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メランコリック・ヴァンパイア  作者: しーやん
第一章 目覚め編
12/36

吸血鬼、逃避

「おい、ヴラド!!お前いい加減に帰れよ!!」


 トニーがビリヤードのキューを振り上げて怒鳴る。それを他の客がうっとうしそうに眺めている。この二日、ジャックのバーで毎晩繰り広げられている光景のため、誰も口を挟んだりしないが、店のマスターであるジャックにとっては迷惑きわまりない。


「んだよトニー、テメエうるせえんだよ!」


「……飲み過ぎじゃないか、ヴラド?最近そんなキャラじゃなかっただろ?」


 ジャックが本気で心配顔をする。もちろん吸血鬼はなかなか酔ったりしないが、今のヴラドはまさにやさぐれた酔っぱらいのようだった。


「知らねえよ……だいたいなんだよキャラって!?どいつもこいつも俺のこと多重人格みたいに言いやがって……」


 ジャックとトニーは思わずお互いの顔を見合わせた。ヴラドには自覚がないようなのだが、二人が出会った頃のヴラドは横柄な物言いに不遜な態度とここまでイヤな吸血鬼などいるものかとよく思っていた。しかし七十年前の事件の後一度姿を消したヴラドに再会してからは、すっかりそんな態度はなりを潜め、さらにはおとなしく学校に通うなど”これは本当にゔらどか?”という疑問が絶えなかった。


 それがどういうことだろう。なぜか昔のヴラドが戻って来た気がするジャックとトニーだった。


「そんなことより学校はいいのか?個人情報を買うのにかなりかかったんだろう?」


「あー、もういいよどーでも。金なんかいくらでもあんだよ。また仕事してもいいし」


 ヴラドはカウンターに突っ伏すとさらに続ける。


「大体な、吸血鬼だってばれてんだよ。んなとこ通ってられるかって……」


「「!?」」


 ジャックもトニーもあまりの驚きで言葉を失った。この用意周到で目的を果たすためなら手段を選ばないような男の正体を見破った人間に拍手を送りたい気分だった。


「オマエでもそんなことがあるんだな……」


「まあ、長く生きてるとうっかりすることだってあるだろ……」


「お前らバカにしてんだろどうせ」


 ヴラドは顔を上げてグラスのブランデーを一気に喉に流し込む。一瞬体がカッと熱くなってすぐに消える。こんなもので気を紛らわせられるなんて嘘だと思った。


 あの日病院から出てヴラドは真っ先にジャックのバーに来た。自分の住所はばれてしまっているためだ。包帯だらけのヴラドを見ても面倒見のいいジャックは何も言わずに店においている。今日で三日目の晩だ。トニーはそれが気に食わないらしく、ヴラドがいる間別のところに泊まっているようだった。


 もう少ししたら自主退学でもしてこの街から消えようか。ヴラドにはテロ事件も、なんだか知らない秘密の組織が暗躍していても、エドワードの父親がどんな卑劣なヤツでもどうでもいいことだ。だからこれ以上巻き込まれる前に消える。今までと同じように、今回もそうやって別の地に逃げればいいのだが、少し気になることがあった。エドワードが用意した着替えのポケットに、メモ用紙が一枚入っていた。そこには、『アナスタシアさんの死の真相を知りたくはないですか』と書かれていたのだ。


 知りたくないと言えば嘘になるだろう。だが、犯人がわかったところで、そいつを殺して復讐したところでアナスタシアは戻ってこない。それにカルディアを四人も殺した相手だ。仲間の強さを知っているだけに、魔力の使えない自分が相手になるとも思えなかった。


「で、どうするんだ?またどっか消えるのか?」


 ジャックはヴラドに聞いた。


「しばらくはここを離れようと思う。噂が広まれば面倒だしな」


「てめえなんかさっさと消えろ」


 トニーがそうつぶやいているが、ヴラドは聞こえないフリをする。


「ジャック、新しいの入れて」


「はいよ。消える前に溜まりに溜まったツケなんとかしろよ」


「いやいや俺とジャックの仲じゃん?」


「意味わかんねえ……」


 ジャックは苦い顔をしながらブランデーをヴラドにつぐ。ヴラドはジャックに酒代を払ったことがない。最初に昔馴染みだからと奢ったら、なぜかそのままつけということになっている。ヴラドに払う気があるのかは正直謎だった。


