「You Can't Save Me」=
「カート!」
アランが叫ぶ。
カートの腹部に、獣の爪が深く入り込み、
血がこぼれる。
「っく……」
カートは口から血を流しながらも、
力を振り絞る。
身体にノイズが走り、その場から消えるカート。
獣は困惑し、慌てて周囲を見渡す。
カートは獣の背後に現れ、引き金を引く。
乾いた音が響き、
獣は悲鳴を上げて逃げ去った。
カートの腹から血が溢れている。
アランは狼狽え、足が震えていた。
それでもカートはアランへ駆け寄る。
アランは力の入らない身体で、
倒れ込むように寄ってきたカートを抱き支えた。
「アラン……」
かすれた声で語りかけるカート。
「……すまねーな。俺としたことが、ドジっちまった」
カートは苦笑する。
血が落ちていく。
「らしくねーよな」
アランの顔を見て、
わずかに目を細める。
「そんな顔するなよ……」
カートの呼吸が浅くなる。
アランはただ見つめることしかできなかった。
何が起きているのか掴めない。
理解しようとする意識を、
どこかで拒絶していた。
それでも、カートは言葉を続けた。
「呪いみてぇに聞こえるかもしれねぇが……生きろ」
短く息を吸う。
声はかすれていた。
「全部、背負え。
仲間の死も、痛みも、悔しさも……全部だ」
アランの肩に手を置くカート。
力が抜けていく。
「選ばれたとか、期待されてるとか……そんなの関係ねぇ」
目が揺れ、焦点が合わなくなる。
「お前自身が……したいことを……
成し遂げなきゃいけないと思ったことを……」
言葉が途切れる。
カートの喉がわずかに震えた。
「……進め、アラン
……俺の死を、超えていけ」
カートは静かに瞳を閉じた。
「カート……?」
返事はない。
風の音だけが、岩場の隙間を抜けていく。
アランの喉が震える。
胸の奥が、ひどく痛む。
アランの叫び声と、
涙の落ちる音が、岩場に落ちた。
うだるような暑さの中で、
セレーネは遠くの塔を見つめていた。
風は弱く、
雨雲がゆっくりと形を変えている。
セレーネは崩れかけた納屋に入る。
納屋の中には、傷を負ったネモが、
寝ていた。
セレーネはネモのそばに立ち、
まだ荒い息をしている彼を見つめる。
苦痛の色が残ったまま、
ネモはゆっくりと顔を上げた。
「……なんで助けた」
声はかすれ、怒りとも困惑ともつかない。
セレーネは少しだけ視線を落とす。
影が揺れた。
「どうしてだろう」
言葉を探すように、短く息を吸う。
「ただ……みんなも、こうするだろうと思って」
ネモは眉を寄せる。
理解できない、という顔。
「水、取ってくるね」
セレーネは静かに呟きその場を離れる。
ネモに飲ませる水を汲むため、
川辺へ向かうセレーネ。
水面に手を伸ばしたとき、
かすかな悲鳴が聞こえた。
振り返ると、
青年がショクブツに追い詰められている。
セレーネは迷わず駆け寄る。
ショクブツと青年の間へと
割って入るセレーネ。
「逃げて!」
セレーネは、青年を庇うように手を伸ばした。
青年は逃げようとするが、足がすくんで動けない。
ショクブツと睨み合うセレーネ。
セレーネは一歩踏み出し、
ゆっくりと腕を動かした。
ショクブツの背後を指差すセレーネ。
「戻りなさい」
そう呟くと、ショクブツは従うように、
根を引きずりながら後退した。
土を擦る音だけが残る。
青年はその場に座り込んだまま、
セレーネを見上げる。
恐怖で顔が強張っている。
「……な、なんだよ……お前……」
セレーネは答えない。
ただ、青年の無事を確かめるように視線を向けた。
青年は震える手で斧を掴む。
「化け物……!」
斧が振り上げられた。
右肩の裂け目は深く、
肉の奥まで割れている。
赤い血が滲み、土に吸い込まれていった。
身体が動かない。
視界は地面に近く、
世界が斜めに揺れている。
騒ぎを聞きつけたのか、
もう一人の村人が駆けつけてきた。
「おい、大丈夫か」
倒れたセレーネを見て、
男は息を呑む。
斧を持った青年に向かって叫ぶ。
「おいお前、何やってんだよ」
青年は震えた声で言い返す。
「こいつ、どう見ても人間なのに、
ショクブツを操っていたんだ。
村に持ち帰れば、
……ショクブツたちから怯えずに済むかもしれない」
「は……?」
「いいから手伝え。
こいつを村に持って帰る」
セレーネの腕を掴む手は乱暴で、
泥が顔にかかった。
身体は重く、
影だけが冷たく落ちていた。
土の上に投げ置かれるセレーネ。
赤い血が滲むように地面へと広がっていた。
「おい、こいつ……」
一人の村人が怯えるように呟く。
村人はセレーネの傷口を見つめている。
傷口は繊維のように解け、
まるで“縫う”ように動き始めていた。
裂けた肉が、
ゆっくりと寄り合い、
引き寄せ、
静かに形を取り戻していった。
肩が完全に閉じると、
セレーネの指がわずかに動いた。
村人たちが後ずさる。
セレーネはゆっくりと上体を起こしていく。
「……生きてる……」
村人たちは恐怖で声を失う。
「化け物め……!」
斧を持った男が震えながら近づく。
セレーネは
自分の肩に触れる。
裂け目はもうない。
音もなく立ち上がるセレーネ。
その動きは静かで、
どこか落ち着きを放っている。
村人たちは耐えきれず叫び出す。
「くそ! くそ! くそ!」
斧が振り上げられる。
セレーネは動かず、
ただただ、悲しそうな表情をした。
斧が振り下ろされようとした瞬間、
空気がわずかに揺れた。
「……やめとけよ」
背後から、乾いた声が落ちる。
村人たちが振り返る。
陽の逆光の中、
黒い影がひとつ立っていた。
ネモだった。
風に揺れる外套の端だけが、
かすかに光を拾っている。
「それ以上やると、面倒になる」
ネモは歩み寄りながら、
表情を変えない。
村人の手が震え、
斧の刃がわずかに揺れた。
「お前も化け物か!」
恐怖に駆られながらも、
村人たちはネモへ襲いかかる。
「ッチ」
ネモは苛立ち、
怒りともつかない表情を見せた。
「やめて!」
セレーネが訴えるように叫ぶ。
しかしネモは振り返らず、
腕のアーマーに電池を装填した。




