海へ⑤
コンコン………。
扉がノックされた。
昨日に続き、また客だろうか?
息子は未だ目を覚さない。
危険な魔物が彷徨いているので早めに招く。
「空いている。入ってきなさい」
扉が開くと、昨日来た陸の者がそこにいた。
疑問に思いつつ、まだ何か用なのかと族長は尋ねた。
すると陸の者は、見せたい物があるから外に出てこいと言う。
巨大な魔物がいて危険なのに何をバカな事を言っているんだと思ったが、陸の少女に大丈夫だからと更に促された。
護身の為に手近にあった槍を持ち、ゆっくりと外を窺う。
するとそこには、沢山の同胞達を食い散らかした、憎い相手がいるではないか。
堪らず、槍を構えた。
しかし、相手はピクリとも動かない。
まさかと思い、陸の者を見る。
「あの魔物は私達で殺した。もう海は大丈夫だ」
あの魔物を陸の者が殺しただと……。
族長は驚愕のあまり、地面にへたり込む。
しかし呆けてはおられぬと気合を入れ直し、再び槍を構えつつ魔物に近付く。
相変わらず、動かない。
槍で突いてみる。
絶命しているのを確認すると、震える手から槍が離れ、その手は目頭をおさえた。
その様子を陸の者達は満足げに見ている。
「なんとお礼を言ったら良いか……」
深々と伝えると、息子はまだ目を覚さないのかと聞かれた。
家に招き入れ、床に横たわる人魚を見せる。
すると陸の者が息子に手をかざし、魔法をかけ始めた。
それはとても暖かく、心地のいい光だった。
しばらくすると、固く閉じられていた目がゆっくりと空いていく。
「…おや……じ………?」
その瞬間、堪らず抱き締めた。
ずっと目を覚さなかったのにようやく起きてくれたと感極まる。
そして、改めてお礼を告げた。
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「族長さん、泣いてたね」
リリアムは嬉しそうに笑う。
あの後カシムは、『自分は魔王になるつもりで旅をしている、仲間になってはくれまいか』と族長に伝えた。
「恩人の頼みだ。何かあったら呼んでくれ。人魚総出で貴方の元へ駆け付けよう」
と二つ返事をもらう事が出来たのだ。
これで今回の目標は達成された。
次は何処に行こうかと話しつつ、陸に向かってのんびり泳いだ。




