第10話 「 届かない距離、届いた刃 」
「 こいつ、距離を問わず伸縮で攻撃のタイミングを狂わせてくる....!」
俺は金属の軋みを感じながら、再び防御を固める。
敵の伸びた鉄棒が、顔のすれすれをかすめていった。
「 くそっ...ちょっとタイミング狂うだけで、反撃のチャンスがなくなる.....!」
それでも俺は諦めない。
ポケットに手を伸ばし、小さなナイフを取り出す。
「 これで.....!」
鉄棒がまた伸びてくる寸前、俺は貫通の力を込めてナイフを振り抜いた。
だが──!
相手は素早く反応し、鉄棒を縮めてかわす。
俺の攻撃は鎧の表面をかすっただけで、皮膚を捉えることはできなかった。
その瞬間、苑里の声が耳に入った。
「 ....ちょっと待てよ、それ、法的に大丈夫なんだよな?」
思わず苦笑いしながら、俺はナイフを鞘に戻す。
「 まあ、大丈夫ってことで.... 」
碧が後ろで苦笑いを浮かべていた。
敵は仮面の下で冷たく微笑み、再び鉄棒を伸ばした。
俺は小さく息を吐き、次の一手を考える。
──ここからだ。
俺のユーティリティスキル"貫通"は、俺の所持している物体をその形を維持しながらあらゆるものを貫通させる。
だが、当然強いゆえの欠点があり、毎度大量の魔力を失いクール時間もある。
────────
──空気が張りつめた。
久遠が再びポケットに手を突っ込み、小型ナイフを取り出す。
刃先に魔力が流れ、淡く青白い光が灯る。
「 ペネトレイション── 」
ナイフが弧を描いて仮面の敵へ突き刺さる。.....が、わずかに身体をずらされ、刃は“内部から突き出た金属板”に阻まれた。
「 チッ、反応が速ぇな 」
久遠が舌打ちと同時に、敵の鉄棒がしなり、反撃の一撃が襲う。
だが、その一瞬の前に碧が前に出た。
「 っと、間に合った! 」
盾で受け止め、火花が散る。金属音が耳に響いた。
「 久遠、無茶すんな!援護はオレの仕事だ! 」
「 すまん、でも今のが一番効きそうだった 」
久遠が後ろに下がりつつ、碧がもう一度盾を構える。
「 紬、なんか使えるか!? 」
碧の声に紬が一歩引いた。表情に戸惑いが浮かんでる。
「 まだ距離が....それに、碧の動きに合わせられなくて..... 」
「 無理するな 」
声をかけると、紬が小さく頷く。
敵の視線がこちらに向いた。圧がかかる。今にも踏み込んできそうな気配だが、踏ん張って前へ出る。
「 俺が前に出る。囮になるから、その間に囲め 」
「 お、お前マジでやる気かよ! 」
「 無茶はしない。蹴るだけだ 」
そう言って、敵との距離を詰めた。
踏み込む。躊躇はない。
渾身の前蹴り。仮面の腹部に向けて振り抜く──が、先程のように金属板に阻まれ、衝撃が足に跳ね返ってくる。
「 っ....! 」
衝撃で数歩後退。だが敵は追ってこない。一瞬、動きが止まった。
「 今だ、久遠! 」
その言葉に反応し、背後から久遠が駆ける。横からは碧が突進。
「 紬!今のうちに支援張ってくれ! 」
紬が慌てて指先を掲げ、小さな魔法陣を構築していく。
「 ん、分かった! 」
ようやく、息が合ってきた──そう思った矢先。
敵の仮面がわずかに傾く。
「 キェ、ゾラ...ヴァァ・タラ.... 」
意味のわからない言語が再び響き、鉄棒が変形しながら再び振るわれた。
今度は──誰を狙っている?
俺が息を整えながら呟いたその瞬間──敵が動いた。
ズダンッ──!
地を蹴る音が響き、仮面の男が一気に紬に向かって突っ込んでくる。腕に握られた金属棒が、一閃の勢いで振りかぶられていた。
「 紬、下がれっ! 」
咄嗟に声を張るが、守りの要である碧は、すでに反対側の崖沿いへと押しやられており、すぐには動けない。
──間に合わない。
俺が駆け寄ろうとした、その瞬間だった。
「 ミスティック・コア....! 」
紬が静かにそう告げ、右手を突き出す。手のひらの前に、魔力が一瞬で凝縮され、淡く輝く紫紺の板状の魔力が“盾”として形を成す。
──バシュッ!
金属棒がその魔力盾に激突した。振動と共に火花が散り、魔力の破片が細かく空中に舞った。
それでも、盾は──砕けずに、耐えきった。
敵の突進は止まる。そして、仮面の男は無言のまま、その場で距離を取るように数歩、滑るように後退した。
.....なんだ、今の。
回避じゃない。撤退でもない。
攻撃を仕掛けておいて、急にやめたような、違和感のある動き。
俺の鼓動が速くなる。直感が警鐘を鳴らしていた。
この敵、ただの力任せじゃない──何かを、見ている。
それは、視線ではなかった。だが確かに、こちらの動きを「 測っている 」何かがあった。
──ヒュッ。
風が一瞬、逆巻いた。
「 ......来るぞ! 」
久遠の声が響くと同時に、仮面の敵が動いた。
次の瞬間──
ゴッ!
