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<23>城の一室にて

 国王の死後、この国で1番大きな権力をその手に収め、次期王に誰よりも近い者である第1王子スバル。 

 彼は城の一室で、自身が持つ地位を絶対の物にするために、腹違いの弟や妹達を制御するために動いていた。


「スバル王子、全員整いましてございます」


 彼の周囲では、複数の部下が肩膝を地面につけ、頭を垂れながら、彼の指示を待っていた。

 部屋の中で椅子に座っている者は、彼と彼の側近であるギルだけである。


「そうか、では始めるとしよう。

 軍の把握はどうなっている?」


 その言葉に、軍部の担当者が前に進み出る。


「は! 軍に関しましては、一般軍の7割の把握が完了し、魔法軍の攻略にも着手致しました。

 しかしながら、魔法軍の方は、第2王子派の抵抗が激しく、難航しております」


「そうか。わかった。

 2週間の時間をやろう。その間に何かしらの成果をあげて来い。以上だ」


「……畏まりました」


 無謀にも等しい命令に頷くしかなった軍の計略担当が、青い顔をして立ち上がり、部屋を退去しようとした時、入口のドアが開かれ、1人の男が早足で駆け込んできた。


「火急の報告が御座います」


「その顔を見るに悪い話か。

 わかった、速やかに報告せよ」


「は! 第5王女アリスの御姿が城内に無いとのこと。また、第4王女サラ様がドアを魔法で施錠し、立てこもっているとのことです。

 現在、100人体制でアリス様の行方を捜索しておりますが、発見できておりません。

 サラ様のドアに関しましては、現在、筆頭魔法使い様の協力を仰いでおります」


「わかった。早急の解決を期待する」


「畏まりました」


 入ってきたときの様に、男は足早に去って行った。


(アリスの方は、何か欲しくなったとかのいつもの我侭で、城下町に行っただけだろうが、サラの方は問題だな。このタイミングで魔法を使ってまでの立てこもりとなると、あいつを処刑する計画がばれたと考えるのが妥当か。

 どこから情報が漏れたか特定したい所だが、あの女のことだ。幽霊に聞いたとか精霊に聞いたとか、十分にありえそうだな話だ。捜査するだけ無駄だな)


「ギル。例の件はどうなっている?」


「滞りなく。本人の身柄を確保できれば、すぐにでも刑を実行できます」


「そうか、よくやってくれた」


(知られてしまったからには、早急にこの世から去って貰う必要があるな。

 大人しくしておれば、命ぐらいは助けてやったものを……。頭が良いのも考え物だな)


「会議の続きは、サラの身柄を確保してからとする。

 彼らには、急ぐように伝えておけ。それと、早急に解決できれば、褒章を出すともな。以上だ」


 会議はスバル王子の独断で解散となった。


 それから2時間。

 側近と弟の行動を抑制する方法を検討していたスバルに、新たな情報が届けられた。そして、その報告を聞いた彼の表情が徐々に悪いものへと変化していく。


「わるいが、よく聞こえなかった。もう一度、報告を頼む」


「は! サラ様の研究室内に人影は無く、無人の模様。

 捜索隊の報告によると、アリス様、サラ様共に城内および城下町に、その姿はありません。

 本日、城下町に到着した商人によると、サラ様、アリス様に似た人物を門の外で見かけたとのことです」


 スバルは、自分の聞いた言葉が信じられず、もう一度聞き返したが結果は変わらなかった。

 どうやら、サラとアリスは2人とも城を抜け出したようだ。


「……、目的が見えぬな。城を抜け出し何処へ行こうというのだ。……ギル、お前は、あやつらの目的をよめるか?」


「そうですね。アリス様の目的はわかりませんが、サラ様は、隣国へ亡命するためでしょう。第3王子の亡命を受け入れたバルト国なら、第4王女である自分も亡命出来ると考えたのかと思われます」


「なるほど、あの愚弟を受け入れた愚かな国を頼ろうというのか、ありえる話だな。……だが、ここ最近、愚妹が手紙を出したなんて報告はあがっていないぞ?

 ……事前準備無しで、隣国へ渡るつもりか?」


 現状を鑑みたスバルは、頭の中で情報を整理し、ニヤっと笑った。


「現在、わが国の国家機密がサラ王女自らの手で他国へと渡ろうとしている。

 アリス王女の方は、依然として行方、目的共に不明だが、彼女も放置してと情報が漏洩する恐れがある。

 これは国家創設以来の忌々しき自体である。

 この国の安定のために、即刻、軍を派遣し、賊を討つのだ。サラ、アリスの両名を縛り上げ、我が前に示せ。生死は問わん。以上だ」


「「「「は!!」」」


 大義名分を獲たスバルは、早速とばかりに命令を発し、周囲もそれを受け入れると、慌しく動き出そうとした。そんな中、側近のギルが主君の命令に待ったをかける。


「お待ちください。王女様は御2人とも――いや、失礼しました。賊は両人共、固有魔法を有しており、派遣部隊は中隊以上を差し向ける必要があるか思われます。しかしながら、多くの者を王都から離せば、第2王子派の反逆が予想されます」


 その言葉を聞き、慌しかった部屋に沈黙が落ちる。


「……ちっ。

 たしかに、ギルの言う通りか。

 ここであやつらを撃ったところで、結局は第2王子派が邪魔だな……」


(まったく、面倒な弟だ。アリスの方は放っておいても問題ないか。サラは早急に始末したかったのだがな……。

 しかしまぁ、国内を出てくれるのならば、当分の間は邪魔をしてこないだろう。その間に愚弟を始末し、王位を磐石にすれば問題ないな)


「……わかった。我々はこれまで通り、いや、愚妹の逃亡で動きやすくなった分、今まで以上に活動の場を広げ力を蓄える。

 諜報に優れた者を数人で愚妹それそれの行方を監視。それ以外の物は第2王子派の排除に勤しめ。以上だ」


 結局、第1王子派では、サラ達への軍の派遣は行わず、監視のみとなった。そして、城内の別場所で同様の会議を行っていた第2王子派でも、同じように監視のみで今後の行動を見守ることになる。


 両陣営とも、サラとアリスが手を結んでいること、そして、勇者の存在に気がつくのは、かなりの時間が経過してからのことである。



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