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崖へ⑦

「今回の力比べの勝者は………カシムーーー!!!」


 族長が戻ってきたところで審判が高らかに勝敗を告げた。

 前代未聞の事に他者も動揺を隠せない。


「カシム!お疲れ様!」


 少女が近くまでやってきた。

 彼女が与えてくれた作戦が無かったら勝利出来たかわからない。


 因みに何故第三回戦も勝てたのかというと、まず動物の場合。


 魔力量が少なめな鳥人には出来ないが、魔力を解放し威嚇すると当事者以外の弱い者は一時的に動けなくなったり失神する事がある。


 依然、変態のチネハがやり、ソーシウスとリリアムが動けなくなったのはそれが理由である。

 それを利用し、動物を狩っていた。


 そして魚の場合。

 あらかじめ人魚達に念話で状況を伝え、指定の魚を集めてもらっていた。


 カシムには族長が狙っている獲物とは逆の方を狙う事も指示していた。

 これにより、相手におこぼれを持っていかれる確率も低くなるというわけだ。




 未だに信じられないという顔で族長は放心し、うつむいている。

 弟も何て声をかけて良いかわからない様子だ。


「約束通り、私の仲間になってもらおうか」


 二人の様子を気にする事なく、カシムは主張した。

 族長はその声を聞いた瞬間我に帰り、キッと睨み付ける。

 一言悪態でもついてやろうと思い口を開こうとしたが、負けは負けなのでグッと堪えた。


 大きく深呼吸をし、自分を気持ちを整える。


「わかってるわよ、悔しいけど私の負けよ。あなたの仲間になってあげるわ」


 腰に手を当て、あくまでも上から目線の物言いは種族柄と言うべきか。

 だが、キチンと認めてはくれている様だ。


 それからカシムの手を引き空を飛ぶ。

 鳥人達全員から見える位置で族長は叫んだ。


「今日からこのカシムが鳥人の族長よ!

 ただ、カシムは魔王になる為に旅を続けると言っているわ!

 そこで私は族長補佐として引き続き此処を治めていくわよ!

 異論のある者は私を引きずり下ろす気でかかってきなさい!!」


 彼女の発言に対し、異論の声を上げる者はいなかった。

 ある程度周囲を見渡し、確認をする。


「異論はないみたいね!

 新族長のカシムに呼ばれた時、いつでも出られるようにこれからも日々翼を磨いていくわよ!!」


 おおおおおーーーー!!!!

 皆が拳を突き上げた。

 力比べの勝者に対して、笑う者は誰もいなくなっていた。



 その後は新族長を祝う会として盛大に盛り上がった。

 ある者は豪快に酒を飲み、ある者は芸を披露している。

 第三回戦の勝利のコツを聞かれたりもしたが、秘密だと言って誤魔化した。


 カシムとリリアムが楽しく飲み食いしていると、族長補佐がやってきた。

 少し酔っているのか、顔を紅潮させ、目がトロンとしている。


「ここ、座ってもいいかしら?」


「ああ」


 族長補佐は隣に座ると、カシムに密着し、もたれかかった。

 その光景を見て、少女はあっと声を出し、顔をしかめ、前のめりになる。


「私、強い男の人が好きなの。

 ねぇ、あなたは翼の生えてる女は嫌いかしら?」


「嫌いではない」


「良かったー♪」


 更にカシムの腕を取り、胸で抱く。

 そのやりとりを見て、少女は二人の間に入り剥がしにかかる。


「ちょっと!何やってるんですか!離れてくださいー!!」


「良いじゃないの、ちょっとくらい。

 ねぇカシムぅ、今日良かったら一緒寝ましょうよ。良い夢見させてあ・げ・る」


「こらぁぁぁぁああ!!!」


 顔を真っ赤にして、少女は族長補佐を引き剥がした。


 少女と族長補佐が女の戦いをしている中、族長補佐の弟がカシムの隣に座ってきた。


「ねぇちゃん、酔うといつも誰かに絡むんだよなー。まぁ、俺もあんただったらねえちゃんあげても良いけどな」


「ちょっと、私のカシムと何を話しているの?」


「カシムは誰の物でもないです!!」


「わわ、ちょっとねえちゃん!!リリアムも!!」


 再度取っ組み合いが始まる。


 その光景が面白かったのか、普段あまり表情を変えないカシムが声を上げて笑う。


 頬を膨らませて怒っていたが、あまりに珍しい彼の姿に、少女もつられて笑った。



 -------



 翌朝、一晩中の宴会で転がる様に皆眠っている。

 そんな中、カシムとリリアムは起こさない様にそっとその場から移動する。


 少し歩いていると、後方から翼を羽ばたかせる音が聞こえた。

 振り返ると族長補佐とその弟が手土産を持って飛んでいた。


「これ、持っていってちょうだい」


 投げて寄越された物は、食料や酒だった。


「またいつでも遊びに来なさい。カシム、昨夜言ったのは本気だからねー!」


「またなー、二人ともー!」


 そう言い残し、鳥人の姉弟は帰って行った。


「カシム、何鼻の下伸ばしてるの」


「…?のばしていないが?」


 少しプリプリと不機嫌な少女と、それをよくわかっていない男は、再び歩き始めた。


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