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第二十九章

ヴェイルに酒を持ちかけたのは、別に友情のためではなかった。


どちらかといえば、必要な仕事だった。ただ、いつもの仕事より正直なだけで。


ヴェイルは言葉が通じない男ではない。むしろ逆だった。通じすぎる。だから、ある種の話題になると、彼の頭はすぐに整いすぎた、乾いた、隙のない形を作ってしまう。その形の中では、いちばん生きた部分だけが最初に死ぬ。


今回は、それを外したかった。


余計な背骨を少し緩めて、男が男に対して、ふつうは本気では話さないことを、本気で話す必要があった。身体のことを。女のことを。近さのことを。支配でも義務でもなく、もっと生きたものとして。


彼はヴェイルを夕方につかまえた。学校の件で短い書類と報告を済ませたあとだった。


「飲みに行くぞ」


ヴェイルは彼を見た。その目は最初から、「これは酒だけの話じゃないな」と言っていた。


「誘いか、罠か」


「両方だ」


「なら行く」


二人が座ったのは家の中ではなく、古い中庭に面した脇の小部屋だった。ここなら、誰かの耳に引っかかる心配が少ない。酒は特別うまくもなかったが、ひどくもなかった。ヴェイルは一杯目ではまだ、背骨まで礼儀で作られた男のままだった。二杯目で少し緩んだ。三杯目になる頃には、灯りも空気もやわらぎ、会話はようやく“うまい言い方”の外に出た。


「で」


ヴェイルが言った。


「ここまで引っ張り出したんだ。そろそろ言え」


彼は杯を指先で回しながら言った。


「お前はまだ、女との近さを、自分の形が試される場として考えすぎてる」


ヴェイルは目を細めた。


「嫌なくらい正確だな」


「そうだからな。お前はもう、欲しいのが支配じゃないところまでは来てる。だが、それでも身体に入る時、どこかでまだ“取るか、顔を失うか”の二択で考えてる。そこがもう駄目だ」


ヴェイルは黙った。


反論しない。


そこがよかった。


「お前はまだ、男の発想でしか近づいてない」と彼は続けた。「取るか取らないか。勝つか崩れるか。だが、本当に大事なところはそこじゃない。女は、ただ受けるだけじゃない。返すんだ。そこが見えてきたら、男はもう“取る側”だけじゃなく、“与える側”にもなれる。やわらかくなるって意味じゃない。女を自分の通り道として使うんじゃなく、女の身体にもちゃんと快さを返せるってことだ」


ヴェイルはゆっくり杯を置いた。


「続けろ」


彼はそこで、もう言葉を濁さなかった。


何をすればいいかを、学問みたいに細かく並べたわけではない。そういう話にしたくなかった。ただ、身体の近さそのものから偽の儀式性を剥がしたかった。


彼は率直に話した。男は、ただ挿れて、取って、出して、それで終わりだと思っていることが多すぎる、と。だが女はそれだけではない。見られ方も、触れられ方も、欲しがられ方も感じている。時には、すぐに挿れるより先に、十分に欲しがらせるほうがはるかに深く効く。男の粗さは、鈍ければただの乱暴だが、正確なら欲望として受け取られる。女は乱暴に抱かれたいこともある。だからといって、そこで対等さが消えるわけではない。寝台の上での主導は、いつも屈辱でもなければ、いつも優しさでもない。時には、双方が分かったうえで渡し合う信頼の形だ。


ヴェイルは赤くもならずに聞いていた。


そこが、やはり彼らしいところだった。ひとたび話題を現実だと認めれば、そこから逃げない。


「つまり、お前が言っているのは」


ヴェイルがゆっくり言った。


「男は“取る側”でありながら、それ自体を女に望まれることがありえる、ということか。鈍くない限り」


「そうだ」


「“与える”というのも、必ずしもやさしいことではない」


「もちろんだ。荒く与えることだってできる。相手を感じていればな。自分に向かう途中で女を通り抜けるんじゃなくて」


ヴェイルは杯の中を見たあと、また顔を上げた。


「この世界では、かなり不穏な話に聞こえる」


「この世界では、生きてることは大抵まず不穏に聞こえる」


彼はさらに話した。


今度はもっと露骨に。


女にとって必要なのは、いつも優しいゆっくりした入りだけではないこと。待たされること。ぎりぎりまで焦らされること。その一瞬の、もう欲しさは出来上がっているのに、まだ全部はもらえない時間。そのあとで、一気に深く、強く入られることが、乱暴ではなく、まさに欲しかったものとして受け取られること。


この話が、ヴェイルにはひどく深く入ったのが分かった。


いちばん下品だからではない。


そこで彼は、男の新しい行為を見たのだろう。鈍い直進でもなく、いつまでも抑えることでもない。支配と応答、そのあいだの遊びのようなものを。女が物ではなく、自分の欲望に自分で加担してくる、その形を。


「つまり」とヴェイルはゆっくり言った。「女は、そうされたいことがあるわけだな。入口でしばらく亀頭だけで焦らされて、入らせてもらえないまま、ほとんど戻れないところまで持っていかれて、そのあとでようやく深く突き入れられて、そこからさらに深さも速さも上がっていく、あれを」


