第十三章
女たちにどう魔法を教えるべきかを考えれば考えるほど、彼には一つのことがはっきりしてきた。魔法だけを切り出した“訓練”は、おそらく、生活そのものの中へ制御を織り込むよりも、ずっと出来が悪くなる。
力が壊れるのは、一度大きなことをしようとした瞬間ではない。静かに、長く、内側で変に力まずに保つことができない、その場所で壊れる。彼自身に起きた転換も、結局は大きな術から来たわけではなかった。火からでも、破壊力からでもない。複数の物を同時に制御するうちに、魔法が“放出”であるだけではなく“形”になった、その時が境目だった。
なら、始めるべきなのも“形”からだ。
小さく。
生活の中から。
そのために、彼らは部屋を移る必要があった。
急を要したわけでも、大げさな事情があったわけでもない。だが、以前の部屋ではもう、彼らの暮らしを受け止めきれなくなっていた。眠ることはできた。口論も、沈黙も、本を読むことも、四人で転がることも、数時間だけ世界から隠れることもできた。けれど、学ぶには足りなかった。煮る、刻む、試す、物を動かしてみる――そういうことができる場所でなければ、魔法は結局“別室の行為”のままになってしまう。少し広い部屋を願い出た。表向きは、立場と便宜のため。実際には、独立した台所と、誰にも邪魔されずに手を動かせる場所が必要だったからだ。
今の部屋は三つに分かれていた。
入口の部屋がまず彼の部屋になっていて、そこから二つの扉が開く。一つは彼女たち三人の寝室。もう一つが台所だった。最初は妙な間取りにも思えたが、実際にはひどく都合がよかった。彼の部屋が、外と内のあいだの緩衝になる。寝室は彼女たちのものだった。衣服、櫛、布、書物、油、壺の水、何かとどこかへ行ってしまう細々したもの、そうしたものがすでに生活の匂いを作っている。いちばん大事なのは台所だった。広くはない。だが自分たちのものだ。火床があり、刻み台があり、リラがすぐに使い勝手の順で並べ替えた棚があり、朝には乾いた光の入る窓がある。日々の細かな動きが多く、だからこそ、魔法を“訓練”ではなく“日常”に混ぜられる場所だった。
そのことを、彼はある朝はっきり理解した。リラが小鍋の粥をかき混ぜ、カイラが「ここにいるのは、どうせあとで食べることになるからだ」という顔で玉ねぎを大きめに刻み、アヤノがすでに稽古前みたいに身を整えた姿で、生肉をまな板の上に並べていた。まるで生の塊にまで内的な秩序が必要だとでも思っているみたいに。
彼はしばらく黙ってそれを見ていた。
それから言った。
「始め方を変える」
カイラは顔も上げなかった。
「そういう言い方、大好き。たいてい、そのあと作業はもっと馬鹿っぽくなる」
「馬鹿っぽくはならない。遅くなるだけだ」
「さらに良いわね」
リラは、まだ鍋をかき回しながら笑った。
「何から始めるか、決めたんですね?」
「決めた。物からだ」
アヤノが包丁を置く。
「流れそのものを感じることからではなく?」
「それもやる。ただし、物を通して。独立した一時間の訓練じゃない。日々の動きの一部として。匙を鍋の中で回す。火床の上の肉を返す。玉ねぎをまな板に乗せる。水の入った杯を動かす。そういう単純なもの全部でだ」
カイラがようやく彼を見た。
「待って。私に“魔法で料理しろ”って言ってる?」
「お前に言ってるのは、匙を手を使わずに持つ練習をしろってことだ。しかも、そのために頭の中まで壊すなって」
「なるほど。つまり私は相変わらず料理は下手なまま、ただ少し超常的になるだけってことね」
リラが小さく笑った。
アヤノは真面目な声で聞いた。
「どうして、それが最初?」
彼は刻み台の上の木の匙を取り上げ、指先で転がした。
