変貌①
ドロッセルとヨハンを宥めてから数分後、事態が一変した。
赤黒い塊が奏でる鼓動が徐々に早く大きくなっていく。
その轟音に古城が震え、壁面に亀裂が入る。
「カシム……!」
その様子を食い入るように見守る。
チネハもいつでも対応が出来る様に身構えた。
「何が生まれるんだろー!」
「ドクドク言ってる、凄いわ!」
悪魔達は激しく鼓動する様子を楽しんでいる。
ピシッ……ピシピシッ……!
塊に黒い亀裂が入った。
それは次第に増していき、塊全体を覆っていく。
パリン!
遂に割れ、中から赤黒い光を放つ。
とても禍々しく嫌な空気だ。
その光の中に薄らと人影が見えた。
光はすぐにおさまり、姿が明らかになる。
「カシム……!!」
そこには目を閉じた状態のカシムがいた。
リリアムが呼びかけるとゆっくりと目を開いていく。
「リ…リアム?………っ!!
早くここから離れろ!!
ここにいたら私は……ぐっ……ああぁぁぁ!!」
「カシム?!」
突然頭を押さえ、痛みに喘ぐ。
リリアムは咄嗟に近付こうとするが、チネハに遮られてしまった。
「お嬢ちゃん!まだ行ってはダメ!!
様子がおかしいわ!」
「でも!でもカシムが!!」
チネハは守るようにリリアムを抱き締める。
その腕の中で少女は我に返り、涙を浮かべながら側に行きたい気持ちをグッと堪えた。
頭を抱えた彼の身体からは先程の塊と同じ色の魔力が滲み出て、粘つくようにまとわりつく。
そして喘ぐ声は笑い声へと変化していった。
「ぐぅ……ああ……ぁ…は……はははははははは!!!成功だ!!
成功したぞ!!くくっ……あはははは!!!」
「……カシム!?」
「カシム?……ああ、俺は魔王カシムだ。
お前はぁ……そう、リリアムだな」
その仕草や言動は今までカシムとは違うものだった。
彼は決してあの様な笑い方はしない。
そう思い、様子を見つつ身構えた。
「おいおい、何警戒してんだ?
俺とお前の仲だろ?また仲良くしていこうぜ」
ゆっくりと少女に近付き、手を差し伸べる。
少女は一歩近付かれる毎に一歩下がり後ずさった。
あくまで警戒をし続けている。
魔王は軽く溜息をつき、手を差し伸べるのをやめる。
そして頭をポリポリを掻き、再びリリアムを見据えた。
少女は一瞬ビクッと身体が震え、動けなくなった。
そして自分の意思とは関係なく勝手に魔王の方へと足を踏み出してしまう。
抵抗したくても言うことを聞かない。
チネハも少女を止めるようとするが、結界が張られているのか触る事も出来ず弾かれてしまった。
そうしてゆっくりゆっくりと歩みを進め、リリアムは魔王の目の前でピタリと止まった。
冷や汗が止まらない。
姿形はカシムなのに中身だけが違う。
身体は動かないが、口は動く。
恐る恐る少女は魔王に問いかけた。
「あなたは….誰?」
「俺はカシムだぜ?何を言ってるんだ?」
「…言い方を変えるわ、カシムの中にいるあなたは誰なの?」
「俺は魔王だ。
それよりも俺はお前の事大層お気に入りの様だな。
能力も申し分無い。
配下に加われ、リリアム」
魔王が少女の頭に手をかざす。
放出された魔力はその頭に吸い込まれていくと同時に内側から壊される様な激しい痛みに悲鳴をあげる。
チネハは助けようと試みるがやはり結界に阻まれ前へ進む事が出来ない。
自分の不甲斐なさにイライラする。
魔王はニヤリと笑みを浮かべながら、尚も注入していく。
やがて手をかざすのをやめると少女はその場に崩れるように倒れた。