 ヴラドが新しく入れてもらったブランデーに口を付けていると店の扉が開いた。まだ時刻は午後九時を過ぎたところなので、そろそろ客が増えて来る頃だ。そんな時間にやって来たのはアリシアだった。


「ハロー!!」


「あ、アリシア!この年寄りの飲んだくれをここからおいだしてくれ!!」


 トニーが叫ぶ。


「誰が年寄りだ誰が!?」


「もーいいじゃん、久々に仲良さげで!そんなことより、この子が人探してるんだって」


 ヴラドもトニーもアリシアの言葉に言い返そうと入り口の方へ顔を向ける。が、彼女の後ろに隠れるように顔を出した女の子を見て二人は言葉を失った。それはその女の子がどう見ても普通の人間だったからだ。さらに、その女の子は間違いなくヴラドの知っている人間だった。探しているらしい人物はきっと自分のことだとわかる。ここ最近よく人間から探されるな、とヴラドは思った。


「ほら、アンタが探してるのってアイツでしょ?」


 アリシアはカウンターにいるヴラドの方を見て言った。ひょこっと顔を出しているのはクラスメイトの月島レイラだった。


「純平くん……?」


 レイラはおずおずとヴラドの偽名を口にする。


「ヴラドの知り合いか?」


 ジャックが険しい顔で聞く。突然人間の臭いが店中に広がって、静かに飲んでいた客達がざわつきだす。


「高校のクラスメイトだ」


「あら、アンタほんとに高校生やってたのね。あ、今度制服姿見せてよ!!」


「はあ?絶対嫌だね。大体もう着ることなんてねえよ」


 アリシアが店内に入ると、レイラもその後ろをついて来た。店内の薄暗い照明の中緊張しているのがわかる。普通の人間にとってここは本能的に近寄り難い場所のはずだった。この場にいる全員にとってレイラは捕食対象でしかない。


「ほんとに純平くんよね……?」


 それでもレイラは気丈に振る舞おうとつとめているようだった。


「レイラ、何しに来た?」


 冷たい口調に、レイラは口を開いたものの言葉が出てこなかった。


「ヴラド、ソイツつれて帰れ。ここに人間はいちゃいけねーんだよ。知ってるよな?」


 トニーがしたり顔で言う。そんなことはトニーに言われなくても知っている。ここにはこの世界を知らないものが来てはいけない。連れ込んでもいけない。それは暗黙のルールだった。が、ヴラド自身が連れて来たわけではない。


「ちょっと、あたしを睨まないでよね。この子が勝手について来ちゃったんだから!」


 不満顔のヴラドは立上がって店を出ようと歩き出す。後ろでアリシアが、レイラにウィンクをしたのに気付いて溜息をつく。レイラがアリシアに何を言ったのかわからないが、連れて来たのは間違いなくわざとだ。


