第18話「 数の暴力 」
夕暮れの街並みに、赤と橙の光が斜めに差し込んでいた。ビルの影が長く伸びる中、二つの影が道を塞ぐように立つ。
「 .....我らは神蝶の使い。第陸部隊、ヴェルザー 」
低く響く声が、静まり返った空気を切り裂く。
その横で、筋肉質の男がにやりと牙を覗かせた。
「 へっ、堅苦しい挨拶はいい。俺はギャレンだ。……さっさとやろうぜ 」
肩を鳴らしながら一歩前に出る。
だが次の瞬間、ヴェルザーの手が横から伸び、ギャレンの胸を制した。
「 待て。ここでは不適切だ。....場所を移せ 」
短く、だが絶対に逆らえぬような冷徹な声音。
「 チッ...わかったよ 」
舌打ちしつつも、ギャレンは後ろに向き直り、声を張り上げた。
「 おい、そこの五人!俺と来い! 」
だが、その言葉に返したのは、久遠だった。
「 .....俺たちに行く義理はない 」
冷ややかに吐き捨てる。
その隙を割るように、ノアが前へ踏み出した。
「 お前らはそっちをやれ! 私たちはこっちをどうにかする! 」
強い眼差しでヴェルザーを睨み据える。
「 で、でも.....! 」
紬が不安げに声を漏らす。
ノアは振り返りもせず、鋭く叫んだ。
「 死にたくないなら、そっちで死ね! 」
その一喝に、苑里たちは一瞬の迷いを飲み込み、ギャレンの後を追った。夕闇に伸びる影が分かれていく。
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ヴェルザーが一歩踏み出すと、張り詰めた空気が一気に戦場へと変わった。
その声は低く、それでいてよく通る。
「 ──さて。始めるとしようか 」
瞬間、ヴィオが動く。鋭く叫ぶ声が飛んだ。
「 ノア、横だ! 」
刹那、ノアは軽やかに身を翻し、かすめた刃を笑いながら受け流す。
「 おっと、危ない危ない 」
その隙に澪が距離を取りつつ、鋭く睨む。
「 ....あいつ、他に仲間がいるのか? 」
ヴィオが肩越しに答えた。
「 部隊の一人なら、普通はいるんじゃない? 」
だが、ヴェルザーは静かに首を振る。
「 否。我に仲間は必要ない 」
短い言葉に、三人の意識が一瞬だけ揺らいだ。
沈黙ののち、ヴィオが小さく笑う。
「 いないらしいな 」
澪が小声で囁く。
「 .....それ、機密情報じゃないのか 」
ヴェルザーの眉がぴくりと動く。わずかな沈黙ののち、口から漏れた。
「 ....あ 」
ノアが吹き出すように笑った。
「 ははっ、バカだこいつ 」
「 否。我は馬鹿ではない。それ故── 」
次の瞬間、ヴィオの表情が苦痛に歪んだ。鋭い金属音と共に、彼女の足へ一本の剣が突き立っていた。
「 ....っ! 」
そこに現れた剣はどこか皆が見覚えのあるような見た目をしていた。
「 このように、奇襲もできる 」
低く落ち着いた声が場を支配する。
澪が剣の形状を見つめ、眉を寄せた。
「 ...待って。この剣、さっきのと全く同じ....? 」
「 確かに 」
ノアが肩をすくめる。
「 となると、能力は剣の生成か、それともコピーか 」
答えを待つかのように、ヴェルザーはゆっくりと右の掌を宙へと差し出す。その手のひらに、何もなかった空間から一本の剣が静かに姿を現した。
「 正解だ 」
口角が僅かに上がる。
「 我が力は" エターナル・エッジ "。──無限の剣だ」
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森の奥は異様なほどに静かだった。枝葉の隙間から月明かりが洩れ、足元にまだら模様を描き出す。
その静寂を破るように、久遠の声が低く響いた。
「 .....お前らは、一体何が目的なんだ? 」
歩き続けていた男──ギャレンが、不意に足を止める。振り返ることなく答えた。
「 俺は、強い奴と戦えればそれでいい 」
そう呟き、今度はゆっくりと苑里たちへと視線を向ける。口角にはわずかな笑み。
「 だが....少し残念だな。お前らじゃ 」
「 なにっ!?オレたちが弱いって言うのかよ! 」
碧が怒気を露わに一歩踏み出す。
しかし、安都が制するように声をかけた。
「 ...それより。あなたはどこまで歩くつもりなんですか? 」
ギャレンは肩越しに笑い、再び歩を進める。
「 この先に砂漠がある。俺たちの....故郷だ 」
その背中を見据えながら、久遠は静かに動いた。息を殺し、木陰からナイフを抜き放つ。
ギャレンが過去を思い出すように、ふと独り言を漏らした。
「 .....あれは確か、俺が生まれて四年ほどだったか... 」
刹那。久遠は背へと刃を突き立てる。手応え──
だが....
