<52> 100人で木を切りに行こう
日間ランキング 84位 に入りました。(2015.8.16)
誠にありがとうございます。
「良し、全体止まれ。
……准男爵様、前方に敵基地と思われる洞窟を発見しました、指示をお願いします」
「昼前に到着か。お前らのような屑にしては、良くやったほうだな。
……ここに本拠地を設置しろ。それが済み次第、洞窟に攻撃を仕掛ける。それと、兵の半数ほどを周囲の森に潜ませろ。隊の選別はお前に任せる」
「了解しました。
皆の者、ここに本作戦の本拠地、ならびに作戦本部を設置する。急ぎ取り掛かれ」
「はっ」
100人を越える歩兵の中で、准男爵1人だけが馬に乗り、ハルキ達がダンジョン化させた洞窟の前へとたどり着いた。
洞窟内部にハルキ達の気配があることは伝わっている。
「…ふぅ、……おい、ジェイ。マラソンの後は穴掘りだとよ」
「……は、はっ……、は……」
「いや、返事はいいさ。……倒れるなよ」
サラ達への討伐隊が町を出発してから1時間ほど、重い装備と武器を身に着け、ずっと小走りを命じられていた彼らは、馬に乗る准男爵や長期間の訓練を積んだ側近兵以外は、現場に到着した時点で疲労困憊であった。
特に今回が初めての者は、精神的な疲労も重なり、今にも倒れそうなほどだ。
しかし、一般兵に疲れが見えるからといって休憩を命じるほど、准男爵は甘い人間では無い。
「ゴミ共、手の動きが遅いぞ。罰として昼飯は抜きだ。しっかりと国のために働け。わかったか?」
「「「「はい」」」」
一般兵達は疲労や空腹の体にムチをうち、防衛のための空堀や准男爵達のためのテントなどを設営していく。
木陰で居眠りをする准男爵に殺意を覚えながら。
「准男爵様、本部の設営および周囲を囲う堀の設営が完了しました」
「……んぁ? …………そうか、わかった。それは当てが外れたな」
「……それはどういう意味でしょうか?」
「いや、なんでもない。お前が知る必要のない情報だ。
それでは側近と隊長達をテントに集めろ、作戦会議を行う。それから、散開させた部隊も集合させろ」
「畏まりました」
そして出来たばかりの作戦本部に20人の男達が集まり、全員が地面に腰を下ろした。
その姿を椅子の上から見下ろした准男爵が、満足げな表情で全員に作戦を伝える。
「先ほど敵の目の前で本拠地の設置を行い、無防備な様子を見せたが、敵は動きを見せなかった。
こちらの数に焦って逃げ出せば、周囲に散開させた者達で捕まえ、逆に本拠地を強襲してくるようなら、挟み撃ちにする予定だったのだが、敵はどうやら我等の接近に気付いて居ないようだ。
相手が予想以上に無能なため、俺様の華麗な作戦が台無しだよ。
とりあえず、無能相手に作戦を練っても仕方がない。50人ほどで出口を囲い、ネズミを穴から引きずり――っ!! なんだ?」
「……地震でしょうか?」
准男爵の演説中、突然その場に居た全員が地面の揺れを感じた。そして、誰もがその揺れを地震だと思った。
「おい、なんか、やばくねぇか?」
しかし、その揺れは時間が経つほど強さを増していく。
そしてついには地面が無くなり、全員がテントと共に落下した。
「ぐぁ!! …………クソ、……状況を報告しろ」
「…………」
一瞬の浮遊感の後に土へと叩きつけられた准男爵が、周囲に説明を求めたものの、答えが返ってくることは無かった。
「クソ。もうよい。自分で把握する。
貴様等、城へ帰ったらクビだからな」
そう言い捨て、自分の上に覆いかぶさっていたテントの生地を剣で切り裂き、外へと脱出したものの、その先には、予想外の光景が広がっていた。
周囲は体の痛みを訴える自軍の兵士達、そして全方向が高い壁で囲まれていた。
壁の高さは人間3人分、下3分の1くらいが石で補強され、それより上は土である。
「……直前の浮遊感から考えると、周囲が陥没したか? とりあえず、脱出が優先だな」
そして、脱出のために一歩を踏み出した准男爵は、その足に違和感を覚えた。
「クソ。何でこんな水浸しなんだ。
……地下水で作られた空洞に運悪く落ちたか? クソ、斥候の奴らは処刑だ。……いや、これは水ではないな。…………油か? なんでこんなところに大量の油が?」
人が登ることの出来ない高い壁、周囲には自軍の大量の兵士、周囲に撒かれた大量の油。
そこまで情報を獲た准男爵は1つの答えに思い至った。
「……まさか、敵の罠か?」
独り言の様に呟いた准男爵が、ふと上を見上げると、そこには細い松明を口に咥えた1羽のカラスが、悠々と飛んでいた。




