海賊
コスプレ。
エーなー(高音)
ワールド・タートルの背中で営業する「宇宙遊覧インフィニティ・プール」が軌道に乗ってから数週間。星の海をゆったりと進む我が温泉宿に、案の定というか、宇宙の無法者たちが目をつけた。
「ヒャッハー! このデカいカメと、乗ってる金品は全部俺たち『宇宙海賊ブラッド・メテオ』がいただくぜ!」
突如としてカメの周囲にワープアウトしてきたのは、ドクロマークを掲げた数十隻の海賊船だった。そこからワイヤーが射出され、ガスマスクのような宇宙服を着た荒くれ者たちが、次々とヒノキ造りの甲羅デッキへと乗り込んでくる。
(……なんで宇宙のならず者って、みんな律儀に「ヒャッハー」って言いながら来るんだろうな)
俺は、デッキの隅っこで冷たい魔力水をすすりながらぼんやりと考えていた。
当然、うちの従業員たちがそんな連中を黙って見過ごすわけがない。
「海賊だと? ちょうど良い。厨房の裏に溜まった生ゴミを宇宙に捨てる手間が省けたわ!」
魔王がエプロンを外し、両手に暗黒の魔球を浮かべる。
「お客様の安らぎを脅かす悪党は、俺が峰打ちで沈めます!」
勇者アーサーが聖剣を抜き、音速を超える踏み込みで飛び出そうとした。
だが、彼らが暴れるまでもなく、事態はあっけなく収束した。
「ヒャッハー! まずはあの生意気そうな女将を捕まえ……うわっ!?」
「ツルッ!? ギャアアアッ!」
海賊たちが甲羅のデッキに着地して走り出そうとした瞬間、全員が漫画のように見事にすっ転び、甲羅の上をスライダーのように滑っていったのだ。
無理もない。この甲羅は先日、魔王と勇者、そして俺のスライムコーティングによって、星空を反射するほどの「超・鏡面仕上げ」に磨き上げられたばかりである。摩擦係数ゼロの床の上では、屈強な宇宙海賊もただのポンコツだ。
『ふふん。土足でうちのピカピカの甲羅に上がるからよ』
アイリス(アバター姿)が、扇子で口元を隠して優雅に笑う。
ツルツルと滑り続けた海賊たちは、勢い止まらず、甲羅の最後尾に俺がこっそり作っていた【特製・宇宙泥エステ風呂】へとドボォォン! と次々に落ちていった。
「ぶくぶくぶく……! な、なんだこの泥は!?」
「身動きが取れねェ! し、息ができ……あれ? 息できるし、なんか肌がスベスベしてきたぞ……?」
俺が源泉と星屑の泥をブレンドしたその風呂は、毛穴の奥の汚れを吸い出し、同時に凄まじいリラックス効果をもたらす究極の泥パック風呂だ。
数十分後。
泥風呂から引き上げられた宇宙海賊たちは、すっかり毒気(と毛穴の黒ずみ)を抜かれ、赤ちゃんのようにツルンとした顔で正座していた。
「……申し訳ありませんでした。俺たち、荒んだ宇宙での略奪生活で、心も肌も荒れ果てていたッス」
海賊の船長が、プルプルと潤った頬を拭いながら涙ながらに謝罪する。
「分かればいいさ。で、落とし前はどうする? 警察(星間連盟)に突き出してもいいけど」
俺がぽよんと跳ねて威嚇(?)すると、船長はハッとして頭を下げた。
「働かせてください! 俺たちの船についてる高圧洗浄機を使えば、このデカいカメさんの甲羅掃除も一瞬ッス! どうか、心を入れ替えるチャンスを!」
かくして、スライム温泉郷には「元・宇宙海賊の甲羅清掃部隊」という新たな労働力が加わった。
カメは常にピカピカ、客は極楽、俺の掃除の負担も少し減るというWin-Winの関係だ。そう思おう。
ぬる利類瑠璃




