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巨大カメレオン


「お、倒したね」


私が見てもないのにそう思ったのは、景色が変わったからだ。


先程までなかったもう一つの道が現れた。


'この道を隠すために魔物がいたのか'


私はアスターが戻ってくるまで、気になっていたことを考える。


魔物がいたなら、この先にある花畑を見ることは無理ではないだろうか。


たまたま魔物が気づかなかったのか、それとも運良くいけたのかもしれないが、この2つは限りなくゼロに近い可能性だ。


考えられる理由は何個かあるが、その中で最も最悪な理由はこの領地を呪った者が、わざとこの噂を流したことだ。


噂を本気にするものはあまりいない。


大半は信じない。


冗談だど受け流すだろう。


だが、一部のものは信じてしまう。


信じなくても好奇心や唯一変わらない場所を安らぎとして訪れる。


もし、訪れたらセイレーンみたいに殺されるだろう。


私たちがそうならなかったのはきっと妖精の加護を受けているのを感じ取ったからだ。


一応悪魔の加護もあるが、それに関しては悪魔の2人と同等か、それ以上でないと気づかないようにしてある。


妖精との契約は人間にとっては誇れることなど隠してはないので、魔物も気づいたのだろう。


だから私たちには襲わず、同じ道を何度もループさせ、混乱し冷静さをかいたところで襲おうとでも計画していたのだろう。


'まぁ、今回は相手が悪かったわね'


私はアスターの姿が見えたので立ち上がり、ズボンについた土を払う。


今日は昨日と違いいつもの格好をした。


侯爵や夫人、使用人たちには信じられないような顔をされたが「呪いを早く見つけるためにも動きやすい格好の方がいいかと思ったんです」と私もこんな格好は恥ずかしいです、という顔をしながら言うと、彼らは自分たちの察しの悪さに申し訳なくなる。


自分たちのために頑張ってくださっている方に対して、なんで失礼な態度をとってしまったのかと。


誰も何も言えずにいると侯爵が一歩前に出て頭を深く下げてお礼を言う。


「ローズ嬢。本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません」


国王は仕方ないと頭では理解していても本当は助けて欲しいと思っていた。


長年付き合いのある貴族たちは全員、何かと理由をつけて無視しているのに、ほんの数ヶ月前に知り合ったばかりで、大した交流もしてないのに、助けてくれる彼らに侯爵は感謝の気持ちでいっぱいだった。


涙が落ちそうになるのをグッとなんとか耐えて、ローズの言葉を頭を下げたまま待つ。


「侯爵様。頭を上げてください」


その言葉で侯爵は頭を上げる。


「お礼を言うのはまだ早いです。お礼は全て終わった後に言ってください。今はまだ受け取れません。なので、終わってからならその言葉を受け取りましょう」


私は優しく柔らかい口調で言い、花が咲くときのようにふわりと笑う。


「……!ああ、そうだな」


私の言葉を聞いた侯爵は、最後まで一緒に戦ってくれるのだとわかり、とうとう耐えきれず一筋の涙が流れた。




「お嬢様。お待たせしました」


アスターが戻ってきた。


私はアスターの声で、ようやく自分の世界から抜け出せた。


侯爵のことを思い出したせいで、先程の侯爵の言葉と顔を思い出してしまった。


'今は感傷に浸っている場合じゃないわ。やるべきことをやらないと'


一旦、侯爵のことは忘れ呪いに集中する。


「ええ。じゃあ、行きましょうか」


私たちは隠されていた道の方へ進んでいくが、すぐにこの道の気持ち悪さに帰りたくなる。


'はぁ。なんでこの道だけ綺麗なの?ここを歩くまで鳥やリスはいなかったし、花なんて咲いてなかった。そもそも茶色一色だったのに、ここは色鮮やかなんて異様でしょう。誰が見たって、何かあるじゃん'


私は異様すぎる空間に、呪い探しなんて他のメンバーに任せて治療班に入ればよかったと後悔する。


したところで手遅れなので進み続けるが、時を戻せるならこんなところには来なかった。


'顔怖いな。この先に何かあるのか?'