「また来いよ」


「ああ」


 ジャックに挨拶してレイラを連れて店から出る。そのまま入り組んだ路地を、明るい繁華街の方へと進む。レイラはおとなしくヴラドの後をついていく。


「純平くん、あの、さっきのお店は……」


 繁華街の明かりが届くか届かないかというところで、レイラがヴラドの服の裾を引いて立ち止まった。


「俺の友達の店だ。別に何も怪しいものはないよ」


 そう聞いてホッとしたのか、レイラの表情が和らいだ。だが、信じたわけではないのだろう。あんな場所にあるバーを誰が怪しくないと思うだろうか。


「一週間……どうして学校に来なかったの?」


「学校でなんて説明されたかは知らんが、見てわかるだろう?」


 ヴラドは自分の腕や、頭に巻かれたままの包帯をさして言った。見えない右目は眼帯に隠されていてどこか不自然だ。


「怪我で入院してたんだよ。紅葉に聞いてないのか?」


「あの子も一週間来てなかった」


「そうか」


 二人の間に微妙な空気が流れる。しかし本当に微妙だと思っているのはレイラだけだ。どうせもう二度とあわないだろうとヴラドは適当にあしらうつもりでいた。


「どうやってここがわかった?」


「女の情報網をなめないでよ。これがあれば誰だって見付けられるわ」


 レイラは握っていたスマートフォンの画面をヴラドに見せる。そこには若者に人気のSNSが写し出されていて、添付してある画像はヴラドのものだった。


「純平くんのこと宮高のアイドルとか言ってる女がいっぱいいるのよ!」


 ヴラドは自分がそんなに目立っていたことに初めて気付いた。密かに次の場所ではもう少しおとなしい見た目にしようと決意する。


「ほんと女って恐ろしいよな……」


 苦笑いを浮かべるヴラドを見て、いつもの純平だとレイラは思った。さっきの店にいた純平は、レイラの知らない別人のようだった。そう、それこそ純平と言うのは作られた仮面に過ぎないのだろうが、今の彼は間違いなく学校で見る彼だ。


「純平くん、聞いてもいい?」


「ん?」


 レイラが唇を噛む。言おうか、言うまいか悩んでいるようだった。


「どうして相楽さんと出かけてたの?」


「……?」


「あたし偶然見ちゃったんだ。土曜日、相楽さんと楽しそうに買い物してるとこ。その次の週から二人とも休みだったから……」


 そんなことを聞く自分はきっと醜い女なんだろうな、とレイラは思う。純平とはそもそも付き合ってもいないし、王子様だったのかもと勝手に思っているだけだ。もう十年以上も経っているから、純平な訳がないのだ。


 それでも、今ここで自分の気持ちを伝えなければ、もう二度と純平には会えない気がした。


「純平くん、あたしね……」


 ヴラドは嫌な予感がした。レイラの言おうとしていることがなんとなくわかる。それは長く生きているからとか関係なく、女の態度を見ていればわかることだ。


「わかった。だからそれ以上言うな。俺はお前の思っているような人間じゃないし、その気持ちに応えてやれない」


 レイラは一瞬傷ついた顔をした。が、すぐにヴラドの目を見て言った。


「それは相楽さんの方がいいってこと?それとも本当の自分じゃないから?あたしには話せないことも相楽さんになら話せるの?」


「どういうことだ?」


 レイラは何を言っているのだろうか。学校では何も不自然なことはなかったはずだ。紅葉のせいで危ういところはあったかもしれないが、すべて丸く収まっていた。ジャックのバーまで来ることは想定していなかったけれど。


「だって、さっきのお店だって高校生が行けるようなところじゃないじゃん!純平くん、隠してるけど他の同じ年の子にはないところがたくさんあるし!」


 やはりバーにいたことは不自然すぎた。場所まで知られてしまったことも含め、これ以上詮索される前に消そうか。ヴラドにそんな考えが浮かぶ。どんなに長く人間にまぎれ、その生活を共にしていても、吸血鬼としてその思考はどこまでもしたたかであるのだ。そんなヴラドの考えなど知る由もないレイラは続ける。


「あたしは……あたしは純平くんがどんな秘密を持っていても平気よ!たとえ純平くんが人間じゃないとしても。あたしを助けてくれたのは純平くんなんだから」


「……?」


 ヴラドはレイラが何を言っているのか理解できなかった。自分がレイラを助けた。はたしてそんなことしただろうか。


「ちょっと待て。一体何の話だ?」


「十年前、夕暮れの川沿いであたしは溺れかけてた仔猫を助けようとして川に落ちたの。その時あなたが助けてくれた。自分までびしょ濡れになっちゃたのに、小さなあたしをおんぶして、家まで連れて帰ってくれた」


