短い学園生活①
スキマ埋め合わせシリーズ第一弾
※くだらないです。第三章までお読みいただければネタバレはありません※
ここはイデア王国アルティス魔法学園学生寮。お約束の全寮制で、魔法が使える設定だ。
「ったくよお、なんでこう毎回毎回お前らの飯を作らなきゃいけねーんだよ」
キッチンに立った主人公、リュウ・ブライトのぼやきから始まった。そう言いつつも、手際の良さは一級品だ。
「楽しみだな~」
「昨日は中華だったから、今日は洋食がいいね」
楽しみに待つティナとマリーの目は、やはり女子のそれ。
「僕は今とても空腹なのです」
「右に同じ」
イクトとアルは空腹の野獣と化していた。
「まあ、お前らの好みは知ってるよ。驚け敬え」
この男リュウ・ブライトは、こと料理に関して言えば天才的なセンスを持っていた。
「ほい、“エンブレイスポークの三色カレー”」
「おお!」
「肉の堅さがネックだったから、少し長めに煮込んであるよ。市販のスパイスで香り付けを先にやっておくと臭みも無くなるしな」
「いただきます……!」
イクトの前には赤、茶色、緑色のカレーが出された。それぞれ異なるスパイスとハーブを用いることで、三種類の香りは舌だけでなく鼻腔まで刺激する。イクトの手は止まらなくなっていた。
「ほい、次は“ロケットフィッシュのムニエル”」
「ありがとう」
「この魚は水中で時速三百キロ出す奴なんだと。まあそのおかげでたんぱくな肉の端々にちゃんと脂がノッてるからムニエルでも大味にならねーんだよ」
「んっ……!」
見た目は普通のムニエルだった。口の中で弾ける旨味と香ばしさを感じるまでは。味付けはシンプルに塩とコショウだけだというのに、感じる味は海を凝縮したような旨み。味のロケット砲とまで称される魚の肉をアルは目一杯堪能した。
「マリーにはこれ、“アンテナレタスと、カウボーイキラーズ”」
「きゃー!」
「アンテナレタスは雷を受信するレタスだからな。上質な北東地方の雷雨群産だよ。カウボーイキラーズは……まあ有名だろ」
「いっただっきま~す!」
目を輝かせるマリー。気性の荒さがその肉質の全てを決める高級な牛のステーキと、雷で育つレタスのサラダ。
痺れるようなレタスの食感にのみ合うようなベストマッチングのドレッシングに、それすらも前座にしてしまうようなカウボーイキラーズの上質な肉。口の中で溶けていく肉汁がマリーを幸福の彼方へと飛ばしていく。
「私も楽しみになってきた~」
三人の色とりどりの料理を見て涎が溢れてくるティナ。どんなものが来るのか、妄想の中から箸が止まらない。
「待たせたな」
運ばれてきたそれは、純白。
皿に乗るきらびやかな白と、部屋の明かりを反射する麗らかな白。一面を白に染められた大きな山がティナの前には現れた。
「“白米のごはんがけ~ライスを添えて~”だぜ!」
イクトも、アルも、マリーも、触れないように食事を続行する。ティナは俯く。リュウの笑顔は眩しかった。
「三種類の米をそれぞれ最適の炊き方で炊き上げてんだ。蒸らしの時間なんかも違っててよ、ここまでの銀シャリにするのに俺でも半年かかったんだぜ」
「…………」
「ソース代わりにはお粥にした白米だ。甘みを足すために少しだけ塩を入れたのがポイントなんだ!」
分かりやすい解説だった。
「旨そうだろ?」
それが、起爆剤。
「ふざけるな!」
辺りが水浸りになったこの日から、様々な憶測のもと、「寮内白米事件」として語り継がれることとなる。