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「アル! 武器を用意してください! すぐに出ます!」

タケルの肩を借りながら、シモンズが汽車に乗り込む。

足元がふらつき、タケルが思わず腕を回して支える。

「っち……」

アルは舌打ちし、爪を噛む。

「おいおい! そんな状態で戻っても……やられにいくようなもんだぞ!」

タケルはシモンズを座席に座らせながら言う。

声が少し荒い。焦りと苛立ちが混じっている。

アルは銃に手を伸ばしかけ、そこで止まる。

「二人とも落ち着け。相手は人間だ。そう簡単に危害を加えたりは――」

タケルが言いかけた瞬間。

「甘いな」

アルが、いつもより少し低い声で言い放つ。

自身の迷いを押し潰すように腕を下げ、視線をタケルへ向ける。

「これまで、いくつ村を見てきた?」

そうアルに問いかけられ、

タケルは口を開きかけ、止まった。

返す言葉が見つからない。

「ハンナ……私がついていながら……」

意識を保とうと力むシモンズの手が、タケルの腕を強く握りしめる。

服が引きつれ、深いシワが刻まれる。

額に汗を滲ませ、険しい顔をしているシモンズ。

「どいて!」

アルはタケルを押し除け、シモンズの服をめくる。

脇腹には、紫色の大きなあざがあった。

「ショクブツとの戦いでやられていたか」

アルは救急箱を取り出し、手当てを始める。


石と鉄だけの、無機質な牢屋の中。

ハンナは差し込む月明かりで目を覚ました。

「う……ここは」

そう呟き、辺りを見渡す。

「っ、マコさんは?!」

慌てて周囲を探すと、

「うるさいね。そんな騒ぐんじゃないよ!」

上の方から声が落ちてきた。

視線を向けると、

壁の高い位置にある小さな鉄格子窓にしがみつき、

マコが外を伺っていた。

「ダメだ、出れそうにない」

そう言って、マコは軽く飛び降りてくる。

「私たち、捕まってしまったのですね……タケルさん達も心配です」

ハンナは袖をまくり、後ろ髪を束ねる。

「あんた、意外と冷静だね」

「そういう、マコさんこそ」

マコは鼻で笑い、

「アタイは、元々村のハグレモンで、生贄にまでされたからね」

「そうでした……」

ハンナが小さく返すと、マコがふと問いかける。

「もしかして、アンタも?」

「いえ。私の村は兄様が納めていましたので、そのようなことは……

 けれど、旅の途中で各地の人々と対立したことは二回ほど……

 気候変動とショクブツで、皆さん怯えているようでした」

「あたしに言わせりゃ、ただの臆病者だよ」


牢屋の中に、静かな空気が落ちた。

「なぁ、シモンズのこと兄って言ってるけど、本当の兄弟なのか?」

「いいえ、義理です。ですが、小さい頃からの幼馴染でして」

「ふーん」

マコは壁に背を預け、ちらりとハンナを見る。

「好きなのか」

「へっ?! いや、そんな、私は……」

「分かりやすいな」

マコは笑い転がる。

「シモンズみたいなのは、はっきり言わないと気づかないよ」

「いいんです。兄様に対しては、好きっていう感情とは別の感情もあるんです。

 多分そっちの方が強いんだと思います」

ハンナは胸元を押さえ、少しだけ目を伏せた。

「兄様なら世界を変えられるんじゃないかと……

 平和な世の中を作れるんじゃないかと」

そう言い終えるや否や、

重い音を立てて牢屋の扉が開いた。

村人たちが、無言のままゾロゾロと中へ入ってくる。



シモンズの脇腹に包帯を巻いているアル。

シモンズは浅い呼吸を繰り返し、額に汗を滲ませている。

セレーネは不安そうに窓の外を見つめていた。

指先が窓枠を掴んだまま、微かに震えている。

そのとき──

バイクのエンジン音が響いた。

セレーネが振り返る。

タケルがバイクに跨り、村の方へ走り出していた。

「タケル……? どういうこと……」

アルは包帯を結びながら、短く言う。

「俺らが行っても足手まといになるだけだろ」

セレーネは窓の外を見つめたまま呟く。

「でも……一人で行くなんて……」

アルはため息をつき、外へ目を向ける。



バイクが村の前で止まる。

タケルは村人達の険しい視線を一身に受ける。

「分かった、分かった。大人しく言うことを聞くよ!」

軽く頭をかき、苦い顔をするタケル。

両手を上げ、村へ向かってゆっくり歩き始めた。

数人の村人が無言で距離を詰めてくる。

タケルはふっと立ち止まり、

わずかに視線を落とす。

次の瞬間、村人の背後に回り込む。

片腕で相手の首元を押さえ、

もう片方で銃を構えた。

「動くな!」

そうタケルが叫ぶと、村人達は狼狽える。

「二人を解放しろ!」

タケルは相手の側頭部に銃口を押し当て、大声で呼びかけた。

ざわつく村人達の中から、一人の男が現れる。

男はタケルを見つめる。

「致し方ない」そう男が呟くと

マコとハンナが縛られたまま連れ出される。

「旧時代の遺物を置いていけ。そうすれば、アイツらを解放してやる」

「なんだと……」

タケルは言葉を失い、わずかに眉を寄せた。

