表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

第七話 昼休みはリフレッシュの時間2

「渡辺さん?ちょっとこれ見てごらんなさいよ!凄いこと書いてあるわよ!」

 そう言いながら、帯刀さんは自分が読んでいた紙面を私に示した。

「はい?」

 私は読みかけの本を閉じて、彼女が差し出した紙面に目を走らせる。大学病院で心臓移植手術成功!の記事だ。

「今は何でもできてしまうのねぇ!凄い時代になったもんよ。そう思わない?」

 昼休みに入ってから3本目になる煙草に火を着けて、それを燻らせながら私に訊いてくる。

「そうですねぇ、……、このまま……、仮にこのまま、医学や化学が発達し続けて……、何でもできるようになって……、それで、もし人の寿命とか……、考え方なんかが全てコントロールできてしまうような時代が来たら……、そう思うとちょっと怖い気がします。

どんなに化学とか医学が進歩しても、……、してはいけないことって言うか、……、どう言えば良いでしょう?……、神様の領域みたいなのがあるって……、そう思うんです」

「ふーん、渡辺さんは難しく考えるのねぇ!もっと単純で良いんじゃない?「凄い物は凄い!」そんな風で」

「……」

「田村さん?心臓移植が成功したんですって!凄いことでしょ?そう思わない?」

(きゃっ!真美ちゃんに同意求めないでよ)

 私は心の中で独り言つ。

 中学生の頃にTVのドラマか何かで、「三国志やじゃんけんは3つで争い戦うから面白い」ってのを聞いたことを思い出す。

 三国志は漫画やアニメでしか知らないけれど、ショクの3つの国が入り乱れて争う様は確かにわくわくさせられた。

 じゃんけんだって、ぐうとぱあの戦いよりは、3つ目のようそである、ちょきの存在あったればこそ!と言えなくもない。

 でも、それは3つの要素が争う様を外側から傍観するだとか、ゲーム感覚で3つの要素が戦うからこそ面白いのであって……。

 帯刀さんがAと言う結論を出した。私がBと言う結論を口にした。その時真美ちゃんは??

 こんな風なシチュエーションの時に、仮に真美ちゃんがAに同意すれば、Bと言う結論を口にした私が浮いてしまう。

 その逆に、真美ちゃんがBと言う結論に同意してしまえば、Aと言う結論を出した帯刀さんを孤立させてしまう。

 これはヤバイのである。3人きりの密室で、誰か1人を浮かせたり、誰か1人を孤立させてしまうようなことがあっては、今帯刀さんが燻らせている煙草の煙以上に、空気を濁すことになる。

「たっ田村さん?」

 なおも同意を求める帯刀さん。

 考え込む真美ちゃん。

 少しの沈黙……。

「テッ……テトロドトキシンだ!やっと分かった!!Dの横列は……、テ〜ト〜ロ〜ド〜ト〜キ〜シ〜ン〜!」

「はぁぁ?聞いてたの?私の話?ちゃっちゃんと聞いてくれてたの?田村さん!」

 素っ頓狂な声を上げる帯刀さん。

(きゃはっ!うまいぞ!真美ちゃん!ってか、おまえ!クロスワード考えてたのかよっ!)

 肩の力が抜けるのが分かった。手にはうっすら汗なんてかいちゃったりしてる、私……。

 真美ちゃんがクロスワードを考えてくれてたから、心臓移植の議論はどっちつかず、じゃんけんで言うなら、ぐう、ちょき、ぱあのあいこの格好で収まった。

「すっすみませーん。何の話しでしたっけ?」

 真美ちゃんはちょっと慌てた風に、すがるような目で私と帯刀さんを見比べている。

「もう良いわよ!おばさんの話しなんてまともに聞いちゃくれないんだから……」

 灰皿の隅っこに吸い殻をがしがし押しつけながら、帯刀さんはそう答えた。

「貴方達、まだ若いから……、自分が死ぬとか、身内の不幸とか、考えたことないでしょ?」

 自分の席に座りながら、帯刀さんはそう言った。

 おそらくは、と言うか、確実に、心臓移植、脳死、とかのキーワードから命、寿命、死みたいな連想の流れで、そんな話しをしたんだろう。

「やっぱし、安らかにさくっと!が良いですよねぇ!」

 真美ちゃんが、そう応じる。

「小娘めっ、まだまだ人生分かってないわね?」、真美ちゃんの答えを聞いた後の帯刀さんの表情に、私なりのセンスでせりふを付けるとしたら、そんな感じになる。

「私はねぇ、そうね、……、こんな小さな部屋で誰からも注目されずに……、虐げられて長いこと過ごしてきたから……、最後くらいは誰かに注目されるような……、一花咲かせるようなのが良いかしらねぇ!」

 帯刀さんはお茶を飲みながら、しみじみとそう言った。

「……」

「……」

「まぁ、よっぽどのことがないと、そんな華々しい最後はあり得ないんだけどねぇ……」

 帯刀さんがそう言うと同時に、昼休みが終わった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