「大きな動きから入ると、魔法がすぐ“流れへの暴力”になる。人はすぐ“何かをやりたい”ほうへ行く。今、お前たちに必要なのは“やること”じゃない。保持だ。軽い重さ。分かりやすい対象。短い軌道。繰り返し。そして、失敗した時に“訓練に失敗した”って感じないで済むこと」
カイラが顔をしかめた。
「それ、先に言うべきじゃなかった。今ので絶対、最初の失敗から苛つく」
「言わなくても苛つく」
「それはそう」
彼は匙を台に戻した。
「いいか。物を“力で持ち上げる”んじゃない。引っ張るんでもない。まず、それが自分の感覚の中でどこから始まるかを拾う。重さ。形。どこを掴めば一番扱いやすいか。そこまで感じたら、ごく短く動かす。一寸。二寸。それ以上はいらない」
リラはもう、ちゃんと聞いていた。何かがこれからしばらく日常に入り込むのだと分かった時にだけ出る、あの静かな集中で。
アヤノもそうだった。ただ、彼女の場合は別の見え方になる。目が少し細くなり、興味ではなく“作業”になる。
カイラは刻み台に腰を預けて、いかにも信用していない顔をしながら、それでも好奇心だけは隠していなかった。
彼は最初にリラを選んだ。
柔らかいからではない。むしろ逆で、結果を早く欲しがることで動きを壊しにくいからだった。
「匙をやってみろ」
彼が言うと、リラは手を台の上へかざした。
何も起きない。
ほんの少しだけ眉が寄る。
「持ち上げようとするな。感じろ」
「ものすごく抽象的な指示ですね」
「そうだ。慣れろ」
カイラがすぐ横から言う。
「素晴らしい教師ね。“よく分からないものを、正しくやれ”」
彼はそれには答えなかった。リラはもう一番大事なところを掴み始めていたからだ。手の代わりに意志を突き出すのではなく、まず物のほうを感覚の中に現れさせる。
匙が震えた。
ごくわずかに。
リラは、成功した瞬間に失敗でもしたみたいな顔でまばたいた。
「それでいい」と彼は言った。「今日は、それでもう充分だ」
「本当に?」
「本当に。動きを無理やり跳ねさせなかった」
カイラが、いかにも不満そうな音を立てた。
「“ほとんど何も起きてない”のに褒める系の訓練、大嫌い」
「じゃあ次はお前だ」
「もちろん」
彼女は匙に向かって手をかざし、いきなり丸ごと持ち上げようとした。
匙は跳ね、半回転し、卓の縁に当たって乾いた音を立て、そのまま床へ落ちた。
カイラは目を閉じた。
「ほら。ほらね。これよ、これ」
アヤノはつい小さく笑った。
「見事な支配力」
「黙って」
「嫌」
彼はしゃがんで匙を拾い、また戻した。
「もう一度。物に勝とうとするな」
「向こうが負けたがってる場合は?」
「カイラ」
「はいはい」
二度目は少しよかった。匙は指の幅ほど持ち上がり、危なっかしく揺れて、それでも前ほど乱暴には落ちなかった。
「今のは近い」と彼は言った。
「君ってさ、普段は“世界を理屈で絞め殺したい”みたいな顔してるくせに、こういう時だけ妙に前向きよね」
「前向きなんじゃない。長くやってるだけだ」
「聞いても腹が立つ。相変わらず」
アヤノは、そのあいだにもう自分で玉ねぎを手に取っていた。
「私は?」
「お前は“課題”にしすぎる」
「課題でしょう」
「今の段階では、まだ習慣だ」
彼女は玉ねぎを戻し、手をかざした。彼にはすぐ見えた。アヤノは“掴む”より先に、頭の中で正しい動線を完成させようとしている。それは剣では強い。だが、制御の最初には邪魔だった。
玉ねぎは動かない。
その代わり、脇の包丁が小さく震えた。
「違う」
彼は言った。
アヤノは短く息を吐いた。
「分かった」
「いや。形式としては。身体ではまだだ」
カイラがすぐ嬉しそうに目を細めた。
「ほら。ついに私だけじゃなくなった」
リラがためらいがちに言う。
「つまり、“正しくやろう”って思うのを、いったんやめたほうがいいってことですか」
