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第五章

会談の間から出る時、彼らは入ってきた時とは違う道を通された。


彼はそれにすぐ気づいた。だが、そのこと自体には深い意味を見出さなかった。あれほどの規模の神殿なら、回廊が一つの導線だけで成り立っているはずもないし、先ほどまで交わしていた言葉がまだ内側に残っているような時には、注意はどうしても日常的な部分から先に鈍る。


隣にはアヤノがいた。


背後にはマレク。相変わらず、存在感そのものを薄くしたような顔で歩いている。少し前を行くのは、神殿の下役たちと儀礼用の衛士たちだった。完全武装でもなければ、戦うための隊形でもない。ただ、ここは安全であるという建前のもと、賓客を案内する時にふさわしいだけの整えられた距離感。


アヤノは彼の左を歩いていた。


黙っていた。


閉ざしているというより、あの会談のあとでは、もう言葉が何も増やさないと分かっている時の沈黙だった。彼にもそれはよく分かった。回廊に落ちる光は相変わらず白く、あまりにも清らかすぎて、この神殿そのものが、ここでは暴力すらも浄められた形でしか起こりえないのだと信じさせようとしているようだった。儀式として。意志として。秩序として。けっして、血と息遣いのある、直截な行為としてではなく。


だからこそ、襲撃の瞬間は、最初ほとんど知覚の誤りのように思えた。


先を歩いていた衛士の一人が、急に横へぶれた。つまずいたようにしか見えなかった。だが次の瞬間、喉元の金具の下に細い黒い針が見えた。音もなく、そのまま崩れ落ちる。


それとほとんど同時に、回廊の空気が変わった。


形が変わったわけではない。意志が変わった。


脇の通路から、柱の陰から、ついさっきまでただ白かっただけの空間そのものから、五人が現れた。


ありふれた刺客ではない。


整いすぎていた。


位置を見る目が速すぎた。


そして何より、ここまでのことをしておきながら、静かすぎた。


あれは、何を狙うかだけでなく、失敗の代価まで先に教え込まれた人間の動きだった。余計な所作が一つもない。神殿らしい荘重さもなければ、宗教的なためらいもない。最初の一歩だけで、彼には分かった。儀礼用の衛士とは格が違う。


「下がれ!」


誰かが叫んだ。おそらく残った衛士の一人だった。


無意味だった。


最初の襲撃者は、すでに間合いに入っていた。持っていたのは短剣に近い長さの剣。狭い回廊に向いた武器だ。そして狙いは衛士ではない。


アヤノ。


彼は考えるより先に割り込んでいた。刃と刃が噛み合い、音は短く、苛立ったように響いた。相手は、思っていた以上に強かった。腕力ではない。重さをかける角度と瞬間があまりに正確だった。普通の防御では、もう遅い場所に力を入れてくる。


すぐ横で、アヤノも引かなかった。


抜刀はほとんど無音だった。最初の瞬間には、白い光が一度、刃の上を滑っただけに見えた。次の瞬間には、別の男が腕を引いていた。二本目の投擲を完成させる前に、手首のどこかを正確に裂かれていた。その小さな矢はなお飛んだが、石に当たり、乾いた音を立てて落ちた。


マレクは身を低くして柱の陰へ滑り込むので精一杯だった。あの男にしては、それだけでも十分だった。


儀礼用の衛士たちは、そこで崩れた。


人としてではない。役割として。彼らは本物の戦いのためには育てられていなかった。ただ、守りという形に見えるよう整えられていただけだ。


最初の一人を、彼はすぐに殺した。


あまりにも早く。


刃は脇の下、腕を上げたあとの開きに入った。相手の身体から動きが先に消え、目から生気が消えるより早く、その場に重みだけが残る。彼はそれを押しのけた。顔を見る暇もなかった。


二人目は、すでにアヤノへ届いていた。


その男は、ほかより一段きれいに動いていた。神殿の暗殺者というより、本当に反撃してくる相手と何度も刃を交えてきた人間の動きだった。アヤノは後ろに下がるのではなく、歩幅の中で受けた。刃がぶつかり、離れ、また噛み合う。彼女のほうが速い。だが相手は一撃を狙っていない。呼吸を与えない速さで刻み、アヤノに空間を狭く使わせていた。


その間に、三人目が彼の右へ回り込んだ。


そこから先は、もはや“応戦”ではなく、生き残るための汚い仕事だった。美しい型も、正面からの勝負もなかった。狭い回廊。柱。崩れた衛士たち。白い石に落ちた血の黒さ。


彼は一撃を受け流し、肘で二人目の身体を柱へ叩きつけた。肋か肩か、何かが潰れる感触があった。すぐに下から刃を返し、そのまま絶った。相手は倒れきる前に、次の衝突の中へ押しやられた。


アヤノのほうでも、ようやく一人が崩れた。


耳の下、首の細いところへ。相手が力で押し切れると思った、その一瞬の驕りに、彼女の刃は入り込んだ。男は両手で傷を押さえたが、自分がもう負けていることにまだ気づいていないようだった。そのまま膝をつく。


