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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第九章【リズペット視点】
148/156

過去編⑨ 幽閉

「無様なものね、姉さん」


 ふと、声を掛けられて顔を上げる。一体どれほどの時間が経ったのだろうか。あたしはベッドに腰を下ろした状態のまま、声の主――メリーを見た。

 周囲は剥き出しの石で覆われており、室内に差すのは天井近くの壁に空いた鉄格子の窓からの光のみ。常に薄暗く、既に時間の感覚は失われていた。

 

「ねえ、わたしが誰だかわかる?」

 

「……メリー……」

 

「そう、正解。()()理性があるようで安心したわ」

 

「……こんなところに、何しに来たの……?」

 

「あら、これは異なことを仰られるのね?」


 メリーはあたしの言葉に、にやりと笑った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃなかったかしら?」

 

「……そう。ありがとう」

 

「……っ!」


 あたしが力なく言うと、メリーは何故か苦い顔をした。

 

「姉さん。お父様から伝言よ」


 メリーは気を取り直すように咳払いをして、あたしに告げた。

 

「『此度の行いを反省し、皆に謝罪をするのであれば、すぐにでも解放してやろう』。姉さん、今なら間に合うわ。何なら、わたしが口添えしてあげもいいわ」

 

「…………」


 あたしは答えなかった。反省と謝罪をするということは、あたしが見たあの残虐な行為を容認し、追認することだ。

 それは、()()()()()、絶対に認めるわけにはいかなかった。

 

「……そうよね。姉さんは()()だから」


 メリーは容赦なく言った。そうだ。あたしは愚かだ。

 あたしはこの国のことを、この世界のことを何もわかっていなかったのだから。

 

「姉さんならそう言うだろうって思ってたわ。だから、わたし言ってやったの。『姉さんは頑固だから、死んでも自分の過ちを認めないでしょう』って。そうしたらお父様、何て言ったと思う?」


「…………」

 

「『ならばメリエールよ。出来損ないの姉に代わって、お前がこの国を治めるのだ』ってね!」


 ああ、なんてことだろう。

 確かに内心では王位を頭の良いメリーに押し付けようとしていた。けれど、それが現実のものになってしまった。

 メリーは無邪気に喜んでいるようだけど、それは父上から期待されているのを知ったことによる、一時的な高揚感でしかない。

 結局あたしは、本来自分が背負うはずだった重荷を、メリーに負わせてしまったのだ。

 

「……気に入らないわね」


 あたしが両手を固く握っていると、メリーは不機嫌そうに言った。

 

「ねえ! わかってる!? あんたは王位継承競争でわたしに負けたのよ!? 何か言うことはないの!?」


 突然激昂したメリーに、思わず気圧される。何に対してそんなに怒っているのか、あたしにはわからなかった。

 

「さあ! 何か言ってみなさいよ! さあさあ!」

 

「……ごめんなさいね」

 

「っ! そういう余裕ぶった姿勢が嫌いなのよ!」


 メリーは怒りの勢いそのままに、あたしとメリーを分つ鉄格子を蹴飛ばした。がしゃん、という大きな音が部屋中に響き渡る。

 

「もっと悔しがったらどうなの!? 何もかも失って、今まで下だと思っていた妹にも追い抜かされて、あんたは何も思わないの!?」

 

「……あたしは……メリーのことを下に見たことなんてない」

 

「あんたはどこまでわたしを怒らせれば気が済むのよ!」


 立て続けに叫んだせいか、メリーは大きく肩で息をしていた。今まで見たことのない妹の姿に、あたしは呆気に取られていた。

 

「……まあいいわ。どのみち姉さんは一生ここから出られない。そのまま飼い殺しにされたまま、一人寂しく死んでいくのよ。でも安心して。わたしは()()()()()()()立派な国王になるから」


「……メリー……」

 

「わたしが国王になったら、姉さんに寂しい思いなんてさせない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 メリーは嗜虐的な表情で笑った。その言葉の持つ意味はあたしにもすぐわかった。

 だけど、あたしにとっては()()であることには違いなかった。

 

「それじゃあね、姉さん。もう会うこともないでしょうね」


 ふふっと笑うと、メリーはあたしに背を向けて去っていった。入れ替わりで、一人の兵士が鉄のトレイを持って入室し、鉄格子の小窓から差し込んだ。一切れのパンと冷めたスープ。食事の時間だった。

 トレイを一瞥した後、あたしは座った姿勢のままでうなだれた。メリーに応対するに当たって張っていた気持ちが切れたのか、指一本も動かす気になれなかった。

 

「リズエスタ様、少しはお召し上がりになって下さい」


 兵士が呆れたように言った。

 

「リズエスタ様は罪人ですが、未だに王女なのです。リズエスタ様に何かあったとあれば、わたくしが処罰されてしまいます」


 懇願するような言葉を右から左に聞き流す。別にあたしのことを心配しているわけではない。彼もまた、自分のためにあたしを生かそうとしているだけに過ぎない。

 兵士は深く溜め息を吐き、差し込んだトレイを下げようと鉄格子に歩み寄ったその時、鉄のドアがどんどんと叩かれる音がした。

 

「……今日はもう面会の予定はないはずだが……?」


 訝しげに首を捻った後でドアの方に向かった。

 ドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。

 

「……面会でしたら事前にご連絡頂かないと……」

 

「申し訳ない。ベルヴェット様がどうしてもと仰られるものでな」


 ドアの隙間から見えたのは、大柄な立ち姿のテオドール。


 そして、その影に隠れるようにひょっこりと顔を出したベルだった。

 

「……悪いのですけど、リズ姉さんを牢の外に出してもらえませんか? 姉さんとゆっくり話したいのです」

 

「ベルヴェット様、それはなりません。リズエスタ様は新たにご命令があるまで、決して外に出すなと厳命されております」

 

「お願いします。十分、いや五分で構いませんので……」


 そう言って、ベルは上着のポケットから何やら皮袋のようなものを取り出し、兵士の手に押し込んだ。

 

「……今回だけですからね。あと面会はベルヴェット様お一人で行って下さい。よろしいですね?」


「構いません。ありがとう」


 兵士は()()()()()()肩を竦めてみせた後、腰に掛かっていた鍵の束を使って、牢の鍵を開けた。それから、テオドールと共に隣の部屋に去っていった。

 二人が立ち去ったのを確認して、ベルは部屋の脇にある四角い机、その前に置かれている椅子に腰を下ろした。

  

「さあ、姉さんも」


 そう言って、ベルは向かい側の椅子にあたしを促した。

あたしはあまり状況が読めないまま立ち上がり、牢の外にある椅子を目指した。しばらく動いていなかったせいか、ふらふらと足元が覚束ない。

 やっとの思いで席に辿り着くと、ベルはにっこりと笑った。

 

「リズ姉さん、久し振り。遅くなってごめんね。()()()()()()()()()()()()

 

「……ベル……どうして……?」

 

「本当はゆっくり話したいんだけど、時間がないから単刀直入に言うね」


 あたしが疑問を口にすると、ベルは急に真剣な顔になって言った。

 

「リズ姉さん。()()()()()()()()()()()()()()()

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