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第七章

すべては、もう一度の協議へ自然に流れ着いた。


今度は、あいだを取り繕う礼儀もなければ、起きていることを別々の「不快な出来事」として切り離し、一つの線に繋げずに済ませる余地もなかった。襲撃。分裂。内側の争いの存在。アヤノの死を、悲劇ではなく、召喚の理を再び自分たちの手へ取り戻すための条件と見なす勢力――そこまで来てしまえば、もはや美しい曖昧さに逃げ込む場所はない。決めるほかなかった。


集まったのは、前に会談をしたのと同じ、あの明るい部屋だった。白い石。水。開いた回廊。人間の営みには似つかわしくないほど清潔な光。何一つ変わっていない。なのに、その場所はもう前と同じではなかった。いったんそこに潜んだ敵意を知ってしまえば、空間は二度と中立ではいられない。どれほど穏やかそうに見えても。


マレクは乾ききるまで張りつめていた。セイゲンは疲れていたが、もう閉じてはいない。逆にミライは、以前よりもさらに隙なく整って見えた。危険が、半笑いや含みを持たせるための無駄を、彼女から削ぎ落としたのだろう。


アヤノは背筋を正して座っていた。少し前に毒を血から抜かれたばかりの身体とは思えないほどに。回復した、とは彼には思えなかった。ただ、自分の弱さに、必要な時間だけ従わせているように見えた。


彼は彼女を見ながら、自分の内側にある、居心地の悪い動きを感じていた。恐れではない。恐れはもう、彼の中では馴染みのあるものだった。苛立ちでもない。それよりもう少し認めにくい何かだ。ここ数日、アヤノははっきりと、彼の内側の“扱いやすい形”から外れ始めていた。物のように扱っていた、という意味ではない。そこまで粗雑ではなかった。ただ、彼の中では長いあいだ、彼女は「守るべきもの」「連れ出すべきもの」「維持し、導き、通してやるべきもの」としてまとまっていた。


その構図が、いま崩れていた。


彼女はもう、彼の決断の中にいる人間としてではなく、自分自身の決断を持つ人間として、はっきり言葉を発していた。彼にはそれを止めることはできなかったし、止めたくもなかった。けれど、完全に受け入れるには、まだ少し時間が要った。


最初に話し始めたのはセイゲンだった。


「状況は、ヴァルガルド使節団がホウセイに長く留まることを許していない」


彼はそう言った。


「これは、ここにいる誰にとっても明らかだ。とりわけ、起きたことのあとでは」


マレクが頷く。


「ようやく、異論の必要がない言い回しですね」


ミライは彼に目も向けなかった。


「しかし、ただちに密かに退去することも不可能です」


彼女は続けた。


「すでに多くを見られすぎた。多くの人々が、聖女が生きていること、ここにいること、そして私たちと話したことを知っている。このまま外へ出せば、神殿内の“もう一つの側”には、彼らの望む余白をそのまま与えることになる」


「例えば?」


彼が問う。


ミライは彼を見た。


「例えば、あなた方が恐慌のうちにホウセイから引き離されたのだと。聖女は平和を認める言葉を公に述べられなかったのだと。彼女は折られており、昨日この場で話されたことは、閉ざされた小部屋と、隣に立つ刃の圧力の中で口にさせられたに過ぎないのだと」


マレクは短く言った。


「つまり、公的な固定が必要だ」


「はい」とセイゲン。「儀礼が要る」


その言葉の響きが、彼には気に入らなかった。神殿の語彙すぎた。こちらの言葉を、あちらの形式に飲み込ませる感じがした。


アヤノも、それを感じたのだろう。


「あなた方の言う“儀礼”とは、何ですか」


彼女が問うた。


「服従の儀ではありません、もしそこを気にしているなら」


ミライは言った。


「公の証明です。あなたが人々の前に立ち、自分の意志で語る。ホウセイとヴァルガルドの平和が、一時の亀裂でも、あなたの意志への暴力でもないと」


「彼は?」


アヤノが少しだけ首を彼のほうへ向けた。


セイゲンは今度は彼に向かって答えた。


「横に立つ」


マレクが楽しげでもなく、ただ口元を歪めた。


「ずいぶんと簡潔な役割だ」


「見た目にはな」


セイゲンは言った。


「だが必要だ。ホウセイはすでに、あなたについて十分に知っている。ゆえに、あなたが黙って横に立つという事実は、半分の言葉よりも重い。あなたは、彼女の言葉が別の側から即座に覆されるものではない、その保証になる」


