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第47回

 季節は夏の姿をのぞかせ始めた6月。

 私はスーツを身にまとっていた。既に東京中央理科大学に通って4回生になっていた。

 大学の同級生の友達は就職活動を既に始めている子もいたが、私は教員免許を取得するために教育実習を受けることにした。

 私は中学校と高等学校の理科の教員免許を取得するので期間は3週間となった。

 正式名称で言うと、「中学校教諭一種免許状(理科)」及び「高等学校教諭一種免許状(理科)」だ。かっこいい。

 教育実習で選んだのは神奈川県の母校の高校だった。

 自分で言うのも何だが、県内で中堅クラスの進学校ということもあり、生徒の素行もとても良い学校だったから母校に迷わず決めた。

教育実習の期間である3週間はAYB32の活動はマネージャーさんと相談してセーブさせて貰い、教育実習に専念することにした。

 教育実習でどんな出会いがあるのかという楽しみ、そして、私がAYB32のメンバーということを知っている先生や生徒はいるのだろうかと不安になった。どうせなら誰も知らない方がいいな、なんて思っていた。


 教育実習、初日。遅刻は許されない。私は早めに到着し、指導担当の生物の先生に挨拶を行った。

 「あなたが白石ひなさんですね。よろしく!」

 「はい、本日より教育実習お世話になります。よろしくお願いします。」

 思っていたよりも若い先生で妙齢の女性だった。同性で年が近そう、ということもあり、少し安心した。

 「緊張しなくても、うちのクラスの生徒は良い子ばかりだからね。」

 「はい!今日から3週間頑張ります。」

 私はその女性の先生が受け持つクラスに一緒にいき、朝のホームルームで挨拶をした。

 「今日から教育実習でお世話になります。白石ひな、といいます。みんなと歳も近いので仲良くしてもらえたら嬉しいです。」

 やはり、アイドル活動でステージに立つことは慣れているので生徒たちの前に立つことは緊張しなかった。

 「え!可愛い!」

 「白石ひなさんだって。」

 女子生徒たちの歓声とコソコソ声が聞こえてくる。

 心配しなくてもアイドル活動をしている私のことを知っている人はいなさそう。


 女子生徒たちの歓声に浸っているうちにホームルームが終了し、すぐに最初の授業の準備に取りかかった。

 最初の授業ではタマネギの根の先端を使った細胞分裂の観察の実験だった。

 実験の内容はタマネギの根の先を切り取り、塩酸で処理して細胞同士をほぐし、酢酸オルセイン液で染色してスライドガラス上で押しつぶし、顕微鏡で観察するというものだった。

 簡単に言えばタマネギの細胞を顕微鏡で観察してレポートを生徒たちにまとめさせて提出させるまでが一つの授業だ。

 実験の説明を行い、生徒たちは班に分かれて実験に取り掛かった。生徒によっては根の先端の細かな部分をうまくほぐせない子がいたり、

 「白石先生!うまく染色できません!」

 と大きな声で呼ばれることがあり、てんやわんやな1時間だった。

 初日はすぐに時間が過ぎ、疲労はピークに達していたが、教育の面白さ、なんといっても個性豊かな生徒たちが可愛かった。

 

 教育実習では他にも指導案や授業計画を立てて、座学を行ったり、早朝に学校に来て薬品の調合作業などの準備も行った。楽な実習期間ではなかったが、アイドルとしての自分ではなく一人の大人として生徒たちに慕われ、そして、役に立つために動く経験はすごく身になったし、何よりもやりがいがあった。

 (アイドルにならなかったら、教師になっていたのかな…。アイドルを卒業して…いやいや…。)

 なんてことも頭をよぎった3週間だった。


 3週間の最後には大学の教授や校内の指導教員、他教科の教員たちがずらりと後ろに並ぶ「研究授業」があった。3週間で授業を行うことは慣れていたとはいえ、異様な緊張感が教室をまとった。しかし、緊張に打ち勝ち、何とか最後の授業を終えることが出来た。

 受け持っていたクラスでの最後のホームルーム。

 「皆さん、今日で白石先生は教育実習を終了されます。一言、よろしくお願いします。」

 生徒に向けての最後の挨拶だ。

 「はい。今日まで教育実習、大変お世話になりました。授業中やお昼休みや放課後、沢山お話をしてくださってとても嬉しかったです。今日で終了になりますが、この3週間、一生の経験になりました。いつまでも皆さん一人一人の笑顔を忘れることなく、今後の人生も歩んでいくので皆さんも元気に高校生活を楽しんで立派な大人になってください。3週間、ありがとうございました。」

 教室は大きな拍手に包まれた。

 そして、一人の女子生徒が挙手をした。初日に可愛いと言ってくれた子だ。

 「はい。白石先生にクラス全員で色紙を書きました。」

 その色紙の真ん中には朝のホームルームで撮った私とクラスの担任の先生でもある生物の担当の先生、クラスメイト全員の集合写真が貼ってあった。

 「ありがとう!大切にするね!」

 私は涙目になって答えた。


 お読みいただきありがとうございます!

 『売れないっ!』もいよいよクライマックスとなり、残り3回となりました。

 悠真とひなの物語がどこへ行き着くのか、ぜひ最後まで見届けていただけると嬉しいです!

 (面白いと思っていただけたら、ページ下部から評価やブックマークで応援をお願いします!)

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