「そうだ」
「ある種の人には、すごく侮辱的に聞こえそう」
カイラがアヤノを見ながら言う。
「私はまだここにいる」
アヤノは乾いた声で答えた。
彼は自分で見せた。
見せつけるようにではない。最初から三つ四つ同時に動かしたりもせず、ただ玉ねぎをゆっくりと卓の上で滑らせて、まな板の上へ乗せた。それから火床の上の肉を返した。さらに、鍋の中の匙を一周だけ回した。
「こうだ」と彼は言った。「威力じゃない。速さでもない。途切れないことだ。魔法が“出来事”じゃなく、普段の動作の少し先にあるものだと、身体に覚えさせる」
最初に頷いたのはリラだった。
「それは分かる気がします」
カイラは分からなかった。
「私はすでに腹立ってる。君がこれをそんな顔でやることに」
「簡単にやってるわけじゃない。長くやってるだけだ」
「ますます腹立つ」
アヤノは今度、たしかに玉ねぎを動かした。
まな板の上ではなく、横へ。
卓の端まで。
そこで揺れ、そのまま下へ落ちた。
カイラはすぐ言った。
「よかった。これで正式に“野菜を奈落へ送る神”になったわね」
アヤノは、ゆっくり彼女を見た。
「次はお前を送る」
「それなら分かる。すごく魔法っぽい」
彼はそこで、結局少し笑ってしまった。
そして、その時にはもう分かっていた。始めるならこれしかない。魔法を生活から切り離すのではなく、逆に生活の中へ沈めて、手と意志が“二つの別々のやり方”ではなくなるところまで。
その日の後半、エドランはまた彼を呼んだ。
今度は、表立った緊張はない。むしろあまりに静かだった。そういう時はたいてい、考えを退けていない時だ。
彼が部屋へ入ると、エドランは窓辺に立っていた。机も書類も側近もない。余計なものを全部払ったあとの顔だった。
「まだ考えている」
挨拶の代わりに、エドランはそう言った。
「お前の提案を」
「それは世界の安定には良くない兆候だ」
「少なくとも、慣れ親しんだ秩序にはな」
彼は進み、向かいに立った。エドランが座るように示してから、ようやく腰を下ろす。
「いまでも引っかかるのは、論理そのものじゃない」
エドランは言った。
「論理は実利的すぎる。そこが厄介だ。引っかかるのは、われわれが本当に先へ進んだ場合、他国がどう反応するかだ」
彼はすぐには答えなかった。
悪くない問いだった。慎重なのではない。実際に動かした場合の現実を見始めている時にしか出ない問いだ。つまりエドランは、もうこれをただの知的な挑発とは見ていない。
「たぶん、儀式の時と同じことが起きる」
彼は言った。
エドランが目を細める。
「続けろ」
「変化が私人のやり方として存在しているうちは、他国は笑えるし、無視もできるし、変な土地の癖だと片づけられる。だが、女たちによって魔術師の数が目に見えて増えたと分かった瞬間、その自由はなくなる。賛同するからじゃない。均衡を保つために、真似するしかなくなる」
エドランは黙っていた。
彼は続けた。
「分配型の儀式もそうだった。最初は例外。次に、効果的な修正。やがて、“全部失うより、分けて使うほうが得だ”というだけで常態になる。女に魔法を教えることも同じだ。最初は嫌悪。次に、“本来の秩序”についての議論。次に、黙った模倣。そのあとで、遅れて理屈がつく」
「妙に自信があるな」
エドランは言った。
「これは道徳の動きじゃないからです。競争の動きです。国家は、正しいものを認めるよりも、使えるものを真似るほうが早い」
「では、逆をやる国が出る場合は? “秩序の倒錯”だと叫んで、圧力の口実にする」
「最初はやるでしょう」彼は言った。「数字を見るまでは。見たあとは、自国でも同じことを始める。ただし、言葉だけは変えて」
エドランは短く笑った。
