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<21>アリスの準備

 異世界のキスから2時間ほど、アリスが自室から荷物を抱えて戻ってきたので、彼女に俺特製の服を渡した。

 

「ちょっと待ちなさいよね。ついさっき参加を決定したアリスの分が用意されてるのよ!? おかしいわよね!?」


 当然の疑問である。そして、もちろん、事前に返答は考えてある。


「それは、あれだ。勇者の能力だ」


「……ふーん、…………そうなの」


「着るのが嫌なら、着なくてもいいぞ」


「誰も着ないとは言ってないじゃない。特別に貰ってあげるわよ。…………ダーリンにしては良いセンスじゃない」


 名付けて、勢いで通してしまおう作戦である。

 どうやら、俺が妄想した服を気に入ってくれたようで、折りたたまれた服を嬉しそうに両手で抱きしめている。


「あ、それと、俺達は夜逃げするんだから、そんな大量の荷物はもっていけないぞ。

 せいぜいがポケットに入る分くらいまでだ」


「なによそれ。もー、早く言いなさいよ。

 …………もっかい部屋いってくる。そのついでに着替えてあげるわ」


 嫌な顔をしながらも、決して服を手放そうとはせず、とぼとぼとした足取りで部屋を出て行った。 



 程なくして帰ってきた彼女は、濃いピンク色の衣装を身に纏っていた。


 もともと、中学生ほどの年齢で、やんちゃな感じだと教えられて作った物なので、無難にセーラー服をチョイスし、オリジナル感を出そうとピンクをベースにしたのだが、予想以上のクオリティだった。


 日本でなら、コスプレと呼んで過言ではない服ではあるものの、アリスが着ると、ブロンズの髪と相まって、ナチュラルに見えるから不思議だ。


 こちらもタイトルを付けるならば、海外からの転校生、といった感じだろうか。


「着てあげたわよ。似合うでしょ」


「あぁ、可愛いよ。さすがアリスだって感じだな」


 正直な感想をそのまま伝えると、アリスの顔が一気に赤く染まった。その反応を見るに、あまり褒められた経験がないんだと思う。


「……ありが、……ふ、ふん、当たり前じゃない。着ているのがアリスなんだもの、可愛いのは知ってるわよ」


「あぁ、そうだな。表現力が少ないから、そんな言葉しか出ないが、本当に感動してるんだ。着てくれてありがとな」


「…………うぅー。……まぁ、あれね。……この服もアリスほどじゃないけど、可愛かったし、一応だけど、作ったあんたに感謝しておいてあげるわ」


 真っ赤になって照れるアリスが可愛くて、もう少しいじってやろうかとも思ったが、話が変な方向に行っても面倒だったので、服の件はそのくらいでやめておいた。


 その後は、アリスとの親睦会を兼ねたお菓子パーティを行い、夜を待って城を脱出した。

 持ち物は、自衛のためのナイフと最低限の食料、そして、クロエに移植したダンジョンコアの残りだけだ。

 

 夜の街は、外灯など一切無く、あたりを照らすのは、月明かりのみである。

 そんな中を歩き回る人など居るはずも無く、静寂の中を突き進むと、程なくして街全体を囲う城壁にたどり着いた。

 

 高さは4メートルほどだろうか、作り自体は石を積み重ねただけのようなので、登ることのは不可能では無いと思うのだが、万が一、落ちた場合のことを考えると、積極的に登りたいとは思わない。 


 そんなことを思っていると、アリスがすっと、前へ進み出た。


「ありえないとは思うけど、失敗して崩れるかもしれないから、すこしだけ後ろに下がってなさいよ」


 彼女が壁に手をかざしたかと思うと、一瞬にして、大人1人が通れるだけの穴が開いた。


 勿論、彼女が魔法を使用した結果だ。


 アリスは、魔法で土や石を自由に操ることが出来るらしく、彼女を仲間に引き入れた理由の半分は、この魔法を手中に収めるためだと言っても過言ではない。

 ちなみに残り半分は、純粋にひとりぼっちの彼女の命が心配だったからだ。


 アリスに感謝の言葉を述べ、這い出るようにして穴をぬけ、隠蔽のために、穴を塞ぎ直した。


 月明かりを頼りに、少しだけ城壁から離れ、アリスの魔法で、今夜の寝床を作ってもらう。 


 ほんと、アリスが居なかったら、どうやって脱出する計画だったのよ、まったく、と良いながら作り上げられたそれは、小さなテント、と言うより、かまくら、といった感じだった。


 魔法によって土を積み上げ、中に空間が出来るようにくりぬいたのだから、雪と土の違いはあれど、かまくらとよんで問題ないと思う。


 4人全員がかまくらの中に入ると、空気穴だけ残して、完全に出入り口を塞いでしまう。

 寝てる間に、魔物に教われないための手段らしい。

 寝袋などの寝具すら、重さを気にして置いてきたため、布団もなしに、身を寄せ合うようにして眠った。 


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