報告 2
「じゃあ、次どっちからいこうか?」
シオンの報告が終わり、次はどっちがするか尋ねる。
別にどっちからでもよかったし、指示してもよかったが、魔物退治を頭の中で考えていたため、そう言ってしまっていた。
「ご主人様。先に私たちからでもよろしいでしょうか?」
アイリーンは早く呪われた男性のことを報告したくて願い出る。
「もちろん」
私はアイリーンの顔から何か非常事態が起きたのだと悟る。
私が許可を出すとアイリーンは順を追って説明し出した。
最初は順調に治療が進んでいた。
人が多すぎて休む暇もなく働き続けたが、みんなも頑張っていると思うと、大変でも頑張れた。
アイリーンのその言葉を聞くと私は少しだけ罪悪感を覚えた。
そのとき私は呑気に昼寝をしていたから。
だが、すぐにその罪悪感は消え、話しに集中する。
アイリーンたちはずっと重症患者たちを治療していた。
重症患者は人数こそ少ないが、いつ死んでもおかしくない状況で、軽症、中等症に比べれば常に神経を研ぎ澄まさなければならないので疲労度は比べ物にならないくらい溜まる。
正直何度か、なぜ自分たちばかりが大変な目に遭って、フリージア領の者たちが彼らを治療しないのかと不満に思ったが、きっと自分たちがやらなければ彼らは死んでいただろうとも思い、ひたすら助けることだけを考え手を動かした。
そうやって必死に1人でも救おうと躍起になっていたとき、1人の男性だけ何かがおかしいということに気づいた。
渡された薬を投与しても、他の治療をしても一切よくならない。
寧ろ酷くなっていく様子に、アイリーンは嫌な予感がした。
本当はすぐにローズに報告しに行きたかったが、オリバーが指示を出しに言っている今、自分もいなくなれば、手が回らず誰かが死ぬかもしれないと思い行けなかった。
それに、例え報告しても呪い探しで手一杯で負担を押し付けるかもしれない。
あれこれ考えているうちに男性は首元を掻き始め血が出てきた。
慌てて魔法で手を拘束するが、今度は足をジタバタさせるので、全身を拘束して身動き一つできないようにした。
アイリーンは魔法で拘束した状態で男性に近づく。
何かがおかしいと思うも、見た限りわからなかった。
でも何かあると直感はしていた。
このままでは埒があかない。
そう思ったアイリーンは、本能に従って行動する。
男性の服のボタンを全て外し、体を確認することにした。
すると服の下から現れたのは見える範囲全体に呪いの模様が刻まれていた。
アイリーンは元々呪いに詳しくないのと、1000年間封印されていた。
その後に新しくできた呪いも全く知らないので、体に刻まれた呪いがなんなのかわからなかった。
呪いに関しては悪魔の方が詳しいだろうと、2人が帰還してから聞こうと思っていたが、2つの班とも同時に帰ってきただけでなく、全身スライム塗れで帰ってきた。
ご主人様の体を綺麗にしなくてはとお風呂の準備を済ませ、入るよう促し、そこで話を聞こうと思ったが、新たな任務を与えられたので、聞くのが遅くなった。
アイリーンは説明し終わると一息吐いてから「以上です」と話を終え、私の言葉を待つ。
「アイリーン。その呪われた人は今どこに?」
アイリーンの話を聞き終わった私は「まさか」とルネの方を向くと、顔つきが真剣な顔に変わっていたため、自分たちが探していた呪いの可能性が高いと判断し、案内してもらうことにした。
「こちらです」
アイリーンはそう言うと飛んで、男性の元まで案内する。
私たちは黙ってアイリーンの後を追う。
呪いが体に刻まれているからか、建物の1番上の端に男性はいたが、私は部屋に入った瞬間固まってしまう。
'ん?なんでミイラ?'
話を聞いて、男性が暴れるから拘束するのまではわかるが、なぜ拘束の仕方がミイラになるのかはわからなかった。
口と鼻も覆われていて、これで息ができているのか心配になるが、アイリーンが放っておいたのなら大丈夫だろうと思い、そのままにすることにした。
「ルネ、シオン。調べて」
2人以外に呪いに詳しいものはいない。
ルネに関してはアイリーンと同じで1000年間封印されていたので、知らない可能性もあるが、あれでも悪魔の王だし、契約してからずっと呪いに関して調べているので一応調べてもらう。
「おう」
「はい」
2人は返事をしてから男性に近づき、シオンがお腹の部分だけ包帯と服をどかして調べる。
遠くからでもお腹に何かの模様が描かれているのがわかる。
あの模様が呪いだと聞かされてなかったら「かっこいいタトゥーだな。センスある」と思っていた。
私が呑気にそんなことを思っていると、2人の悪魔の顔がどんどん曇っていっていることに気づいた。
これは結構やばいのか、と嫌な予感がして心の中でどうが勘違いでありますように、と願っているとシオンが眉を八の字にしながら、とても言いにくそうにこう言った。
「このまま放っておいたら、フリージア領の大半、いやそのものが消える可能性があります」
シオンのその言葉を聞いて、一瞬頭が真っ白になり倒れそうになる。
すぐにお尻に力を入れ、なんとか踏ん張るも最悪な気分は変わらない。
どうにかならないかと考えていると、ルネが私の肩に乗ってこう言った。
「主人。さっき、俺が言ったこと覚えてるか?」
'さっき?さっきっていつよ。もっと詳しく言え'
私はルネの曖昧な言い方に心の中でツッコむも、さっきがいつを指しているのかわかっていた。
「カルアの呪いのこと?」
「ああ。それだ」
「あ、もしかして、この人がその1つってこと?」
確かカルアの呪いは5つの呪いの紋章をどこかに刻み発動させるもののため、男性の体にも呪いの紋章が刻まれているためそう思った。
「いや、違う」
'違うんかい!'
私はルネは真顔で即答するのではっ倒したくなる。
それなら、紛らわしい言い方をするなよと腹がたってくる。
「まぁ、黙ってきいてくれ」
ルネは殴られる気配を察知し、殴るなら話を聞き終わってからにしてくれ、と遠回しに言う。
「……」
私はルネの意図に気づき、時間が勿体ないので話を聞いてクソだったら殴ろうと決め、黙って話を聞くことにした。
「俺が言っただろう。まだ完全に発動されてないって言ったの」
'そう言えばドヤ顔で言ってたわね'
ルネのムカつく顔を思い出し、無意識にルネの頬をつねりながら「言ってたわね」と言う。
ルネはつねられたまま「その原因、いや、理由がこいつだろう」とミイラ状態の男性を顎で指す。