ。」
お願い、、アランどこに居るの…。アラン…っアラン----------。
男の手が腰に回され顔が無理やり近づく
「っいや……アラン--!!たすけてーっ!」回された男の手に力が強く入ると
瞬間------。
私達を目映い光が覆った。鋭い光に目を射られ、ゆるんだ手を振り払い思わず手をかわす
「…っい…いてぇぇぇぇっ」
見えない先の男たちの声で異変を感じ取った。
光の残滓が消えないままの歪んだ視界に残薄な笑みがちらつく、私は何度も瞬きをして必死に状況を確認する。
男達の身体を戒めていたのは、鋭く棘を持つイバラのツルだった…
その先に立ってたのはアラン-----。
「…アラン…?アランっ!!これは---。」
変貌したアランに混乱しながら名前を呼ぶとアランは感情を消した声でささやく。
『……お前ら…誰に触れてる……』
アランの言葉の後に戒めるイバラがギリギリとさらに男達を締め付ける
「っぐ…ぐぁぁああ…っ!!」
彼らの服には血が滲み、地面が赤く染まっていた
アリスの足にもツルが巻きつく、この力は本物。決して幻なんかじゃない…
外の通りからは感じれないほどの静まり返った路地、イバラの締め付ける音と男達のうめき声だけが響く。
「---アラン、…なんで…こんな事ダメよ…」
私は、足に巻く痛みに顔を歪めながらもアランを見つめた。
うつろな瞳で笑いながら、彼はささやく
『……アリス、こんな奴らに触れさせる位なら、ここで息を止めてしまえ…。俺が消してやる…』
彼の言葉は狂気の色を帯び、視界に映る棘と同じくらい危険な響きを持っていた。
これが----アランの力?!
……けれど、その瞳には狂気と同じ程の悲しい光が射している。怒りで放つ力の奥にはやるせない程の悲嘆な影…。
「アラン、…離してあげて…。私は大丈夫だから…っ!…この人達死んでしまうわ……っ」
『…ッ!』
--------そう。
怒りで狂気に変わったアランの力をこんな形で使わせたくない……
掟や能力の事なんて分からないが、人間の前で…アランに凶器として使わせてしまったなんて…
アリスは気づいてしまった-----。こんな状況で我を忘れる程の狂気を持ってもアランの優しさを…
きつく巻きつく自分の足には棘がない…
血が出ていなかった。
……彼の、心の優しさに……
「っ…アラン…」
涙が頬をつたうと、次の瞬間---。急激に足の締め付ける感覚がなくなる。
男達の戒めていたイバラのツルは路地の闇に溶けるようにして消えていった……
私はその場に座り込みアランを見ると、彼は壁にがっくりとうなだれている。………まるで泣いてるかのように。
「アラン……」
座り込んだアリスの前にアランが近づく
……怒られるっ……と思った時、彼の腕の中にいた。『…………。』
『……よかった…無事で。…本当に良かった……』
「…………っ。」アランに抱きしめられた腕でさっきの恐怖から解放された安心で泣いた。
『悪い…、怖がらせて……。』「……ううん。怖くない…来てくれてありがとう…アラン。」
『………………。』泣かないで、と言いかけて私はすぐに口を閉ざす。
人形である彼は泣けない。どんなに悲しくても、涙を流せない。
そのはずなのに…『アリス……っ。』震える声が、ぽつりと呟く。
アランはゆっくりと私の身体を離し、顔を見ると泣き笑いのような顔で言った。
『----っこのばか!!心配かけんなっ…』
路地を出て皆を探しに行く時にはいつものアランに戻っていた------。
倒れこむ男達が生きてるかと心配になって聞くと
『…はぁ?バカかお前はっ!!どんだけお人よしなんだよっ…つーか殺してねぇよっ!!』
夜には目が覚めるだろと言って、皆と合流するまでやっぱり延々と説教された。
---結局、リディ達と会えた頃にはドレスが挑発させたんだ!やら散々の言葉を浴びてまた泣きそうになっていた。。
でも…はぐれない様にそっと手を握りながらのお説教。
ジゼル達に会って聞くと-----。
彼女達は彼女達で…何かを使ったのか露店の店が一つ消えたらしい…。。後始末に苦労したわとリディが呟く。
それ以上は聞かず、私もさっき起きたアランの事は話さなかった-----。
もしかしたら、皆は何かを感じていたのかも知れないが…アランに連れられて戻った時、リディ達は安心した顔で歩き出した。
今度は「みんな一緒に」と残りの店を回り、日が暮れて街灯のついた川辺をゆっくり散歩して家路についたのだった。
初めてのお祭りは一生忘れない程の一日で、あっという間の時間…。
家に帰ってもリビングの中はお祭りの様に皆は元気で…うるさくはしゃいでいた。