 最初こそ怪訝な顔をしていたヴラドだったが、少しずつ思い出して来たのか驚きの表情をレイラにむける。


「ああ!あの時のアホなガキか!ネコなんかほっとけばいいのに、川に落ちてから焦った顔してやがった!」


「なにそれ!?落ちる前から見てたの?」


 レイラがヴラドに詰め寄る。その目は本気で怒っているようだった。


「だって普通は落ちる前に諦めるだろ」


「ッ!!じゃあ手伝ってくれればよかったのよ!!そしたらあたしは濡れなくて済んだのに」


「俺だって被害者だ。お前が諦めてれば俺まで濡れずに済んだ」


 冷たく言っているように思うが、この人が助けてくれたことに変わりはない。そしてしっかり仔猫も助けてくれた。皮肉の裏側は暖かい感情もあるのだとレイラは知っている。


 やっぱり、自分が探していた王子様は彼だったのだ。


「はあ、ようするに俺の学校生活は最初から失敗してたってことか」


 ヴラドはやれやれという風に首を振る。


「純平って、偽名なんでしょ?」


 ここまで物怖じせずに接してくるレイラに内心感心する。あの時からほとんど見た目が変わっていないヴラドを、不思議だとは思っていても恐怖は感じていないようだ。


「ああ」


「ヴラド・シルヴェストリさん?」


「!?」


 ヴラドはレイラが自分の本名を言ったことに驚いた。

「待て、なぜ俺の本名を知ってる?」


 ヴラドという名前はそのままだが、シルヴェストリを名乗ったのは二百年前にエドワードと出会ったときだけだ。カルディアに入って、自分が変わってからはシルヴェストリの名前は出来るだけ隠して来た。その名はあまりにも不吉な噂が絶えず、都合が悪かったのだ。


「父のパソコンに、あなたの個人情報があったのよ」


 それからレイラは、自分があのバーに辿り着くまでの経緯をかいつまんで話した。父の書斎でパソコンを盗み見たこと。そこからヴラドが今住んでいるところを知って、部屋まで行ったのが昨日の夕方。なかなか帰ってこないため、次の朝学校へ行く前にもう一度寄ると、どうやら帰って来ていないようだった。最後の手段として、SNSで呼びかけたところ近くの繁華街で目撃情報が見付かり、ここに来て聞き込みをしていたら、話しかけた相手がアリシアだったこと。


「そうか。ところで、アリシアに俺の本名を言ったか?」


「言ってないよ。写真見せただけ」


「そうか」


 ヴラドはふう、と息をついた。もし言っていたら、今頃アリシアに殺されていたかもしれない。アリシアはかなりの魔力を持っているだろうから、今のヴラドなどすぐにやられてしまうだろう。


「ほかにどんなことが書いてあった?」


「生年月日は不明で、出身はルーマニア。経歴も不明だったけど、カルディアの生き残りって書いてあったかな」


 レイラは顎に人差し指を当てて虚空を見ながら記憶を辿る。


「相楽さんの情報に添付してあっただけだから、そんなに何も書いてなかったよ」


「紅葉の……?」


「あたしの父は、防衛省で働いてるのよ。ちょっと気になることを父が言ったから、書斎のパソコンを覗いちゃったの」


「そのデータって、なんのデータなんだ?」


 小首をかしげてレイラは言う。


「そこまではわからなかった。無題だったし、性別も国籍も年齢層も違う人たちの情報が、履歴書みたいに書いてあるだけだったよ。たしか最初の人はイギリス人で、名前はエドワードだったかなー」


 それを聞いてヴラドは納得した。それはフォルトゥーナのメンバーの情報なのだろう。最近国連にも認められたと言っていた。彼らの情報を防衛省が入手していてもおかしくはない。それこそ今回のテロ事件のように、フォルトゥーナのような組織の手を借りなければ解決できない事件も多々あるだろう。


「レイラ」


「なに?」


 レイラは純粋な瞳でヴラドを見た。


「俺がなんなのか気になるか?」


 それはレイラにとって一番気になっていることだ。でも、聞いていいものなのか迷っていたことでもある。それを知ってか知らずか、ヴラドは口を開く。


「俺はな、レイラが思っているような生き物じゃないよ。吸血鬼だ。お前みたいな女の生き血を糧に生きているような怪物だ」


 これでレイラは自分に近付かないだろうか。


「俺の名前は誰にも言うな。お前の命に関わる。俺は正体がバレてしまったところに長居はしない主義なんだ。だからお前を守ってやることができない」


 それが長く生きるための秘訣だ。あまり正体がばれることはないのだが、もし知られてしまったら、さっさとそこから消える。昔から変わらない自分にとっての守るべきルールだった。