「他人の原則というものを、ずいぶん安く見ている」
「自分のもです。違いは、あなたが“どの時点で実利が道徳に勝ったか”を分かっていることくらいだ。他の連中は、半年くらい聖なる嫌悪を演じてから、結局使えるものを盗む」
エドランは首を振った。
「お前は国家というものをよく分かっているからこそ嫌うんだな」
「お互いさまです」
今度は、エドランも腰を下ろした。
「私はまだ同意しない」と彼は言った。「それは変わらない。ただ一つだけ、お前が正しいのは分かる。もし誰かが“女によって魔術師の数が増えた”という現実を見れば、問題はすぐ道徳ではなく戦争の側へ移る」
「そうなる」
「そして戦争の問題は、どれほど敬虔な国であっても、自国が不利になる形では放っておかない」
「はい」
エドランは肘掛けを指で軽く叩いた。
「この発想が、思っていた以上に生き残りそうなのが気に入らない」
「たいてい、それが良い発想のしるしです」
「あるいは、とても危険な発想の」
「両方でしょう」
エドランは彼をしばらく見た。
「お前は好きなのか。世界を、あとで誰も“最初からそうだった”と誤魔化せなくなる方向へ動かすのが」
彼は肩を少し動かした。
「好きではない。だが、もうそうなっている気はする」
エドランは頷いた。
それで会話が終わったわけではない。だが、要の部分はもう言われていた。そして彼が部屋を出た時には、一つの不快な感覚だけが残っていた。この考えは、もう彼の頭の中だけのものではない、という感覚だった。
夕方、家へ戻ると、案の定、そこはちょっとした混乱だった。
理屈と、実際の匙を鍋の中で手を触れずに動かすことのあいだには、かなり深い溝がある。
最初にやらかしたのはリラだった。
世界のどんな理屈からしても、彼女が一番丁寧にやるはずだった。だからこそ、失敗があまりにそれらしくなった。彼女はちゃんと、濃いスープの中の匙の感覚を捉え、ゆっくり円を描き始めた。彼の言った通り、急がず、乱さず。ところが途中で一度、“もう持てている”と信じすぎた。次の瞬間、匙はするりと横へ逸れ、鍋の縁にぶつかって、そのまま中へ落ちた。スープが重く跳ね、熱い滴が散った。その飛び方があまりに予想外で、カイラは思わず、まったく勇ましくない声を上げて飛びのいた。
「リラ!」
「分かってる!」
「分かってないわよ、顔に来たんだけど!」
リラは真っ赤になっていた。スープにも、鍋にも、カイラにも、たぶんこの台所そのものにも、どこか申し訳なさそうだった。
彼はそこで、とうとう笑ってしまった。
大きくではない。けれど、抑えきれないくらいには。
面白かったからだけではない。妙に、生きていたからだ。
リラが少し気まずそうに彼を見たので、彼はすぐにそばへ行き、片腕で肩を抱いて軽く引き寄せ、そのままこめかみに口づけた。
「大丈夫だ」と彼は柔らかく言った。「こうなるのが普通だ。ぎこちなくて、飛び散って、匙が鍋に落ちる。それでいい。失敗じゃない」
リラはほっと息を吐き、やっと少しだけ笑った。
そのあいだに、アヤノは野菜のほうが楽だと判断したらしかった。
そうでもなかった。
玉ねぎはたしかに持ち上がった。
朝よりはずっとよかった。
少し揺れながらも、まな板のほうへ向かった。かなりまっすぐに。だが最後のところで、ほんの少しだけ高く行きすぎた。次の瞬間には、思いのほか勢いよくカイラの肩に当たり、そのまま床へ転がった。
カイラは、ゆっくりと振り向いた。
「今の、暗殺?」
「違う」
アヤノはすでに、そう見えたこと自体は理解していた。
「がっかりね。もっと優雅なものを期待してた」
「次は努力する」
「それ、脅しとしては嫌いじゃない」
アヤノの顔には、あの表情が出ていた。世界が、自分の頭の中の正しい線に、またしても従わなかった時の顔。外へ怒鳴るのではない。もっと面倒な種類の苛立ちだ。自分の精度への不満。
