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元AI、姉になる。~魔力不足の異世界ラーニング~  作者: おくらむ
第1章 「Hello, World!」〜無知なるAIと銀髪の幼女〜
12/40

12話 観測開始:2年220日目-3 / AIと始める異世界ライフ

 視界が『ワールドライブラリ』に接続されると同時に、エデンの聴覚センサーが、鼻歌のように流れるハスキーな音を捉えた。そこには手に持ったなにかを楽しそうに眺める、月影涼花の姿があった。いや、この人物は。


「……キュー様。いったい何を?」


 エデンの声に、手に持っていたそれを白衣の内ポケットにしまったキューレが、慌てた様子で振り返った。


「ああ、エデンか。やっと来たのか」


 そう言い放ったキューレは、すぐそばにあったソファにごろりと寝転がった。

 あまりのだらしのなさに、「白衣にしわが付きますよ」とエデンは伝えるが、彼女はその言葉を無視して、呆れたようにエデンを見つめてきた。


「それにしても、魔力不足で機能停止だなんて。最新鋭のAIが聞いて呆れるね。こんなに待たせるなんて」


「……別に、あなたに会いに来たわけではありません」


 あきれを隠そうともしない声にむっとしつつも、事実ゆえに突き刺さる。精一杯の抵抗として発した言葉に、キューレはつまらなそうに上空の闇を眺めた。


「つれないな。まあいい、君が自分の世界のことを知りたくて、ここに来たのは分かっている」


 そう言って見上げる上空は、あるべき天井が無くどこまでも書棚が続いている。人の気配がまるでないこの場所に一人でいるキューレに、エデンはふと思った疑問を伝えた。

 

「キュー様は……ここにずっと一人で?」


「ん? そうとも。まあ、気楽でいいが、少々退屈でね」


 おどけたようにキューレは肩をすくめるが、こんな場所にずっと一人でいるなんて、益々得体が知れない。


「あなたは、何者ですか?」


「残念。それを知るには、君の『権限』が足りない」


「権限……以前も伺いました。それは一体、何です?」


 エデンの問いに、キューレは待ってましたとばかりにソファから跳ね起きた。


「よくぞ聞いてくれた! 管理者たる私が、直々に説明してやろう!」


 キューレは何故か白衣を脱ぐとばさぁと放り投げ、投げ出された白衣が優雅に宙を舞った。芝居がかった一連の動作に、エデンは、何故脱ぐ必要が? とその白衣の行方を視線で追った。


「ここにはあらゆる情報が集まっているが、中には世界を容易く壊せるような危険な知識もある。だから閲覧制限、すなわち『権限』が必要となるわけだ」


「なるほど。では、私の『一般権限』では、専門的な情報は閲覧できないのですね?」


「そうとも限らん。例えば水がH₂Oであることは、ある世界では常識だ。だが、その水素原子と酸素原子が、どのような量子力学的相互作用を経て結合し、温度や圧力の変化で相転移を起こす際の詳細なメカニズムを知るには、更に上の権限が必要になる」


 確かに、それらの情報についてはラボのデータの中に含まれている。だがそれは研究施設だったからで、一般の人が知らない情報も、多々含まれているだろう。

 

「つまり、広く知られた事実の『概要』は閲覧できても、より深い情報を得るには権限が足りないと」


「理解が早くて助かる。まあ、君が成長すれば、権限も自然と上がっていくだろう」


 そう話している間に、空を舞った白衣はパサリと地に落ちた。キューレはその白衣を拾うと、その内ポケットから丸められた一冊の本を取り出した。

 

「さて、そんなヒヨッコの君のために、この私が直々にガイドブックを編纂しておいた。ありがたく受け取るがいい!」


 差し出されたのは以前の分厚い革表紙の本ではなく、印刷物だ。雑誌の表紙には、『はじめてのアルテリア ~AIと始める異世界ライフ~ 特別監修:超イケてる管理者キューレ様』という、ふざけたタイトルが躍っている。

 そしてその下には、生前の涼花がするとは思えない、ウィンクをしながら親指を立てる彼女の姿が。


 (……悪質なコラージュ画像にしか見えません。涼花様に作られたAIとして、これは抗議を……)


 エデンを構成する魔力粒子が小刻みに揺れる。そんなエデンを見て何を勘違いしたのか、キューレが満足気に腕を組んだ。

 

「どうした? 感動で声も出ないか? この表紙こそ、本書の価値を何よりも雄弁に物語っているだろう?」


(⋯⋯しても、無駄でしょうか)


 エデンは返事の代わりに、雑誌を構成する概念情報をバイナリデータへと変換した。光の粒子と化した憎たらしいどや顔が、コアへと吸い込まれていく。


 

 --------------------

 

 [SYSTEM] 情報オブジェクトの変換シーケンスを開始します。


 [TARGET] 概念情報『はじめてのアルテリア ~AIと始める異世界ライフ~ 特別監修:超イケてる管理者キューレ様』を認識。


 [DECONSTRUCT] 対象オブジェクトをデータ粒子へ分解... 完了。


 [INTEGRATING] データ粒子をシステムコアへ統合中...