空間が裂ける音。
それは、目視すら難しい“線”だった。仮面の敵が手にした黒光りする金属棒。それが、一瞬にして前方へ“直線”に伸びる。
だが、それはただの延長ではない。
ソニックブーム──。
空気が置き去りにされ、衝撃波が後から地をえぐった。山道の斜面に風圧が叩きつけられ、木の葉が一斉に舞い、斜面の土が削り取られる。
「 ッッぶな──! 」
碧が地を蹴って横に飛び退く。その直前まで、そこに“ 音速の槍 ”が突き刺さっていた。
「 はえぇ...なんだ、今の....! 」
避けたはずの碧の頬にも、うっすらと切り傷が残っている。
その鋭さは、“ 見る ”より“先”に来る。
目では追えない。音では気づけない。
伸ばした先に生まれる“ 破裂 ”が、ただの攻撃以上の破壊を生む。
「 ふざけ.....っ、今の、直撃してたら──」
紬が声を飲む。
避けた位置すら危うい。金属の棒は、今また縮まりながら、ゆらりと仮面の敵の手元へと戻る。
「 もう一発くる....! 」
俺は、空気を読む。
ほんの一瞬、風が沈黙した。
──まただ。
「 下がれッ! 」
叫ぶと同時に、もう一度。
ズガァァァンッ!
再び風が割れ、衝撃が襲う。今度は地面ごとえぐられるような、音の衝撃が、後ろの岩を砕いた。
狙いが変わった。そして、またもやあの一撃が来るであろうタイミング。敵の動きに異変が現れた。
仮面の奥。焦り。
はっきりとは見えないはずの目元が、歪んだように感じた。
「 ....っ!? 」
敵は金属棒を突き出そうとしたまま、明らかに手元を誤る。
発射されるはずの一撃が、わずかに角度を逸れ、地面の脇を斬った。
ドガッ!と鈍い音を立てて、土だけが吹き飛ぶ。
その仕草。あの無機質な仮面越しでも、確かに分かった。
──ヤツは、慌てていた。
....なぜだ?
ソニックブームを撃つ直前。
勝ちパターンだったはずの流れで、なぜ、あんなに.....。
そう思った、その時だった。
──背後の茂みの奥。
風の流れが変わる。
霧の向こう、木々の隙間から現れたのは──
「 ...あの影、まさか── 」
見間違えるはずがない。
細身のシルエット、地面を滑るような足運び、
そして、月明かりをかすめた深緑がかった茶色の髪がふわりと揺れる。
安都だった。
その少女──安都は、右の掌をまっすぐに、ヤツの金属棒へと向けていた。
左手はそっと、口元を押さえている。
どこか淡々とした佇まい。だけど、その視線は真っすぐ、相手を見据えていた。
「 あん....都....? 」
俺が思わず声を漏らすと、安都は微かに首だけを傾けて、俺たちに気づいたようだった。
──けれどその目には、もう覚悟が宿っていた。
────────
「 ....行くぞ 」
苑里の声が先に響き、気付けば俺たちは既に動き出していた。
俺は最後列。狙うは、一撃。
紬と安都が前衛の左右から圧をかけ、苑里が囮になって動き回る。碧の盾がその最前線で敵の金属棒を受け止め、ギリギリのバランスで守っていた。
.....信じろ、あの盾を。
それだけが、俺の攻撃の“ため”になる。
「 ...安都、左抑えた! 」
「 紬、次、右から結界!」
「フェーンリヒト、修復っ!」
碧の盾が軋む。金属棒がそれを打ち据えるたびに、火花とともにヒビが走る。だが、壊れない。壊れさせない。
俺はポケットからナイフを抜き取った。
カチャリ、と軽い音がする。
目の前で敵が崩れた。安都の妨害が効いた。紬の結界が脚を止めた。
──今だ。
「 ペネトレイション 」
静かに呟きながら、俺はナイフを構え、地を蹴った。
このスキルは、所持している物体の“形を保ったまま”あらゆるものを貫通させる能力。
もちろん、代償はある。クール時間、魔力消費──全て込みで“ 限られた一手 ”。
なら、それを“終わらせる一撃”に使うまでだ。
──届く。
仮面の奥、金色の瞳と一瞬だけ視線が交錯する。
そして。
「 っ──! 」
奴の金属棒が、唸った。
ソニックブーム。
音速を超える、一撃。
「 っ....! 」
咄嗟に左腕の金属棒を前に出す。
ドン、と世界が揺れた。棒ごと吹き飛ばされ、俺の身体は空へと弾き出された。
.....終わったか? それとも──まだ?
空中で回転しながら、奴が背を向けて逃げようとしているのが見えた。
だが、身体は……動かない。届かない。
....クソ、ここまでか。
そう思った瞬間──
「 お前ならトドメを刺せる!行ってこい 」
頭のすぐ後ろ、空中から声がした。
そして、俺の背中に──衝撃。
「 ッな、バカ苑里いいいい!!! 」
空中から、あり得ない角度で、苑里が俺を蹴り飛ばしてきやがった。
訳が分からない。でも、勢いは最高だった。
なら──刺すしかない!
「 ペネトレイション!! 」
ナイフを突き出す。風を裂いて、敵の仮面、その奥の“ 本体 ”へ。
奴が振り向くよりも速く──その刃は、顔面を貫いた。
グチャッ、と鈍い音。
仮面が割れ、鉄が軋む。何かを呟いたように見えたが、もう聞こえない。
奴の身体が、音もなく崩れた。
俺は、ナイフを握ったまま、息を吐く。
「 ....ふざけんなよ、アイツ.....空中って何だよ... 」
自分の息遣いだけが響く。けれど、不思議と嫌じゃなかった。
ようやく──仕留めたんだ。
この戦いは、終わった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回の戦いは、一瞬の判断と仲間との連携が命運を分ける激闘でした。敵の攻撃に翻弄されながらも、諦めず立ち向かう彼らの強さを感じていただけたなら嬉しいです。
では、また次の話でお会いしましょう。──広瀬




