<2-1>出兵の決算
「ふふはははは。
いやー、いいねぇ、僕達を魔王の手先に仕立てるとは、サラも大人になったねー。
それに、兄貴の失態も大々的に報じてくれたし、僕としては万々歳だよ。
いやー、楽しい放送だったなー」
サラが建国宣言を行ってからしばらくした頃、城内の会議室に第2王子の笑い声が響いた。
王都全体に謎の声が響き渡り、その内容が自分達への宣戦布告だと判明したため、急ぎ会議室へと集まってきた第2王子派の首脳達は、普段以上に機嫌の良い自分達の主に戸惑いの表情を浮かべている。
しかし、そんな部下達の雰囲気を気にせず、第2王子は、気の向くままに笑い続けた。
「……アルフレッド王子、第1王子派が例の魔玉の回収を行っていますが、我等も回収致しますか?」
「ん? 回収? いや、いいよ。どうやったかは知らないけど、どうせサラが付与魔法を使ったんだろうし、回収して分析しても、魔法が使われた痕跡がある、ってことくらいしかわからないと思うよ。
それに、必死な形相であの魔玉を回収なんてしたら、自分達は魔王の手先です、って言ってるようなもんだしね。
幸い、その汚名は兄貴が引き取ってくれるみたいだから、この隙に、今回の出兵失敗を追及して兄貴から徴兵権限を奪い取ることにしよう。出来るよね?」
「……はい。可能ではありますが大量の人でが必要です。
……勇者国なる集団は放置する御積りですか?」
「んー、勇者国ねぇ。……どうせ、勇者って言っても偽者を祭り上げただけだろうから、あんまり興味ないんだよねー。
付与使いと土使いが集まって、どうやって召喚魔法を使うんだよ、って話しだし。
あっ! もしかすると、土人形に付与魔法をかけて、これが勇者です!! なんてやってんのかな。うん、たぶんそうだよ。それはそれで面白いかも。
あー、けどねぇー、妹達って遊んでても面白くないんだよね。張り合いが無いというかさー。
やっぱ、敵対するなら兄貴だよ。
いやー、今回の出兵は驚いたね。まさか、王都の集団演習で僕の目を釘付けにして、その間に徴兵と出兵を行うなんてさー。
うん、やっぱり、遊ぶなら兄貴だね。君もそう思うでしょ?」
「……はぁ、……確かに、今回の出兵には驚きましたが――」
「そうでしょ、そうでしょ。
いやー、今回のことで徴兵権まで失った時に兄貴がどう動くのか、それが今からすっごく楽しみだよ。ワクワクするね」
「…………、畏まりました。それでは、第1王子派から権力を奪うことに注力するということでよろしいですか?」
「うん、出来るだけ早くでよろしくー。
あ、あと、ジュースのおかわりもよろしくー」
畏まりましたと恭しく頭を下げ、第2王子の側近は御機嫌な主の側を離れた。
一方変わって第1王子の会議室は、ピリピリとした空気が場を支配していた。
「チッ、愚妹の分際で……。皆殺しにしてくれれば良いものを……。クソ。
しかも何が勇者国だ。女の分際で粋がるなよ」
その原因は無論サラの宣言にある。
自分の失態が世間に知れ渡り、さらには宣戦布告までされたのだ。その心中が穏やかなはずが無い。
そして第1王子が、市民や世間、神や魔王、ついには自分の信じる神にまで毒づき始めた頃、彼のもとに、魔玉の回収を命じていた兵士が現れた。
「報告します。
魔玉の回収率は3割を越え、順調な集まりを見せています。
また、その出所なのですが、どうやら塩街道の路上で少女から購入した話す者が多く、その場所も敵の本拠地である洞窟に程近い場所だったとの事です」
「……そうか、やはり、商人を介してばら撒かれていたか……。
その商人共は敵の戦力だ。即刻、拘束しろ」
「っ、……魔玉を持っていた者、全員、で、ございますか?」
「あぁ、そう言っている」
「彼らは知らずに購入を……、い、いえ、失礼しました。それでは、作業にかかります」
「あぁ。……いや、少し待て。回収した魔玉の分析について報告を受けてないんだが?」
「…………」
第1王子の威圧に圧倒され、自分の言葉を飲み込んでその場から逃げ出そうとした兵士は、更なる追求に冷や汗を流す。
しかし、はっきりと、報告せよ、と言われた手前、報告を濁すことなど出来ない。
半ば諦めにも似た感情で自分に気合を入れた兵士は、恐る恐る報告を始めた。
「……申し訳ありませんでした。報告させていただきます。
分析についてなのですが、現在、魔法使い達の協力が得られず、作業は進んでおりません」
「……なに? どういうことだ」
「我々が分析を命じたところ、協力は出来ない、と返答されまして……」
「……その理由は?」
「…………先の出兵が原因だと、ハッキリと言われました」
「ちっ、愚弟が手を回しやがったか。
よくわかった。お前はもうここに来なくて良い。以上だ」
「……畏まりました」
肩を落として会議室を退出した兵士は、その日のうちに等級を一般兵にまで落とされた。その理由は顔が気に入らないと言うもので、完全な八つ当たりであった。
その後、今回の失態を理由に、徴兵権が第1王子派から第2王子派へと移り、第2王子派の勢力が強まりを見せた。
しかし、徴兵権を失ったとしても、第1王子派の権力は巨大な物であり、結果として、両陣営の力が拮抗する形となり、第1王子と第2王子の争いは激化の一途を辿った。
その結果、どちらの軍も勇者国は放置することが決まり、サラの予測は見事に当たることとなる。