「……わかったわ。でも」


「ん?」


「家まで送ってよね。こんな夜に女の子を一人にしないで」


 俯くレイラの表情はわからないが、気丈に振る舞おうとしていることはわかる。


「わかった」


 こうして二人は路地の暗がりを出て街を歩き出した。レイラの家は少し遠い。並んで歩くと十年前のことを思い出す。


「そういえば、あの時お前ランドセルしょってたな」


「うん。でも結局あのランドセルはダメになっちゃったんだー」


 濡れて泥だらけだったランドセルは入学式までに綺麗になることはなかった。


「次の日、大泣きしなが入学式に行ったの。気に入ってたのに、結局当日はリュックでね、今もたまに思い出話しで家族に笑われるのよ」


「そんな間抜けな話、なかなかないぜ。そもそも入学式前日にランドセル背負って出歩く時点でアホだろ」


「もう!アホばっかり言わないでよ」


 十年前もこうしてレイラを家まで送っていき、それも何回同じ道を通らされたかわからないほど道に迷いながらだったが、やっと家に辿り着いたときは本当に嬉しそうだった。そんなことを考えているとレイラの家が見えて来た。一時間ほども歩いたが、くだらない話をしていたせいであっという間だった。


「あ、そういえばどうして急にいなくなっちゃったの?あたし、あの時ちゃんとお礼が言いたかったんだけど」


 そういえばヴラドは玄関にランドセルと仔猫を置いてその場を去ったことを思い出した。別に理由はなかった気がする。


「は!お前がびしょ濡れの命の恩人を玄関先に放り出したまま家に入ったからだろう?」


 ニヤニヤと答えるヴラドを見て、レイラは顔を引き攣らせる。


「わ、悪かったわね……」


「冗談だ。別に理由なんてねえよ」


 時たまこうやって皮肉を言う彼が本当のヴラドなのだろう。レイラはなんだか嬉しかった。勝手に片思いをして、やっと会えたと思ったら振られてしまったけれど。それでも思いを伝えられたこと、本当の彼を見せてくれたこと、それだけでよかったとレイラは思った。


 家に着くと、門塀の向こうに見える出窓に白い猫が座っているのが目の入った。


「あいつ、あの時の猫か?」


「そうよ。大きくなったでしょ?」


「ああ」


 レイラはヴラドの目を見て最後にもう一度聞いた。


「本当にもういなくなっちゃうの?」


「まあ、そうだな。とりあえず日本を出るよ。ここはあんまりいい思い出がないからな」


「そっか。じゃあさよならね」


 寂しそうな笑顔を浮かべてレイラは言った。


「ああ。もう危険な目にあうなよ」


「ちょっと!雰囲気台無しなこと言わないで!」


 ひとしきり二人は笑いあうとレイラは最後に手を振って、門の横の出入り口から中へ入っていった。ヴラドは来た道を戻るためにきびすを返す。歩きながら次はどこの国へ行こうか考える。日本ほど平和な国はないが、それなりに落ち着いた国に行こうかな、とヴラドは考えていた。







 ヴラドが去った後を暗がりからみつめる人影があった。魔術師の道具によって気配を殺しているため、ヴラドが気付くことはなかった。その人影はギリっと歯を食いしばりながら、ヴラドの去った方を睨みつける。どうしてこの世にあんな醜いバケモノが存在することが認められているのか。どうしてバケモノであるあいつらが、人間より満ち足りているのか。どうして、どうして、どうして。だから我らがいるのではないか?この世にはびこっている絶対悪を断罪するのは、我らが組織をおいて他にいない。奴らは奴らの力によって死ぬのだ。そしてその死に追いやるのは我らだ。たとえどんな手を使っても……


 どす黒い感情の滲んだ瞳は、やがてレイラの家へと向けられる。しばらくして、その人影は夜の闇へと姿を消した。

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