「あんたらは旧時代を忌み嫌っているんじゃないのか?」

男は不思議そうに首を傾ける。

「忌み嫌う? 我々はずっと求めていた。それがあればショクブツに対抗できる。生活も豊かになる」

タケルは短く息を吐いた。

「本当に、これを渡せば解放してくれるんだな」

「全ての遺物をもらおうか。あの乗り物もだ」

男はバイクを指差した。

タケルは拘束していた村人を突き放し、銃を投げ渡す。

男がそれを拾い上げ、ゆっくりと腕を上げた。

銃口がタケルに向く。

「騙しやがったな」

タケルは眉間に皺を寄せた。

男はタケルを見据え、引き金に指をかける。

その瞬間

別方向から鋭い光弾が飛び込み、村人の肩を貫いた。

倒れ込む村人。

肩を抑え悲鳴を上げている。

「なんだ!」

タケルから視線を移し、慌てふためく男。

村人達が一斉に光弾の飛んできた方向へ振り返る。


汽車の屋根上で、

シモンズが腹這いになり、銃を構えていた。

照準器の奥で、タケルの姿が揺れる。

シモンズは無言で村人達を次々と撃ち抜いていく。

電池を交換しようと、側に置いた袋へ手を伸ばす。

電池を掴み、銃に装填しようとするが、袋から取り出した電池は使用済みものであった。

そこへアルが険しい顔でやってくる。

「まさかとは思ったが、本当にやりやがったな」

そう言うアルに対し、シモンズは軽くため息をつき、袋をひっくり返す。

中身はすべて空の電池にすり替えられていた。

「人殺しの片棒担ぎたくないんでね」

アルはぶっきらぼうに言い放つ。

シモンズは銃から手を離し、静かに言う。

「機関銃を使えなくしたのはあなたでしたか」

アルは視線を逸らした。

「みんな、らしくねーんだよ」

そう吐き捨てて客車に戻る。                                   

「甘いですね」

シモンズは片膝を立てて座り込んだ。



村人達の阿鼻叫喚が響く中、

タケルは混乱に乗じ、ハンナとマコを助け出す。

「おせーよ!」

マコが悪態をつく。

「タケルさん、後ろ!」

ハンナが叫ぶ。

刃物を掲げた村人がタケルに襲いかかる。

タケルは間一髪でかわし、蹴り飛ばす。

だが、別の村人が背後から棒を振り下ろす。


タケルはもろに受け、よろめき、地面に倒れ込む。

「タケルさん!」

「タケル!」

ハンナとマコが叫ぶ。

「……いってーじゃねーか」

タケルは静かに呟き、ゆっくりと立ち上がる。

頭から血を流しながらも、

二人を庇うように前へ出る。

「あいつみたいに、上手くいかないな」

タケルは苦し紛れに、かすかに笑った。

アランの背中を思い出し、静かに覚悟を決める。


「……タケル」

汽車の窓からタケルを見つめるセレーネ。

その瞳には、涙が滲んでいる。

セレーネの体から青白い光が静かに放たれる。

すると突然、遠くの地面が低く震えた。


「なんだ……?」

足元が揺れ、タケルも村人も異変に気づく。

「おい! あれ!」

マコが空を指さして叫ぶ。

見上げると、ショクブツの影がいくつも浮かんでいた。

「いつの間に……」

村人たちは悲鳴を上げ、四方へ逃げ散る。

呆然と立ち尽くすハンナ。

その視線の先、遠くの地平には

巨大なショクブツが一列に群れをなし、迫っていた。

ショクブツはタケルたちを囲むように、ゆっくりと距離を詰めてくる。

「あんなの……見たことない……」

ハンナが震える声で呟く。

空のショクブツが村人へと襲いかかり、

土埃が舞い上がる。

「今だ! ずらかるぞ!」

タケルたちはバイクへと駆け出した。


数週間後

風の音だけが響く廃村にカートの姿があった。

崩れた家屋を見つめるカート。

そこには一本の刀が突き刺さっていた。

「アイツら、地図通りじゃなくなったな」

カートが呟く。

その背後で声がした。

「おーい!」

振り返ると、一人の青年が立っていた。

「調整終わったけん、いつでも出られるで」

青年の隣には、砂埃で汚れた飛行機が佇んでいる。

「いやー! あんたさんが“電池”持ってきてくれたおかげで、相当短縮できたんよ」

青年は丸めた地図をひらひら振って見せた。

「今までは燃料補給せんといけんけぇ、地図通りにしか動けんかったんじゃけど。

ライバルから電池を奪えば、もっと短縮できるじゃけん」

カートは眉をひそめる。

「君さ……その“あんたさん”っての、やめてくれない?」

苦笑いを浮かべるカート。

その軽い仕草に、シライはニヤリと笑った。

「ほいじゃあ、うちもシライ・アラタゆう立派な名前があるんですよ、カ・ー・トさん」

と嫌みたらしく区切って言う。

シライは続けて、

「まったく、塔まで乗せてけって脅迫してきた時とは、えらい違いやな……」

とため息混じりに呟いた。

そんなシライを無視するように、

カートは少し離れた位置にある線路を見つめる。

「……奇跡か、それとも、、」

カートは

地面に残るタイヤ跡へ視線を移した。

その跡は、遠くに見える塔へと伸びていた。

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