彼は真正面から尋ねた。


「俺が断れば?」


「その場合でも、我々はあなた方をできるだけ早く、できるだけ密かにホウセイから出そうとするでしょう」


ミライが答えた。


「ただし、その先に残る平和は、紙とヴァルガルドの宮廷の中にしか存在しない。ここでは確認されなかった平和になります。それは即座の破滅ではありません。もっと悪い。腐敗です」


マレクが口を開いた。もう外交官の声ではなく、何度も同じ直線を見せられて辟易している人間の声だった。


「では、結論は単純です。儀礼を行う。その後、使節団は、聖女を殺したがっているホウセイ内部の勢力の届かない場所へ、ただちに戻る。秘密裏の撤退ではなく、公的に完了した動きとして。そうすれば、彼らが聖女を殺すためには、ホウセイ自身がすでに承認した秩序にも傷を入れねばならなくなる」


「ええ」


ミライが言った。


「その通りです」


セイゲンがアヤノを見た。


「だが、最後に決めるのは、あなたであるべきだ」


それは正しかった。


だから余計に、彼には重かった。


アヤノは、すぐには答えなかった。白い光が顔に落ち、弱さの色をほとんど消していた。ただ、机の上に置かれた指先だけがあまりにも静かで、彼にはそこに力の使い方が見えた。筋ではなく意志で身体を支えている時の静けさだった。


「私は話します」


アヤノは言った。


「でも、“一時的に返された聖なるもの”としてではありません。失われた駒にまた口を与えられた者としてでもありません」


ミライが、かすかに首を傾けた。


「では、誰として?」


アヤノはまっすぐ彼女を見た。


「戦争の値を、もう十分近くで見てしまった人間として。都合のために、避けられる死まで“必要”と呼ぶことには、もう同意しない人間として」


静けさは長くは続かなかった。だが、それで充分だった。言うべき形はもう選ばれた。しかも、その形はまたしても、神殿の中からではなく、彼女の中から出てきた。


「よろしい」


セイゲンは言った。


「ならば、それがそのまま響けばよい」


準備にかかった時間は、彼が望んだよりはるかに短かった。


ホウセイは、こういう場を整えることに長けていた。まさにこの種の場に慣れているからというよりも、大きな仕組みというものは、必要と決めた形式を、たちまち必然の顔に作り変える術だけはいつも心得ているからだろう。


彼には着替える時間が与えられた。護衛は確認された。マレクは、状況が公の論争へ転じた場合に、彼が“言ってはいけないこと”を最後にもう一度確認した。ミライはほぼ一時間姿を消し、戻ってきた時には別の顔をしていた。より冷たくなったのではない。もはや会話ではなく、大勢に見せる一つの働きを進める人間の顔だった。


いちばん苦しかったのは、出る直前の数分だった。


特別なことが起きたわけではない。むしろ逆で、彼は狭い控えの部屋にほんの数分だけ一人にされた。細く開いた窓から、あまりに澄んだ朝の光が入ってくる。その数分で、朝からずっと押しのけ続けていた考えが、ようやく届いてしまった。


アヤノは、平和のための機構ではない。


便利な意味での“味方”ですらない。少なくとも、彼の内側でそう扱っていい存在ではなかった。たしかに、二人とも平和を望んでいる。二人とも戦争の代価を知っている。二人とも、もう人を殺してしまった側にいる。だが、それらが一致しているからといって、彼女が彼の意志の延長になるわけではない。


彼女の意志は、いまは彼と重なっている。


その“いまは”が、いちばん痛かった。


彼はどこかで、その一致を、半ば恒久的な権利のように思い始めていた。自分が危険をより早く、より正確に見ているのなら、それだけで二人分の進路を先に決めようとする欲望が、少しは正当化される気になっていた。


そんなものは、どこにもない。


彼女は彼に導かれてここへ来たのではない。反論し、同意し、刃の届く場所へ立ち、速い治療のための一人の死を拒み、公の前へ出ることも選んだ。従ってではなく、自分の線に従って。