残るは二人。


そのうちの一人が、儀礼の衛士たちが使いものにならないと見て、ようやく間合いを変えた。手にしたのは弓でも、機械仕掛けでもない。短い投げ矢。小さすぎるほど小さい武器だったが、使い慣れた手の中では、それで十分だった。


ほとんど振りかぶりもなく、手首だけで投げる。


彼は動きは見た。だが軌道までは読めなかった。


分かった時にはもう、身体を捻るしかない。


それでも、間に合わなかった。


投げ矢はアヤノの背へ入った。


深くは見えなかった。


それが、かえってたちが悪かった。人が一番信じたくなる“まだ大丈夫かもしれない”という形をしていたからだ。


アヤノは鋭く息を吐いた。空気を内側から一瞬で奪われたような息だった。すぐには膝は折れなかった。だが彼にはもう分かった。立ち方が変わっていた。


悪い。


ひどく悪い。


その一瞬の乱れを見て、最後の一人が彼へ突っ込んできた。おそらく、注意が逸れた今なら終わらせられると見たのだろう。


間違いだった。


彼はその男を、ほとんど記憶に残らない速さと粗さで殺した。怒りと刃と肉と石。それだけがあった。二度、三度、確実に終わるまで。


振り返ると、五人目はすでにアヤノの手で壁際に沈んでいた。彼女が傷を負ったことを見てなお、それを使う暇もなく。


そして、静けさが来た。


閉じた場所での殺しのあとにだけ訪れる、あの短い静けさ。まだ誰も状況を言葉にしていないのに、それぞれが自分の呼吸だけを異様にはっきり聞いてしまう、あの沈黙だ。


アヤノは立っていた。


一拍だけ。


それから、まるでただ呼吸を整えようとしたみたいに、片膝を落とした。


彼は本当に崩れきる前に、その身体を受け止めた。


「見せろ」


「やめて……」


「見せろ」


彼は自分の手で矢を引き抜いた。小さい。細い。先端だけが暗く、油のような鈍い光を返した。


毒。


当然だった。


アヤノは歯を食いしばったが、声は上げなかった。ただ指が彼の袖を掴み、布が裂けそうなほど力がこもった。


マレクはもう立ち上がっていた。


その顔からは、いつもの薄さが消えていた。


「治療師を。今すぐ」


生き残っていた衛士の一人が、顔色をなくしたまま駆けていった。


彼は傷口に手を押し当てた。何の役にも立たないと分かっていても。掌の下で、彼女の身体がすでに毒に応えているのが分かった。痙攣ではない。もっと悪い。静かすぎる。力が落ちていくのが速すぎる。


「こっちを見ろ」


彼が言うと、アヤノは目を上げた。


そこにあったのは恐怖ではなかった。体が、こんな時に限って、自分を裏切りかけていることへの、ひどく明晰な怒りだった。


「一人にするな」彼女は、歯のあいだからそう言った。


彼は一瞬、意味を取れなかった。


だがすぐに分かった。


そして、そのせいで余計に苦しくなった。


「黙れ」


「いや。聞いて。もし一人連れてこようとしたら、断って」


「アヤノ……」


「断って。三人。せめて。それなら誰も死なない」


「今は速さが要る」


「そのあとで、私のせいでまた一人死ぬ顔を、あなたに見てほしくない」


そう言われて、彼は“今はそんな話をしている場合じゃない”と言い返したくなった。


だが、まさに今こそ、その話をするしかないのだ。後になれば、もう“後”そのものが来ないかもしれない。


治療師たちは速かった。


そして、その中にセイゲン・アロトもいた。


それは、彼を一瞬だけ別の驚きへ引き戻すほどだった。高位導師は、走るでもなく、だが一歩ごとに無駄を削ぎ落とした速度で回廊へ現れた。その後ろに若い神官が二人。そして、三人の娘たち。どれもまだ若い。白衣。顔はすでに青ざめていた。何を求められているのか、全部ではなくとも、十分には伝えられているのだろう。