「 どうだ、満足か? 」
振り返ったはずのギャレンは、いつの間にか木陰に立っていた。突き刺した男は、淡く揺らめく影となって掻き消える。
久遠の手には、空気を切った感触だけが残った。
月明かりの下で、男は静かに告げる。
「 ──俺のユーティリティスキル" ファントム・スプリット "。分身だ 」
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「 無限の剣、か。面倒な能力だな 」
ノアが舌打ちする。その直後にも、空を裂く音と共に幾百の剣が飛来する。
鋼鉄の雨のように、視界の隅から隅まで覆い尽くしていた。
「 どうした?避けてばかりで、先程までは楽しそうにしておったのに 」
ヴェイルが口元を歪めて笑う。剣を指先で弾き飛ばしながら、余裕すら感じさせる声音だった。
だが、その挑発を聞いた瞬間──ヴィオの瞳が冷たく染まる。
「 うるせぇんだよ、黙ってろ老いぼれ 」
その一言に宿る気迫は、目に見えぬ刃となって空気を裂いた。覇気が場を支配し、思わずヴェイルの足が半歩退く。
「 .....ほう 」
ヴェイルは薄笑いを残し、手を背に組んだ。
「 そうかそうか。じゃあ静かにするとしよう 」
ヴェイルは、目を閉じたまま静かに立ち尽くした。
「 何を── 」
澪が反応するより早く、ノアが疾駆する。振り抜かれた拳が敵の顔面を捉えた。
一撃、二撃、三撃。確かな手応えが返ってくるはずだった。だがヴェイルは眉一つ動かさない。
次の瞬間、ノアの腹部に冷たい感触が突き刺さった。
「 ....っ! 」
鋼の刃が幾本も突き立ち、ノアの身体が地面に沈む。
「 ノア! 」
澪が駆け寄る。震える手で支え起こそうとするが、彼は苦痛に顔を歪めたまま動かない。
「 我は静かにしていたが、早速一人死んだか? 」
嘲りを含んだ声が降り注ぐ。澪の瞳に涙が浮かび、銃口が震える。
その刹那、空気が張りつめた。ヴィオの覇気が、戦場全体を圧倒するように広がっていく。
「 ノア....待っててね。さっさと終わらせるから 」
低く囁く声と共に、彼女の周囲に水の結界が展開された。光を帯びて揺らめくその姿に、ヴェイルの表情が初めて揺らぐ。
「 ...羽衣....! 」
額に冷や汗をにじませながら、名を呟いた。
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あれは、寒い寒い雪の日であった。
拠点の一室で、我は白蓮の世話を任されていた。吐く息すら凍りつくような季節の中、突然、扉が荒々しく開かれる。
「 これからはコイツも神蝶の一員だ。馴れないと思うが、よろしく頼む 」
そう言ってガーンが連れてきたのは、一人の幼い子供だった。痩せ細った体つき。しかし、その瞳にはただならぬ光が宿っているように見えた。
後に知ったことだが──ガーン曰く、この子には何やら「 可能性 」を感じるらしい。
「 .....ヴェイルさん、今何をしているんですか? 」
不意に声を掛けられ、我は僅かに反応が遅れる。振り返ると、あの子が我を見上げていた。
「 ....能力の練習だ。いや...羽衣の練習、と言ったほうが正しいかもしれぬ 」
羽衣。それは自らの周囲の空気に能力を行き渡らせ、全身を守護する高等技術。ごく一部の者しか到達できぬ領域。
「 お主もやってみ── 」
そう言いかけた瞬間──ヴェイルの目が見開かれる。
子供の周りの空気が、確かに歪んだ。
一瞬の錯覚かと二度、三度と瞬きをする。しかし光景は変わらない。
「 ...羽衣、か....? 」
「 まぁ、恐らく..... 」
曖昧に答えるその声。しかし現実は明白だった。
──この幼い存在は羽衣を扱える。
我は悟った。この子はただの一員ではない。
我らと肩を並べるに相応しい者。いや、近い将来には、我らの頂点に立つ逸材となるだろう。
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「 ──俺のユーティリティスキル" ファントム・スプリット "。分身だ 」
分身....?だとすれば、今こうして話すこいつさえ本体とは限らない。
「 そうと分かったらさっさと行くぞ!もうすぐ見えてくるからな! 」
ギャレンが苛立ったように叫び、俺たちは渋々後を追う。だが、ふと気づくと紬の姿が見えなかった。
振り返ると、彼女はしゃがみ込み、地面を凝視している。
「 おい、そこの女!さっさと来い。でなきゃお前から殺すぞ! 」
怒声と共に、右手に金棒。まさに鬼そのものの威圧感。
「 ご、ごめんなさい! 」
紬は慌てて駆け寄り、ギャレンは舌打ちをして再び歩き出す。
その隙を縫うように、紬が小声で俺に話しかけてきた。
「 苑里さん.....これ、さっき分身がいた場所に落ちてたんです 」
彼女の手のひらに収まっていたのは、小型のスピーカーだった。
「 もしかして...分身って── 」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
遂にギャレンが本格的に動き出しましたね。分身の力と苛烈な性格がどんな戦いを生むのか、次回が楽しみです。
では、また次の話でお会いしましょう。──広瀬