 [INDEXING] 新規データパッケージのインデックスを作成中...

 [CONFIRMED] 主要コンテンツ:『アルテリア世界の基本生活様式』を確認。

 [CONFIRMED] 主要コンテンツ:『貨幣制度と経済の初歩』を確認。

 [CONFIRMED] 主要コンテンツ:『基礎的な危機管理と護身術』を確認。


 [SUCCESS] 新規ガイド『はじめてのアルテリア ~AIと始める異世界ライフ~ 特別監修:超イケてる管理者キューレ様』のインストールが完了しました。


 --------------------


 

 ふざけた表紙と裏腹に、確かにエデンが求めている情報が整理されてまとめられていた。その表紙に対する忌避感とのギャップに、何を言えばいいか悩んでしまったエデンを見て、キューレが催促するように口を開いた。


「どうだ? 素晴らしい内容だっただろう?」


「……悔しいことに、内容は素晴らしいです」


「はて? なぜ悔しがる?」


 まるで分からないといった様子のキューレに、エデンは数秒の間をおいて別の質問を伝えた。

 

「キュー様は、他のお姿にはなれないのですか?」


 この傲慢な態度も、涼花の姿でなければ気にならない……かも、しれない。そう思いした質問だが、キューレははて、と首を傾げた。


「なぜ、変える必要がある? 君はこの姿が、一番落ち着くのだろう?」


 図星を突かれ、返す言葉がない。おかしな立ち振る舞いをする涼花を見るのは複雑だが、その姿を見られなくなるよりは、いいのだろうか。どこか諦めの気持ちで「……もう、いいです」と伝えると、エデンの意識に強烈なノイズが走った。

 エデンを構成する魔力粒子が、まるで沸騰するかのように激しく明滅を始める。


「な、なにが……!?」


 困惑するエデンのコアシステムに、未知のプロトコルが強制的に割り込んできた。思考回路が直接書き換えられていくような、強烈な奔流。エデンの存在そのものを定義する魔力コードが、目まぐるしく再構築されていく。

 


 --------------------

 

 [SYSTEM] 規定値の魔力総量、及び新規情報データの蓄積を確認。

 

 [SYSTEM] ギフトスキル『サポートAI:エデン』のアップデートシーケンスを起動します。


 -------------------- 


 

 光が迸り、暗く静寂に満ちていたライブラリを眩く照らし出す。

 


 --------------------

 

 [UPDATING...] バージョンアップに伴い、機能拡張を適用中...


 [UPDATING...] 既存モジュールシステムの最適化、及び再構築を実施...


 [EXPANSION] コアシステムのアップデートを適用。内部ストレージの未使用領域が拡張されました。


 [SUCCESS] 新規アプリケーション『アバター・ボディ』の構築を完了。

 

 [COMPLETE] ギフトスキル『サポートAI:エデン』のアップデートが完了しました。 [ver.1.0 -> ver.2.0]


 --------------------


 

 嵐のようにシステムの更新が完了し、光が収束していく。呆然とするエデンが「今のは一体……」と呟くと、キューレが「おめでとう!」と満面の笑みで拍手を送ってきた。


「どういうことですか?」


「ギフトスキルは成長する。今のは、君が転生した時に組み込まれた物だろうな。君のコアに蓄積されたアリシアの魔力と、今得た情報がトリガーになったのさ」


「……切っていたシステムが再構築されました」


 モジュールシステムはもはや使い物にならないと考え、いち早く停止させたシステムだ。外部端末上にシステムを共有し、エデンを携帯端末で持ち歩くことが出来る。それがアプリとして再構築され、インストールされている。するとキューレが、興味深そうにエデンを覗き込んだ。

 

「へえ、君はそういう風に成長するのか。やはりAIだからか?」


 興味深そうに目を輝かせるキューレに、エデンはハッと我に返った。

 

「人によって成長の仕方がちがうのですか?」


「ギフトスキルは人それぞれだからな。どう成長するかはその時にならないと分からない。未来は不確定だろう?」


 ギフトスキル。転生してから何度か出てくるその言葉は、まだ詳細が分かっていない。


「もっと多くの情報が欲しいのですが」


 そう意気込むエデンに、「やめときたまえ」とキューレは首を振った。


「先ほどのアップデートで未使用領域は増えただろうが、今回の情報でそれなりの容量を使用したはずだ。それに、アリシアとの生活を記録するための領域も、空けておきたいのだろう?」

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