彼はすぐに立ち上がった。


「治せ」


セイゲンはまずアヤノを見、次に彼の手の中の矢へ目を落とした。


「毒そのものは致命ではない」彼は言った。「だが回るのが早い。背から血へ入っている」


「なら急げ」


「一人なら、即座に必要なだけ引き出せる」


若い神官の一人がそう言った。


「嫌です」


アヤノの声が割って入った。


もうかすれていた。それでも、言葉ははっきりしていた。


セイゲンが彼女を見た。


彼の腕の中で横たわるその姿は、弱っているというより、意地で意識にしがみついている人間の姿だった。


「三人」アヤノは言った。「均等に。全部じゃなく」


若い神官が何か言いかけた。だがその前に、老人が口を開いた。


「そのほうが遅い」


「でも、誰も死なない」


彼女は答えた。


彼の中が、そこで真っ二つに裂けた。


一人なら早い。


確実だ。


そして、ほとんど確実に、その一人は死ぬ。


三人なら遅い。


繊細で、危うい。


そのあいだに毒がさらに奥へ入るかもしれない。


「今は速さが要る」


彼はアヤノではなく、セイゲンへ言った。


老人は静かに彼を見返した。


「速さと全き代価を取る道は一つ。遅く、だが命を奪わずに済ませる道は一つ。私はどちらも知っている」


それまで黙っていたマレクが、ここでようやく口を開いた。


「もし後者を知っているなら、なぜ前者が“普通”なのかという問いが、生まれますね」


若い神官が顔を上げた。


「ここは、そのような……」


セイゲンが手を上げると、彼は口をつぐんだ。


「後だ」老人は言った。「問いを口にする人間が、まだ残っていればな」


彼は、自分がまた同じ場所へ追い込まれているのを、心底憎んだ。あと一秒遅れれば手遅れかもしれない。その一秒で、彼は一人の死を“効率”として受け入れてしまうかもしれない。さらにその一秒で、アヤノに、自分がついさっき彼女と争っていたものと同じ側の人間だと見せてしまうかもしれない。


アヤノが、痛みに濁った目で彼を見上げた。


「だめ」


それは懇願ではなかった。


境界線だった。


彼は、ごく短く目を閉じた。


そして開いた。


「彼女の言う通りにする」


若い神官が身を震わせた。反論しようとしたのだろう。だがセイゲンは動じなかった。


「よろしい」老人は言った。「ならば、速く、正確に」


彼らは明るい会談の間ではなく、脇の小さな祭儀室へ移された。ほとんど何もない部屋だった。石。床の線。低い灯り。そして、この神殿が本来見せたがらないものが、昔はここで行われていたのだろうと思わせる、冷えた空気。


アヤノは円の中央へ横たえられた。


三人の娘は、三方へ。真正面に向かい合わせではなく、少しずつずらして置かれる。流れがぶつからず、散りすぎもせず、薄く重なっていくようにするためだった。


セイゲンは四つ目の線の位置に立った。


若い神官たちは外縁へ下がる。補助ではあっても、主導ではない。


彼は、円の中に残ろうとした。


許されなかった。


マレクでさえ、この時ばかりは何も言わなかった。ただ、彼の隣に立っただけだった。


セイゲンはすぐには始めなかった。


まずアヤノの額に手を置いた。祝福ではない。毒がどこまで進んだかを、自分の感覚で測るための手だった。それから三人の娘たちへ向き直る。


「すべては出すな」老人は言った。「足りないと感じても、自分の芯は残せ。足りない分は、私が配分で受ける」


一人の娘は、目に見えて震えていた。まだ、本当に子どもと呼んでもよいほど若かった。セイゲンはその肩に短く触れた。


「正しいやり方を、私はまだ覚えている」彼は言った。「彼女を見るな。私を見ろ」


優しい言葉ではない。


だが、頼れる言い方だった。


それから始まった。


光は一気に爆ぜはしなかった。四人の皮膚の下から、同時にゆっくり立ち上がってくるようだった。閃光ではない。濃く、やわらかく、しかし確実に満ちていく力。空気そのものが、少しずつ手触りを持ち始めるような。


アヤノの背が弓なりに反った。


大きくではない。けれど彼にはすぐ分かった。毒だけを抜いているのではない。毒が噛みついた肉ごと、傷んだ部分ごと、引き剥がしている。


娘たちは、少しずつ青ざめていった。


崩れはしない。


空にもならない。


それが、恐ろしく、そして正しい光景だった。力というものが、本当に命ではなく“消耗”として使えるのだと、目の前で見せつけられること。その恐ろしさと、そこにある救い。


セイゲンは、その流れを自分の中で受けていた。


それも分かった。魔力を見る目ではなく、身体で。老人は一刻ごとに、少しずつ薄く、乾いていくように見えた。それでも軸は崩れない。娘たちの力を丸ごと奪って渡しているのではない。開き、分け、均し、食い潰すのではなく、秩序の中を通して流しているのだ。


やがて終わった。


アヤノの呼吸はまだ重かったが、すでに乱れてはいなかった。娘たちは床に座り込んでいた。生きていた。顔は真っ白で、あとで誰かに言われるまで、自分たちがどれほど危ういところにいたかも分からないような顔だった。若い神官の一人がそちらへ走り、もう一人はアヤノのもとへ膝をついた。


セイゲンだけが、立ったままだった。


そのあと、彼はゆっくり壁際の石の張り出しへ腰を下ろした。


崩れたのではない。


あくまで、自分で身体を下ろした。


正しく行われたことの代価を、誰よりよく知っている人間の動きだった。


彼は真っ先にアヤノのもとへ行った。


彼女はすぐには目を開かなかった。だが開いた時、その視線はもう彼女自身のものだった。疲れ、痛みで濁り、苛立ちをまだ残していても、彼女の目だった。


「生きてる」


アヤノは掠れた声で言った。


「生きてる」


彼もそう返した。


彼女は笑おうとしたらしい。だがうまくはいかなかった。ただ口元がほんの少し動いただけだった。


それから彼は、セイゲンを見た。


老人は壁際に腰を預け、片手を石についていた。その疲れを押し隠さない静けさの中に、何かが見えた。ホウセイという神殿が、一枚岩の意志でできているのではなく、長いあいだ、そこに亀裂がないふりをし続けてきた場所なのだと、そう思わせるものが。

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