彼は頷いた。


「ある。ちゃんとそこまで女を連れていけてるならな。そういう時、女はそれを乱暴とは取らない。ぴたりと来たと感じる」


ヴェイルはほとんど音もなく息を吐いた。


「……驚いた」


「何が」


「この世界で、どれだけのものが、最初から言葉を持たなかっただけで失われていたのかということだ」


そこまでで、話は充分だった。


まだ言えることはあった。だが、もうそれ以上並べる必要はなかった。必要なところまでは届いた。


ヴェイルは帰っていった。書類も役目も背負っている男の顔のままで。けれど、その内側にはもう、新しい可能性が入っていた。体の近さを、義務でも、男の権利でも、ただの正しさでもなく、互いに返し合うものとして持つ可能性が。


二日後、ヴェイルはまた来た。


今度は書類を持っていなかった。用件を装う気もない顔だった。


座るなり彼を見た。


珍しく、どう見ても満足していた。カイラなら、たぶん一目で「妙に面倒なくらい機嫌がいい」と言っただろう。


「効いた」


ヴェイルは言った。


彼は、そこで初めて少し笑った。


「そこまでか」


「そこまでだ」とヴェイルは答えた。「たぶん、私だけじゃない」


彼は細かく聞かなかった。


聞く必要がなかったからだ。


それに、ヴェイルはすでに十分すぎるほど話している。


だが、ヴェイルは少し間を置いて、なお自分から続けた。


「奇妙なのは、身体が強く響くことじゃない。そこは前から想像できた。驚いたのは別だ。女が、ただ受けるんじゃなく、こちらがすることを明らかに欲しがっている時、それだけで関係の響き方がまるで変わる。耐えてるんじゃない。譲ってるんでもない。欲しがっている」


彼は頷いた。


そうだ。


まさにそこだ。


「それに」とヴェイルは続けた。少しだけ乾いた調子へ戻りながら。「お前が言ったあの“少し待たせる”話だが、あれは……かなり正しかった。女というのは、すぐに全部与えられるより前に、一度きちんと欲しくさせられるほうが深く落ちるらしい」


「男の焦りより、たいていそっちのほうが効く」


ヴェイルは小さく笑った。


「向こうの反応を見る限り、そうだった」


それ以上、彼は自分の女について細かくは語らなかった。


だが、それで充分だった。


ヴェイル自身が変わっていたからだ。ただ愉快だったのではない。もっと深いところで、“こうありうるのか”と自分の中に新しい通路が開いた男の顔をしていた。彼にとって新しかったのは、寝台の上での技ではない。関係そのものが、礼儀や生活だけでなく、体のところでも双方向になりうるのだということだった。


その考えを、彼はまだ上手には顔へ出せない。


だが、内側ではもう喜んでいた。


その頃、エドランは抵抗の残りを着実に潰していた。


厳しく。


だが、残虐ではなく。


その違いは、前よりはっきりしていた。あの見せしめの処刑のあとで、彼自身もひとつの線を見たのだろう。国家の残酷さが秩序のためではなく、空気そのものを腐らせ始める線を。以後の彼のやり方は違った。金の流れを絶つ。要所から人を引きはがす。陰謀を可能にする余地そのものを潰す。人を挽肉にはしない。ただ、力と場を奪う。ある者には、同意するか、全部失うかの二択を突きつける。ある者は家の内部からずらし、より柔らかく、より使える分家や傍流へ重みを移す。どうしても折れない数人には、命ではなく、影響力と発言権とつながりを奪った。


それで十分に効いた。


学校と処刑のあとでは、もう誰もこれを“意見の違い”とは言えなかった。新しい秩序は、もはや理解を求めていない。選べ、とだけ言っている。


その一方で、家の中では別の密度が育っていた。


安全というにはまだ早い。


だが、共にある世界が、もはや壊せないものとして根を下ろしていく感覚があった。リラと、その見て分かるようになった妊娠。アヤノの、乾いて静かだがもう閉じてはいない強さ。カイラの、強欲なくらいに生きた、自分の分を求める気配。彼自身も、もう「自分の生活」と「彼女たちとの生活」の境目をほとんど感じなくなっていた。火床、寝台、水の入った杯、指先の雷、そしてリラがもう無意識に腹へ手を置く、その動き。そのどこかで、境目はとっくに死んでいた。


その中で、カイラの不満はますますはっきりした。


愛されていないのではない。


大事にされていないわけでもない。


ただ、自分に向くべきものの量と重さが足りない。


それはもう一度、彼女自身の口で出ている。


きつく。


まっすぐに。


そして、それが一度言葉になってしまった以上、もはや“あとで”の中へ戻すことはできなかった。


カイラは、毎日同じことを迫ったわけではない。


だが、一歩も下がらなかった。


それは小さなところに出た。視線が少し長くなる。近づき方が、もう最初から距離を取る気がない。短い一言の中に、お願いではなく権利の響きが混じる。


ある夜、台所ですれ違いざまに、カイラはごく平然と言った。


「私、まだ待ってるからね。説明じゃなくて、自分の分」


そう言って、そのまま窓のほうへ行った。まるで、それがこの家のどこにでもある普通の話題であるかのように。


彼はその背を見ながら、よく分かっていた。


彼女が欲しいのは、慰めではない。


丁寧に切り分けられた時間でもない。


自分に与えられたと、体で分かるものだ。


強引で、支配的で、ほとんど屈辱の手前に見えるほどでもいい。


それでもなお、“これは私のものだ”と確信できるもの。誰にも奪われない、自分だけの分。


リラも、それを分かっているようだった。


ある晩、寝に入る前、彼女はごく静かに言った。


「そんなに引っぱらないほうがいいよ」


彼は顔を向けた。


「何の話だ」


リラは彼を見た。あの、新しく身についてきた、静かで動かないまっすぐさで。


「分かってるでしょ」


彼は答えなかった。


答える必要がなかった。


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