交わる
アランが拐われてから数日が経った頃。
汽車は広大な荒野を走り抜けていた。
その行き先には、巨大で奇妙な形の塔がそびえ立っている。
タケルは神妙な面持ちで操縦桿を握っていた。
「……あの二人なら大丈夫だよ」
セレーナが淡々と声をかける。
「二人一緒ならな……」
タケルは顔をしかめる。
セレーナは言葉を失い、追い詰められたように視線を落とした。
タケルの横で、ただ静かに佇んでいる。
そんな二人を、少し離れた位置からマコとタツが心配そうに見つめていた。
アランが拐われてから一週間が経った頃。
ベックとタツは車の修理に取りかかっていた。
「やっと動きそうだ」
車の下からタツが這い出てくる。
「ワリーな」
地図を眺めていたベックが声をかける。
ベックのコートを羽織り、タツは車に飛び乗った。
「カートの野郎、どこに行きやがった」
ベックはエンジンをかけながら吐き捨てる。
「アランのやつ……大丈夫っすかね」
タツが不安げに呟く。
ベックは軽く頭をかき、深いため息をついた。
「アル達に追いつくぞ」
そう言って、車は荒野へと走り出した。そう言って、車は荒野へと走り出した。
暗闇の中、アランは一人で立ち尽くしていた。
呆然と周囲を見渡した瞬間、砂嵐が襲いかかる。
思わず腕で顔を覆い、恐る恐る目を開けると、
砂嵐はいつの間にか雪嵐へと変わり、あたり一面が銀世界になっていた。
困惑するアランの周囲に、ぽつぽつと温かな光が灯る。
その光に安堵したのも束の間、光は急速に膨れ上がり、熱を帯びていく。
気づけばアランは、燃え盛る村の中にいた。
四方から阿鼻叫喚が響き、アランは恐怖に後退る。
背中に何かが触れた。
振り返ると、長い髪を揺らす青年が、無表情で立っていた。
青年は紫色の瞳をしており、手には猟銃を握っている。
猟銃の木肌には細かな彫りが刻まれており、古い金装飾が輝いていた。
銃口がアランに向けられる。
次の瞬間、ベックが被弾して倒れる。
アランは必死に逃げ、深い森へと飛び込む。
息を整えたのも束の間、周囲の植物がショクブツへと変貌し、アランに襲いかかる。
ツタに絡まれ、もがくアラン。
そんなアランの前にセレーナが現れる。
アランは必死に手を伸ばす。
ようやく触れたセレーナの身体は植物でできており、驚愕するアラン。
反射的にセレーナを刺すと、背後から憎悪に満ちた雄叫びを上げてタケルが迫る。
狼狽えるアラン。
気づけば目の前のセレーナはカートに変わっており、
カートは血を吐いて崩れ落ちた。
地面に広がる血は沼のように波打ち、
そこから無数の血まみれの手が伸び、アランを引きずり込もうとする。
ふと上を見上げるアラン。
空中では無数の鎧が争い合っていた。
そのうちの一機が撃墜され、炎をまとってアランの方へ落ちてくる。
アランは息を荒げたまま、闇の中で身を起こした。
汗に濡れ、荒い息を吐きながら周囲を見渡す。
白い壁と小さな窓だけがある、静かな部屋だった。
薄いカーテン越しに差し込む光はやわらかいのに、どこか冷たさを含んでいる。
ベッドも机も簡素だが、手入れの行き届いた高級感がほのかに漂っていた。
冷たい空気の中で、コツコツと足音が近づく。
静かに扉が開き、優しそうな青年が部屋に入ってくる。
「調子はどうだい?」
柔らかい声でそう尋ねる青年。
アランは反射的に身構えた。
青年はその様子に気づき、少し困ったように微笑む。
「……あぁ、すまない。私の名前はリエム。リエム・エレンだ。よろしく」
そう言って、ためらいなく手を差し出した。
ところは変わって、とある湖畔。
その上には、一機の飛行機が悠々と浮かんでいた。
「目的地が見えてるっちゅーのに、厄介やな」
男は地図を見ながら、機体の上で寝そべっている。
「もっと、いっぺんにギョーさん燃料があればなぁ」
そうぼやきながら、遠くの塔を見つめた。
ふと岸辺に目をやると、ショクブツがうじゃうじゃと蠢きながら移動している。
「ほな、燃料取りに行きまっか」
男は軽く伸びをし、飛行機のエンジンをかけた。
水上を滑るように加速し、そのままショクブツの群れへ突っ込む。
機体の先端から弾丸が放たれ、ショクブツたちを次々と吹き飛ばしていく。
「よっっしゃー!」
男はガッツポーズを決め、その勢いのまま機体を空へと引き上げた。
飛行機は空中で一回転し、そのまま地上へ着地。
ブレーキをかけて機体を止めると、
「貰うもんもらって、さっさとずらからんとな」
そう呟き、寂れた風車小屋へ足を踏み入れた。
「電池はどこや……」
小屋の扉を開け、中を覗き込む。
その瞬間
「随分遅かったな!」と背後から声が飛んだ。
男は慌てて振り向く。
そこには銃を構えたカートが立っていた。
「あんたさん。誰や?」
寂れた小屋に、緊迫した空気が満ちていく。




