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第29回

 選抜に入れない私の唯一の居場所がAYB32のアプリゲーム「どっかーん!」だった。10年ほど前に「努力は報われる」と宣言して卒業した先輩もいたが、アイドルは努力が見えない世界。勿論、選抜入りしている子は当たり前のように努力をしているが、今の私には何が足りなくて、何を努力すればいいのか分からなかった。

 その中で唯一、努力出来たのは「どっかーん!」だった。


 「どっかーん!」とはAYB32公式のスマホ向けバトル系ゲームアプリで推しのメンバーのカードを集めてスコアを競うゲームである。そのアプリ内のイベントの順位に応じてライブ出演や特典などを目指せる仕組みになっている。これはメンバーも行うことが出来、実際にメンバー本人と対戦するときに「本人参上」と大きく文字が現れるのが人気になっている。

 つまり、私はレッスンや公演、大学の授業以外の時間を「どっかーん!」に費やした。

 (白石ひなは「どっかーん!」に住んでいる。)

 なんて、ファンに噂をされるほどだった。

 2024年4月から1か月間、「どっかーん!」のイベントが始まり、その順位に応じて上位16人がライブ出演が出来ることになっている。

 「今からどっかーん!します!みんな集まれー!」

 その期間、SNSでファンの方に呼びかけて必死でスマホに向き合った。

 その順位がイベント終了後の数日後、発表された。


 選抜メンバーの16人には選ばれなかった…。終わった。ファンのみんなが一丸となって頑張ってくれたのに。

 「絶対にひなちゃんが『どっかーん!選抜』に入れるようにみんなで頑張るからね!」

 励ましてくれたファンの方の言葉が脳裏を駆け巡る。

 私のことよりもAYB32のファンに動揺を与えたのは天野舞が選抜に入れなかったことだった。

 天野舞はその期間中、選抜活動やメディア出演、雑誌等の撮影に大忙しだった。

 私は自分が選抜に選ばれなかった悲しみで肩を落として帰った。


 数日後、どっかーん!選抜落ちの傷が癒えた頃、マネージャーさんから一通のメッセージが入っていた。

 『ひなちゃん、選抜おめでとう!これで大きなステージでセンターに立てるね!』

 何かのどっきりかと身構えた。送り先と名前を間違えたか、冠番組のどっきり企画か。

 こういう時は面白い返信の一つでもできないとオンエアされないよね、と思いながらもあの傷を思い出して受け身が取れていない返信を送ってしまった。

 『あの…なにかの間違いか、どっきりですか?』

 『違うよ!どっかーん!選抜に特別枠が2人枠設けられることになって、その一人に選ばれたんだよ!おめでとう!頑張っていたもんね。でも、特別枠はステージに出演は出来るけどセンターでの披露曲はないから来年頑張ろうね。』

 私は全身に鳥肌が立った。間違いでもどっきりでもない。ということは都合の良い夢だ。

 本当はセンターで披露したかったが、出演出来るならそれでもいい。

 どっかーん!ライブのレッスンが始まる頃、私は都合の良い夢ではなかったことにようやく気が付いた。

 お読みいただきありがとうございます!

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