アスターはだんだんと顔が険しくなっていくローズの顔を見て、気を引き締めるも、心の底では「きっと今回もお嬢様がいるからなんとかなるだろう」と思っていたので特に心配はしてなかった。


暫く歩き続けると、ようやく花畑についた。


その花畑を見た2人は同じことを思った。


ーーなんて美しい花畑なのだろう、と。


花の種類も色もたくさんあって統一感はないのに、今まで見てきた花畑で1番綺麗だった。


だが、私にはその景色が綺麗すぎて、これは本物ではないと確信した。


そもそも花畑をよく見ればおかしいことに気づく。


絶対に同じ季節、場所で咲かない花が同時に咲いている。


そんなこと普通はあり得ない。


もし、そんなことができるとなると魔法で作った以外に考えられない。


近くにこの花畑を作ったものがいるのかと気配を探るが、全くわからない。


人の視線なら簡単に気づけるのだが、今は何も感じない。


そもそも魔法で隠れられたら見られていても気づくことなどできない。


姿が見えないのだから。


'困ったな'


どこに敵がいるかもわからない今、無闇に動くことができない。


'アスターじゃなくてシオンを連れてくるべきだったか?'


アスターは将来、人類最強の戦士になるが、それはまだ先だ。


今は妖精王と悪魔の王と冬の王と稽古をしているお陰で、この時期の本来のアスターよりは強いが、まだまだ未熟者。


何より魔物との戦いはほぼゼロに近い。


稽古と実践は違う。


そう思ってシオンに魔物退治を任せたが、今はそれが仇になった。


アスターが強いのは知っているが、姿の見えない魔物相手はまだ無理だと思い、一旦引き返そうと思い声をかけようとするが、いつの間にか隣にいなかった。


考えごとをしていたため、アスターが消えたことに気づかなかった。


いったいどこに行ったのかと周囲を見渡すと、剣を木にぶっ刺していた。


'うん。なんで?なにしてんの?'


アスターの理解不能な行動に私は驚いて、これでもかというほど目を見開く。


「ちょ、なにやってんの?とうとう頭がイカれたの?」


「何言ってるんですか?」


アスターはそう言いながらゴミを見るような目つきでこう思った。


'とうとう頭がイカれたのはそっちですよね?'とため息を吐く。


「よく見てください。見えるでしょう」


アスターにそう言われて私は目を細め、何かいるのかと集中する。


数秒そうしていると、少しずつ魔物の体が見えてきた。


'え?あれって巨大カメレオン?いや、キッモ。顔キッモ。


魔物だからかはわからないが顔が気持ち悪すぎて顰めっ面になる。


「……なんで巨大カメレオンがここにいるわけ?」


私はこの間買った魔物図鑑に書かれていた巨大カメレオンのページを思い出す。


「さあ?それはわかりませんが、こいつは領民を大勢殺していますよ」


アスターは木の後ろに見える、夥しいほどの人間の骨を見て顔を顰める。


私の位置からは骨を見ることができないため、なぜアスターがそう断言したのかわからず、その理由を知るためにも近づいて木の後ろを確認する。


そこを見た私は自分の顔がひきつっていくのがわかった。


「アスター」


「はい」


「全員殺せ」


「はい」


私がそう指示を出すと、アスターは姿を消している魔物たちを次々と殺していく。


見た限り、周辺に呪いの模様はない。


つまり花は呪いとは関係ない可能性が高い。


そうなると誰かが作ったことになる。


巨大カメレオン一匹倒して消えないとなると、まだ魔物が隠れている可能性が高い。


私はアスターの心配など怒りで忘れ、2度フリージア領の人たちが被害に遭わないよう殺す指示を出した。




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