彼は近づき、床の玉ねぎを拾って彼女の掌へ置いた。それから、その手を覆うように自分の指を重ねた。
「まだ“正しい軌道”を欲しがりすぎてる」
彼は静かに言った。
「対象は、それを圧として受ける」
「対象は何も感じない」
「物はな。流れは感じる」
アヤノは彼を見た。まだ苛立ってはいたが、少しだけ柔らいでいた。
彼は親指で彼女の手首をゆっくり撫でた。
「大丈夫だ。玉ねぎは死んでない。カイラも、残念ながら」
「ちゃんと聞こえてる」
とカイラが言った。
いちばん手こずったのは、意外にもカイラだった。
何もできないのではない。むしろ逆で、できかけるからこそ、その先の短気さが全部を壊す。彼女は肉を一度、火床の上で返すところまではできた。だが勢いをつけすぎて、肉は中央ではなく縁へ落ち、滑りかけた。包丁も一度持ち上がったが、今度はそれが思ったより簡単に違う方向へ逸れそうになったのを、自分で見てしまった。
「もう、なんなの」
彼女は、包丁を手で台へ戻しながら言った。
「できるって感覚はあるのに、いちいち全部“蹴っ飛ばす”みたいになる」
「物に勝とうとしてるからだ」
彼が言う。
「じゃあ、他に何をしろっていうの」
「まだ、戦うな」
カイラは彼を見た。その顔はまるで、“最初の一声で従わない物質”という概念そのものを、彼がこの世に持ち込んだかのようだった。
「最悪」
「技術だ」
「もっと最悪」
リラは、鍋から匙を引き上げたあとも、しばらくスープの表面を裏切られた人みたいに見つめていたが、そのまま小さく言った。
「私、たぶん、少しうまくいくとすぐ喜びすぎます」
「そうだ」
彼は答えた。
「お前は」とアヤノを見る。「軌道を正しすぎる。お前は」と今度はカイラへ。「従わせたがりすぎる」
「素晴らしい」
カイラが言う。
「私たち全員、救いがない。で、君だけが完成してるわけだ」
「完成してるんじゃない。ただ、同じ失敗をもう一度やってないだけだ」
彼は火床のそばへ寄った。肉はまだ微妙に傾いたままで、それがこの台所全体の気分を代表しているみたいだった。
「いいか」
彼は言った。
「今の段階では、失敗は害じゃない。むしろ必要だ。匙をスープに落とす。玉ねぎを人にぶつける。危うく包丁で台所を切り刻みかける。そういうの全部、正常だ。ぎこちなくて、遅くて、腹が立って、それでいい。明日には五つの物を同時に動かせ、なんて話じゃない。今の課題はただ一つ――今日、馬鹿みたいに見えるからって、やめないことだ」
最初に頷いたのはリラだった。
もちろんだ。
アヤノも、その少しあとで頷いた。もう内側で争ってはいない顔だった。
カイラだけが目を細める。
「つまり、今のうちに“これはもう駄目だ”って大げさに絶望する権利を、先回りして奪ってるわけね?」
「そうだ」
「ひどい」
「早まるな」
「それ、私の楽しみの半分くらい奪ってる」
彼はそのまま近づき、後ろから彼女の腹を抱くみたいに腕を回して、一瞬だけ自分のほうへ引いた。それから顎を彼女の頭に軽く乗せる。
「我慢しろ」
彼は言った。
カイラは鼻で笑ったが、振りほどきはしなかった。
「そういうの、あとで噛むから」
「あとでな。今は肉だ」
「君が正しい時って、本当に腹立つ」
それから、またやり直した。
リラは今度、匙を三周きちんと回した。すごくゆっくりと、そして、いかにも嬉しさを我慢できていない顔で。アヤノは玉ねぎをまな板の上へ運んだ。少し揺れたが、今度は落ちなかった。カイラは肉を返し、縁には一度当てたものの、今度は逃がさなかった。
ささいなことだった。
滑稽で、台所じみていて、背景にあるものの大きさにはまるで見合わないくらい、小さいことだった。




