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吸血鬼の探し物3

「それがボクにもよくわからないんだよね。ある時気が付いたら取られてたんだけど。きっと、七十年前のあの日、ボクの人形の目をくりぬいたヤツが持って行ったんだ」


「人形の目を?」


 紅葉が眉をしかめた。


「そう、ボクの目は特別なんだ。ヴラドはその異端と言われる容姿と、他にないほどの魔力を持っているからカルディアに入った。ボクの場合はこの目だ」


 曰く、チェスの目には魔力の本質を見抜く力があるという。かけられた魔術の仕組みを理解してしまう。そしてそれを再現できるほどの膨大な魔力が、チェスにもあるのだ。ヴラドには及ばないにしても、その能力は唯一無二のものといえる。


「何百年とお前を知ってるけど、その目のことは初めて聞くぞ」


「そりゃ隠してたからね。ボクの目のことが悪いヤツに知れてしまったら、必ず悪用されてしまう。ボクは魔術師であり研究者だ。ボクが残してきた功績と言われているものは、全てこの目のお陰なんだよ」


 魔術を操るための一つの言語であるルーンは、チェスが作ったとされている。でも実際は、自然界に存在する本質を現しているに過ぎない。チェスが作ったのではなく、チェスには見えているだけなのだ。


「だからできるだけ早く取り戻さなきゃ」


 これはチェスだけの問題ではない。もしかすると、魔術の恩恵に与っているもの全ての問題だ。


「わかった。お前の目、探してやる」


 ヴラドは呆れた表情を浮かべて言った。


「フフン、ありがと!ヴラドならそう言ってくれると思った!」


「そのかわりお前も俺と戦えよ!」


「もちろんさ!」


 親指を立てて瞳のない目を閉じ、ウィンクして見せるチェスだが、最後にとんでもないことを言った。ヴラドもすっかり忘れていたのだが、チェスはこうして、面倒ごとを人に押し付けるのが昔から得意だった。


「だって、議会にヴラドの居場所漏らしたの、多分ボクだからね!」











 ファーストフード店を出た頃には、すでに辺りは暗くなりはじめていた。


「こんな時くらい見張ってなくていいって」


 ヴラドは、隣を歩く紅葉に言った。


「ダメです。これは私の任務です。いついかなるときも怠ってはいけません」


 ルニとルカは、用事があると言って店を出るなりどこかへ消えてしまったし、最後に爆弾を落としていったチェスは、問いつめる間もなく店からいなくなった。


「心配しなくても俺はどこにも行かねえよ」


「いえ、そうじゃなくて、もしヴラドさんが襲われたら、私が助けないと」


「はあ!?お前に勝てる相手じゃねえよ。昨日見ただろ?お前ではせいぜい運動の後のメシになるくらいだ」


 ヴラドの言葉に紅葉は気を悪くしたのか、眉間に皺が寄っている。もちろんヴラドに悪気などない。


「……じゃあ、私がもし食べられそうになったら、ヴラドさんが先に食べてくれますか?」


 不意に放たれた質問にヴラドは歩みを止める。一歩前に出て止まった紅葉の、顔色はわからないが心臓の鼓動は聞こえる。いつもより幾分早い。


「……俺は、血は飲まない」


「それじゃ本当に死んでしまいますよ!?」


「いいよ、別に」


 紅葉が振り返った。その顔には、悲しみと怒りが浮かんでいる。


「ヴラドさんは、私達に協力してくれるって言いましたよね?アナスタシアさんのことや、七十年前の事件の真相を知るって目的はどうするんですか?」


 確かに自分には目的がある。だが、何百年と生きてきたなかで、今抱えているもの全てが些末なものに思える。


「いや、まあ、大事なことに変わりはないが。……逆に今死ななくてどうするんだ?俺はこれからもこの先もずっと生きていくのか?全ての真相がわかったとして、その先にはなにもないだろ?だったら、俺はこのまま死んでもいいと思ってる。その間に真相がわかれば良し、わからなくてもまあいい。死因が餓死というのは複雑だけどな」


 紅葉のように、命の短い人間にはわからないのかもしれない。案の定紅葉は複雑な表情だ。


「……では、人間の血が飲めないのが思い込みだとしたらどうですか?」


含みのある問いかけだった。ヴラドは眉間にシワを寄せる。


「どういう意味だ?」


「いえ、忘れてください」


視線をさらし、紅葉はそれから一言も話さなかった。

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