出発①
---季節は巡り、7年が経過した。
リリアムが12歳になった日の朝、いつもの様に朝食を取っていると、珍しくカシムが口を開いた。
いつもなら話をするなら食事を終えてからだと言うのに。
「リリアム、旅に出るぞ」
「え?た、旅?なんで??」
「そろそろ例の計画に着手する」
例の計画とは、魔王になる為の条件をクリアするという事だ。
少女は小さい頃からずっとカシムに聞かされてきた。
私は魔王になるんだと。
だが、今まではリリアムが幼すぎたので、体力を使う様な遠出は出来ずにいた。
転移で行けるところにも限界があったのだ。
「わかった。そういえば、ずっと気になってたんだけど……。カシムは何で魔王になりたいの?儀式に失敗したら死んじゃうのに」
そう、彼が魔王になりたいのは聞かされてきたが、魔王になりたい理由までは話されて来なかったのだ。
いつも『私は魔王になる。だからリリアムは私の知識になれ』で話は終わらされていた。
自分は知識担当なんだという刷り込み故に理由を聞くタイミングを逃してしまっていたのだ。
「そういえば、話したことなかったか。私が魔王になる理由………それは………」
「そ……それは……?」
生唾をごくりと飲み込む。
「………かっこいいからだ」
目が点になる。
え?今なんて言ったと少女はもう一度聞き直す。
「聞こえなかったのか?魔王になる理由とはかっこいいからだと言ったのだ」
「か、か、か、かっこいいから………?」
予想外の理由に言葉が詰まる。
魔王になる条件は非常にシビアなのだ。
魔力、力、知識、仲間、カリスマ性。
それら全てが試される。
当然リスクが高い。
それなのに理由がかっこいいからなのだ。
カシムは当たり前だろうと言わんばかりの表情をしている。
その顔を目の当たりにして、リリアムは思わず吹き出して笑った。
魔王になれば世界が自分の物になったのと同義だ。
ありとあらゆる事が出来る様になったり、従える事が出来る。
それなのにこの男はかっこいいから魔王になりたいのだ。
これが笑わずにはいられるだろうか。
いや、物心ついてからずっと見てきたから逆によくわかる。
残虐性があるとか凶悪だとか言われていたが、元々はこういう性格なのだ。
そう、おバカさんなのだ。
カシムは純粋にかっこいいから魔王になりたいというわけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
なった時の事はその時に考える。
少女が笑い出してしまったので、男は不服そうな顔をした。
腕を組み、そっぽをむく。
笑い過ぎて涙が出たので、それをぬぐいつつリリアムは……。
「ふふふ、カシムらしいね!わかった。………よーし!カシムを魔王にする為に私も頑張るよー!!おー!!」
拳を高く突き上げる。
男はそれを横目で見て、少し頬を緩めた。