だから、いまこの細い窓の前に立っている彼は、誰かを守り導く者ではいられなかった。ただ、隣に立つことを学ばなければならない人間でしかなかった。親しさを、他人の選択へ踏み込む権利に変えないために。


それは、美しい悟りではなかった。


むしろ痛みだった。


自分がどれほど長く、都合のよい嘘を、内側だけで抱えていたかを見せつけられる痛みだった。


迎えが来た時には、その表情だけは消していた。


だが、内側からまでは消せていなかった。


集まった聴衆は、途方もなく多かった。


広場ではない。神殿の内部に造られた円形の大講堂。上は開かれ、空そのものが構造の一部になるように作られている。光は上から差し込み、白い石を段に沿って滑り落ち、下に座る人々の影をほとんど奪っていた。席はびっしり埋まっている。神官、官吏、武人、巫女たち、そして、あとで「民も聞いた」と言うために招かれた市井の者たち。すべてが整っていた。すべてが、ここで一度発された言葉が、もう発した本人だけのものではなくなるように整えられていた。


彼はアヤノと並んで入った。


前でもなく、半歩かばう位置でもない。


ただ隣に。


マレクは後方、二列目の陰に残った。そこでは外交官はもはや顔ではなく、観察する機能だ。ミライは壇の近く。セイゲンはもっと奥、ほとんど背景に近い場所にいた。自分の姿が前面に出るべき場ではないと、彼には分かっているのだろう。


広い壇へ上がると、ざわめきは急には消えなかった。


水のように引いていった。


最初に声。次に衣擦れ。最後に残ったのは、まだ皆が呼吸しているのに、もう待つことしかしていないという、あの密度だけだった。


アヤノは静かに立っていた。


静かすぎる、と彼は一瞬思った。だが違う。ちょうどよかった。恐れを消しているのではない。恐れに外側の形を与えないようにしている、その静けさだ。


彼女の気配は、隣にいるだけではっきりと感じられた。体温という意味ではない。向きの問題だった。言葉の直前に、人が自分を一本にまとめる、その向き。


ミライが短く口上を述べた。神殿にしては、驚くほど短かった。ホウセイは聖女の生を認める。ホウセイはその意志を聞く。ヴァルガルドとの平和が、彼女の意志への暴力ではないことを、ここで確認する。余計な音は一つもなかった。意味を前もって塗り替えようとする動きもない。


そして彼女は退いた。


アヤノが、一歩前へ出る。


その瞬間、彼は妙にはっきりと感じた。孤独と、ひとりで立つことは違うのだと。彼女は一人ではなかった。彼が隣に立ち、神殿は聞かざるを得ず、制度そのものが、この言葉の形を一応は支えている。それでも――話すのは彼女一人だった。この場を、本当の意味で誰かと分かち合うことはできない。


彼女の声は、最初は大きくなかった。


だが、この場所では大きさは必要なかった。ここでは、急がない声のほうが建築に守られる。


「私はアヤノです」


彼女は言った。


「そして今ここで、象徴として話しているのではありません。返された聖なる器としてでも、他方の戦利品としてでもない」


とてもよかった。


よすぎるほどに。


群衆はまだ動いていない。だが、その注意の質が変わったのを、彼はもう感じていた。


「私は、戦争を十分近くで見た人間として話しています」


一拍。


演出ではない。呼吸のための間。


「私はホウセイの側へ召されました。誰と戦えと言われているのかも、そのために何を望まれているのかも知っていました。そして同時に、人がどれほど簡単に、“避けられた死”を“必要”と呼び始めるかも見ました。もし、都合を真実と取り違えるだけの正直さしか持たないならば」


今や講堂は、静かというより、ひどく密に“聴いて”いた。彼には背中でそれが分かった。


アヤノは続けた。


「だから、私ははっきり言います。もし、あなたたちがどうしてもその言葉を使いたいのなら、聖女として、私は平和を望みます。そして、事実として避けられる死を、私は“必要な死”とは認めません。人の命が消費されずに済むなら、それを消費してはならない。誰かにとって、そのほうが恐れや信仰や秩序を扱いやすいというだけの理由で」


いちばん深く打ったのは、この部分だった。


声が大きかったからではない。ホウセイの中心で、ここにいる多くの者が、おそらく考えることすら許されずにいたことを、彼女がそのまま口にしたからだ。


そしてその時、彼はようやく理解した。なぜ自分がここに立たされているのか。単なる保証ではない。黙った威圧でもない。見えている事実の、もう半分なのだ。彼女がここでこう語るなら、その背後にあるのは、気高さの演技でも、一時の感傷でもなく、すでに経験された平和そのものであり、力の扱いと、その代価の扱いが、彼らの側で本当に変わり始めているという事実なのだ。


ミライが、振り返りもせず、指先をわずかに動かした。


合図。


彼へ。


今だ。


彼は一歩だけ前へ出た。アヤノを隠さない。だが、背景にもしない、その程度の歩み。


彼はこういう瞬間が嫌いだった。


群衆が怖いからではない。それはもうとうに過ぎた。そうではなく、ここで余計な一言を足せば、彼女の意志を奪ってしまうかもしれないし、逆に何も言わなければ、彼女をここで一人に見せてしまう。彼の存在は、ただ脅しのためではなく、この言葉が気まぐれでも弱さでもなく、覆しがたい意志の上に立っていることを、形として見せるために必要なのだ。


「私は彼女の言葉を確認します」


彼は言った。


「ただし、彼女の意志の持ち主としてではなく、代弁者としてでもなく。ここに立っているのは、この平和が、彼女の決断に反してではなく、彼女の明確な意志とともに結ばれたものだからです」


彼の声は静かだった。押しつけないように。


神殿自身に、いちばん重要なことを聞かせるために。自分は、彼女を所有していない。


「そしてもう一つ」


彼は続けた。


「私たちは二人とも、戦争の代価を物語としてではなく、実際のものとして知っています。だから、彼女が“避けられる死”について言う時、私はそこに、美しい願いではなく、生きている者たちに対する要求を聞きます。自分たちにとって都合がよいというだけのものを、“必要”だと偽らないでいろ、と」


そこで初めて、聴衆の中に動きが生まれた。


ざわめきではない。


地層がずれるような気配だった。


全員が同意しているわけではない。それでも、以前のような“都合のよい一枚岩”は、もうそのままでは保てていない。


アヤノは隣に立っていた。


彼は話しているあいだ、彼女を見なかった。自分の安定を、彼女から借りたくなかったからだ。だが言い終えたあと、ようやく顔を向けた。


彼女は感謝しているようには見えなかった。安堵でもない。傷ついたまま開かれている顔でもない。むしろ静かで、ほとんど厳しかった。必要だったものを、ちょうど必要なかたちで受け取った人の顔だった――確認はされたが、奪われてはいない、という。


それが、彼には痛いほど響いた。


以前のアヤノだったなら、彼はおそらく、ここから先も守り、受け止め、最後まで導かなければと感じただろう。けれど今は違った。彼女はすでに、自分の言葉の中に立っていた。彼にできるのは、そのことを認めることだけだった。内側でまだ古い役割が疼いていても。


儀礼は、外側から見れば、何事もなく終わった。


ミライが再び前へ出て、聞かれたことを簡潔な定型へ落とし込み、意味を神殿の言葉の下に埋めないぎりぎりの長さで固定した。そして、聖女の確認された意志と、ホウセイとヴァルガルドの公式の平和に基づき、ヴァルガルド使節団は、儀礼終了後ただちにホウセイを発つと告げた。


よかった。


本当によかった。


それでも、壇を降り始めた時、彼はまだ背中で多くの沈黙を感じていた。一つではない。いくつも。ほっとした沈黙。用心深い沈黙。そして、こんな聖女と、こんな平和と、これからどう折り合いをつけていくのかを、もう計算し始めている沈黙。


アヤノは隣を歩いていた。


こういう緊張のあとにしては、少し青ざめている。だが、姿勢は崩れていない。その歩みの中には、何か新しいものがあった。勝利でもない。解放でもない。達成でもない。ただ、とてもはっきりと、自分のものとして背負う重さ。今となっては、もう神殿へ返すことも、彼と完全に分け合うこともできない、その重さだけが。


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